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第2話:自称「賢者」の腰痛は、魔法では治らない

お読みいただきありがとうございます。


さて、魔法がすべてのこの世界ですが、やはり「使いすぎ」は体に毒なようです。

今回は、偉大なる賢者様が抱える「現代人にも通じる悩み」を、クルルが物理的に解決します。


ちなみに、今回登場する「坐骨神経痛」の描写は、少しだけ実体験に基づいています(笑)。

「……一体、ここで何があった」


裏庭に響いた悲鳴を聞きつけ、現れたのは一人の老人だった。

長く白い髭を蓄え、手には鈍く光る賢者の杖。学園長にして、この国で五人しかいない最高位魔導師――賢者ガウェインである。


彼は、地面に転がり白目を剥いているバルトたちと、その中心で静かに佇むクルルを交互に見た。


「クルル・レンシュタット。……貴殿がやったのか? 彼らに呪いをかけたと」


「呪い? 心外ですね。私はただ、少し『刺激』を与えて、彼らの乱れた魔力回路を正してあげただけですよ」


枢は、手首を軽く振って『絶糸ぜっし』を消しながら答えた。

ガウェインの眼光が鋭くなる。


「ふむ……。バルトたちの魔力は完全に封じられている。これは未知の拘束魔法か。……だが、それよりも」


ガウェインが一歩踏み出した瞬間。

枢の**【翡翠眼】**は、老賢者の体が発する「悲鳴」を捉えた。


「……賢者様。そんなに顔をしかめて、無理に威厳を保たなくても良いのですよ。一歩歩くたびに、腰から足先にかけて電気が走るような痛みがあるでしょう?」


ガウェインの動きが、ピタリと止まった。


「……何だと?」


「その右足の引きずり方。そして魔力を練る際にわずかに出る、腰の歪み。……原因は魔法の使いすぎではありません。仙腸関節の重度の不整合、および魔力の過剰循環による神経の炎症――いわゆる、**『魔力坐骨神経痛』**ですね」


「なっ……! なぜそれを……!」


ガウェインは絶句した。

この激痛は、彼が数十年の研究の末に抱えた宿痾しゅくあ。あらゆる治癒魔法も、最高級のポーションも、一時的な気休めにしかならなかった秘密だ。


「『魔法』は万能ではありませんよ。むしろ魔力という高エネルギーを体に流し続ければ、管である肉体には無理が来る。……少し、横になってください。今の貴方の体は、爆発寸前のボイラーと同じです」


「待て、何を……!」


枢はガウェインの返事も待たず、その背後に回った。

翡翠眼が、ガウェインの腰にある「気の詰まり」――**『大腸兪だいちょうゆ』から『環跳かんちょう』**にかけての急所を、正確に射抜く。


「……少し、響きますよ」


枢の指先から、目に見えない魔力の鍼が打ち込まれた。


「――っ!? ぐ、あああああああッ!!」


老賢者の絶叫が裏庭にこだまする。

取り巻きたちは「ついに賢者様まで殺された!」と震え上がったが、ガウェイン本人の感覚は違った。


(熱い……! 腰の奥、指も魔法も届かなかった『芯』の部分に、何かが突き刺さるような……!)


枢の鍼が、ガウェインの体内に停滞していた古く濁った魔力を、一気に押し流していく。

次の瞬間、ガウェインの視界が嘘のように晴れ渡った。


「……消えた。痛みが、ない……? 足が、軽いぞ……?」


ガウェインは、信じられない様子でその場に立ち上がった。

あんなに重かった杖が、羽毛のように軽く感じる。


「……ふむ。深いところまで魔力の澱みが溜まっていましたからね。三日は激しい運動を控えてください。あと、その杖は重心が偏りすぎています。腰に悪いですよ」


枢が淡々と言い放つと、ガウェインはその場に、力強く膝をついた。

それは屈服ではない。心からの敬意だった。


「……素晴らしい。魔法を介さず、理のみで人体を調律するとは。貴殿こそ、真の『ことわり』に到達した者か」


「ただの鍼灸師ですよ」


「師匠……いや、枢殿! ぜひ、私にその深奥を教えていただきたい! この学園のすべてを貸し出そう、だからどうか……!」


「……やめてください。目立ちたくないんです、私は」


かつての「無能」が、この国最強の賢者を跪かせる。

その光景を見ていた生徒たちの噂が、翌日から王都を爆発的な速さで駆け抜けることになるのを、枢だけが「面倒だな」と溜息をつきながら予感していた。

賢者ガウェイン様、まさかの弟子入り志願……。

枢としては、静かに鍼を打っていたいだけなのですが、なかなかそうもいかないようです。


第3話では、いよいよ噂を聞きつけた「あの重要人物」が登場します。


「賢者の腰痛が治ってよかった!」

「続きが楽しみ!」


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