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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第474話「砂塵舞うバザール!崩壊後の依存症と清熱の隠白」

闇の医療ギルドが崩壊し、利権のシステムから解放された地上。

しかし、急激なシステムの停止は、これまでギルドの「薬」に依存せざるを得なかった辺境の町や村に、一時的な混乱と新たな「滞り」をもたらしていました。

魔導船を駆り、世界の命を巡る原点回帰の「世界往診紀行編」へと旅立った枢先生たち一行が最初に降り立ったのは、乾燥した赤茶けた大地が広がる、とある峡谷の交易都市。

そこで待っていたのは、謎の集団体調不良に悩まされる、たくましい巡回商人の人々でした。


「ギルドの支配が終わっても、人々の病が自動的に消え去るわけではありません。むしろ、ここからが私たち医療に関わる者の本当の正念場です。ハクさん、ネネさん、まずはこの町の市場バザールの気の巡りから変えていきましょう。皆さん、新章の往診、開始します!」


12時、火曜昼の更新。新章開幕「世界往診紀行編」、第474話!

平日の火曜お昼休みのひとときに、新たな仲間・ネネを加えた往診チームが、再び一台の往診鞄から紡ぎ出す、心温まる医療再生の物語がここから始まります!

 赤茶けた巨大な岩肌が牙のようにそびえ立つ、峡谷の交易都市「バルカ」。

 かつては大陸横断路の要所として賑わっていたこの町も、今はどんよりとした停滞感に包まれていた。行き交う商人の足取りは重く、市場に並ぶ露店には活気がない。


「うわあ……。空気がからっからなのはウチの樹海と真逆だけど、それ以上にみんなの『気』が砂みたいにカサカサだよ」

 ネネが背中の巨大なすり鉢を揺らしながら、珍しそうに周囲の露店を見回す。


「無理もない。このバルカは、医療ギルドが配給していた『即効性の興奮剤』を格安で購入し、長旅の疲労を無理やり誤魔化して砂漠を越える商人の集積地だったからな。供給元が消えた今、重い離脱症状と、元々の慢性疲労がドッと噴き出しているのさ」

 ハクが片眼鏡の奥の瞳を細め、広場で力なく座り込んでいる商人たちの顔色を冷徹に分析する。


「ええ。ギルドの薬で無理やり『原気』を前借りし続けていたツケが一気に回ってきたのですね。……それだけではありません。この乾燥した邪気(燥邪)が体内の水分を奪い、胃腸の働きを著しく低下させています。皆さん、さっそく往診を始めましょう」

 枢が往診鞄を抱え直し、広場でぐったりと荷車にもたれかかっている、浅黒い肌の大柄な商人たちの元へと歩み寄った。


「おいおい、なんだぁ、見慣れねえ旅の医者か……? 悪いが、ギルドの『赤いカプセル』がないなら、どんな薬も効きゃしねえよ。頭が割れるように痛くて、腹に何も入らねえんだ……」

 商人のリーダー格である男が、乾いた唇を震わせながら弱々しく手を振った。


「カプセルならもう売ってないよ! でも、ウチの薬草と、先生の特大の銀鍼なら、その頭痛も胃もたれも一発で吹き飛ぶんだから!」

 ネネがすり鉢をドスンと置き、腰の袋からサッと赤紫色の乾燥した木の実を取り出した。


「ハクの兄ちゃん、これ! 樹海の西に生える『鎮痛うずき消しの実』! これをバルカの乾燥した気候に合わせて、清涼感のある成分と調合したいんだけど!」


「ふん、悪くない選択だ。だが、それだけでは胃の粘膜が荒れる。私の往診鞄にある『白潤草はくじゅんそう』のエキスを3滴混ぜろ。乾燥を潤しつつ、薬効を胃の腑へダイレクトに届ける『ルート』が出来る」

 ハクが流れるような手さばきでボトルの液体をネネのすり鉢へと滴下する。ネネが木の棒を凄まじい速度で回転させると、市場全体に、まるで砂漠のオアシスを思わせる瑞々しく爽快な香りが一気に広がった。


「う、うお……? なんだ、この匂いを嗅いだだけで、胸のムカムカが少し楽に……」

 商人たちが驚いたように顔を上げる。


「さあ、お薬を馴染ませる前に、まずは皆さんの肉体の底にある『消化吸収のスイッチ』を正常化させます。ガストン、少し彼らの身体を支えていただけますか」


「おうよ! 先生、このガストンの頑丈な身体、いくらでも使ってくれや!」

 背後からガストンが笑いながら進み出、ぐったりとしていた商人たちの大きな身体を、絶妙な力加減でリラックスさせるように優しく抱き起こした。


「シオンさん、彼らの足元を少し暖めるように、微弱な火の魔力を」


「はい、枢先生! ――灯れ、命の火種、優しく経絡を温めよ」

 シオンが魔導書をそっと開き、極限まで優しく調律した微弱な魔力で、商人たちの足元の大気をじんわりと温める。


「完璧なサポートです。――失礼しますよ」


 枢の指先から、白銀の短い鍼が閃いた。

 彼が狙いを定めたのは、商人の足の親指、その爪の生え際の内側(内側爪甲根角を去ること1分)に位置する、東洋医学の要穴だった。


「足の太陰脾経の井穴――隠白いんぱくを穿ちます」


 チクリとした軽い刺激とともに、枢の鍼が寸分の狂いもなく隠白へと刺入される。


「隠白は『脾(消化器系)』の働きを統括する経絡の始まりの門であり、体内の血流や水分が外へ漏れ出すのを防ぎ、停滞した胃腸の『運化(栄養を巡らせる力)』を劇的に呼び覚ます名穴です。ギルドの薬によって過剰に熱を持っていた内臓を清熱し、本来の健やかな食欲を取り戻させます」


 一鍼が下された瞬間、商人のリーダーの腹の底から、ゴロゴロと大きな、しかし実に健康的で力強い音が鳴り響いた。


「あ、あれ……!? 胃の奥のつかえが、まるで砂が流れるみたいに消えていく……! それに、あんなに割れそうだった頭の痛みが、嘘みたいに軽くなってるぞ!」


「今だよ! ウチらの特製『白潤鎮痛湯はくじゅんちんつうとう』、飲んでみて!」

ネネがすり鉢から素早く差し出した瑞々しい薬湯を、商人が貪るように飲み干す。


「う、美味い……! 体に染み渡るようだ……! 生き返った、本当に生き返ったぞ!」


 その劇的な回復劇を目の当たりにした周囲の商人たちから、おおおっ! という歓声が上がった。

 リナが周囲の警戒を怠らない鋭い視線のまま、フッと口元を綻ばせる。


「リナさん、次の患者さんたちの誘導をお願いできますか?」


「ええ、任せて、枢先生。……さあ、体調が悪い人は順番に並んで。怪しいクスリなんてなくても、この往診チームが全員治してあげるから」


 リナの品格ある呼びかけに、市場中の商人が次々と集まり始め、乾燥した砂の町「バルカ」に、かつてない温かい活気と笑顔が戻り始めていく。


 ギルドという巨大な支配が消えた世界。

 それは同時に、人々が自らの肉体と向き合い、本物の健康を取り戻すための新しい時代の始まりでもあった。聖鍼師・枢と往診チームの鞄が開かれる限り、地上のどんな辺境であっても、命の灯火が消えることは決してないのである。

 第474話「砂塵舞うバザール!崩壊後の依存症と清熱の隠白」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


 新章「世界往診紀行編」の第一弾として、ギルドの薬の離脱症状に苦しむ砂漠の商人たちを、ガストンさんの力強いサポート、シオンさんの温熱魔術、ネネちゃんとハクさんの瑞々しい新薬、そして枢先生の「隠白いんぱく」の一刺しによって救い出す、原点回帰でありながらもチームの絆がさらに深まった往診劇、お楽しみいただけましたでしょうか!


 利権のシステムを壊した後、その土地に暮らす人々の地道な自立を医療で支えていくという、枢先生のどこまでも誠実な職人魂が、新しい大陸の景色の中で鮮やかに描き出されましたね。


 今回は、砂漠の過酷な乾燥と薬の依存で弱り切った胃腸を救うために枢先生が用いた、足の非常に重要な経穴、隠白いんぱくの効能について解説させていただきます。


 東洋医学において「隠白」は、足の太陰脾経たいいんひけい井穴せいけつであり、消化器全体のエネルギーを動かすための「一番最初の引き金」となる名穴です。


 ここは、慢性的な疲労や暴飲暴食、または今回のような強い薬物の影響によって胃腸が熱を持ち、正常な消化吸収(運化作用)ができなくなってしまった際に、その内臓の熱を綺麗に引き去り(清熱)、気の逆流による吐き気や頭痛、腹部膨満感を劇的に解消する効果を持っています。

 現代における精神的ストレスによる胃利きの解消、食欲不振の更生、さらには不正出血を止めるための特効穴としても臨床で非常に重宝されるこの素晴らしい名穴を、依存症のデトックスへと応用してみせる枢先生の知識の深さには、改めて感銘を受けましたね。


 見事にバルカの商人の信頼を勝ち得た往診チームですが、賑わいを取り戻した市場の奥から、彼らの活動を苦々しい表情で見つめる、かつてのギルドの残党の影が不穏に動き始めます。


次なる展開、第475話は本日【21:00】に更新予定です。

ネネちゃんの大自然の野生児パワーと、往診チームが砂漠の町で繰り広げる新たなる医療再生のバトルを、ぜひお楽しみに!

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