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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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23/36

23.魔法使いと特性(3/3)

 私の特性は『反転』だ。

 加熱の魔法陣を使えば冷え、冷却の魔法陣を使えば熱くなる。


 では、私が温度を保つ魔法陣を使うとどうなるのか?


 答えは、魔法陣が霧散して、何も起きない。


「なるほど、無効になるわけだな」

「では、対になる効果がなければすべて無効になるのか、調べなければいけませんね」


 ツバキ先輩の声が心なしか弾んでいる。

 知的探求心を刺激してしまったみたいだ。


「全部やらないといけないんですか?」

「そりゃあ、例外があるかもしれないからな。やってみないと分からないだろ?」


 ミチル先生もちょっと楽しんでいる感じがする……。


 まあ、いいか!

 私もたくさん魔法が使えて嬉しいし!


 ――というわけで、私の魔力解析はひと月経った今も放課後だけ続いていた。


 ひと月も一緒にいると、ツバキ先輩やミチル先生の人となりや距離感が掴めてきた。

 確かなことは、ここでは私が意見を述べるのに遠慮も物怖じもいらない、ということ。

 二人とも、私がどんなに頓珍漢なことを言っても笑わず聞いてくれるし、解説してくれる。

 とても恵まれた環境だと思う。


 そういう雰囲気だったので、私はいつも通り、何気なく、疑問を一つ投げかけた。


「私が使っている『水を出す』魔法陣を、ミチル先生やツバキ先輩が使ったら、どうなるんですか?」

「いやあ、不発じゃないか?」


 ミチル先生が即座に言った。

 明らかに面倒臭そうにしている。


「前、やってみないと分からないって言ったの、ミチル先生でしょう?」


 私がそう言うと、ミチル先生はぐぬぬと言葉に詰まった様子で、渋々と準備を始めた。


 まずツバキ先輩が魔力を可視化する魔法を使った。

 私は魔法石を受け取り、いつものように念じる。


 ――魔法石を、水に、変える。


 浮かび上がったレース編みのような複雑な魔法陣をミチル先生が模写し始めた。


「こういう細かいのは苦手なんだよなあ……」


 そうボヤくけれど、さすがは教師。

 魔力の操作に迷いがない。


 複雑な魔法陣を描くには、その分、魔法石を消費する。

 魔法陣を完成させたころには、魔法石はほんのわずかになっていた。


 ミチル先生は一度細部を確認してから魔力を流した。

 同時に、ミチル先生の手から魔法石が消えてなくなった。

 魔法陣が仄かに光を帯びて、光の粒子がふわりと宙に溶けていく。


 魔法が発動したのだ。

 でも、その場で目に見える変化は何も起こらなかった。


「おかしいな。手応えはあったんだが」


 ミチル先生が不思議そうな表情で前髪をかき上げたそのとき、カツンと小さな音がした。


 その音につられて視線を移したミチル先生が「ははっ」と乾いた笑い声を上げ、机の上から何かをつまみ上げた。


 ゴマ粒のようなそれは、魔法石だった。


「どうして魔法石が……?」


 さっきまでこんな魔法石、なかったはずなのに。

 まさか、と思った推測を、先に口にしたのはツバキ先輩だ。


「まさか、魔法石が復元したのですか!?」


 ミチル先生は神妙に頷いた。


「俺の推測に過ぎないが……、魔法石を水に変えるという効果が『反転』して、水を魔法石に変えたんじゃないか?」


 水を、魔法石に?


「でも、さっきミチル先生が魔法を使ったときには、水なんてどこにも……」

「いえ、おそらく空気中の水分を取り込んだのでしょう。取り込んだ量が少なかったから、結果として生成できた魔法石も小さかったのではないでしょうか」


 魔法石が魔法で生成できるなんて話、聞いたことがない。


 本当にそんなことが起こるの……?


 半信半疑な私に、ミチル先生とツバキ先輩はキラキラと輝く眼差しを向けてくる。

 きっと二人の知的好奇心をくすぐってしまったのだ。


「それじゃあ水がたっぷりある状態でやるか」

「はい、ご用意しました」


 さすがツバキ先輩、ミチル先生が指示する前に大きな水瓶を抱えてきた。

 小豆くらいの魔法石を使い切って、水瓶の中を水で満たす。


 そしてミチル先生が、小豆ほどの魔法石を使い切って、素早く魔法陣を描き上げ、魔法が発動した。

 すると魔法陣だった光の粒子が水と混ざり合い、淡く光を帯びた水がゆっくりと形を変え、やがて一点に収束していった。


 ふっと光が消えたとき、水瓶の底でカツンと音がした。

 すかさずツバキ先輩が水瓶をひっくり返す。

 机の上で跳ねたのは、やっぱり小豆ほどの、闇を映したかのように真っ黒な魔法石だった。


「おお……!」「まあ……!」「わあ……!」


 三者三様に感嘆の声を上げる。


「これは、すごい発見だぞ……」


 魔法石は採掘するか、魔臓――魔力を生成する器官から取り出す以外に、入手方法はない。

 その常識を覆してしまった。

 歴史に残る大発見かもしれない!


 どうしよう!?

 この功績が認められて、『(カラス)』に推薦されないかなあ!

 ……いやいや、そんな都合のいい話、あるわけないか。


「これは専門家に話を通したほうがよさそうだな」


 ミチル先生の言葉に、私は首を傾げた。


「専門家、ですか?」

「ああ。魔法陣研究の専門家が、運良くこの学校に勤めているんだ。なあ、ツバキ?」


 ミチル先生がそう言うと、明らかにツバキ先輩は狼狽していた。


「ええ……、はい。……それが一番、確実ですからね……」


 珍しくツバキ先輩の声音が暗い。

 乗り気ではないことが伝わってきた。


「あの、シヅさん」

「はい?」


 ツバキ先輩の呼びかけに私が返事をすると、ツバキ先輩は深々と頭を下げてこう言った。


「先んじて、お詫びいたします……」

「ええっ!?」


 事前に謝られるなんて、もう悪い予感しかしない。

 ミチル先生のやけに大きな笑い声が第五実習室の中にこだました。

次話投稿は 2026/4/8 21:00 です。

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