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死神が下りた戦場で  作者: りん
番外
57/57

祝杯

祝辞や紹介がひと段落し、

人々が料理に箸を伸ばし、杯を傾けはじめた頃。

にぎやかな祝賀会の喧騒から少し離れた、王城のバルコニーの陰。


月明かりに照らされた静かな空間に、ゼイルとガロットはグラス片手に並んでいた。


「……おめでとう、団長」

「ありがとよ、団長」


互いに“団長”と呼び合って、肩をすくめるように笑い合う。

並んで立つその背には、長年の戦場の記憶と友情の重みがあった。


「まさか、俺たちふたりが軍団長になる日が来るとはな……」

「どちらが先に脱落するかって賭けてた下士官時代が懐かしいな」

ガロットがグラスの中の酒を軽く煽り、夜風に目を細める。


「……正直言うと、まだ信じられてねえんだ」

「ん?」

「俺がこの国の“盾”を任されたってことがさ」


ぽつりとこぼした言葉は、誇りと戸惑いとが混ざっていた。

第一軍団――王都の守り。その重責の重みを、知っているからこその実感だった。


ゼイルはグラスを軽く掲げるようにして、まっすぐ言った。


「お前ほど信じられる盾はいないって、皆が知ってるよ」

「……ありがとな」


ガロットが照れくさそうに鼻を鳴らしたあと、口元を緩める。


「ま、お前が“死神の旦那”になったって方が衝撃はでかいけどな」

「うるせえよ。今それ言うな」

「いや、事実だろ。…もう来月挙式かよ。はええな」


ゼイルは苦笑しつつ、少しだけ目を伏せる。

照れではなかった。その表情には、静かな、確かな想いがあった。


「……なあ、ガロット」

「ん?」


「俺、思うんだ」

風に吹かれながら、ゼイルはグラスを見つめたまま、ゆっくりと語り出す。


「俺の役目は、西を守ることだ。外からの敵、まだくすぶってる火種、そういうのを叩き潰す。時には他の地域にも出向いて、戦線を維持する」


「……ああ」

ガロットが静かに頷く。


「でもさ、もし――もし、俺がやられて、突破されて、それでも全力で敵の牙を鈍らせることができたとして。……その先に、お前がいるって、俺は思えるんだ」


ゼイルはそのまま、バルコニー越しの月を仰いだ。


「俺の背中に、お前がいる。俺の大事なものを、お前が守ってくれる。そう信じられる。……それって、すごいことだよな」


ガロットは一瞬だけ目を伏せ、それから、空いた手でゼイルの肩を軽く叩いた。


「……ああ、すげえことだよ。こっちからも同じこと思ってる」


「……ありがとう」


「……泣くなよ?」


「泣いてねえよ」


「そうか、目に風が入っただけか」


互いの言葉に笑い、グラスをぶつける。


第一軍団と第三軍団。王都と西。

戦場は違えど、信じて預け合える背中がある――

それが、彼らの誇りであり、絆だった。


そして今夜、それが言葉になったことで、

ふたりの“団長”はまた、一歩先へ進んでいた。

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