希望が見えた
軍伝令鳥からの急報を受け、急ぎ駆けつけたガロットが目にしたのは、燃え落ちる敵本陣と、その中心に立つふたりの姿だった。
剣を下ろしたゼイルの肩はうっすらと汗に濡れ、すぐ隣には、まるで最初からこうなることを知っていたかのように静かな目をしたセレナがいた。
馬を降りるなり、ガロットは口を開いた。
「……正気か、あんたら」
「戦果としては上々だろう?」
セレンは涼しい顔でそう返した。
「ここを崩せば敵の軍全体が崩れる。計算通りだ」
「いや、正気かってのは、戦果の話じゃねえ」
ガロットはため息まじりに言いながら、ぐしゃぐしゃに焼け落ちた本陣を見やった。
「足止めだけで十分だったはずだ。まさか壊滅させるとはな…」
「……俺も信じられねえよ」
ガロットの横に立ったゼイルが、ポツリと呟いた。
疲労のにじむ声音だったが、その目は静かに燃えていた。
「言っておくがな、准将」
ガロットはゼイルをつかんでセレンの前に差し出す。
「あんたら、マジで化け物だぞ。戦場で見たことない動きばっかりするし、剣技も魔法も半端じゃねえ。しかも、運の引き寄せ方が尋常じゃねえ」
セレンは小さく肩をすくめた。
「今さらだろう」
「…勝てるのか」
ガロットの言葉に、その場にいる誰もがかたずをのんで見守る。
この、絶望に満ちた戦線を、ひっくり返せるのか。
あんたについていけば。
「ゼイルがあんたの駒になれば」
ガロットがそう言ってセレンの横顔を見つめると、彼女は珍しく、視線を外してほんの少しだけ口元を緩めた。
「…戦場は運の力も支配できる者が勝つ。必要な駒は、見抜いて選んで、使う。」
「そりゃそうだろうがよ」
ガロットは肩をすくめた。
「けど、あの男はもう“駒”って呼ぶにはでかすぎるな」
「ふむ」
セレンは短く応じると、遠くを見やった。
まだ燃え残る煙が、黒くたなびいている。
「では、“最強の味方”とでも呼ぼう」
「……言ってくれるな」
ガロットは呆れたように笑ったが、どこか安堵も混じっていた。
たしかに、いまのふたりは揺るぎなく戦場を掌握している。
(――とんでもねえな)
内心そう呟いて、ガロットはそっとゼイルの背を見る。
勝てるかという問いに、セレンは答えなかった。
けれど、確かに、笑った。
勝てるのかもしれない。
もしかしたら。
それは、この西方戦線に、希望が見えた瞬間だった。




