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【本編完結】一発殴ってもいいですか?  作者: 一理。
【本編】

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48/67

48、過去を告白するアルベルト


 その日、夕刻にアルベルトの屋敷に集まったのはこの冬に急速に親交を深めた六人のメンバー、王太子であるテオドール、ハイツマン公爵家の令息であり、財務庁で勤務するシュテファン、騎士団副総団長のドミニク、同じく騎士団の第四師団長に昇格したディルク、そしてこの屋敷の主であるアルベルトと従者のユリアーネ。執事長のハーバーは彼らが到着すると他の者に任せず自らがこのサロンまで案内した。もちろん皆既に通い慣れた部屋である。

 テオドールは数名の護衛を連れたお忍びであるが、他のメンバーも忍んでこの屋敷にやってきている。ここでテオドールと会っていることを余人に知られたくないからだ。テオドールはあくまでつい最近まで外国暮らしをしていた叔父と友好を深めるために訪問しているに過ぎない。


 全員が集まったところでアルベルトは一通の封書を取り出した。


「まずはこれについて話をさせてくれ。この手紙は俺が長らく暮らした国のある研究機関から届いた報告書だ」


 一同を見回し、テオドールに目を止めたまま、アルベルトは一気に言った。


「俺は王妃殿下のお茶会で出された王妃殿下お手製だという菓子をこっそり少量持ち帰り、この研究機関に送って分析を依頼した。その結果、王妃殿下の菓子には魅了の薬物が混入されていることが判明した」


 一同は困惑の表情を浮かべている。無理もない、聞いたことの無い名前だからだ。


「魅了の薬物とは何でしょう?」

「媚薬のようなものですか?」


 シュテファンとテオドールが質問する。アルベルトは直ぐには答えず、深くため息をつくと「まずは馬鹿な男の話を聞いてくれ」と切り出した。



「俺は十歳の時にこの国を離れ彼の国で育った。父はきな臭くなってきた俺の身辺を心配して一時的に母の実家の商会に避難させるつもりだったらしいが、俺は当分この国に戻るつもりは無かった。望んでもいない王太子争いに辟易としていたからだ。彼の国の国王は賓客として俺を王宮に迎え入れようとしたが、俺は断って母の実家で育った。母の実家はその国で名の知れた豪商だが平民だ、俺は平民として育ったんだ」


 アルベルトの話と今の薬物との関係はまだ皆目見当がつかないが、皆静かにアルベルトの話に聞き入っている。過去を話したことの無いアルベルトの昔話に皆興味があった。


「この国は五人の魔導士が作ったと言われている。俺はその五人の魔導士はもしかしたら俺が育った彼の国からやって来たのではないかと考えている。はは、昔過ぎて確かめようも無いがな」


 いきなり建国の話が飛び出して皆が面食らうが構わずアルベルトは話を進めた。


「この国で魔力を持っているのは五人の魔導士の子孫だけだ。しかし彼の国の国民の八割は魔力を持っているんだ」


 これには驚いた。アルベルトが暮らしていた国とこの国の間にはいくつかの国がある。その為彼の国の情報はほとんど無いと言っていい。商人としてこの国に出入りしていたアルベルトの母やその親族も魔力については話さなかったらしい。


「もっともほとんどの者の魔力量は少ない。生活に便利な魔術が少々使えるくらいだ。俺の魔力量は王族か魔導士レベルらしい。魔導士という言葉はこの国では建国の五人しか使われていないだろう? 彼の国には魔導士という職業がちゃんと存在しているんだ。魔力や魔術に関する研究も盛んだ」


 魔術が当たり前に存在する国……いつか行ってみたい、とユリアーネはアルベルトの育った国に強い興味を抱いた。世界はユリアーネが思っているよりもずっとずっと広いらしい。そこにはユリアーネが想像もしたことが無いような光景が広がっているのだろう。


「彼の国で二十数年前に出回った薬物がある。その薬物を摂取すると特定の人物に強い好意を抱くのだ。普段の態度があからさまに変わるわけではないので発覚が遅れたが、その薬物を摂取するたびに特定の人物の事を好きで好きで堪らなくなりその人物の願いを全て叶えてあげたくなる、と言った症状だ。当然その薬物は彼の国で禁止薬物となり、生成した者、使用した者、全てが厳罰に処された。しかし根絶した筈のその薬物は地下でひっそりと取引され、彼の国でも数年に一度はその薬物がらみの事件が起こっている。そしてその薬物が王妃殿下の手作りの菓子から検出されたんだ」


 にわかには信じがたい話で皆顔を見合わせている。無理もない話だ、その存在を知っていたアルベルトでさえ、遠く離れたこの国でその薬物が使用されているとは思いもよらなかったのだ。


「その、叔父上、叔父上の話を疑うわけではないのですが」


 とテオドールは前置きして疑問に思っていることを口にした。


「母上の手作りであれ何であれ、父上や王族が口にするものは毒味をされます。ですが毒味係が母上に恋慕したとか様子がおかしくなったとかの話は聞いたことがないのですが」

「ああ、それはこの薬物が魔力に作用するものだからだ。魔力が無いものが口にしても毒にも薬にもならない」


 こともなげに話したアルベルトに皆が騒めく。ユリアーネは思い出した。

 マルティン・ロンメル男爵は元はハイツマン公爵の縁者、プラール伯爵家の生まれで彼も風の魔力を持っていた。アイベルク伯爵家はガルドゥーン公爵家の分家、アイベルク元師団長も水の魔力を持っている。モーリッツ・ベルク子爵は王家の傍系であるバッヘム侯爵家の出自で炎の魔力を持っている。国王陛下とガルドゥーン公爵は言わずともわかっている。


 そしてここに居るもののほとんどが魔力持ちである。無いのは副団長のドミニクと執事長のハーバーだけだ。ディルクもヴァルツァー家の縁者で身体強化の魔力を持っているのだ。


 ユリアーネが心配げな顔をテオドールに向けると、テオドールは首を横に振った。彼は王妃殿下のお菓子を食べたことが無いらしい。もっともいくら王妃殿下とて息子に薬物を盛ろうとは思わなかったのであろう。


「もう六年も前になる、俺には恋人がいた。いや違うな、俺にとっては恋人だが彼女はそう思っていなかった」


 アルベルトに恋人がいたとて何の不思議もない。彼は三十代半ばの男盛り、過去に恋人の一人や二人いた事だろう。未だ結婚していないのは他国の王弟という立場の複雑さ故か。


「彼女の事が好きだった、彼女の願いを全て叶えてやりたいと思うくらいには。彼女が親しくしている男は俺のほかに三人いた。子爵の息子と新進気鋭の騎士、王都で評判の宝石デザイナーだ。俺たちは彼女を巡って対立などしなかった。彼女が悲しむのが分かっていたからだ。ただ彼女といられることが嬉しく彼女の役に立ちたかった。そんな時、父が亡くなったとこの国から知らせが届いたんだ」


 話の成り行きは予測できたが口を挟む者はいなかった。自らの過去を、秘めておきたい愚かで辛い過去を告白するアルベルトを皆が見守った。


「俺はこの国に帰るべく準備を始めた。そうして彼女に告白したんだ、結婚してこの国について来て欲しいと。彼女は二つ返事で了承した。今まで彼女は俺の事を平民だと思っていたらしい。それが他国とはいえ王弟だとわかり彼女を妃にしたいと言ったんだ。今考えてみると彼女は自分が虜にした男の中で一番贅沢をさせてくれる者を見定めていたんだろう。俺は豪商の身内ではあるが平民で年齢も彼女よりかなり上だったから候補には上がっていなかった。でも叔父の仕事を手伝っていてそれなりに裕福だったし、剣の腕はかなりのものだったからキープされていたんだろう。その時は只々彼女が好きで彼女が自分を選んでくれたことが嬉しくて舞い上がっていた。そして彼女は言ったんだ、あなたの奥様になるのは嬉しいけれど、みんなと別れるのは寂しいと。だから俺は彼女の取り巻きの男たちも一緒にこの国に連れて帰ろうとした。俺が何とかするからみんなでこの国で楽しく暮らそうと彼女に告げた」


 アルベルトの行動は異常だが、それはソフィー王妃と国王を始めとするお茶会のメンバーの行動に酷似している。


「幸いだったのは俺はこっそり何とかしようとしたのではなく堂々と正攻法で彼らをこの国に連れて帰ろうとしたことだ。宝石デザイナーは平民だが、子爵の子息と騎士は勝手に連れていくわけにはいかない。その行動で事が明るみに出た。彼女は捕らえられて、俺を含めた薬物の被害者は治療院に入れられた。ああ、彼の国にはちゃんとその薬物に対する治療法があるんだ、時間はかかるけどな。俺は一年かかった。そして俺の身体はその薬物を受け付けない体質になったんだ。お茶会で気分が悪くなったのはそのせいだ」


 アルベルトがこの国に帰って来たのは前国王が亡くなって一年以上経ってから。すぐに帰国しなかったのは治療をしていたからだった。そしてアルベルトの話でテオドールの顔に希望の火がともった。とっくに見捨てたつもりの両親だったが父である国王が薬物により操られていたなら治療をすれば元に戻るのではないか? 元がどうなのかはテオドールの記憶に無いが王妃しか目に入らない父親も治療を受けた後ならばテオドールに関心を持ってくれるかもしれない。目の前の叔父のように。


「母上が……父上に薬物を使っていた、これは許しがたい行為です。でも、父上はその治療を受けることが出来れば……」

「ああ、俺のように元に戻ることは可能だと思う。ただ兄上はかなり長い間薬物を摂取していたと思われるから治療にどのくらいかかるかわからない。それとな」


 アルベルトは気の毒そうにテオドールを見た。


「薬物に侵されたとしてもちゃんと善悪の判断を下す理性はあるんだよ。その彼女は平民だったから贅沢をしたいと言ってもそれほどの額を要求されたわけではない。だから俺たちは罪を犯さずとも十分彼女に満足を与えられた。その違いはあるだろうが、王妃殿下の要求に応えたい、歓心を得たいと思ったとしてもそれで罪を犯すかどうかはまた別問題だ。兄上は罪を犯したかどうかはわからないがそうであるならしっかりとそれを償わなければならない」


 アルベルトの言葉にテオドールは深く頷いた。


「そうだな。それに父上は国王だ、この国を統べる者だ。父上自身が犯罪を犯していなくてもそれを知って容認していたなら父上は王としての資格を失うだろう」


 パンパンパン!


 拍手の音がして一同はこの部屋に新たに入って来た人物に注目した。


「ヴァルツァー辺境伯……」


 テオドールの口から呟きが漏れた。




次話予告『正体を明かすユリアーネ』です。

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