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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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51/67

51、大混乱の夜会Ⅱ~断罪の始まり


「テオドール殿下頭をお上げください、許しますわ」


 にっこり笑ってユリアーネはあっさりと謝罪を受け入れた。

 テオドールは頭を上げユリアーネの横に立つと朗々と響く声で言った。


「ユリアーネ嬢はガルドゥーン公爵令嬢と王妃殿下の姦計により王宮で虐げられていた。皆も成人前のユリアーネ嬢が我儘であるとか高飛車であるとか王太子妃に相応しくないという噂を聞いたことがあるだろう。それは全て間違いだ」

「テオ! 酷いわ! お母様はそんなことしていないもん。ユリアーネちゃんが意地悪だからちょっと愚痴をエドに言っただけだもん」

「テオドール殿下、あんまりですわ!」


 ソフィー王妃とイゾルテから抗議の声が上がる。ガルドゥーン公爵も声を張り上げた。


「テオドール殿下! 我が娘イゾルテはともかくソフィー王妃様まで貶めるのは許しがたいですぞ」


 イゾルテは父親に庇ってもらえなかった事にショックを受けるがテオドールはイゾルテなど既に眼中に無いようで話を進めた。


「もちろん最大の責任は僕にある。しかしユリアーネ嬢の周りから親しい者を排除し、悪評を立て、冤罪を被せた人物がいるのもまた事実。そしてユリアーネ嬢は暫く王宮を離れていたが、僕が最も信頼する人物の元で安全に生活していたとユリアーネ嬢の名誉のために付け加える」


 テオドールの言葉にざわめきがまた起こるが、ユリアーネが実は安全に暮らしていた、そしてテオドールもそれを知っていたような口ぶりに安堵の声の中に残念そうな声が少し混じる。ユリアーネの不幸を望んでいたり面白がっていた輩がいるのだろう。


 ざわめきが収まるのを待ってテオドールは少し口調を変えた。


「時に王妃殿下、随分素敵なネックレスですね。僕は初めて見ましたが」

「あらわかる? テオ。ステキでしょう、こーんな大きいルビー見たことある?」

「王妃殿下は先月も先々月もドレスを仕立てていらした。宝飾品も。そしてこの冬は南の温泉地で豪遊なさったとか。とうに王妃殿下の予算は尽きていらっしゃると思いますが」

「嫌だわテオ、怖い顔をして。だあいじょうぶよ、だってこれは——」

「ソフィー様!!」


 ガルドゥーン公爵の制止の言葉は間に合わなかった。


「ヨアヒムとモーリッツにプレゼントしてもらったんだもん」


 ソフィー王妃の言葉を聞いてテオドールはにんまりした。


「ガルドゥーン公爵とモーリッツ・ベルク子爵ですね、財務庁第一部長官の。誰かモーリッツ・ベルク子爵をここへ」


 先ほどまで騒めいていた貴族の面々は今や静まり返って固唾をのんでいる。行方不明だったヴァルツァー辺境伯令嬢の話をしていたはずなのに。しかしユリアーネの話題で貴族たちの興味を煽ったテオドールは人々の注目する中、更なる爆弾を投下しようとしていた。



 人々の間からよろけ出るように一人の男が姿を現した。

 財務庁第一部長官のモーリッツ・ベルク子爵だ。そのすぐ後ろから付き添うように姿を現したのはシュテファン・ヴィン・ハイツマン公爵令息。一見付き添いのように見えるがシュテファンは最初からモーリッツ・ベルク子爵に張り付き、テオドールの呼びかけに動揺し彼がこそこそと逃げ出そうとしたところを捕まえてテオドールの前に突き出したのだった。


「ベルク子爵、ガルドゥーン公爵、王妃殿下はそう言っておられますがあなた方が贈ったもので相違ないか?」

「わ、私は三大公爵家の当主ですぞ。宰相として日々王国の為に尽力しておる。このくらいの贈り物は容易い事。ソフィー様には日ごろお世話になっておりますからな」


 ガルドゥーン公爵は開き直ったようだ。


「私とてそのくらいの甲斐性は——」

「あなた!」


 ベルク子爵が声を上げるとそれを女性の声が打ち砕いた。地味なドレスを着た中年の婦人が同じような地味なドレスを着た娘と共にベルク子爵を睨んでいた。


「甲斐性はあると? 二人は他にも王妃殿下に高価な贈り物をしているようだが?」

「あら、いいじゃないテオ。それだけ私が魅力的ってことよねえ」


 ソフィー王妃の暢気そうな声が上がりテオドールはソフィー王妃の方に目を向けた。


「ええ、それが後ろ暗いお金でなければ、ですね」


 そう言いながらテオドールは一冊の帳面を取り出した。


「あっ! そ——」


 叫び声を上げかけたベルク子爵は急いで口をつぐむ。


「これに見覚えがあるか? ベルク子爵。驚いたようだな、これは貴方が秘密の場所に隠していた物だからな。しかしとっくに偽物とすり替えられていたことは気が付かなかったようだな」

「そそそんなものは知らない」


 ベルク子爵の言葉を無視してテオドールは帳面を開いて読み上げる。

 次々と挙がったのは下級貴族や伯爵家でも力のない貴族の名前。彼らに入る筈だった災害の援助費や街道を補修する費用。立ち消えになった王宮主導の公共事業。貧しい者たちや孤児院に配布されるべき費用。


「全てベルク子爵が横領した証拠だ。間違いないな!」

「ち、違う! 私は……」


 それ以上何も言えずベルク子爵はその場にへたり込んだ。


 ホール中が騒然となった。特に名前を挙げられた貴族たちの怒りはすさまじい。今にもベルク子爵に飛びかかりそうだが、知らぬ間に配置されていた騎士たちががっちりその場を守っている。

 テオドールの追及がまだ続くからだ。


「もちろんこれだけの事をベルク子爵一人で出来るはずがない。ベルク子爵の横領を隠蔽し、恩恵にあずかっていたのはガルドゥーン公爵、あなたですね」

「殿下! テオドール殿下、何という事を! 私は貴方の御父上の支えとなりこれまで寝食を忘れて尽くしてまいりましたのに! 国王陛下、陛下からも私の身の潔白を証言してください!」


 国王陛下は一度ソフィー王妃を見た。心配そうに成り行きを見守っているソフィー王妃を。そして一つ頷くと口を開いた。


「テオドールよ。ガルドゥーン公爵がそんなことをするはずがない。それは何かの間違いだ」

「いいえ国王陛下、証拠がございます。隠蔽工作、口封じを指示する書類が。ガルドゥーン公爵と……そして陛下、あなたの署名入りで」


 今度こそホールを揺るがすどよめきが起こった。

 王太子が国王を告発した、公の場で。


「ガルドゥーン公爵は宰相という立場を利用して不当人事も行っていた。そして一部の商人との癒着も。それもあなたは見て見ぬふりをした。証拠、証人はそろっています」


 これはテオドールとシュテファンで調べたことだ。そしてこの夜会が始まると同時に緑の騎士団が癒着商人の店舗、自宅に強制捜査に入った。先ほど王宮に駆け付けてきたドミニクがホールの入り口で腕で大きな丸を作ったのをテオドールは目にしていたのだ。


「これらのことから僕は……僕は……」


 言い淀んだテオドールの背中にユリアーネがそっと触れた。勇気を分け与えるように。

 今日テオドールは一度も父上、母上と口にしていない。公の場とは言えそれはテオドールが両親と決別したことの表れだった。


「僕は国王陛下の退陣を要求します」


 テオドールの声はそう大きなものではなかった。でもその声はホール中に響き渡った。


「そんな事っ! 許されるわけないでしょう。テオドール殿下、気でも違われたのですか? 自らの御父上を退位させるなどそんな惨いことを……」

「黙れガルドゥーン公爵、俺はテオドール殿下を支持するぞ」


 皆が騒然となる中、一際大きな声を上げたのはヴァルツァー辺境伯。ユリアーネの事で対立していたはずのヴァルツァー辺境伯がテオドールの味方に付いたのだ。


「私もテオドール殿下を支持します。テオドール殿下は不公平不均衡を何とか是正しようと日々努力していらした。私はテオドール殿下にこの国の未来を期待したい」


 次に声を上げたのはシュテファン。シュテファンの隣でヘレーネがうんうんと頷いている。


 国のナンバーツーともいうべき辺境伯が王太子を支持した。そして三大公爵家の一つ、ハイツマン公爵の嫡男も。片や国王陛下の傍には三大公爵家の一つガルドゥーン公爵。しかし彼らは色々な不正を行っていた。下級貴族は次々にテオドールを支持する声を上げている。上級貴族は様子見だ。理は王太子テオドールにある。しかしガルドゥーン公爵が王宮中に蔓延らせた勢力も無視できない。


「俺もテオドールを支持するぞ」


 ホールの入り口から声が響き人々が一斉に振り返る。

 遅れて登場したアルベルトは悠々と歩いてテオドールの横に並んだ。


「テオドールはまだ若いが俺が全力で支えよう。俺もこいつに期待している一人だ」


 アルベルトの表明でテオドールを支持する声が一気に高まった。アルベルトが幼少の頃、その資質に期待していた高齢の貴族などは特に。


「ちょっと待ってくれ」


 人々をかき分けて一人の男が進み出た。その男が誰だかわかると皆が道を開ける。


 とうとう我慢できなくて出てきたな、とヴァルツァー辺境伯は心の中でにんまりした。



次話予告『断罪中に求婚されるユリアーネ』です。

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