祝杯
祝辞や紹介がひと段落し、
人々が料理に箸を伸ばし、杯を傾けはじめた頃。
にぎやかな祝賀会の喧騒から少し離れた、王城のバルコニーの陰。
月明かりに照らされた静かな空間に、ゼイルとガロットはグラス片手に並んでいた。
「……おめでとう、団長」
「ありがとよ、団長」
互いに“団長”と呼び合って、肩をすくめるように笑い合う。
並んで立つその背には、長年の戦場の記憶と友情の重みがあった。
「まさか、俺たちふたりが軍団長になる日が来るとはな……」
「どちらが先に脱落するかって賭けてた下士官時代が懐かしいな」
ガロットがグラスの中の酒を軽く煽り、夜風に目を細める。
「……正直言うと、まだ信じられてねえんだ」
「ん?」
「俺がこの国の“盾”を任されたってことがさ」
ぽつりとこぼした言葉は、誇りと戸惑いとが混ざっていた。
第一軍団――王都の守り。その重責の重みを、知っているからこその実感だった。
ゼイルはグラスを軽く掲げるようにして、まっすぐ言った。
「お前ほど信じられる盾はいないって、皆が知ってるよ」
「……ありがとな」
ガロットが照れくさそうに鼻を鳴らしたあと、口元を緩める。
「ま、お前が“死神の旦那”になったって方が衝撃はでかいけどな」
「うるせえよ。今それ言うな」
「いや、事実だろ。…もう来月挙式かよ。はええな」
ゼイルは苦笑しつつ、少しだけ目を伏せる。
照れではなかった。その表情には、静かな、確かな想いがあった。
「……なあ、ガロット」
「ん?」
「俺、思うんだ」
風に吹かれながら、ゼイルはグラスを見つめたまま、ゆっくりと語り出す。
「俺の役目は、西を守ることだ。外からの敵、まだくすぶってる火種、そういうのを叩き潰す。時には他の地域にも出向いて、戦線を維持する」
「……ああ」
ガロットが静かに頷く。
「でもさ、もし――もし、俺がやられて、突破されて、それでも全力で敵の牙を鈍らせることができたとして。……その先に、お前がいるって、俺は思えるんだ」
ゼイルはそのまま、バルコニー越しの月を仰いだ。
「俺の背中に、お前がいる。俺の大事なものを、お前が守ってくれる。そう信じられる。……それって、すごいことだよな」
ガロットは一瞬だけ目を伏せ、それから、空いた手でゼイルの肩を軽く叩いた。
「……ああ、すげえことだよ。こっちからも同じこと思ってる」
「……ありがとう」
「……泣くなよ?」
「泣いてねえよ」
「そうか、目に風が入っただけか」
互いの言葉に笑い、グラスをぶつける。
第一軍団と第三軍団。王都と西。
戦場は違えど、信じて預け合える背中がある――
それが、彼らの誇りであり、絆だった。
そして今夜、それが言葉になったことで、
ふたりの“団長”はまた、一歩先へ進んでいた。




