第肆話 「波動ノ獣と小さな光」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません
「本、好きなの?」
図書館にて、机を挟んで向かい合う二人の少年がいた。一人は前髪で目を隠した緑髪の少年で、首を傾げながら問いかけていた。
「うん」
かつてのライトに…机の上には本があり、頁が顕となっていた。また、その隣には他の本が複数積まれていた。
ライト「特に白き英雄は、何より大切だから…」
優しく微笑みながら開いた本に触れた。それを閉じれば表紙が現れ、そこにはタイトルと英雄を示す人物がいた。
少年「良いよね、それ」
それを見た事で目を輝かせ、よりライトに行為を寄せていた。彼もその本が好きであったのだ。
少年「ねぇ、ライト。僕と友達になろうよ」
すると、決断してか唐突に提案してきた。
だが、ライトは躊躇う。もし友達になってしまったら、少年は…と恐れていた。
ライト「いいの?僕、いじめを…」
友達の身を案じてか心配と不安を抱きながら問いかける。はっきり言って怖かった。だが、少年が口を開いた。
少年「大丈夫」
本に置かれた手に手を重ねる。確かな体温がライトを我に返し、正面に向いた顔、青色の瞳が少年を映した。
少年「僕は君の友達になりたい、一緒にいたいんだ」
安心させようと微笑みを浮かべながら優しい声色で自分の気持ちを伝えた。そんな言葉を聞いてかライトの恐怖が消えた気がした。
ライト「…わかった」
少年を信じてみる事にした。彼も少年と友達になりたかった。
少年「ありがとう、僕の名前は…」
嬉しく思ってか大人しいながらも喜んだ。そのまま自分の名前を名乗ろうとした時、ライトの目の前が白くなっていった。
ふと、目が覚めた。今のライトは図書館におり、椅子に腰掛けながら机に突っ伏していた。
ライト「…寝てたんだ、僕……」
夢を見ていた事を自覚し、眠気を覚まそうと無意識に背伸びをしていた。
腕を下ろしてふと、腕時計に目を遣った。画面にはメッセージが来ており、表示してサインしていたのがわかった。
ライト「…急がないと」
何かとわかってか、席から立ち上がる。読んでいた本を元あった場所に戻すと、すぐさま図書館から出て行った。
「来たか…」
ライトが向かったのは体育館であり、呼び出していた一人の男に駆け寄っていた。
白髪に赤い瞳、青色尻尾と長い耳を持っており、白の着物と黒の袴の上に青の羽織を着ていた。また頭には青のバンダナを巻いていた。
ライト「遅れてすみません!牙禅さん!」
申し訳なく思っていてか声を張り上げて伝える。ライトの様子を見ていた男 雷牙 牙禅は仕方が無いと思いながらも悪態どころか溜息一つも吐かなかった。
牙禅「問題無い」
平然としながら安心させようと返答する。そのままライトに背を向けると距離を取って準備運動をし始めた。
牙禅「ライト、準備が出来次第、修行を始めるぞ」
責めずに告げる。全てはライトの意志を尊重しての事であった。
ライト「…はい!」
優しさと親切さを読み取ってか、励まされたのでめげずに準備に入ろうと制服からジャージに着替えた。
そうして二人は共に向き合っていた、目の前にある白いマネキン…シミュレーションを施されたサンドバッグ用機械人形へと
牙禅「ライト、今回は能力で武器を実体化する事だ。戦闘の中で行う」
事前に教わった事を再度伝える。その言葉には戦闘が始まるという合図も含まれていた。
機械人形「起動開始…トレーニング 実戦モードに入ります。」
タイミング良く機械人形が動き出し、戦闘態勢に入った。二体を目で捉えた牙禅とライトもすかさず構える。
直後、二体の機械人形が牙禅、ライトへと各々倒すべき敵として接近した。
牙禅は平然としながら突き出された鋼鉄の拳を躱しながら掌で払い除け、受け流す。対してライトは避け続けていた。
牙禅「ライト!避けてばかりだぞ!」
幾度と繰り出される攻撃を受け流しながらライトに指摘する。その際も一切隙が無かった。
機械人形「ナイフを武装します」
淡々と告げる機械音声、手首からサバイバルナイフが放たれた。掴むとすぐに突き出した。廃棄予定のものにしては随分と動けていた。
迫る刃を目の当たりにした瞬間、二人は同時に武器を具現化した。牙禅は青い炎が静かに揺らめいて光る槍、ライトは白い光を持つ直剣とそれぞれの実体を保っていた。
牙禅「見事だ、続けるぞ…!!」
静かに微笑みながらライトを褒めた後、彼の能力である波動…それで創り出した槍で機械人形を押し返した。離れた直後、続けて牙禅が接近した。
ライト「はい…!!」
彼も光の直剣で機械人形のナイフを弾き飛ばし、それは腕をも両断していた。
そのまま流れるように、すぐさま白く光る刃を向けながら牽制した。
ライト「動かないでください!」
出来るだけ声を張り上げて脅す。声色のせいで恐怖は無いが、相手を動かなくさせるには充分であった。
その頃、牙禅は波動の槍で容赦なく機械人形を打ちのめしていた。その度に装甲にクレーターが発生し、身体が歪み始める。
叩きつけていく中、波動の槍は離れて、牙禅の肉体が回り始めた。
牙禅「ハァッ!」
機械人形が怯んだ隙に脇腹に目掛けて蹴りを入れた。圧倒的な一撃を受けた事で見事に吹き飛ばされ、地面に転がった後にうつ伏せで倒れた。
機械人形A「システムを、停止します…」
降参と声を上げると、力尽きるようにして倒れた。
それを見届けながら牙禅は一息つく。
ライト「ぐっ…!」
完全に倒したと確信した直後、何かに叩きつけられる音と苦しむ声が聞こえた。
瞬時に振り返ると、片腕を斬られていた機械人形がもう片方の手でライトの首を絞めて、壁に押さえつけていた。
ライト「離、して……!」
脅して牽制していたが、瞬時にライトに接近して現状に陥っていた。機械人形故か手加減出来ず、苦痛に歪む表情を浮かべながら拘束を解こうと両手で腕を掴んでいた。
脳裏に忌々しい記憶が過ぎる。思い出したくなかったのか、余計に精神が疲弊していく。
無理だと諦めていた直後、機械人形の心臓部を波動の槍が貫いた。言わずもがな、牙禅が仕掛けたのだ。
機械人形B「システムを停止します…」
まるで人間のような動作で苦しむ。やがて機械人形は力が尽きたかのようにして手を離し、その腕を下ろした。
ライト「…っ!はぁ!はぁ!はぁ…!!」
拘束から解放された事で必死に呼吸して止まっていた酸素を取り戻していた。
牙禅「…何故、倒さなかった?」
首を絞められていた理由を訊いた。色々と思うところはあるが、まずは言い分を聞いてからだ。
なんとか酸素を十分に供給できたのか、声を絞り出した。
ライト「…す、すみません。躊躇いました……まだ、殺していない、から……」
最初に謝罪をし、理由を述べる。脳に酸素が行き渡っていなかったせいか思考できずとも、抱く意志に基づいて答えた。
牙禅「これから被害を出したらどうする?そいつが無害とは限らないぞ」
近くに転がる機械人形を睨みながら反論する。ライトの行動は甘く、実戦であれば死ぬかもしれないからだ。
ライト「そうなる前に、僕が止めます…!」
淡々と、重みのある言葉と声に臆しそうになるが、意を決して、勇気を持って自分の意志を答えた。顔が表を向けて、青い瞳には確固たる覚悟が宿っていた。
牙禅「甘いな…」
それを見てか、ライトに背を向ける。呆れたのかと錯覚する。
牙禅「…だが、嫌いではない」
だが、続けて述べた言葉がその考えを正す。甘さ…もといその優しさがライトの良いところだと微笑む。牙禅の言葉を聞いてライトは安堵した。
牙禅「敵を見極めろ、さすればより強くなれる」
地に転がる残骸と化した機械人形を拾い上げ、壁の隅に置いて行った。
ライト「は、はい…!」
牙禅の助言を貰い、より勇気づけられた。彼も自分と相対していた機械人形を回収し、牙禅と同様に置きに行った。
片付けを終えた二人は食堂で椅子に腰掛け、ボトルに入った飲料水を飲みながら休んでいた。
ライト「そういえば、最近騒がしいですよね」
既に制服に着替えていたライトが一度口を離し、世間について語り出した。先程、急いで体育館へと向かう中、戦士やCSFの面々がいつにも増して動き回っている事に気付いていた。
牙禅「あぁ、何やらベルズケージで爆発が起こったみたいだな」
語りかけてきたのでその要因を語る。牙禅は勿論、ライトも知っていたのかやけに落ち着いていた。
牙禅「ライトが来る前に脱獄した者についても判明してきた」
ふと、何か思い出したのか懐から取り出した一枚の資料をライトに差し出した。流れるように青い瞳が文面を見ようと下へと向けられた。
記載されていたのは該当する脱獄囚の正面写真とその人物に対する名前や罪状などの記述であった。
一人は緑髪に黄緑の眼の容姿に黒の忍者服を身に纏った男 ヤマイシ ヒヤク、もう一人は目が隠れる程の前髪を持ったオレンジ色の髪の肥満体質の大男 クドーの二人であった。
休憩をとった二人はすぐさまパトロールの為、クロノス社から出ようと廊下を歩いていた。
ライト「…彼らだけなんですか?」
牙禅「いや、他にもいるが、それは他の戦士に任せているとの事だ」
資料にある二人だけなのかと疑問に思う。その問いかけに牙禅はきちんと説明した。
ライトは資料を凝視しており、不可解な点が一つあった。それはヒヤクについて…
牙禅「ライト!」
ライト「え?」
呼びかける牙禅の言葉に疑問に思うが、すぐに理解した。
「うぉあ!?」
ライト「わぁっ!?」
直後、誰かとぶつかってしまった。ライトは尻もちをつき、持っていた資料が宙に舞った。完全に集中していたせいか周りが見えていなかった。
ライトとぶつかった男「お、おい!大丈夫か!?」
ライト「あぁ!ごめんなさい!レオさん!」
レオと呼ばれる人物も転んでおり、すかさず心配して声をかけた。ライトも自分の不注意だった事に頭を下げた。
レオは活気のそうな少年であり、逆立つ赤と銀のハーフヘアと頭に巻かれた黒のバンダナ、赤いシャツと黒のズボンの上には半袖の灰色のジャンパーを羽織っていた。
レオ「なーに!大丈夫だ!んで、そっちも大丈夫か?」
元気よく起き上がり、明るい笑みを浮かべながらライトを許した。当の本人も資料を回収しながら立ち上がる。
ライト「は、はい」
そうしてレオに対してきちんと返した。活発な振る舞いのおかげか心の底から安心でき、元気づけられた。
牙禅「…レオもか?」
行き先が階段であり、下ってそのまま進むとクロノス社を出る事から推察し、真偽を確かめた。
レオ「あぁ!後でグリンも来る!」
短い言葉だったが、牙禅の意図を読んでかすぐに答えた。
レオ「って、あぁ!急がねぇと!悪りぃ!後でな!」
問いかけのおかげか自分のやるべき事を思い出し、すぐさま走り出した。
ライト「あ、相変わらず活発な方ですね…」
レオの様子を見て、唖然と立ち尽くす。彼の元気には毎度尊敬したくなる程、心のどこかで羨ましがっていた。
牙禅「あぁ、俺達も行くぞ」
ライトに返答し、自分達の為すべき使命を思い出させた。
ライト「は、はい!」
牙禅の促す言葉で我に返ると、共にクロノス社を出ていった。
その頃、何処か市街地区にある二階建ての家電量販店にて
賑わう人々、並ぶ複数のそして多種多様な家電…そうして新鮮な空気と白い電灯が空間を形成する中、二つの影が来店してきた。
「ヒヤク…どーするー?」
「…無論虐殺だ、クドー」
それは脱獄していたヒヤクとクドーであった。互いが纏う空気は何処か異様であり、瞳は赤く妖しく光っていた。
クドー「だよなー…んじゃあ……」
体勢を低くして正面を見据える。すると、頭部から巨大な牛の角が生え、腰から尾が生えてきた。
クドー「殺るかー…!!」
瞬間、大地を蹴り上げて突進し始めた。あまりにも速く駆ける巨体は並ぶ商品、その棚を強制的に退かし、人々を轢き始めた。
「うわあああ!?なんだぁぁぁ!?」
「いやああああああ!!!」
容赦無く奪われていく命、宙に舞う肉体と噴き出る血…その地獄のような光景に人々は戸惑い、悲鳴をあげる。
ヒヤク「うむ…」
背中に携えた忍者刀を抜刀し、構えた。直後、ヒヤクも目にも止まらぬ速さで動き出した。逃げ惑う人々を容赦無く惨殺していった。
パトロールをして時間が少し経過した時、牙禅とライトの腕時計から着信音が鳴り響いていた。
激しく鳴るそれが緊急事態だと気付き、互いに顔を合わせて頷いた。
ライト「はい!こちらライトです!牙禅さんもいます!」
すぐに応答した。顔の前に腕を持っていき、真剣に話を聞いた。
「K市街地区の家電量販店にてヒヤク、クドーが暴れている!すぐに向かって!現在、CSFが応戦している!」
未来隊長の声が聞こえた。必死な声で指示を出し、牙禅とライトを催促した。
ライト「了解です!」
すぐに返答し、接続を切る。
牙禅「行こう」
ライト「はい!」
覚悟は決まっている。すぐさま二人は走り出して、目的地に向かった。
家電量販店 一階にて、商品や棚が崩れ、人の死体が辺りに転がっていた。
市民A「や、やだ…!」
子供を抱えた一人の女性が尻もちつきながら後退る。恐怖に染まった表情の前にはヒヤクがおり、忍者刀を構えながらゆっくりと迫っていた。
市民A「誰か助け…!!」
這い寄る死を前に、誰もいない空間に助けを乞う。
だが、ヒヤクが容赦無く逆手に持った忍者刀を振り下ろそうとした。
CSF隊員A「やめろぉぉぉぉぉ!!」
その時、一人の隊員が雄叫びを上げながら刀を握り締め、駆けつけてきた。
彼の声がヒヤクの意識を逸らし、隊員を睨みつける。間合いに入ったと同時に刀を振り上げた。
瞬時にヒヤクは忍者刀で防ぎ、後ろに下がる。チャンスだと察した市民がすぐさま逃げ出した。
ヒヤク「殺し損ねたか…!」
邪魔された事で明らかに苛立っていた。血走った目と静かながら何処か怒気が籠った声が何よりの証拠だ。
CSF隊員A「大人しくヘルズケージに収容されるか!殺されるかを選べ!」
必死に護ろうと刃を振るい続ける。到底、ヒヤクを許すつもりは無かった。
ヒヤク「愚か、乗る訳がなかろう…」
懐からクナイを取り出し、瞬時にCSF隊員に向けて投げた。黒く尖った刃が腹部に刺さる。
CSF隊員A「ぐっ…!」
あまりの激痛に歯を食いしばり、なんとか堪える。
CSF隊員A「うおおおお!!!」
間合いを詰めて、刃を振るおうとする。だが、それよりも先にヒヤクの忍者刀が首を掻き切った。
CSF隊員A「ゴ、ハァッ…!!」
まだ戦えるという意志とは裏腹に身体は膝をつき、うつ伏せとなって息が止まった。
クドー「ヒヤクー…」
死んだ事を視認した直後、野太い声が響いた。ふと、クドーの方へと顔を向けるとヒヤクの目には彼本人がおり、その手には瀕死の状態となっていたCSF隊員が握られていた。
クドー「大丈夫かー?」
人を殺した、それは誰でも罪悪感や後悔を抱く。だが、クドーにはそれが無く、のうのうとしていた。
ヒヤク「…無論だ」
それは彼も例外ではなく、落ち着いていた。
CSF隊員B「た、たのむ…」
クドーに掴まれていた隊員が声を絞り出す。ヒヤクがそれを耳にし、瞳が睨みつける。
CSF隊員B「誰か…助け……!」
死にたくない人の本能、自分の意志…必死に訴えかける。二人に命乞いをする。
クドー「うるさーいー」
耳障りに思い、掴んでいた手を振り上げ、勢いよく隊員を地面に叩きつけた。
響く轟音、舞う粉塵…それらが止んだ時には既に隊員の命は絶たれていた。
クドー「黙ったー」
隊員の亡骸に対する感想はたったそれだけであった。
牙禅とライトは現場に駆け付けていた。周囲にはCSF隊員がおり、家電量販店からお客であろう市民達が必死に出てきていた。
ライト「お待たせしました!」
牙禅「現状報告を頼む」
辿り着いた二人は早歩きで報告と安堵させる為、CSF隊員達に声をかけた。ライトとは別に牙禅は状況について訊ねた。
CSF隊員C「はい!現在、ヒヤクとクドーは建物の中を占領!侵入した隊員が応戦していますが、まだ…」
高らかに堂々と牙禅とライトに聞こえるようにして答える。だが、仲間の事について語ると悔しさか心を痛めてか徐々に小さくなっていた。
ライト「後は、僕達に任せてください!」
彼の心境を読み取ってか優しい声色で言葉をかけた。そのまま牙禅と共に急いで建物の中へと入っていった。
家電量販店 一階の中は酷く荒れていた。ヒヤクとクドーが暴れたせいか棚や商品、人々はあっちこっちに散らばっており、割れた照明が切れていた。
ライト「酷い…」
目の前に広がる凄惨な光景に心苦しくなる。己の非力さと理不尽にも奪うヤツらを許さない気持ちが湧き上がり、拳を強く握りしめた。
クドー「ん?なんだお前ら…」
二人が入ってきた事に気付いてか、堂々と歩きながら能天気にも訊ねてきた。角は生えておらず、尾も終っていた。
ライト「くっ…!貴方が…」
クドーだと視認し、すぐに戦闘態勢に入ろうと光の直剣を生成しようとした直後だった。ライトの横を青い何かが疾風の如く通り過ぎた。
クドーの前には牙禅がおり、なんと大きく膨れた腹部に対して発勁を繰り出していた。
クドー「ぐおっ!?」
あまりの威力に目を見開き、思わず後退る。
先手を仕掛けた牙禅の全身から青いオーラが炎の如く揺らめき、昇っていた。
牙禅「貴様、今この状況を見て何を思う?」
静かに歩み寄る。握る拳から青いオーラが放たれていた。
牙禅「どう想っている?」
問いかける声には怒気が籠っており、到底許すつもりは無いと明確にに伝わってくる。
クドー「んー?どうも思ってないがー?」
その様子を赤く光る瞳が映していた。返ってくる言葉には無関心と無責任という気持ちが宿っていた。
牙禅「ならば…無論、死だ」
目元を覆う影から赤い瞳がクドーを睨みつける。次の瞬間、牙禅が残像を出して消えた。
クドー「んー?消え…」
危機感の無いのんびりとした声で、首を傾げる。
直後、彼の真横に牙禅が現れ、回し蹴りを繰り出した。足はクドーの顔面に直撃し、為す術なく吹き飛ばされた。
商品などを薙ぎ倒しながら壁にぶつかると、重なっていた商品や棚が倒れ、下敷きになった。
ライト(す、凄い…!)
あまりの迫力に目を見開き、唖然としていた。
牙禅「二階に行け!」
声を張り上げ、ライトに指示を飛ばす。唐突に出た言葉で我に返り、牙禅の方へと顔を向けた。
牙禅「ここは俺が相手をする!」
高らかに理由を述べ、二階に行くよう促した。ライトの事を信じているからこその発言であった。
ライト「了解です!」
それを受けて、意を決しながら応じた。瞬時に駆け抜け、階段の上を突き進んだ。
ヒヤクの相手をライトに託し、静かに見届けていた。
クドー「ぐおおおおおおーーー!!!」
雄叫びを上げながら勢いよく起き上がり、身体にのしかかっていた物を全て退かした。それに気付いた牙禅が依然としながら振り返り、再度静かに見据えていた。
クドー「腹殴って顔も蹴って、痛かったぞー!!」
のんびりとした声、だが明らかに苛立っていた。感情に呼応してか角と尾が生えた。
牙禅「くだらん、貴様らに殺された者達の無念と比べれば…いや、比べる価値すら無い」
溜息混じりに反論し、クドーの言葉を一蹴する。身体は正面を向き、手を静かに構える。
クドー「なーんーだーとーー!!!」
腰を低くして、太い脚が闘牛のように足踏みする。能力による本能…それによる威嚇か、将又クドー自身の怒りか、どちらにせよ牙禅に対して殺意を抱いていた。
クドー「おーまーえーをーこーろーすーーー!!!」
鼻息を荒くして、物凄い勢いで牙禅に突進を仕掛ける。巨体が轢き殺そうと迫る。
だが、牙禅は意図も容易く躱した。開いた手に青い炎が渦巻き、掌に集まる。
牙禅「波動!!!」
後ろに引いていたそれを突き出した直後、集った波動が火の玉として放たれる。宙を駆け抜けるそれは大きな背中に直撃し、見事に弾ける。
クドー「おー?何かしたかー?」
いない事を視認してか足が止まり、ゆっくりと振り返る。当たった箇所は焼け焦げており、確かに効いていた。だが、痛みは感じていなかった。
牙禅「効いてはいるか…」(認識出来ていないのか…)
その原因を瞬時に見抜いた。鈍感なのか、怒りと暴走が感覚を麻痺させているのか、いずれにせよ受けた苦痛を感じ無い事に変わりは無かった。
クドー「次こそーー!!」
続けてまた先程と同様に突進してくる。当然、何の工夫もしていないので牙禅はまた難無く避ける。
牙禅(同じ攻撃を繰り返すが、怯まないのは厄介だな)
戦い方が一つしかないのは幸いだが、それでもクドーに苦戦を強いられる事が目に見えていた。苦痛を感じれば誰でも怯む。しかし、それが無ければ一瞬の隙は見せない。
牙禅「これは、どちらが倒れるかの我慢比べといったところか…」
今自身がすべき事、それは攻撃を与えながら躱し続ける事であった。幸いにもクドーの攻撃は酷く単調なもの…そう考えていた。
だが、予想だにしない事が起きた。牙禅に二つの死体が飛んできた。
牙禅「…っ!」
油断してしまっていた、過信していた。一つ目は受け止めるが、二つ目の衝撃に耐えきれず後ろに転ぶ。
直後、クドーの巨体が迫る。あまりの迫力に気圧されそうになった。そのままクドーが通り過ぎた。
轢いたかと思ったが、手応えが無かった。辺りを見渡すが、牙禅の姿は見当たらなかった。
牙禅「…仕留め損ねたな」
声が聞こえた。クドーが振り返ると、牙禅の姿があった。左側の振袖は微かに削れており、僅かながら傷口が開いていた。
躱したが、少しながら負傷してしまった。
クドー「ちょこまかちょこまかと、避けるしかできないのかー!」
上手くいかないのも相まって、避け続ける牙禅に文句を言う。近くにあった冷蔵庫を持ち上げた。あれを武器にして振り回すのならば一溜りも無いのは確実だ。
牙禅「自ら死にに行く馬鹿がいるものか…」
腕を回して、まだ動かせれる事を確認する。
牙禅「それに、まだ死ねん…」
そのまま両手で波動の槍を生成した。
牙禅「鬼を、討つまでは…」
青い光を放ち、炎の如く揺らめく棒状のものを静かに構えた。
クドー「さっさとー!」
掴みながら全身を回転し始め、勢いをつけ始める。
クドー「死ねーーー!」
叫びながら牙禅に向かって冷蔵庫を投げ飛ばした。
赤い瞳が静かに見据える。間合いに入った直後、槍を振り上げ、迫る冷蔵庫を両断した。
断面図は高熱を帯びており、鉄の残骸は牙禅の横を通り過ぎていった。次の瞬間、間髪入れずに大地を蹴り上げクドーに接近した。
クドー「こーろーすーー!!」
幼い喋り方とは裏腹に戦略は長けており、近くにある商品やダンボール、死体などを何度も投げ飛ばす。
だが、それらを牙禅は難無く躱しながら突き進む。瞳はクドーを睨んだままであった。そのまま間合いに入ると、波動の槍を握り締めながら身体を旋回させた。
牙禅「ハァッ!!」
流れるように、勢いよくクドーの脇腹に一撃を当てる。
クドー「ぐおっ!?」
あまりの激痛と焼けるような感覚に鳩が豆鉄砲を食らった顔をした。
牙禅(効いたか…)
先程放った波動弾よりは威力増しており、当然ながら牙禅は容赦しなかった。
次の瞬間、波動の槍を何度も振るい・突き続けた。
牙禅「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
一つも外れる事は無く、攻撃の手を緩めずに何度も追撃する。
クドー「痛いぃ!痛いよぉぉぉ!!」
やられっぱなしで苛立ち、癇癪を起こしてか波動の槍を捕らえようとする。確かに掴んだが、同時に消えた。
クドー(これは…!)
違和感を感じ、瞬時に罠と認識する。再び正面に目を遣ると牙禅の両手足には波動が纏っており、既に構えていた。
牙禅「かかったな!」
殴る・蹴るを不規則に繰り出し、クドーの肥大化した肉体に直撃する。的が大きいおかげか躱したとしてもそこまで動く事を要しなかった。
痛みと疲労が蓄積し、気を失いそうになって意識が飛びかける。それを見越してか牙禅は開いた片手、その掌に波動を溜める。青く閃き、炎のように燃え盛る。
牙禅「波動!!」
直後、突き出したそれは発勁としてクドーの大きな腹部に打ち込んだ。あまりの衝撃に維持していた意識が飛び、それを受けて巨体が勢いよく後ろに吹き飛ばされた。
背中に打ち付けられたのは窓であり、突き破るとクドーは外に出ていった。
CSF隊員D「捕らえろ!!」
一人の隊員が声を上げ、気絶したクドーを包囲した。目にはしていないが、牙禅は音だけで状況を把握した。
牙禅「…急ぐか」
倒し終えたと認識し、すぐさまライトの元へと駆けつけた。
時は遡り、ライトは二階に辿り着いていた。
ライト「そこまでだ!」
光の直剣を握り締め、勇気を出して声を張り上げる。
電灯が切れているせいか周囲は暗闇に包まれており、静寂が広がっていた。そこでも一階と同様に商品や棚は至る所に散らばっており、人の死体も転がっていた。
ライト「隠れているんですね…」
広がる血から漂う鉄の匂い、全てがライトにとってストレスとなり、嫌悪感を募らせていた。
青い瞳が暗闇を映し、そこにヒヤクがいる事を認識した。
ヒヤク「よくぞ見破った…」
ライトの読みが当たっていたと言わんばかりに闇から出るように姿を現す。彼は腕を組み、赤く光る鋭い瞳が正面を見据えていた。
ライト「…なんなんです?貴方」
ふと、ヒヤクに問いかける。資料に目を通した時から抱いていた疑問であった。当然、質問の意味がわからないので当の本人は沈黙を貫いた。
ライト「貴方、何処から来た…」
それを問いかけようとした時、ヒヤクが口を開いた。
ヒヤク「生憎、記憶が無くてな…」
平然とした態度で淡々と答える。ライトの問いを遮る言葉に嘘など無かった。背中に納めた忍者刀を静かに引き抜く。
ヒヤク「答えられそうにない」
手にした忍者刀を静かに構える。切っ先はライトを捉えていた。
ライト「そうですか…!」
殺しに来ると予測してか光の直剣を構える。力強く握り締め、ヒヤクを警戒しながら集中した。
次の瞬間、ヒヤクが接近してきた。
ヒヤク「参る…!!」
間合いに入った直後、素早く刃を振るった。
ライト「っ!!」
すかさず防御に入り、光の刃とぶつかった。
ヒヤク「その命を渡せ…!!」
黄緑色の瞳が赤く光る。殺意の表れか、或いは…
瞬時に懐から苦無を取り出し、ライトの心臓目掛けて突き出される。
ライト「はぁっ!!」
殺す事に意識が向いた、その隙をついて忍者刀を押し退けた。同時に低く伏せた事も相まって苦無の軌道は逸れて、狙い損ねた。
ヒヤク「ちぃっ…!!」
ライト「そこっ!」
間髪入れずにライトが燕返しの如く光の刃を振り上げた。ヒヤクがなんとか地面を蹴って後ろに飛んで紙一重で躱した。
ヒヤク「死ね!」
流れるように三枚の手裏剣を投擲する。視認したライトが光の直剣を一閃、二つを弾き返した。だが、残りの一つはライトの肩に掠り傷を負わせた。
ライト(速い…!殺意に呑まれているけど、技術と知能はかなり厄介…!!)
圧倒的な実力…気圧されそうになるが、絶望はしなかった。浮遊していたヒヤクが音もせずに着地した。
ヒヤク「貴様に問う…」
すると、口を開いてライトに語りかけた。瞳が静かに捉えている。
ライト「え?」
急に落ち着いた事、唐突に出てきた問いに唖然とする。ヒヤクが何を考えているのかがわからず、警戒していた。
ヒヤク「何の為に刃を振るう?何の為にその力を使う?」
淡々と質問を述べる。その様子に殺意や敵意は含まれておらず、ただ純粋な疑問が言葉に込められていた。
ライト「僕は…」
訊かれたからには答えようと口を開く。浮かべる表情は少し暗くなっていた。
脳裏に過ぎるはかつての友達だった少年…
ライト「助けたいんです…」
出た言葉はこれであった。理由が語られると思い、ヒヤクは沈黙した。
ライト「失った友達の為に、誰も傷付けさせない為に…」
意志に呼応するようにして直剣を構成する光が強まる。彼の想いを感じ取ったヒヤクが瞼を閉じた。
ライトの言葉に対して反論せず、ただその意志を尊重していた。
当然、何一つ言わないヒヤクに不審に思い、顔を訝しんだ。
ヒヤク「聞き届けたぞ、貴様の意志……」
穏やかな目をする。気のせいかライトは何かある…もっと言うと、何処かへと消えるんじゃないか?と予感がした。それは的中したのか、ヒヤクの目付きが鋭く凍てついたものになった。
ヒヤク「…死ね……」
身に纏っていた雰囲気は一変し、殺意を剥き出した。肌で感じ取ってかライトは気を引き締めて、光の直剣を構えた。
直後、ヒヤクは後ろの暗闇へと姿を消した。
ライト(消えた…!)
非現実的な事実を前に驚くが、瞬時に正面を見据えてヒヤクの行動を予測する。このまま正面から出てくるのか?それとも視界の外からか…
だが、迫るは煙玉…床に当たると漏れ出る煙が周囲を包んだ。
ライト「煙…!?」
予測不可能な展開に驚くが、片腕で吸わないようにする。青い瞳が辺りを見渡す中、ライトの側面から忍者刀が現れた。
殺気に気付いてか、瞬時に躱して距離を取った。
ライト「くっ…!」(いつの間に!?)
しかし、白刃は胴体に浅い傷を刻んだ。刃の軌道に沿って制服は裂けていた。
ライト「え…!?」
目にしたのは浮遊する忍者刀であり、そこにヒヤクの姿は無かった。奇妙な光景に驚愕する。
ライト(透明化ですか、それもかなり巧妙の…)
煙から脱して、浮いていた身体が着地する。再び周囲に警戒を張り巡らせた。正面には煙、背後には暗闇で覆われていた。
ヒヤクの透明化は優れた技術を誇っており、煙で位置がバレる事も無かった。
ライト(でも…!)
しかし、明確にも一つだけ欠点があった。
ヒヤク(死ね…!)
暗闇から姿を表す。だが、ライトは予見してか振り返りながら光の刃を一閃した。
ライト(殺意で隠しきれていない…!)
醸し出す殺意、その気配が完全に隠しきれていなかった。気付かれたヒヤクが再び暗闇の中へと消えた。
ライト「牙禅さん…」
構えた光の直剣が球状へと変化する。
ライト「修行の応用、やってみます…!!」
手に宿るそれを天井に掲げた。直後、閃光が瞬き、周囲の空間を照らし出した。
ヒヤク「クソッ…!なんだ……!?」
あまりの眩しさに両腕で目を塞ぎ、能力である透明化が解かれた。
ライト(見つけました…!)
星の如く照らす光とは別にもう一つの光を掌から発現させ、拳銃に変形させた。その銃口を怯むヒヤクに向けた。
ライト「当たれ…!!」
引き金を引き、幾つものの光弾が連射された。素早く宙を駆け抜け、ヒヤクに迫る。
眩しさに慣れ、直ぐに動こうとするが、弾丸が胴体に直撃する。
だが、片や脚の付け根など急所は外していた。そのせいか、うつ伏せとなって倒れた。
ヒヤク「な…こ、殺せない……!」
なんとか動かそうとするが、四肢は機能しなかった。
ライト「殺させません…!」
自身の意志を口にする。あくまでライトは誰かを助けたい為であり、ヒヤクとは真逆の立ち位置であった。
牙禅「無事か!?」
急いで駆け付けてきた牙禅がライトに語りかける。
ライト「牙禅さん!はい!」
彼に気付いてか身体を向けながら、すぐに声を張って返答した。
牙禅の赤い瞳がヒヤクを捉える。しつこく地を這い、こちらに迫ってきていた。まだ殺意が宿っているが、手足がやられている以上は何も出来ないのは一目瞭然だ。
牙禅「…生かしたのか」
ライトの行動を察し、問いを投げる。
ライト「…はい、自分の意志です」
声のトーン、浮かべる表情から読み取って素直に答える。そこに言い訳は無かった。
牙禅「そうか…」
不殺の意志を尊重しながらもヒヤクに手をかざした。直後、掌から波動が火の玉のようにして撃った。それが直撃し、ヒヤクの動きが止まった。
ライト「牙禅さん!?」
牙禅「気絶させただけだ」
まさかの行動に驚いて訴えるが、すかさず答える。掌から昇るオーラを握り締めて払うと、腕時計を顔に近付けた。
牙禅「こちら牙禅、ライトがヒヤクを鎮圧させた。身柄を拘束せよ」
建物を包囲するCSF隊員に指示を飛ばし、報告を終えてか通信を切る。やるべき事を終えてかこの場を去ろうと歩き始めた。
微かに離れた牙禅がライトに背を向けながら口を開いた。
牙禅「それに、ヘリオス社は許さない…」
顔を見せないのは凍てついた鬼の形相を見せない為、仲間の一人であるライトに恐怖を与えない為だ。
牙禅「特に、故郷を滅ぼした鬼はな…」
静かにそう呟いた。だが、その声と言葉には怒りが込められていた。
青い羽織で覆った後ろ姿をライトは見ており、燃やす復讐の炎を確かに感じ取った。
牙禅「…行くぞ」
だが、すぐに切り替えてか普段の落ち着いた声でライトについて行くよう促した。
ライト「は、はい!」
我に返ってすぐさま駆け寄る。隣に並ぶと、二人は前へと歩き出した。
次回
第伍話 「赤キ獅子と緑の科学者」




