第472話「中央命脈の最終治療!全員集結、三位一体の聖鍼とラスト・パンデミック」
全世界の患者の命を人質に取るという、最悪の「最終計画」を発動した最高総帥。
壁面モニターに明滅するドス黒い赤色は、人類の命が利権という名の病巣に蝕まれつつある絶望のカウントダウンです。
しかし、聖鍼師・枢先生、薬師・ハクさん、野生の薬草師・ネネちゃんに加え、これまで前線を支えてきたガストン、リナさん、シオンの全員がここに集結しました!
「画面の向こうで怯える何億もの命の鼓動が、私には聞こえます。最高総帥、あなたがどれほど巨大なシステムで命を縛ろうとも、生きた人間の経絡は、あなたの冷酷なデータの中にだけあるのではありません! 皆さん、私たちの持つすべての力を、この中央命脈管理室の『神道』へと叩き込みます。チーム全員による大往診、これより最終治療を開始します!」
中央命脈管理室の巨大な壁面モニターが、不気味なアラート音とともにドス黒い赤色へと染まっていく。
画面に表示されているのは、世界中の病院に統合された魔導医療システムのバイタルデータ。最高総帥が手元のレバーを引けば、ギルドの管理下にない医療機関の患者から順番に、生命エネルギーである「原気」が強制的に吸い上げられる仕組みになっていた。
「ククク……見たまえ。これが私が行う究極のトリアージだ。私に従う者には生きるための『薬』を配り、従わぬ弱者はシステムから排除する。これこそが、世界を最も効率的に管理する新時代の医療なのだよ!」
最高総帥の白衣が激しく翻り、彼の背後から、無数の魔導ケーブルがまるで触手のように伸びて床へと突き刺さる。
彼自身が管理室のメインサーバーと直結し、全世界の命の循環をその指先一つで掌握する「巨大な病巣のコア」と化していた。
「効率的な管理、ですか。……やはり、あなたの目には『患者』という一人の生きた人間の姿が、ただの数字としてしか映っていないのですね」
枢が静かに往診鞄から、これまでで最も眩い白銀の光を放つ一本の長鍼を引き抜いた。
その瞳には、絶望的なモニターの数字ではなく、最高総帥という歪んだ肉体、そしてシステムを通じて悲鳴を上げている全世界の経絡のネットワークが、一本の巨大な「滞り」として完璧に見えていた。
「ハクさん、ネネさん。全世界のシステムと直結しているあのメインサーバーの裏、背骨のラインに位置する『神道』の要穴。あそこが、世界中の原気を吸い上げている邪気の心臓部です」
「なるほどな。あの神道の関門を貫いて、世界中に逆流している利権の歪みをアースさせれば、システムの呪縛は解けるわけだ!」
ハクが不敵に笑い、調合ボトルの安全弁を外す。
「ウチに任せな! その神道までの道、この『ルミナリア大樹海』特製の爆破薬草で、ド派手にこじ開けてあげるから!」
ネネが巨大なすり鉢に拳を突き入れ、黄金の輝きを放つ「爆ぜる霊草」の種を大量に掴み取った。
「往診チーム、突入します!!」
枢の号令とともに、3人のプロフェッショナルが同時に地を蹴った。
「不届き者が! システムの防衛術式を喰らうがいい! 『利権の拒絶』!」
最高総帥が手をかざすと、空間から無数の赤い高エネルギーのレーザーが、3人に向けて容赦なく照射された。触れれば肉体の全神経が焼き切れる必殺の防衛線。
「させるかよぉぉぉい! 枢先生、前だけ見て突っ走りやがれぇぇっ!」
その時、爆音と共に最前線へ躍り出たのはガストンだった!
彼は真っ赤に融解し始めるほどの熱量を放つ巨大なタワーシールドを地面に突き立て、レーザーの第一波を真っ向から受け止めた。ガストンの肉体が悲鳴を上げるが、その漢気が、先生たちが一歩も歩調を緩めることなく中央へ肉薄するための「絶対的な安全地帯」を死守する。
「ガストンの盾を突破させない! ――狙撃手の視界を遮るものは、すべて私が撃ち抜く!」
ガストンの背後からリナが魔導銃の全シリンダーを解放し、神速の空間制圧射撃を放った。最高総帥の周囲に浮遊していた自律型の防御ドローン群が、一瞬の澱みもない連射によって全弾撃ち落とされていく。
「今です、ネネさん!」
リナが作った完璧な射線に向けて、ネネが『烈火爆散草』の種を一斉に投げつけた。空中を飛行する種が残るレーザーに触れた瞬間にまばゆい緑の爆炎を上げて大爆発を起こし、最高総帥の防衛術式を完全に相殺してみせた。
「ハクさん、風の道を繋ぎます! ――天の理、地の巡り、すべてを私の術式に服従させよ!」
後方で魔導書を掲げたシオンが、限界を超える魔力を振り絞って詠唱する。管理室全体の空間の座標を強引に固定し、激しい防御隔壁の乱気流を鎮めて「奇跡の風回路」を作り上げた。
「見事だ、シオン! ――吹き荒べ、万病を解かす白銀の霧! 『究極清解原液・全域散布』!」
ハクがシオンの作った風回路に乗り、天空へと往診鞄ごと飛び上がった。投げ放たれた十数本のボトルがサーバーの吸気口へと一気に吸い込まれ、超高濃度の中和霧がドス黒い赤色の魔導回路を激しく書き換えていく。
「な、何だと……!? 世界の最高科学で作られた私のシステムが、野生の草と、ただの調合薬、そして地上の駒どもに書き換えられていくというのか!?」
初めて最高総帥の顔に、明確な戦慄が走った。
「いいえ、最高総帥。これはただの薬でも、駒でもありません。世界中の大自然の恵み、そして、仲間と共に命を救わんとする人間の強い意志の結晶です」
爆炎と白銀の霧の向こうから、黄金の陽気を纏った聖鍼師・枢が、音もなく、しかし世界の誰よりも速く肉薄していた。
「これで終わりです。――世界の滞り、その場ですべて治療します!」
枢の身体が、極限の集中によって引き絞られた。
最高総帥の背後、魔導ケーブルが集中する背骨の第5胸椎棘突起の下――命のエネルギーが最も激しく逆流している要所、神道の経穴を、枢の白銀の長鍼が完全に捉えた。
神速を超えた、一筋の閃光。
ズドォォォォン!!!
枢が穿った一鍼は、最高総帥の肉体を貫通することなく、その後ろにある巨大なメインサーバーの基盤へと、黄金の気の波動となって真っ直ぐに突き抜けた。
「がはっあぁぁぁぁっっ!? は、心臓が……、いや、世界中から集めていたエネルギーが……私のコントロールを離れて……還っていく……!?」
最高総帥の口から、ドス黒い気の残滓が激しく噴き出す。
枢が穿った「神道」は、心の気が宿る場所であり、神気の通り道。
ここを完璧に調律されたことで、サーバーに無理やり吸い上げられていた全世界の患者たちの「原気」は、システムという呪縛の檻を破壊し、本来あるべき持ち主の肉体へと、温かい光の奔流となって一斉に還流していったのだった。
ピピッ、ピピッ、ピピッ……。
壁面モニターのドス黒い赤色が消え去り、世界中のバイタルデータが、一斉に健やかな「深緑色(正常値)」へと戻っていく。
世界を揺るがしたラスト・パンデミックの悪夢が、チーム全員のプロフェッショナルな絆と、聖鍼師の一刺しによって、完全に解体された瞬間だった。
「ああ……私の、私の完璧な新時代の医療が……」
メインサーバーから引き剥がされた最高総帥は、すべての利権の力を失い、ただの年老いた一人の「患者」として、力なくその場に崩れ落ちた。
「ふぅ……。お見事でした、皆さん。誰一人が欠けても、世界全体の三焦の滞りをこれほど完璧に払うことはできませんでした」
枢は長鍼を鮮やかに往診鞄へ収め、額の汗を拭いながら、最高の仲間たちへといつもの穏やかな微笑みを向けた。
「やった、やったぜぇぇ!」と真っ赤に焼けた大盾を放り投げたガストンが男泣きし、リナが安堵の笑みを浮かべて銃を収める。フラフラになったシオンをネネが「よくやったじゃん!」と支え、ハクが満足そうに不敵な笑みを浮かべる。
全員が笑顔で、固い勝利の拳を合わせ合った。
天空に浮かぶ闇の医療ギルドは崩壊し、世界の医療は再び、一人の患者の命に寄り添う本来の温もりを取り戻した。地上には、未だ彼らの往診鞄が届くのを待っている人々がいる。彼らの不滅の旅路は、ここからまた新しく始まっていくのだ。
第472話「中央命脈の最終治療!全員集結、三位一体の聖鍼とラスト・パンデミック」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
全世界の命のデータを人質に取る最高総帥に対し、ガストンさんの鉄壁の漢気、リナさんの空間制圧射撃、シオンさんの座標固定魔術、そしてネネちゃんの爆辞防御とハクさんの究極清解原液が、すべて枢先生の一鍼のために繋がっていくという、まさにアニメの最終回のような最高潮の全員集結コンビネーション、お楽しみいただけましたでしょうか!
どれほど巨大なシステムや利権で命を縛ろうとも、生きた人間の心と気の繋がりは決して断ち切れないという、枢先生の一貫した医療の美学が、チーム全員の力で結実した素晴らしい大団円となりましたね。
今回は、物語のクライマックスとして描かれた、背中の非常に重要な経穴、神道の肉体における実践的な効能について解説させていただきます。
東洋医学において「神道」は、身体の後ろを流れる「督脈」に属し、第5胸椎の真下に位置する、文字通り「神(人間の精神や生命力の根本)が通る道」とされる極めて神聖な要所です。
ここは五臓の「心」と裏表で直結しており、自律神経の極度な過緊張や、精神的なショック、ストレスによって心臓の鼓動が乱れ、全身の気の巡りが完全にストップ(パニック状態)してしまった際に、その滞りを一気に貫通させて本来の健やかな精神と原気を取り戻すための最大のスイッチとなります。
現代における動悸や息切れの緩和、パニック障害による胸の苦しさの解消、慢性的な背中の強烈な凝りの更生などにも絶大な効果を発揮するこの名穴を、世界の命のネットワークを解き放つキーとして応用してみせる枢先生のプロとしての視座には、今回も深く感動させられましたね。
見事にギルドの巨悪を治療し、世界の命の尊厳を守り抜いた往診チーム。しかし、エネルギーを失った天空の要塞は、激しく崩壊を始めようとしています。
次回の第473話は、本日【21:00】に更新予定です。
一日の終わりを迎える夜のひとときに、満身創痍の仲間たちを枢先生の銀鍼が救いながら繰り広げられる、息をもつかせぬ「天空総本部からの大脱出劇」を、ぜひお楽しみに!




