第捌話 「暴走ト破壊」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
邪光 剣がラグナと交戦していた頃、襲撃を受けていない市街地区のトラック会社にて
「ねぇ、おじさん達ー」
その企業の関係者全員が声がする方へと振り向いた。
そこにいたのは桃色がかった黒のツインテールに桃色の瞳孔を持った黒眼の容姿に腹を露出させ、その上にロングコートを羽織った衣装をしている少女と前髪が隠れる程の黒髪に紫眼の容姿に黒のズボンと紫のパーカーを着た少女より低身長の少年であった。
「トラック全部ちょうだーい?」
少女 ベローナ・ブリギッドは嘲笑しながら従業員一同に要求していた。
「なんだ!?君達は!関係者以外の人に渡す訳がないだろう!」
当然、その中の責任者が反対の声をあげた。
「そ、そーだ!」
「大体子供が何の用だ!」
他の従業員も怯えながらもその人と同じ考えであり、反対していた。
ベローナ「あーあ、断っちゃうんだぁ」
ベローナはどうなっても知らないと言わんばかりの様子を見せ、笑みを浮かべながらも呆れていた。
ベローナと少年は従業員達よりも遥かに幼い。
それ故なのか初めて会う彼らに対して無礼な態度を取っていた。
ベローナ「シラー、あの人達全員、殺しちゃっていいよぉ」
ベローナは少年 シラーより後ろに下がりながらそう告げた。
シラー「わかったよ…」
シラーがそう返すと、彼の身体から巨大で灰色のオーラが放たれた。
そのオーラはシラーの頭上に、その背後に集合し、何かが形成されていく。
それは傷んだ灰色のローブに大鎌を両手に持った人型の白骨の容姿、まさに死神の姿であった。
「な、何を!?」
ベローナ「あ、そっか〜。何の力も無いおじさん達には見えないんだっけぇ?」
従業員達の様子を見て、ベローナはその事を察した。
能力の中で化身の部類は能力を持つ者だけしか視認できない。
つまり、一般人である従業員達はシラーの死神を見れないのだ。
ベローナ「ま、いいや。このまま全員大人しく死んでねー」
ベローナの発言の後、死神は前方に大鎌を振るった。
従業員達の魂は刈り取られ、肉体を上下に分断された。
従業員を全員殺した後、ベローナはトラックの運転席に何かを仕掛けていた。
一方でシラーは会社にある一室に入っていった。
ベローナはポケットの中から携帯を取り出し、顔に近づける。
ベローナ「全部やっといたよー」
ベローナは誰かに報告していた。
フェイトン「そうですか」
その相手はで水色の長髪に緑眼の容姿に青ネクタイに丈の長い白のスーツの格好をした男 フェイトンだった。
彼はアジトで鎧の様なものを造っていた。
フェイトン「なら、二人はすぐに撤退してくれ」
フェイトンはベローナにそう伝えた。
ベローナ『はいはーい』
返答後、ベローナは電話を切った。
すると、フェイトンは微笑んだ。
フェイトン「という事だ、頼んでくれるかい?アレス」
フェイトンは作業する手を止め、振り返る。
アレス「我輩は貴様の命に従おう!」
巨大な腕と脚、牛のような頭部が特徴のメカメカしくゴツめの黒甲冑を身に纏った男 アレス・アーマードが大きな声で答えた。
フェイトン「それはとても嬉しいよ」
フェイトンはそう返し、再度鎧の様なものへと顔を向けた。
フェイトン「ついに始まる、私らの野望が!あのお方の代行として!果たそうではないか!」
フェイトンは気持ちを高揚させていた。
これから起こる出来事に
クロノスの街、AからZまでの壁に覆われた市街地区を正義組織 クロノス社が統治するところである。
都市と自然を半々に分けた事により人類とその他の生物の共存を実現させた。
だが、とある出来事により
そんな街中で邪光 剣とメビウスは依頼を受け、犯罪者のスクトゥムが率いる集団と戦闘を繰り広げていた。
スクトゥム「おのれ!正義組織の戦士共!」
両腕に壁のような巨大な盾を兼ね備えている スクトゥム。
剣「大人しく投降しろ、スクトゥム・シン・ベルリン」
剣はスクトゥムに太刀を向けながら言い放った。
メビウス「窃盗に傷害…やってる事チンピラじゃん、これ」
メビウスは呆れた様子で一言述べた。
スクトゥム「うるさい!我々はビジネスをしている!生きていくにはこうするしかないのだ!」
スクトゥムはそう吐き捨て、抵抗する意向を示した。
メビウス「剣。俺、こういうので毎回思うんだけどさ、なんで働くって手段がこいつらには無いの?」
前々から疑問に思っていたメビウスは剣にそう訊いた。
剣「さぁな…だが、相当追い詰められているのだろう。故にこうして凶行に及んでいる。」
剣はそう返答した。
スクトゥム「じゃかましぃ!!さっきから黙って聞いていれば!言いたい事言いやがって!殺す!!」
スクトゥムは盾を前に向けて構え、そのまま剣達に突進してきた。
剣「避けろ!」
メビウス「あいよ!」
剣とメビウスは飛んで回避した。
剣「焔技…!」
剣は刃に焔を纏わせる。
メビウス「ハンド…!」
一方でメビウスは片方の青い拳を前に突き出すように構える。
剣「火斬翔!」
メビウス「ショット!」
次の瞬間、剣は焔の斬撃を、メビウスは青色のオーラで形作った拳を飛ばした。
スクトゥム「フンッ…!」
スクトゥムは両腕の盾を斬撃と拳に向ける。
斬撃と拳は盾に直撃し、攻撃が防がれる。
スクトゥム「愚かめ!我は完璧!完全無欠!この盾に攻略など無い!」
スクトゥムはそう断言し、剣達の攻撃を否定した。
剣「盾に無いなら、お前本体を倒せば問題は無いという事だな」
次の刹那、スクトゥムの背後に剣が現れた。
スクトゥム「なんだと!」
スクトゥムは剣の存在に気が付く。
剣「焔技 灯火の太刀!」
だが、時すでに遅し、剣は焔を纏った太刀を振り下ろした。
それによりスクトゥムの肉体は両断された。
部下A「なっ!馬鹿な!あのスクトゥムが!」
部下B「あの完全無欠のスクトゥムが殺された!」
スクトゥムの部下達はスクトゥムの死に絶望し、剣とメビウスの強さに恐れおののいていた。
剣「大人しく投降し、お縄に掛かれ」
メビウス「抵抗しても無駄だよ。勿論、逃げてもね」
剣は部下達に太刀を向けた。
メビウスは念入りに彼らに警告した。
部下C「クソッ…!」
誰も彼らには勝てない、無力に思った部下達は大人しく捕まるのであった。
一旦場面は市街地区内の地下道へと移り変わる。
「な、何するんですか!」
「うっせぇよ!」
「早く金出せよ!クソジジイ!」
一人のサラリーマンが金を要求する三人のチンピラに絡まれていた。
三人はスクトゥムの部下達であり、その中でも特出な実力を兼ね備えていた。
サラリーマン「なんであなた達なんかに!?」
部下D「いいからさっさと出せっつてんだよ!」
抗議するサラリーマンに対し、一人の部下は彼の頭を金属バットで殴打した。
それによりサラリーマンの意識は朦朧とし始める。
そんな彼に対し、部下達は蹴るといった暴力を加えたり、財布を取ったりしていた。
部下E「すっげぇ!かなり持ってんじゃねぇかァ!!」
部下F「あっはは!やべぇな!」
部下達が嘲笑う中、一人の男が歩いて来た。
その人は黒髪に青眼の険しい表情を浮かべた容姿に黒の警察用の制服と黒のブーツ、両手には紺色の籠手を装備していた。
男は部下達に近づいていた。
部下D「おい!おじさん!まだあんだろ?もっと出せよ!」
部下が再び金属バットを振るおうとした時だった。
籠手の男「おい、やめろ」
部下D「なっ!?」
籠手の男が部下の持つ金属バットを片手で捕らえ、それを止めていた。
部下E「誰だ!テメェ!」
他二人の部下は籠手の男に対して警戒し、身構えていた。
籠手の男「…ドレイク・B・アレットマーク、それが俺の名だ」
籠手の男は相手の問いに答えるように名乗った。
部下F「何!?ドレイクだと!?」
それを聞いた部下は驚愕していた。
ドレイクについて何か知っているようだった。
部下F「正義組織の元特殊部隊隊員が、なんでアイツがここにいるんだよ!?」
一人の部下はそんなドレイクに戦慄していた。
部下D「おい!おっさん!早くその手を離せよ!」
一人の部下はバットを手放し、懐から拳銃を取り出すと、それをドレイクに向けて引き金を引いた。
だが、ドレイクは首を動かす形で弾丸を回避した。
部下D「何っ!?」
あまりにも常人離れしたその動きに部下は驚愕していた。
ドレイク「言いたい事はそれだけか」
ドレイクは片脚を勢いよく上げ、膝が部下のみぞおちに目掛けて直撃する。
部下D「ごえっ!」
部下はそのまま蹲る。
ドレイクは部下の肘目掛けて蹴りを入れた。
部下D「ぐあああああっ!!」
続けてドレイクバットを持っていた腕をへし折った。
ドレイク「お前ら、ここから退け」
ドレイクは鋭く冷たい目付きで他の部下達に指示した。
部下F「な、何を言う!」
一人の部下は能力を発動、全身が毛に覆われ、鋭い爪と細い尾が生えてくる。
その姿は猫をモチーフとした獣人へと変えていった。
ドレイク「わからないか、さもなくば…」
ドレイクは猫となった部下の行動を見て判断すると、腕を折った部下の肩に足を置き、そのまま力強く踏みつけた。
部下D「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
彼の腕を完全に使えないものにした。
その痛みのあまり部下は叫んだ。
部下E「テメェ!早く離せェ!」
ドレイクに怒る部下は懐から拳銃を取り出し、そんなドレイクに向けて撃ちまくる。
ドレイクは冷静に対処しながら銃弾を回避し、部下に接近する。
部下E「あ、当たらねェ!!」
部下は焦り出し、続けて撃ち続ける。
しかし、照準はドレイクを定めておらず、正確に当たる事など無かった。
ドレイク「数打ちゃ当たると?愚かな」
部下の懐へと接近したドレイクは片方の拳をヤツの心臓に目掛けて振るった。
部下E「ごッ…!」
直撃後、心臓の機能を停止された部下は事切れ、前のめりに倒れた。
部下F「シャァァァァァッ!!」
猫となった部下は爪を立て、ドレイクを殺そうと俊敏に動きで接近する。
ドレイクはそんな攻撃を静かに、素早く回避した。
部下F「クッソ!こいつゥ!!」
部下は続けて鋭い爪を振るい続ける。
しかし、ドレイクは回避しながら攻撃の軌道を探る。
ドレイク「そこ」
ドレイクは動きを捉えると、引っ掻くその爪を回避し、その腕を捕らえた。
部下F「なっ!?」
ドレイク「鈍い」
驚愕する部下を他所にドレイクは捕らえた方とは逆の手で喉目掛けて手刀打ちを繰り出す。
部下F「う”っ…!」
当然、苦痛の表情を浮かべる部下。
そんな部下の頭をドレイクは掴んだ。
ドレイク「お前は不要だ、ここで粛清する」
ドレイクはその手に力を入れる。
部下F「ギィヤアアアア!!」
痛みに耐えきれずに叫ぶ部下はそのまま頭部を破壊され、力尽きた。
ドレイクはそんな部下をその場に放り捨てた。
部下D「な、なんだこいつは!?」
腕を折られた部下はドレイクの実力を見て、腰を抜かしていた。
ドレイクは振り返り、部下に近寄る。
ドレイク「二度、名乗る気は無い」
ドレイクはそう返した。
部下D「ひ、ヒィッ…!」
その後、第三者により四人の死体が発見された。
犯人は今も尚、確認されていない。
場面は戻り、スクトゥムの部下達がCSFの隊員達に連行されていく中、事が終えた剣とメビウスはクロノス社本拠点へと帰還する為、歩いて移動していた。
メビウス「さーて、次の依頼は…」
メビウスは腕時計で依頼の内容を確認していた。
剣「すまない、その依頼は頼んでもらっていいか?」
すると、剣はそんな事を言い出した。
メビウス「ん?」
メビウスはなんでだと言わんばかりに不思議に思う。
メビウス「あー、約束してんだっけ?」
だが、それはすぐに思い出した。
メビウス「いいぜ!んじゃあ、この依頼は任せろ!」
剣「ありがとう、助かる」
メビウスは軽く承諾した。
それを聞いた剣は感謝し、約束の為に目的地である待ち合わせ場所へと走って向かった。
メビウス「さて次の依頼は…」
メビウスは笑顔を浮かべながら依頼の内容に目を通した。
メビウス「…これ、俺大丈夫そ?」
メビウスは多少の不安を抱え、軽く引き受けた事に後悔を覚え始めた。
その頃、剣は街中を走り、待ち合わせ場所にたどり着いた。
剣「すまない!遅れた」
剣はそこで待ち合わせていた人物に声をかけた。
「ううん、大丈夫だよ」
そう返す人物は女性であった。
青メッシュがかかった黒髪に綺麗な青眼と白い肌の容姿に獣の耳と青いラインが特徴の黒い帽子を被り、青のリボンを付けた黒の学生服を着ていた。
彼女の名は神条 サヤ、剣の幼馴染である。
サヤ「全然待ってないから」
サヤは微笑みながら、言葉を繋げた。
剣「わかった」
剣はサヤの意志を把握し、納得した。
剣とサヤは小学校からの幼馴染であった。
きっかけはサヤがいじめられていたところを剣が助けた事であり、そこから仲良くなっていった。
しかし、父親の斬希が殺され、剣が正義組織の戦士になった事により、小学校を卒業後、二人は別々の道へと進む事になった。
しかし、剣とサヤは約束をし、戦士となった今もこうして出会っている。
とは言え、小学生の頃の様に話す時間には限りがあった。
今、剣とサヤは街中を歩いていた。
晴れた青空、そびえ立つ大きな建物、人々が行き交い、賑わっているという光景であった。
剣「それで、最近はどうなんだ?学校の方は」
剣はサヤにそう訊いた。
サヤ「楽しいよ。友達が良い人で面白いから」
サヤは少し明るい感じで、嬉しそうに話してくれた。
剣「そうか」
それを聞いた剣は微笑みを浮かべていた。
サヤ「そういえば、昨日起きた事知ってる?」
何かを思い出したサヤはスマホを取り出し、指で操作していた。
剣「ラグナの事か?」
剣は思い当たる事を口にし、その事を訊いた。
サヤ「ううん」
サヤは首を横に振ると、サヤはスマホの液晶画面を剣に見せた。
剣「これは…」
剣が目にしたもの、それはネットの記事であった。
そこに示されていたのはトラックを製造する会社の関係者全員が殺害され、全てのトラックが消えていた事であった。
剣「CSFが今、捜査しているヤツか」
勿論、剣はその事を知っていた。
剣「それがどうしたんだ?」
剣はサヤにそう訊いた。
サヤ「ここの造るトラックってただの乗り物じゃないんだって」
サヤは真剣な表情を浮かべながら、またスマホを操作し、再び剣に見せた。
次に映し出されたのはその会社のホームページ。
剣「遠隔操作に自動運転が可能か…」
剣がそこに記されていたものを要約し、口にしていた。
サヤ「剣さん。私、何か…嫌な予感がする」
サヤが口を開き、自分の腕を掴んだ。
彼女の表情を見た剣は不安を抱いているのだと察知した。
剣「大丈夫だ、俺達がいる。」
剣はサヤを安心させる為に声をかけた。
サヤ「…ありがとう、剣さん」
サヤは少し安心し、剣に向けて感謝の言葉を伝えた。
その時、遠くから大きな衝突音が鳴り響いた。
剣「なんだ?」
剣は音に反応し、その方角へと顔を向けた。
剣だけではなく、サヤも、ここにいる全員が見ていた。
周りは不安や好奇心などを抱きながら移動を開始していた。
剣「サヤ、早く避難するんだ」
剣はサヤにそう呼びかけた。
サヤ「つ、剣さん?」
不安を抱いていたサヤはどういう事かわからず、剣の名を呼んだ。
剣「地下に降りて、避難するんだ。いいな?」
そう伝えると、剣は急いでその場所へと向かった。
サヤ「剣さん…」
サヤはそんな剣を見送るも、とりあえず地下へ避難する事にした。
メビウス「おいおい、マジかよ…」
依頼の為、移動していたメビウスは驚いた様子で、直立したまま目の前の光景を見ていた。
なんとそれはトラックが建物に突っ込むというものであった。
トラックの頭は建物の壁に見事埋まっており、辺りが騒然としていた。
メビウス「歩いていたらいきなり突っ込んでこれって…」
メビウスは今起きた状況を整理していた。
すると、そんなメビウスに着信音が鳴り響いた。
腕時計を確認すると、未来隊長からの連絡だとすぐに理解した。
メビウスはそれに応じ、電話に出た。
メビウス「こちらメビウス、どうした?今こっちは凄い事に…」
未来「総員に伝達する!迅速に市民を避難させて!」
メビウスが言い切ろうとしたその時、未来隊長が必死に声を荒らげながら指示を出した。
メビウス「りょ、了解!」(こんな隊長、見た事も聞いた事もねぇ!?)
メビウスは驚きはするも、返答して、すぐさまそれを実行しようと動いた。
メビウス(ん?)
その時、メビウスの耳が異様な音を捉えた。
それは時計の針が動く音。
しかし、それにしては随分と早かった。
一つだけではなく、複数の針の音がトラックのバンボディの中から聞こえてきた。
メビウス(この音…まさか!)
メビウスはそれが何なのかをすぐさま理解した。
メビウス「早く離れろ!!」
メビウスは周りにいた人達に大声で伝えた。
次の瞬間、トラックが大爆発を起こした。
メビウスは能力による加速でなんとか回避していた。
メビウス「想定してたけど、そりゃねぇだろ…!」
メビウスはトラックに顔を向けながら言葉を零した。トラックは爆煙が上がり、炎に包まれ、大破した。
メビウスは瞬時に辺りを見渡し、状況を確認した。
どうやら距離をとっていた為か、爆発の被害に巻き込まれた人は一人もいなかった。
メビウス「おい!早く避難しろ!」
メビウスはその場にいる市民全員にそう伝える。
しかし、そんなメビウスにもう一台、トラックが超スピードで突っ込んできた。
メビウス「マジかッ!!」
想定外の事態にメビウスは驚愕し、瞬時に対応する事が出来なかった。
衝突すると思ったその時、トラックの動きが止まった。
しかし、タイヤは素早く回っており、エンジンも付いたままであった。
「大丈夫そう?」
安否を確認する声が聞こえる。
すると、トラックは鉄が軋むような音を鳴らしながら浮いていく。
その先にいたのはガロンであり、鋭い爪を携えた黒く大きな右手でトラックを掴んでいたのだ。
メビウス「ガロンか!ありがとう!マージで助かった!」
メビウスはガロンに感謝を伝えた。
ガロン「大丈夫だよ。てか、今はそうしている場合じゃない」
ガロンはトラックをそのまま空高く飛ばした。
その直後、トラックは空中で爆発した。
ガロン「数百台のトラックが街中で暴走運転している。」
トラックを気にせずにガロンはメビウスに歩み寄った。
ガロン「なんとかしよう、この状況を」
ガロンはメビウスに左手を差し伸べた。
メビウス「そのつもりだ」
メビウスはその手を掴み、立ち上がった。
その頃、他の市街地区でもトラックによる被害を受けており、戦士含めクロノス社総員で市民の避難誘導やトラックの阻止といった対処を行っていた。
アクア「おい!大丈夫か!!」
B市街地区にて、アクアはトラックの爆破に巻き込まれ、負傷していた一般市民に声を呼びかけた。
一般市民A「う、うぅっ…」
その人は頭から血を流していて、意識が朦朧としていた。
アクア「安心しろ!今すぐに…」
アクアが一般市民を抱え、安全なところへと避難しようした。
しかし、そんなアクアにトラックが襲いかかる。
アクア「くっ!」
アクアは右手で水の刃を生成し、そのトラックを一刀両断した。
トラックは真っ二つに切断され、アクア達に当たること無く避けた。
アクア「一体何台あるんだ!!」
そう言いながらアクアは再び移動した。
レオ「早く逃げろ!逃げるんだ!」
D市街地区にてレオは一般市民に声を呼びかけながら、移動していた。
それはグリンも同じであった。
グリン「ここはこれで全員?!」
レオ「あぁ!間違いねぇ!」
避難を終えた事を確認すると、グリンは腕時計で各戦士達に連絡を取り始めた。
グリン「ねぇ!これからどうするつもり!?このままじゃあ埒が明かないし、どうしようもない!」
グリンは焦った様子で語りかけた。
牙禅「…俺に考えがある。」
すると、牙禅がそんな事を言い出した。
ブラック「…どんなのだ?」
ブラックが詳細を求める。
牙禅はそれについて答え、その内容を述べた。
牙禅「まずガロンとレオ、フレアはトラックを止める事に専念。剣とブラック、ライトとグリン、アクアは一般市民の誘導しつつ、トラックを破壊。そして、メビウスと俺はこのトラックを製造していた会社に潜入する。」
剣「よし、それでいこう」
剣以外の戦士「了解」
牙禅の説明を聞いた剣はそれを肯定し、実行する事にした。
それは他の戦士達も同じであった。
そうして、連絡を終えた。
その一方で牙禅は煙を上げ、炎に包まれ、大破したトラックに近付いた。
その側面へと目を向けると、トラックの製造元であろう会社名が記されていた。
牙禅「刻輪…昨日、騒ぎになった社名か」
牙禅はそれを見て、思い出した事を呟いた。
その中、メビウスが音も無く現れた。
牙禅「相変わらず速いな、助かる」
牙禅はメビウスがいる背後へと振り向いた。
メビウス「とっとと行こーぜ、被害拡大を阻止する為によ」
メビウスは牙禅にそう語りかけた。
牙禅「そうだな、行こう」
そう言うと、牙禅は刻輪の本社へと走っていった。
メビウス「善は急げってな!」
メビウスも高速で牙禅の後を追った。
フレア「オラよっと!!」
場所は人が一人もいないO市街地区。
フレアは熱を纏った脚でトラックを蹴り飛ばした。
そのままトラックは歪み、爆発を起こした。
フレア「なんとかぶっ壊してるけどよ!」
フレアはもう一台のトラックを拳で叩き壊した。
そのままトラックは後に吹き飛び、転がって倒れた。
フレア「厳しすぎじゃねぇか!?」
フレアの手足は微かながらに傷を負っていた。
いくら熱を纏ったとは言え、戦士として鍛えられていると言えども、フレアも所詮は人間、限度があった。
そんな時、巨大な何かが空から落ちてきた。
フレア「ッ!」
フレアは瞬時にその存在に気付き、飛んで回避した。
なんとそれは鋼鉄で出来た巨大な黒い拳。
腕より上からは鎖が伸びていた。
フレア「誰だ!この野郎!!」
フレアは鎖の向こう側を見ながら、叫ぶように訊いた。
その先にいたのはアレスであり、彼が持つ象のような脚はロケット噴射のように炎と煙が上がり、その肉体に見合わず、浮遊していた。
「貴様は戦士か!」
アレスは大声でフレアにそう問うた。
フレア「そーだよ!何か文句あっか?」
フレアも対抗するように大声で返答した。
「そうか!ならば死ぬがいい!」
そうと知った男は肩の装甲を展開し、そこから何発ものミサイルが放たれた。
フレア「んだよそれ!」
それを視認したフレアはすぐさま走っていった。
ミサイルはフレアの後を追ってきた。
フレア「ついてくんのかよ!」
フレアは追尾してくるミサイルに嫌気がさした。
フレア「めんどくせぇなァ…!」
フレアは腕を組むように身構え、身体から放たれる熱を高める。
フレア「ヒートレイヤー!!」
そして、両腕を外に広げると同時、高熱の層を生成するように放出した。
高熱による刺激と衝撃により全てのミサイルは爆破した。
そして、爆炎が止むと同時、フレアは熱を放ったままその場に倒れ込んだ。
フレア「くっそ…オーバーしちまった…」
フレアは頭に血管が浮き出て、重い瞼を閉ざさまいと言わんばかりの疲れた眼をし、大量の汗を流していた。
フレアの能力は全身から熱を放出させるもの。
それは自身の体温を強制的に上げるものであり、先程のガス層に使った熱は1000度を遥かに超えていた。
当然、フレアにとってそれは危険なものであり、その結果としてフレアはオーバーヒートを引き起こしてしまったのだ。
それを他所に男は伸ばしていた鎖に引っ張られるように移動し、その腕と連結。
脚から噴射していたその炎を解除し、地面に着地した。
「ガーハッハッハッ!戦士と言えども大した事ねぇなァ!正義組織と言えども所詮はその程度だって事か!」
男は高笑いをしながら、フレアに近づいていった。
フレア「誰だよ…テメェ……!」
フレアは男を睨むように見上げた。
「我輩か!我輩はアレス!アレス・アーマード!ヘリアデスの幹部である!」
アレスは自身について堂々と名乗った。
フレア「ヘリアデス…名前と、顔は覚えたからなっ……」
フレアはそのまま気を失った。
アレス「なんだ?戦士と言えども、所詮はその程度か!」
アレスはフレアを蹴り飛ばした。
アレス「シリウスのヤツらとは何ら比べ物にならんな!」
そうしてアレスは別のところへと行こうとロケット噴射しながら空高く飛んだ。
そんなフレアに近づく一つの人影が現れた。
その影はフレアを見下ろしていた。
そうして場面は変わり、T市街地区。
ライトは一般市民を地下へと避難誘導し、剣はそこから少し遠くで太刀と焔を駆使しながらトラックを撃退していた。
剣「ライト!グリン!全員避難させたか!?」
剣は腕時計越しでライトとM市街地区にいるグリンに確認を取った。
ライト「はい!問題ありません!」
グリン「こっちも全員避難させた!大丈夫だ!」
剣「了解した。ならば次は…」
返答を聞いた剣が次にやるべき事をやろうとしたその時だった。
「母さんや、何処におるのじゃ…」
声がする方へと剣は振り向いた。
そこには足腰が悪い男性の老人がいた。
その発言からして誰かとはぐれてしまったらしいと剣は瞬時に理解した。
そんな時、遠くから暴走したトラックが走って来た。
剣「まずいな…!」
剣は瞬時におじいさんの方へと走り出した。
剣「焔技 火閃!」
そう唱えると、剣の足裏から焔が発現し、足全体を包む。
そのまま超高速で移動し、老人の近くに現れた。
老人「なんじゃ!?戦士様か!?」
驚く老人を背に剣はトラックの方へと見つめる。
もうトラックとの距離は間近、衝突するまでそう遠くなかった。
剣「邪光流 太刀式…」
そう唱えながら剣は居合の構えに入る。
そして、素早く鞘から太刀を引き抜いた。
剣「…零焔一閃!」
剣が唱えながら、その太刀を再び鞘に納める。
すると、トラックは真っ二つに切断され、剣達の横を通り過ぎた。
剣「大丈夫か?おじいさん」
剣は老人に駆け寄った。
老人「おぉ…!ありがとうございます…!かたじけない…!」
老人はお辞儀をした。
剣「問題ない。さぁ、早く…」
剣が老人を安全地帯である地下へと案内しようとした。
その時だった。
剣(何か来る…!)
剣は瞬時に何かを察知すると、老人を抱え、バックステップをした。
すると、剣がいたであろうところに熱を帯びた巨大な拳が降ってきた。
老人「うぉぉ!?なんじゃ!?」
当然、驚く老人。
だが、それとは対称的に剣は状況を判断していた。
拳にトラックによるこの騒動、そしてある結論に至った。
剣「トラック襲撃、お前の仕業か?」
剣は空を見上げながら、そう訊いた。
その先にいるアレスに対して
アレス「如何にも!我輩はアレスである!」
アレスは堂々とそう返し、噴射する炎を調整しつつ、着地した。
剣「おじいさん、俺の後ろに」
剣は老人にそう声をかけた。
老人「わ、わかったわい」
老人は剣の背後へと隠れた。
アレス「馬鹿め!護る闘いなど意味が無い!」
アレスは剣に腕を向ける。
すると、前腕部が展開し、そこから数多の弾丸が放たれた。
剣「焔技 守!」
剣は空中で焔の渦を創り、円状の盾を生成した。
それを駆使して、剣は弾丸を打ち消した。
アレス「流石は斬希の倅!さっきの熱馬鹿よりは楽しめそうだ!」
アレスは屈託のない笑みを浮かべていた。
それに対して剣は真剣な表情でアレスに向けて太刀を構えていた。
剣「熱…フレアの事か?!フレアがどうした?!」
剣はフレアについてアレスに問いかけた。
アレス「アイツは勝手に自滅した!何もしていないぞ!」
アレスは大地を蹴り、剣に接近すると、巨大な拳を剣に向けて突き出した。
剣「おじいさん、早く逃げろ!」
老人「は、はいぃ!」
剣は老人から距離をとるように前進して拳を回避、懐に入る。
アレス「あんな老人など、死んで損はなかろう!」
アレスはそう吐き捨てた。
剣「おじいさんを護り、そしてお前の殺戮を阻止する!」
剣は太刀を振り上げ、アレスを一刀両断しようとした。
そのまま刃はアレスに胴を斬り裂いた。
だが、それは致命傷に至らないどころか、かすり傷にもならなかった。
アレス「なんだ!そんなものじゃなかろう?邪光 剣!」
アレスは片手で剣の頭を掴んだ。
剣「くっ!焔技!!」
剣は焔を纏った太刀でアレスを斬ろうとした。
アレス「させねぇよォ!」
アレスは頭を捕らえたその手に力を入れた。
剣「あぁっ!ああああああぁぁぁ!!」
剣は痛みのあまり耐えきれず、思わず叫び声を上げた。
アレス「人は心の臓と頭が弱ぇよなァ?!それは戦士であり、その中でも強いお前も例外じゃねぇ!」
その発言の後、アレスはもっと力を入れた。
剣「ぐあああああ!!」
それにより剣の叫びはより上がった。
アレス「貴様を殺せば!戦士だけではなく、正義組織の戦力も大きく下がるであろう!」
そう言うアレスの胸部が展開し、巨大な主砲が顕となる。
アレス「そして、我輩は最強となるだろう!!」
その砲口から青く光る粒子状のエネルギーが集まっていく。
剣(まさか!コズミック・コア!?)
剣はすぐさま理解した。
砲口にエネルギーが溜まっていく。
剣「焔…技ッ……!!」
剣は押し潰されそう痛みに苦しみながらも、太刀を振るおうとした。
アレス「終わりだ!焔の剣士…」
アレスがそう言いかけたその時、彼の上空にトラックが現れ、それが落ちてくる。
剣「陽炎…!」
それに気付いた剣は攻撃から回避へと変更し、ぼやけるように姿を消した。
アレス「なんだと?」
剣の行動に対して疑問に思ったアレス。
そしてそのままトラックに押し潰された。
剣「くっ…!」
剣はトラックから離れたところに再び姿を現した。
「大丈夫そう?」
剣に語りかける声が聞こえた。
ふと、それに反応して剣は振り返った。
そこにいたのはガロンで、右腕が鋭い爪を兼ね備えた黒く大きなものになっていた。
剣「ガロンか!ありがとう、助かった」
剣はトラックを投げたのがガロンであると察すると、そんな彼に感謝の言葉をかけた。
ガロン「どうも♪てか、頭大丈夫?」
ガロンはそう返し、安否を確認する。
剣「問題無い」
剣は太刀をアレスに向けて構えた。
すると、トラックが上昇し始めた。
アレス「クッソ!地味に効くのだな!」
そう、アレスが持ち上げ、そこから姿を現したのだ。
展開していた主砲は閉まっていた。
そのままアレスはトラックを剣達に向けて投げた。
ガロン「ねぇ、剣。避難した一般市民達を護ってもらっていい?僕がアイツを倒す」
アレスの様子を見て、ガロンは前に出ながら剣にそうお願いをした。
剣「大丈夫か?」
剣はそう訊いた。
ガロン「大丈夫だよ」
そう言うと、ガロンは拳による一撃でトラックを叩き壊した。
ガロン「だから、行って」
ガロンは返答し、剣に指示を促した。
剣「…わかった。気を付けろ、俺を追い詰めたヤツだ。一筋縄ではいかない。」
そして、剣はそのままアレスの横を突き進んだ。
アレス「逃がさねぇよ!」
アレスは通り過ぎたところで剣に拳を振るった。
だが、それをガロンの悪魔 カオスの手が止めた。
ガロン「悪いけど、君の相手は僕だよ♪」
ガロンは余裕な笑みをアレスに見せた。
アレス「おい小僧!貴様では相手にならん!」
アレスはもう片方の拳をガロンに向けて突き出し、前腕部を展開すると、そこから弾丸を放った。
すると、ガロンはもう片方の手をカオスのものへと変化させ、弾丸を防ぐ為に前へと出した。
ガロン「くっ…!痛いんだよ!!」
苦痛で顔を歪むも、ガロンは弾丸を受けたその腕を引き、突き出すようにアレスの顔面を殴った。
あまりの威力にアレスは後ろに吹き飛ぶも、足のスラスターで調整しつつ、なんとか着地した。
アレス「クソが…結構効くじゃねぇか」
アレスが顔を上げ、ガロンの方へと向いた。
アレスの顔面には亀裂が生じていた。
ガロン「君も剣に対してやってたじゃん」
ガロンはそう返した。
アレス「ハンっ!戦士のことになれば話は別だ!心底どうでもいい!」
アレスは鼻で笑い、そう吐き捨てた。
ガロン「君、戦士になんの恨みがあるの?」
ガロンは眉をひそめながらそう訊ねた。
アレス「単純な事だ!あんなのがあるから我輩らは自由に生きることなどできぬ!不要な存在だからだ!」
アレスは片腕を引き、その手首を旋回させる。
アレス「ヤツらさえいなければ!我輩らは自由だ!!」
そして、ドリルのように回るその腕を飛ばした。
鎖が伸びたドリルの手はガロンに襲いかかってくる。
ガロンはそれを瞬時に回避し、その腕を捕らえた。
ガロン「随分と酷い理由だね」
アレス「好きに言うがいい!」
ガロンの発言にアレスはそう答えた。
アレス「我輩はそうだと断言する!」
アレスはもう片方の腕を引き、その拳をガロンに振るった。
ガロンは鎖が伸びる拳をもう片方のカオスの手で止めた。
アレス「我輩に間違いなど無い!」
アレスは両腕に引っ張られるように飛び、ガロンに頭突きを食らわせた。
ガロン「それじゃあ犯罪者だらけで、安心する事が出来ないじゃん!」
ガロンは頭から血が流れるもなんとか耐え、そう反論した。
ガロン「そんな理由でこんな凶行に及んだの!?」
ガロンはアレスにそう訊いた。
アレス「そうだと言っているだろう!」
アレスの肩が展開し、そこからミサイルが放たれた。
ガロン「だとしたら、本当に馬鹿だよ!」
ガロンはアレスの腹部を蹴り、後退する。
それでもミサイルはガロンを追尾していた。
ガロン「そんなのは自由じゃない!」
ガロンはカオスの手を振るい、その鋭い爪でミサイルを斬り裂いた。
それによりミサイルは爆発し、周囲に煙が広がった。
ガロン「ただの我儘だ!」
それが晴れ、ガロンの姿が再び映し出された。
アレス「それがどうした?!我輩は自由が欲しいのである!」
アレスは双方の前腕部を展開し、ガロンに照準を定める。
アレス「その為にも死ね!戦士よ!」
そう言いながら、アレスは弾丸を放った。
ガロンはカオスの手で地面を削り上げた。
そこから石や土といったものが飛び、弾丸を防いだ。
しかし、完全ではなく、何発かの弾丸がその間を通過する。
それをガロンは背を低く走って回避した。
そして、そのままアレスへと接近する。
アレス「やるな!戦士よ!しかし、何でもかんでも上手くいくと思うな!」
アレスは片方の巨大な拳を熱し、それを走るガロンに向けて放った。
だが、ガロンはその拳を回避した直後、繋がっている鎖を捕らえた。
アレス「なんと!」
アレスはしまったと驚くが、なんとかして拳を戻そうとする。
ガロン「おりゃあああ!!!」
だが、時すでに遅く、ガロンはその鎖を引っ張り、ぶん回した。
それにより、アレスもガロンの周りを公転した。
アレス「なんという怪力!打破せねば!」
ガロンに秘めたカオスの力に感銘しながら、背中を展開してミサイルを放とうとしていた。
ガロン「何かするとは思ったよ!」
すると、ガロンはアレスを地面に叩きつけるように振り回し方を変えた。
アレス「こいつは効くな!」
勢いよく叩きつけられているため、アレスの装甲は大きく損傷していた。
展開しようとしていた背中も使い物にならなくなっていた。
アレス(下手にブレストキャノンは使えない…ならば!)
すると、アレスは足の噴射口から炎が放出した。
それにより、振り回されていたその肉体が抵抗し、その場に留まった。
ガロン(そう来るか…ならば!)
状況を見て判断したガロンは足をカオスのものへと変化させ、黒く大きなものになった。
ガロン「ふんっ!」
鎖に繋がっていたその拳を踏み潰すように蹴った。
それにより、拳は地面に深くめり込んだ。
アレス「無駄だ!無駄だ!我輩にはまだ武装がある!」
すると、アレスは胸を展開し、再度主砲が顕となった。
そして、その主砲にコズミック・コアが収束し始めた。
アレス「それも最高にして最強の…」
アレスが主砲について自慢していたその時。
アレス「なっ!?」
アレスは目の前に映る相手の行動に衝撃を受けた。
なんとそれは、ガロンがアレスを繋ぐ鎖の上に乗りながら走っていた事であった。
足は人のものだが、その両腕はカオスのものであった。
その大きさと重さ故か両腕を広げて、やや下向きに走っていた。
アレス(あのフィジカル!流石だ!流石は悪魔の!)
アレスはガロンについて賞賛していた。
正確には彼に宿るカオスという名の悪魔に対してであるが
アレス(早く仕留めなければ!片手を犠牲にしてでもだ!)
称賛故か焦りながらも覚悟を決めたアレスは胸の主砲を調整し、ガロンに照準を合わせる。
アレス「直撃させる!」
アレスはまだ未完全ながらも、その主砲に溜まったコズミック・コアをエネルギーに変換させ、光線としてそれを放った。
ガロンはカオスの腕を顔の前でクロスした。
そのまま光線に直撃してしまった。
アレス「阿呆めが!鎖を斬るか飛ぶかすれば良かったものを!」
アレスはガロンを嘲笑うかのようにそう吐き捨てた。
だが、この後アレスは予想外な出来事が起きた。
長い時間放った光線が止む時、なんとガロンは酷く損傷した状態でアレスの方へと突き進んでいた。
アレス「なんだと!?馬鹿な!最大でないにしろ、人の血肉や骨をも溶かす程の威力を何故ヤツは…!」
驚愕するアレス。
しかし、そこで種が明かされ、その原因を嫌でも理解させられた。
なんと溶けたり、肉が損壊して骨が剥き出しになっていたガロンの肉体が数秒も経たずに修復していくではないか
アレス「再生能力だと!?」
アレスはそれが何なのかを見破った。
ガロンに宿る悪魔 カオス。
彼の特性は圧倒的な耐久力、そして異常なまでの再生能力であった。
故に先程の光線も消し炭になる事無く、今こうして接近する事が出来たのだ。
アレス(しまった!侮っていた…!こいつがただの小僧だと誤認していた!こいつは…)
悔いていく中、ガロンのカオスと化した手が振り下ろされる。
アレス(悪魔の子だ…!!)
そうして、その手に備わった鋭い爪はアレスの頭と胴体を切り裂いた。
それはアレスの装甲を貫通し、臓器にまで達していた。
それを示すように装甲から血飛沫が噴き出た。
足の噴射口から放出していた炎が途切れ、そのまま落下していく。
ガロン「かなり強かったよ、おじさん」
ガロンは共に落ちていくアレスの亡骸に対してそう言葉をかけた。
打ち付けられ、倒れるアレスとは対称にガロンは何とか着地した。
ガロン「さて、見た感じ君が主犯な気がするんだよね」
ガロンはアレスの亡骸に近づき、彼の身元を調べ上げた。
ガロン(早くトラックを止めないと…)
その中でガロンは内心、嫌な予感と焦りを感じていた。
その頃、メビウスと牙禅は刻輪の本社へと辿り着いていた。
メビウス「邪魔するぜ!」
メビウスは扉を勢いよく開け、社内に入った。
メビウス「…え?」
牙禅「惨いな、これは」
その光景を見て、メビウスは唖然とし、牙禅はそれについてそう言葉を零した。
なんと会社の中は捜査していたはずのCSFの隊員達の斬り裂かれた遺体がそこかしこに置かれ、床は血で覆われていた。
メビウス「これ、俺達がそういう耐性あって良かったな」
牙禅「兎にも角にも早くトラックを止めなければ」
メビウスを促した牙禅は心眼で辺りを見渡した。
すると、あるものが目に入った。
それは二階の左側にある六番目の扉の向こうにいる背の低い人の姿であった。
牙禅「何かいる」
牙禅はすぐさまそこへと向かった。
メビウス「おいおい!何処へ行くんだよ!?」
その後をメビウスが追った。
扉の前に立った牙禅がそれを開けた。
牙禅「…何者だ?只者では無いな」
牙禅の片手に波動が纏い、戦闘態勢に入った。
先程まで生存者かと思っていた。
しかし、そもそもここにいる事、その子が抱いている憎悪を感じ取った牙禅は彼を敵と見なした。
そう、シラーに対して
シラー「凄いね、戦士の人は…」
シラーは牙禅に対して顔を向けていた。
その中でメビウスは牙禅に追いつき、部屋の中にいるシラーを視認した。
牙禅「そこで何をしている?」
牙禅はシラーに対して、そう問いかけた。
シラー「わからないの?僕はここでトラックを遠隔操作しているんだよ。」
シラーは人を馬鹿にするような笑みでそう答えた。
そう、今回の件に関するトラックは全て彼が操っていたのだ。
牙禅「何が目的だ?」
牙禅は眉をひそめ、真剣な表情で二つ目の問いを投げた。
シラー「単純、戦士である君達への復讐だよ。」
シラーの背後から死神が現れた。
メビウス「俺と同じ化身の能力!?」
メビウスはそれを見るやいなや、驚いていた。
当然、牙禅はその死神に対して身構えていた。
シラー「馬鹿だね」
その直後、シラーは目の前にあるキーボードを打ち、最後にエンターキーを押した。
すると、シラーが送信した指示をAIが承認し、全てのトラックに伝達した。
牙禅「何をした?!」
牙禅はシラーにそう訊ねた。
シラー「面白いよ。トラック全部、君達の拠点に行くから」
シラーは笑いながら指示の内容を語った。
牙禅「貴様…!この物の怪が!」
牙禅は波動の形を槍に変え、シラーに接近した。
すると、死神は牙禅に対して大鎌を振るった。
牙禅「くっ…!」
牙禅はその攻撃を防ごうと波動の槍で受け止めた。
メビウス「俺の事、忘れんな!」
メビウスはその中を駆け抜け、一気にシラーとの距離を詰めた。
そしてそのまま拳によるラッシュを繰り出した。
シラー「早いけど…」
シラーはそれを目で追い、一つ一つ対応して回避しながら後退する。
シラー「意味ないよ、デスサイズ!」
シラーが死神の名を呼んだ。
すると、死神 デスサイズはシラーの方へと身体を向き、接近して来た。
メビウス「来るか!」
メビウスは両手足に化身を纏い、青く光った。
拳を構えるが、デスサイズはメビウスをすり抜けた。
メビウス「はぁ!?」
その事にメビウスは振り向きながら驚愕した。
デスサイズはシラーの背後にある壁を切断、切り開いた。
シラー「バイバイ」
シラーはデスサイズのローブを掴み、そのまま飛んで行った。
牙禅とメビウスは追いかけようとするも、高く飛んでいる事、その先に道が無かった事が原因で行けなかった。
メビウス「なんなんだ、アイツ」
牙禅「急げ!メビウス!トラックを阻止しろ!」
呆然とするメビウスに牙禅はそう指示した。
メビウス「そうしないとね!」
メビウスは音速でこの場を去り、クロノス社本部へと向かった。
牙禅はトラックを動かす装置を操作しつつ、腕時計で各戦士にこの事を伝達した。
グリン「マジで言ってる!?」
それを聞いたグリンは驚愕していた。
それはその場にいたアクアとブラックも知り、驚愕した。
剣「…行かなくては……」
剣はライトに支えられつつも、なんとか立ち上がろうとしていた。
だが、頭の損傷により、上手く身体を動かす事すら出来なかった。
ライト「無理しないで」
心配な表情を浮かべながらライトは剣に言葉をかけた。
牙禅「今、メビウスが向かっているが…」
モニターを確認しつつ、キーボードを操作していた。
レオ「俺もだ!けど、早いぞ!」
レオは目の前にある数台のトラックを追っかけているも、差ができていた。
剣「メビウス…」
剣と離れているメビウスを不安ながらも祈り信じていた。
クロノス社本部、目の前から大勢のトラックが迫ってきていた。
そこにメビウスが到着していた。
メビウス「間に合ったのは良いけど…」
メビウスはトラックの大群を目にする。
メビウス「どーすんのさ、これ。いくらなんでも、こんな数のトラックを…」
メビウスは苦笑いを浮かべながらもこの状況をどう打破するかを考えていた。
無理だろと心のどこかで微かに諦めかけていた。そんな時だった。
「よくやった、後は任せろ」
メビウスの頭上を大きい人影が飛んだ。
そして、それはメビウスの前に降り立った。
メビウス「アルドラスさん!?」
筋骨隆々の肉体を纏う赤のラインが入ったロングコートのような黒装束に両手足の甲冑、そして、赤い覆面マスクを被った男 アルドラスの存在を視認したメビウスは驚愕した。
そんなメビウスを他所にアルドラスは拳を後ろに引き、腰を下ろす様に構えた。
アルドラス「ギア…破壊力、速力、500倍!」
アルドラスの全身から赤いオーラが放たれ、引いた拳に集まる。
トラックとの距離は僅かであった。
そして、アルドラスは勢いよく拳を振るった。
次の瞬間、なんと叩かれたトラックが吹っ飛んだ。
後ろにいたトラックも巻き込まれていき、中にあった時限爆弾が起動、炎が爆ぜて、煙が上がった。
メビウス「スゲェ…あんなにあったはずのトラックを、一撃でぶちのめした!」
あまりの強さに度肝を抜いたメビウス。
そんな彼の目に映るのは燃え盛る炎を背にするよう振り返るアルドラスであった。
アルドラス「任務完了、これより帰還する。」
アルドラスは黒装束をなびかせながら歩き、ガントレットの甲に埋め込まれた腕時計に語りかけ、報告した。
それを終えるとアルドラスは腕時計を操作しながらメビウスに近づいていた。
アルドラス「各戦士に告げる。本部に帰還後、私アルドラスのところに招集せよ」
そして、見下ろしながらそう伝えた。
次回 第玖話「十字架を背負いし元戦士」