第482話「轟音鳴り響く時計台!呪詛の電波と平衡を司る聴宮」
時計台の最上階から響き渡る、空間を狂わせるような凶悪な魔導電波のノイズ。
ギルドの残党が仕掛けた「精神呪詛装置」は、里の人々の自律神経を人為的に暴走させ、再び恐怖の支配下へと置き去りにしようとする最悪の兵器でした。
土曜日の爽やかなお昼休みに、往診チームは歯車が噛み合い、轟音が鳴り響く時計台の内部へと決死の突入を試みます。
強烈なノイズによる急激な「めまい」と、平衡感覚の失調。
絶体絶命の危機の中、新メンバー・ネネの野生の調合と、聖鍼師・枢先生の白銀の長鍼が、狂える歯車の核心を鮮やかに撃ち抜きます!
「機械の歯車を狂わせ、人の魂のバランスまで破壊し尽くそうというのなら、私のこの一鍼が、その邪悪なノイズを根本から遮断いたします。ハクさん、ネネさん、呪詛の基盤を中和する準備を! ガストン、シオンさん、リナさん、皆さんの揺らぐ視界、今すぐ私の一鍼で完全な『凪』へと戻しましょう。時計台最上階、緊急往診を開始します!」
12時、土曜昼の更新。世界往診紀行編・時計台の里編中編、第482話!
週末ののんびりとしたお昼休みに、轟音の時計台を舞台にした緊迫のスピードバトルと、プロフェッショナルたちの見事な連携劇をお楽しみください!
巨大な真鍮の歯車がガチガチと噛み合い、地鳴りのような駆動音を立てる時計台の内部。
最上階へと続く螺旋階段を駆け上がる往診チームの耳条を、キィィィィン……という、脳を直接かきむしるような金属的な超高音ノイズが襲った。それは旧ギルドの残党が起動させた「精神呪詛装置」から放たれる、神経を破壊するための魔導電波だった。
「くっ……! 昼間の港の湿気よりもタチが悪いわ。耳の奥の三半規管がめちゃくちゃにかき回されて……天井と床の区別がつかない……っ」
階段の手すりにすがりつきながら、リナが激しいめまいに顔をしかめる。スコープを覗こうにも、視界がぐにゃぐにゃと歪んで、照準を合わせることが全くできない。
「頭の中がグルグルして、術式の数式がバラバラに崩れていきます……。く、空中を浮遊する魔法すら維持できません……!」
シオンが魔導書を落としそうになりながら、激しい吐き気に胸を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
「ウオォォッ……! 壁が、壁が俺に向かって倒れてくるみたいだぜ……! 先生、このガストンの自慢の平衡感覚まで、完全に狂わされちまってる!」
ガストンが大盾を床にぶつけ、自分の巨体を支えるのが精一杯という状態で咆哮する。
「皆さん、動かないでください。このノイズは、人間の『少陽経』の経絡に直接干渉し、耳の内耳に強烈な気の鬱滞(風熱)を引き起こしているのです。空間の認識能力を司る『清竅』が塞がれ、肉体の上下のバランスが崩壊しかけています」
轟音とノイズが渦巻く闇の中、聖鍼師・枢だけは、一本の凛とした大樹のように真っ直ぐに立ち続けていた。彼の十指の間に、淡い黄金の陽気を帯びた白銀の長鍼が滑らかに引き抜かれる。
「ハクさん、ネネさん。最上階の装置の核を包む『呪詛の結界』を中和する液体を。……その前に、皆さんの耳の奥の暴風を、私が一瞬で静めます」
「フん、合点がいった。ネネ、大樹海の奥地に生える『防音の苔』の根をすり潰せ。私の揮発油と混ぜて、この不快な音波そのものを大気中から吸着・中和してやる!」
「任せて、ハクの兄ちゃん! このザワザワする嫌な音、ウチらの薬草で絶対に消してみせるからね!」
ハクとネネが目にも留まらぬ速度ですり鉢を操り、空間に向けて「静寂の青い粉末」を散布し始める。電波のノイズがわずかに弱まり、最上階の視界が開けた。
「では皆さん、耳の前に軽く指を添えて」
枢の長鍼が、まるで空間の歪みを切り裂くような神速で、リナ、シオン、ガストンの耳の前へと次々に穿ち込まれた。
耳の穴の前にある小さな突起(耳珠)の前方、口をわずかに開けた時に大きく凹む、耳のすべての機能を統括する最重要の拠点。
チクリ。
「手太陽小腸経の経穴――聴宮を深く穿ちます!」
ズン……と、耳の奥のリンパ液が完璧に統制されるような、鮮烈で心地よい刺激が3人の脳裏を突き抜けた。
「聴宮は、耳の周囲を通る三焦経や胆経とも深く交わり、内耳の気の滞りや『風熱』を一気に外へと発散させる最高峰の要穴です! 呪詛の電波によって狂わされた三半規管の気血をその場で調律し、激しいめまいや耳鳴り、空間の失調を完璧に凪へと戻します!」
「――っ! あ、頭のグルグルが、一瞬でピタッと止まったわ……! 世界が、真っ直ぐに静止して見える!」
リナの瞳に、極限のスナイパーとしての冷徹な光が完全に戻った。彼女は魔導銃を構え直し、最上階の闇の奥を鋭く見据える。
「視界のブレが完全に消えました……! これなら、最上階の防壁の術式を完全に逆展開できます!」
シオンの魔導書から、時計台の内部を浄化する、まばゆい純白の術式陣が放射状に広がっていった。
「ガハハハハ! 最高のキレが戻ってきたぜ! ――ネネちゃん、ハクの兄ちゃん、あの呪詛の機械までの道は、このガストンが真っ二つにこじ開けてやる!」
ガストンが復活の咆哮とともに大盾を掲げて螺旋階段を駆け上がり、最上階の扉を守っていた旧ギルドの防衛用の機械人形たちを、圧倒的な怪力で次々と叩き潰していく。
「そこよ! ――トリプル・バースト!」
リナが放った3発の精密な魔導弾が、呪詛装置の周囲を展開していた魔力結界の「ネジ」を正確に撃ち抜き、防壁がガラスのように粉々に砕け散った。
「今だ、ネネ! 禁忌の機械を、大自然の静寂で満たすぞ!」
「いっけえええーーーっ! ウチらの特製『防音中和液』、機械の心臓部に特大サイズでぶち込むよーーっっ!!」
ハクが天空へと跳躍して装置のカバーを強引に引き剥がし、ネネがすり鉢から放った黄金の中和薬液が、激しく火花を散らす呪詛の基盤へと一気に流し込まれた。
バチバチバチッ!!!
里全体を苦しめていたキィィィィンという金属ノイズが、完全に沈黙した。
次の瞬間、時計台の巨大な歯車たちは、これまでの狂ったテンポが嘘のように、カチ、カチ、カチ、と、耳に心地よい、あまりにも美しく正確な「本来の刻の音」を刻み始めたのだった。
「ふぅ……。実に見事な大往診でしたね、皆さん。これで時計台も、人々の心も、本来の正しいリズムを取り戻しましたよ」
枢は白銀の長鍼を鮮やかにアルコール綿で消毒し、往診鞄へと収めた。
「へへっ、どんなに狂った機械の音でも、先生の『聴宮』の一刺しとウチらの薬草があれば、いつでも耳の中を静かな森の中にできるね!」
ネネがすり鉢を担ぎ直し、人懐っこい笑顔で枢に親指を立てる。
「フん、当然だ。私たちの往診に、調律できない命の波など存在しない」
ハクが片眼鏡の奥の瞳を和らげ、満足そうに不敵な笑みを浮かべた。
最上階の窓から差し込む土曜日の明るい太陽の光が、往診チームの白衣を優しく照らす。
しかし、壊滅した装置の陰で身を縮めていた残党の男が、往診鞄を抱える枢の姿を見上げながら、震える声で最後の警告を口にした。
「お、お前たち……これで勝ったと思うなよ……。ギルドの本拠地は潰れたが、この山脈をさらに越えた先にある『不老の霊峰』には……人間の『寿命そのもの』を操作しようとした、ギルドの最高機密が眠っている……。お前たちがそこへ向かうなら、本当の地獄を見ることに、なるぞ……!」
時計台の里を救った往診チームの前に提示された、さらなる未知の病巣――「不老の霊峰」と、命の根源に迫る禁忌の謎。
聖鍼師・枢と仲間たちの不滅の往診旅路は、美しく蘇った時計の音に背を押されながら、さらなる高みへと進路を向けるのである。
第482話「轟音鳴り響く時計台!呪詛の電波と平衡を司る聴宮」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
時計台の里編の堂々たる大団円として、不快な電波ノイズによる「激しいめまい・耳鳴り」に苦しむ仲間たちを、ガストンさんの突撃、リナさんの精密射撃、シオンさんの逆展開魔法、そしてハクさんとネネちゃんの「防音の苔」の中和新薬から、枢先生の「聴宮」による劇的な平衡感覚回復の一刺しによって救い出す、最高に爽快な決戦完結回、お楽しみいただけましたでしょうか!
外界の激しい雑音や嫌なプレッシャーによって狂わされてしまった肉体のテンポを、耳の最も重要なスイッチを入れて一瞬で美しい凪へと戻してみせる枢先生の医療の真髄が、新メンバーのネネちゃんとの完璧なコンビネーションの中で鮮やかに描き出されましたね。
今回は、機械のノイズや急激な気の鬱滞によって生じた激しい目眩、耳鳴り、平衡感覚の失調を根本から解消するために枢先生が用いた、耳の前にある非常に有名な名穴、聴宮の効能について解説させていただきます。
東洋医学において「聴宮」は、手の太陽小腸経に属し、文字通り「音を聴き、頭部の清らかな気をコントロールするための聖なる宮殿」とされる、耳疾患の最高峰の特効穴です。
ここは耳の周囲の血流やリンパの流れを劇的に改善し、気の大爆発(風熱)によって塞がれてしまった耳の関門を一気にこじ開けることで、不快な耳鳴り、急激なめまい、難聴、さらには耳の痛みや歯痛などをその場で劇的に緩和する素晴らしい効果を持っています。
現代におけるメニエール病のケアや、突発性難聴の更生、ストレス性の耳鳴り解消などにも臨床で最優先されるこの素晴らしい名穴を、呪詛電波のデトックスとして完璧に機能させてみせる枢先生の知識の深さには、今回も深く感動させられましたね。
見事に里の平和を守り抜き、時計職人たちの熱い感謝を背に、次なる不気味な目的地「不老の霊峰」へと魔導船を走らせる往診チーム。
次なる新章・第483話は、本日【21:00】に更新予定です。
土曜日の夜、一日の終わりのリラックスタイムに、往診チームが霊峰の麓で出会う、新たなる命の謎と未知の治療劇を、ぜひお楽しみに!




