第312話:模倣の極致、翡翠の両腕を持つ複製人間を「静寂の断罪」で完全スクラップへ
王都の広場を埋め尽くしたのは、白銀の甲冑を纏った騎士たちではなく、西の国が禁忌の術で錬成した「完璧な欠損なき枢」でした。かつて枢が自らの意志で切り捨て、シオンの命と引き換えに捧げた『翡翠の右腕』。それが今、教皇の操り人形の肩に接合され、王都の住民を威圧する凶器として脈動しています。
第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第73話(通算第312話)。
「(……。滑稽ですね。私の『過去』を繋ぎ合わせ、飾り立てれば、私が屈するとでも思いましたか。教皇。……。……。その人形に宿っているのは、私がとっくに捨て去った未練と、救いきれなかった後悔の残滓に過ぎません。今の私の前では、それはただの『重すぎる荷物』ですよ)」
枢の声は、声を失った喉を通らず、翡翠の気の共鳴として直接ミナの、そして王都全土の魂に染み渡ります。
彼は指先一つ、眉根一つ動かしません。ただ静かに、ミナという名の「最強の鍼」を研ぎ澄ませ、自分自身の抜け殻である複製人間への、慈愛に満ちた外科手術を開始します。
火曜朝の真贋、鏡像の外科往診。
聖鍼師・枢、自らの「過去」という名の腫瘍を診る。どうぞ最後までお読みください。
朝の光が王都を照らす中、広場に立つ二人の「枢」は、対照的な存在感を放っていた。
一人は、教皇の呪術が生んだ『完品』。かつて枢が誇った「翡翠の右腕」と、皇帝の命を吸った「黄金の左腕」を両肩に備え、全盛期を上回る神々しいオーラを放つ複製人間。
対する本物は、両腕を失い、喉に深い沈黙を宿し、ミナの細い肩に支えられてようやく立っている、あまりに脆弱な隠居老人。
だが、その場の空気を支配していたのは、間違いなく「腕のない本物」の方だった。
「(……。なるほど。私の遺伝子を書き換え、記憶を移植し、腕まで元に戻した。教皇、あなたは私を『不自由』から救ったつもりですか。……。……。……。ですが、それは最大の誤診です。私は腕を失うことで、世界を『触れる』のではなく『感じる』術を。声を失うことで、言葉ではなく『真理』で語る術を手に入れたのですから)」
枢の意志は、ミナの耳元で流暢に、かつ重厚な旋律となって響く。
複製人間が、翡翠の右腕から溢れ出す圧倒的な気を、巨大な「光の鍼」へと変容させた。
『死ネ、不完全ナ残骸メ! 我コソガ真ノ聖鍼師、貴様ノ届カナカッタ神ノ領域ダ!!』
地響きと共に、数万の翡翠の光鍼が、まるで流星群のように枢とミナを襲う。かつて一国を壊滅から救った「神の業」が、今は世界を救った張本人を殺すために牙を剥く。
だが、枢はまぶた一つ動かさない。
彼はミナの背中にある、人体の生命エネルギーの貯蔵庫である**『霊台』**に、自身の「不在の腕」を重ね合わせるイメージを叩き込んだ。
「(ミナ。恐れることはありません。……。……。……。彼が放つのは、過去に縛られた『重い気』。……。……。……。……。対して、今の私たちの気は、……。……。……。……。……。すべての未練を削ぎ落とした『無』。……。……。……。……。……。……。……。……『存在しないもの』を、……。……。……。……。……。……。……。……。彼は、決して傷つけることはできませんよ)」
刹那、降り注ぐ光鍼の嵐が、枢の周囲数メートルで、まるで静止画のように空中に固定された。
枢の放った「虚無の波動」が、物理的なエネルギーのベクトルを完全に無効化し、その場に跪かせたのだ。
枢は、ミナの指先を導き、複製人間の体内に流れる「偽りの循環」の起点を見極める。
「(さあ、仕上げです。……。……。……。……。ミナ。……。……。……。……。……。一鍼で、……。……。……。……。……。……。彼が背負わされた『偽りの重荷』を、……。……。……。……。……。……。……。すべて解体してあげましょう。……。……。……。……。……。……。……。……。それが、私自身への、……。……。……。……。……。……。……。……。……。最高の供養ですから)」
枢は、自身の「空位の肩」を、敵の術式を根本から否定するための、存在解体鍼――**『鏡像剥離』へと昇華させた。
ミナが、枢の視線の誘導に従い、一本の黒い鉄鍼を、複製人間の胸部にある、気の集積地であり最大の弱点である『膻中』**へと放つ。
枢は、自身の完全に統合された「不滅の意志」を、その一鍼に乗せ、複製人間を縛る教皇の呪縛を内側から爆破した。
――ドォォォォォォォンッ!!
「ガ、ハッ……!? 我ガ、腕ガ……、翡翠ガ……、……灰ニ……ナッテイク……!!」
複製人間の両腕が、枢の鍼を受けた瞬間、ボロボロと崩れ去り、ただの汚泥となって石畳を汚した。
かつての枢の輝きを模した両腕は、今の枢が持つ「無」という真理の前では、ただの腐った肉の塊に過ぎなかったのだ。
枢は、崩れ落ちる自分自身の顔をした人形を見つめ、かつてないほど清澄で流暢な意志を、天高く座す教皇へと叩きつけた。
「(教皇。……。……。……。……。次はもっと、……。……。……。……。……。骨のある患者を用意しなさい。……。……。……。……。……。……。私から奪った力で私を診ようなど、……。……。……。……。……。……。……鍼灸師としての……、……。…………。……。……。……。……。……。プライドが……、……。……。……。……。……。……。……許しませんから。……。……。……。……。……。……。……。……。……。さあ、……。……。……。……。……。……。……。……。……。次は、……。……。…………あなたの番ですよ)」
第312話。
聖鍼師・枢は、自らの全盛期を模した複製人間を、指先一つ触れずに、ただ「本物の深淵」を見せつけることで完全に解体した。
自己否定という名の「真の新生」によって、更なる神域へと突き進む。
本日、水曜日08:00の更新を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回、複製人間に移植された翡翠の気を強制排除し、存在を崩壊させるために枢が駆使した術式を解説します。
まず、偽物の腕へと流れ込む膨大な出力を逆流させ、全身の経絡を内側から破裂させるための起点とした**『霊台』**。ミナの背中を通じて放たれたこの波動は、枢の「無」を物理的な質量に変えて、数万本の攻撃を霧散させました。
そして、複製人間の核となっている「教皇の呪縛」を正確に射抜き、自我を崩壊させるためのアンカーとした**『膻中』。胸の中央にあるこのツボに対し、枢はミナの指先を借りて「過去の自分への別れ」という最強の言霊を打ち込み、複製人間をただの塵へと還したのです。
最後に、声を失った枢が世界そのものを自らの「鳴響体」として再構成するための最終回路とした『百会』**。頭頂のツボから放たれた意志の余波は、王都を包んでいた教皇の寒気を一瞬で翡翠の熱気へと塗り替え、全住民に「本物の聖者」が、何一つ失っていないことを告げたのでした。
次回の第313話(第四章 第74話)は、本日水曜日**【12:00】**に更新予定です。
魂を抜かれ、教皇の傀儡となった子供たちが、枢先生を襲います。
「(……。子供を泣かせる医者は、……。…………。……。万死に値します。……。……。……。……。……。私が今、…………。……。……。……。……。……。……最高の『子守唄』で、……。……。……。…………。……。……。……安らかなる夢の世界へ、……。……。……。……。……。…………。……。……。エスコートしてあげましょう)」
12時、正午の往診。慈愛の外科往診。
聖鍼師・枢、ついに「未来の命」を診ます。どうぞお見逃しなく!




