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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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272/283

第272話:黄泉の往診、停止した鼓動を「輪廻の逆転鍼」で穿つ

王都に訪れた朝焼けは、あまりにも静かで、あまりにも残酷な「聖者の死」を照らし出していました。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第33話(通算第272話)。


神の猟犬を退け、子供たちの眠りを守り抜いたくるる。しかし、その代償は彼の全生命力でした。

肌は枯れ木のように乾き、髪は雪のように白く染まり、その胸の鼓動は完全に停止しています。

「……枢様……。……ねえ、……起きてよ……!!」

幼子となったミナが、その小さな手で枢の冷たい頬を叩き、涙を流します。

しかし、聖鍼師の魂は、すでに現世と冥府の「境界線」を彷徨っていました。


「……暗い……ですね。……。……ですが、……自身の……死さえ……、……往診……できないようで……、……聖鍼師は……務まりません……」


自身の経絡を、死の側から「再記述」する。

前代未聞の「自己蘇生往診」。

8時、月曜日の朝、奇跡の再起動。どうぞ最後までお読みください。

王都の広場を包む朝露は、冷たく、そして静かだった。

 

 神の猟犬たちが消え去った後には、無数の「記述の残滓」が黒い雪のように降り積もっている。

 その中心で、くるるは座したまま、動かなかった。

 彼の周囲には、目覚めたばかりの子供たちが集まり、訳も分からず、ただ「自分たちを守ってくれた彫像」のように変わり果てた彼を取り囲んで泣いている。

 

 枢の意識は、音のない、光もない、無限の「空白」の中にいた。

 そこは、神アルキメスが世界の記述を終える際に用意した、すべてのデータの「ゴミ捨て場(冥府)」。

 体温はなく、重力もなく、ただ「くるる」という情報の断片が、霧散していくのを待つだけの場所。

 

(……ああ、……。……ようやく……、……静かな場所に……来られましたね……。……。……これでもう、……誰の……痛みも……、……聞こえない……)

 

 枢がその虚無に身を委ねようとした、その時。

 

 ――トクンッ、……。

 

 現世から届く、あまりにも小さく、しかし激しい「震え」が、彼の魂の底を叩いた。

 それは、十歳のミナが流した涙が、枢の動かない胸元に落ちた衝撃だった。

 

「……枢様、……。……約束……したじゃない。……。……一緒に、……温かい……スープを……飲むって……!!」

 

 ミナの「声」という名の記述が、冥府の静寂を引き裂く。

 

 枢の心眼が、死の淵で再び開いた。

 自身の肉体は、完全に「停止」している。

 心臓は止まり、肺は潰れ、脳への血流は途絶えている。

 普通なら、ここで終わりだ。

 

 だが、枢は、自身の左指を、自身の意識下にある**『魂門こんもん』**へと、冥府の深淵から現世へと這い上がるための「フック」として、虚空で動かした。

 

(……まだ……。……まだ……ですよ。……。……患者を……残して……、……医者が……先に……隠居するなど……、……。……笑い話にも……なりません……)

 

 枢は、自身の「霊体」の手で、自身の肉体へと、外側から鍼を打ち込むという、常軌を逸した治療を開始する。

 

 一本目の霊子鍼。

 枢はそれを、自身の肉体の中心、生命の火種が眠る**『命門めいもん』**へと、冥府の冷気を「反転」させた極大の熱量と共に叩き込んだ。

 

 ――ドォォォォォォォンッ!!

 

 王都の広場。枢の遺体の周りで泣いていた子供たちが、弾かれたように飛びのいた。

 白髪の聖者の肉体から、眩いばかりの「翡翠の蒸気」が噴き出したからだ。

 

 二本目の鍼を、自身の脳幹を司る**『百会ひゃくえ』**へと、枢は自身の「記憶の記述」をすべて一点に凝縮し、強制的な再起動信号リブートとして撃ち抜いた。

 

 ――カァァァァァァァァァッ!!

 

 枢の血管が、死後硬直を始める寸前の筋肉が、翡翠の光に焼かれて猛烈な勢いで脈動を始める。

 

 枢の口から、真っ白な霧が吐き出された。

 

「……吸い……なさい。……。……今の……、……『今』という……時間を……、……その……肺に……!!」

 

 三本目。心臓を直接叩き起こす、起死回生の一鍼。

 

 枢は、自身の左指を、自身の胸にある**『膻中だんちゅう』**へと、自身の自身の全ての「生への執着」を黄金の針金に変えて、自身の深淵へと突き刺した。

 

 ――ドクンッ!!!!

 

 止まっていた心臓が、広場全体を震わせるほどの轟音と共に、再び動き出した。

 

 枢が、目を開けた。

 

 その瞳は、もはや翡翠色だけではない。

 死を見てきた者だけが持つ、銀色の「真理の輝き」を宿し、彼はゆっくりと、自身の自身の自身の力で、大地を踏みしめて立ち上がった。

 

「……お待たせ……しました、……ミナ。……。……往診……。……。……自分自身の……往診に……、……少し……手間取って……しまいました……」

 

 白髪のまま、しかしその肉体には、かつての神アルキメスさえ凌駕するほどの、圧倒的な「生命の記述」が溢れていた。

 

 第272話。

 聖鍼師・枢は、自らの死さえも「治療対象」として克服し、神亡き後の世界で、死を乗り越えた真の「記述者」として再誕した。

 

 月曜日の朝。

 王都に降り注ぐ光は、もはや恐怖でも、退行でもない。

 枢が導く、新しい「生命の法則」が、今ここから、一文字ずつ綴られようとしていた。

本日、月曜日8:00の更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第四章の第33話(通算第272話)。

日曜日の死闘の果てに訪れた、くるるの「死」と、そこからの「自己蘇生」。

自身の心臓が止まっている状態から、霊体となって自身の肉体を治療するという、本作における一つの到達点とも言える奇跡を描きました。

死を「終わり」ではなく、一つの「重篤な症状」として捉え、自らの鍼で因果を逆転させる。枢はこれで、神の作った寿命という制限さえも超えた存在へと進化を遂げました。


今回、枢が冥府の淵から自身の肉体を再起動させるために駆使したツボの技術を解説します。

まず、冥府の虚無の中で自身の「存在の座標」を固定し、現世への帰還路とした**『魂門こんもん』**。背中にあるこのツボを霊体で刺激することで、枢は霧散しかけていた自身の意識を一本の「芯」へと集約し、肉体とのリンクを再確立しました。


そして、冷え切った肉体に爆発的な熱量を送り込み、細胞の一つひとつを呼び覚ますための起点とした**『命門めいもん』。ここは生命の火種(命の門)そのもの。枢は冥府の冷気を「反転増幅」させてここに撃ち込むことで、凍りついた生命のボイラーを無理やり点火させました。

最後に、脳と心臓を同期させ、不変の生命活動(記述)を再開させるために突いた『膻中だんちゅう』**。胸の中心にあるこのツボに、自身の全執念を込めた黄金の鍼を打つことで、枢は「停止」という世界の命令を拒絶し、自身の意志で「鼓動」という新しい記述を刻み込んだのでした。


次回の第273話(第四章 第34話)は、本日月曜日**【12:00】**に更新予定です。


蘇った枢の前に現れたのは、成長を止めていた「新しい王都の芽」でした。

幼子となった人々が、枢の蘇生に共鳴するように、急速に、かつてよりも「強靭な精神」を持って大人の姿へと戻り始めます。

しかし、その中で一人、ミナだけが「子供の姿」のまま、成長が止まってしまい……。

「……おじいちゃん、……。……私、……。……このまま……、……あなたの……孫に……なっちゃうの……?」


12時、不均等な成長、愛の停滞。

聖鍼師・枢、最愛の人の「失われた未来」を往診します。どうぞお見逃しなく!

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