第弐話「青ノ閃光」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
青空が広がり、太陽がビル群とアスファルトを照らす。そんな街中でメビウスは呑気に鼻歌を歌いながら歩いていた。
車は交差するように進み、両側の歩道には人々が行き交っていた。
メビウス「特に今日も異常はない感じかなー?」
ズルけてるように見えるが、これでもパトロールをしていた。
クロノス社の戦士なので顔は知っていると思い、事実、犯罪抑止としての効果はあった。
メビウス「ん?」
ふと、緑の瞳が何かを捉える。その先には公園に小学生くらいの子供がおり、木の上を見ていた。
よく見ると、枝にボールが引っかかっていた。寂しそうな目でそのボールをずっと見つめていた。
メビウス「おーい、取ってあげようか?」
爽やかな笑みを浮かべながら子供に近づき、すぐさま跳んでボールを掴んだ。
メビウス「ほい!次は気を付けてね?」
そのまま少年に投げると、しかと掴んだ。
少年「ありがとう!」
ボールを拾ってくれた事に感謝し、笑顔が戻って再び遊びに行った。
元気な後ろ姿を見届けた後、切り替えて目的地へと向かっていった。
道中、花束とお菓子のキャラメルを買ったメビウスが辿り着いたのは霊園であった。幾つものの墓が並んでおり、その中を落ち着いて歩いていた。
足を止めて横にある墓石へと身体を向けると、しゃがんで購入したお供え物と花束を置き、その前で黙祷した。
墓碑には”ヒカリノ”、つまりはメビウスの姓が刻まれていた。そう、この墓に眠るのはメビウスの家族であった。
メビウス「父さん、母さん、兄さんに姉さん…今日も俺は元気にしてるよ」
脳裏に思い浮かぶのは名を口にした今は亡き四人の姿であった。
この瞬間以外にも時々思い出すが、なんとか払拭していた。四人の死はメビウスにとってあまり良いものでは無かったからだ。
メビウス「んじゃ、行ってくるわ」
少しして気が済んだのか立ち上がって供えたお菓子を回収した後、優しい言葉で告げてこの場を後にした。
キャラメルを口に入れながら街中を歩いていると、路地裏にたどり着いた。
メビウス「さて、ここら辺かな…指定したからちゃんと来てくれるだろうけど」
ふと思い出したかのようにして懐から一枚のメモ用紙をを取りだした。
メビウス「…しっかし、これが表に出ないのが謎だよな」
記された内容は依頼について…詳細に述べると事件について記されていた。
それらに目を通しながら不思議に思い、概要について嫌悪していた。
剣が起きる前にまで遡る。その頃のメビウスは隊長室におり、椅子に腰かける未来隊長と対面していた。
メビウス「F市街地区で多くの選手が殺されている?」
未来隊長から告げられた内容に疑問に思っていた。
ボクサーの選手が行方不明となり、数日後にゴミ捨て場にて死体として発見された。依頼主はその選手の奥さんであり、怨嗟を抱いていた。
そんな事件があったと言うのに、現在進行形で報道されていなかった。そんな出来事の中で告げられた事実…当然ながら疑うし驚く。
未来隊長「そう、この件を君に頼みたい」
それを事実と断言すると、調査と解決の指示を与えた。
メビウス「了解したけど、少ないよなぁ…他に被害者っているの?」
とはいえ、あまりにも情報が少ないと思ったのか未来隊長に情報提供を要求した。
未来隊長「勿論、とはいえ我々が得ているのはこれだけなんだけどさ…」
それに応じてメビウスに手渡したのは、被害者について記された書類であった。
迷いなくそれらにも目を通すと、ある事がわかった。
被害者はどれもスポーツマン…それも格闘家ばかりであった。だが、柔道家にプロレスラーなど種目はどれも異なっていた。
メビウス「…よし、引き受けたよ」
少し考えて、ある人物が過ぎったので依頼を了承した。
未来隊長「ありがとう、よろしく頼む」
その答えを聞いて、微笑みながら感謝した。
現在に戻り、メビウスはその人物と待ち合わせしていたのだ。
「メビウス!毎度毎度頼ってくれてあんがとうな!」
すると、一つの人影が荒々しい口調で友好的に近づいてきた。
中性的な声を耳にして、目を遣るとそこにはコートに身を包んだ人物がいた。キャスケットで顔は隠れているが、その容姿は正に声の通りで男女の区別がつかなかった。
メビウス「頼り甲斐があるからですよ。クヴェレさん情報収集能力は長けてますし、信憑性ありますから」
気軽に絡んでくる情報屋 クヴェレ・アラクネにハイタッチで返した。
クヴェレ「あっはは!どーもな!」
大人しそうな格好とは裏腹に豪快な笑顔を浮かべる。
クヴェレ「んで、何が聞きたい?事件からお前好みの趣味まで全部揃ってるぜ?」
彼女はメビウスの頼みで情報収集、その提供をしたりするし、話し合ったりする事もある。
楽しそうに話す中で本題に入ろうと、要件を訊く。
メビウス「これについて…」
分かり易く話を進める為にクヴェレに依頼の内容を記された書類を渡した。
快くそれらを受け取り、静かに目を通す。
メビウス「なんか知ってる?種目問わずに格闘家がF市街地区にて殺されていた。見た感じ全身に打撲しているようでさ」
それを他所に事件の概要を簡潔に伝える。
クヴェレ「…これ、モハメド・タイソン?」
打撲痕を見て、思い当たる節があった。
メビウス「モハメド?」
クヴェレ「うん、裏闘技場でチャンピオンになってる凶暴なヤツ」
見知らぬ名前に首を傾げるメビウスだが、クヴェレが淡々と説明する。
どうやら裏闘技場はF市街地区にある建物の地下に開催されているものであり、富裕層の権力者が主催している。
そこで繰り広げられているのはモハメドによる独壇場、彼に仕える大勢の部下が選手を誘拐し、半ば強制的に試合をやらされていた。全ての選手は為す術なく誰一人例外無く死んでいる。
メビウス「権力者…なら納得、情報を揉み消すのは十八番ってか」
完全に理解した。寧ろその方が辻褄が合うからだ。
これだけの大きな出来事が騒ぎになっていないのは権力者が裏で手引きしていたから
クヴェレ「情報を揉み消したり、危険の芽を摘んだりとお手の物ってね…」
メビウスの読みは当たっており、クヴェレが得意げな笑みを浮かべながらそれを肯定する。
メビウス「…んで、その裏闘技場は何処でやってるの?F市街地区内?」
クヴェレ「そうだね、建設途中のボウリング場でやってるよ」
メビウスの問いに答えるようにしてクヴェレがスマホの液晶画面を見せた。そこには裏闘技場が行われている場所の住所と郵便番号などが映っていた。
メビウス「ありがとう!クヴェレさん!」
微笑みを浮かべながら感謝を告げて、路地裏を出ようとした。
クヴェレ「あー!少し待ってくれ!」
メビウス「何?なんかあるの?」
だが、思い出したかのようにしてメビウスを呼び止める。何かと思い気になったのか当の本人が振り返る。
すると、クヴェレはスマホを指で弄って、また別の何かを送った。
直後、腕時計が受信したと振動し、その画面に目を遣る。
送られた情報を知り、余程良いものだったのか口角が上がった。
メビウス「何もかも助かる!どうも!!」
再び感謝を告げながら手を挙げると、このまま去っていった。
クヴェレ「後で飲み交わそうと誘う気だったけど、相変わらず速いなぁ…」
続けて声をかけようとしたが、瞬く間もなく姿を消した事により諦めた。だが、同時にメビウスに宿る能力には感心していた。
クヴェレ「まぁ、メールでもしとくか」
仕方無いと言わんばかりにスマホでメッセージを送った。
数時間経過して夜、メビウスは目的地のボウリング場にたどり着いていた。
建設途中の柵、その入口の前で腕時計のモニターを起動させて未来隊長に連絡を取る。
メビウス「隊長、依頼について全てわかったよ。証拠の入ったデータは全てそちらに送ったよ」
先程、呼び止めた際にクヴェレが送ってくれた情報を未来隊長に送信した事を伝えた。そこには権力者も関与している事も書かれていた。
未来隊長「把握した、問題は無いよ」
メビウス「どーも」
確認した上で承諾したと聞いたメビウスは感謝し、建物に向かって歩き出した。
未来隊長「気を付けて、モハメド・タイソンは凶暴だ」
動きを読んでか、警告した。その言葉は死ぬなという想いも込められていた。
メビウス「ありがとうね」
察してか嬉しく思い微笑む。そうして、建物の中へと足を踏み入れた。
真っ暗闇に包まれた内装をメビウスは警戒しながら周囲を見渡す。建設中なのかそこには何も無かった。だが…
メビウス(随分と馬鹿騒ぎだな、丸わかり過ぎ)
地下から歓声が上がっていた。さながら隠す気が無いと言わんばかりに
メビウス(さて、どんなもんかな…)
それを頼りに歩を進めると、地下へと通ずる階段から光が照らされていた。
メビウス「ここか…」
僅かに呆れていたが、表には出さなかった。無表情で睨むような目付きを浮かべながら降りていった。
先程の地上とは真逆に地下は電光に照らされ、大勢の観客が大きな何かを夢中になりながら囲っていた。
メビウス(あれかな…)
立ったままの人々が見つめる先へと目を遣る。地下の中心には金網で覆われたリングがあり、そこで試合が行われていた。盛り上がっている要因は間違いなくこれだと確信できた。
メビウスは試合の様子を凝視する。
一人の男性が後退りながら金網を背にして寄りかかる。柔道着を着た男が睨む先には彼より大きい男がいた。
褐色肌に黒髪リーゼントと赤い瞳、筋骨隆々な肉付きを兼ね備えていた。その身体を赤のシャツと黒のズボンで隠し、暗めの緑色のロングコートを羽織っていた。あの大男がモハメド・タイソンである。
互いに試合をしているが、それはあまりにも一方的だった。見るからに柔道家の男の方が瀕死の重傷を負っているのに対してモハメドは一切の怪我が無かった。
時折、観客に捕らえられて徹底的に嬲られたりと正々堂々闘う様子も無かった。
メビウス(ふざけてんな、これ…)
当然ながら、その戦況は見るに堪えないものと豪語できる。観客とは反対にとてつもない嫌悪感を抱いた。
柔道家の男は必死に呼吸を整え、握った拳を構えていた。
モハメド「おいおい?雑魚風情が、まだ諦めてねぇのかよォ!」
嘲笑いながら赤い瞳で男を見下ろす。一瞬だが、瞳に同色の光が妖しく灯る。
モハメド「悔しいなぁ?悔しいだろうなぁ…」
下卑た笑みを浮かべながら柔道家の男を煽る。背を低くして同じ位置で見続けた。
柔道家の男「お前は愚かだ…」
だが、モハメドに返ってきたのはたった一言…くだらないと一蹴するものであった。
モハメド「あ?」
どういう事だと顰めっ面が訴えた。答えてやると男が続けて言った。
柔道家の男「そうやって卑怯な手段でしか勝つ事が出来ないお前の方が余程の雑魚だ!」
自らの気持ちを、その意志を最後まで突き通して堂々と声に出した。
気に入らないと静かに怒るモハメドが男の胸ぐらを掴んだ。
モハメド「んだと、テメェ…うぜぇからとっとと死ね」
無表情に、しかしながら睨みつけながらもう片方の拳を掲げた後に前に突き出した。巨大なそれとは裏腹に振るう速度は速く、男の顔面に迫る。
直撃するかと思った瞬間、拳は已の所で止まった。柔道家の男が疑問に思うも、すぐに理由がわかった。
なんとモハメドの顔面に靴の裏底がめり込んでおり、普通の力で軽く後ずさった。
蹴りを入れた人物 メビウスが柔道家の男の前に立つ。
メビウス「アンタ、すっごいかっこいいじゃん」
後ろ姿を目にした柔道家の男が息を呑む。周囲は突然の乱入に加え、まさかの人物に驚きのあまりより騒ぎが増す。同時に気分がそがれた事に不満に思う者もいた。
だが、そんなものを気にせずメビウスは振り返る。
メビウス「ヒーローみたいで好きだぜ」
歯を見せるような笑みでサムズアップを見せる。メビウスの振る舞いに、ここに駆けつけてくれた事実に柔道家の男は安堵のあまり微笑んだ。
権力者「クロノス社の戦士!?何故ここに!?」
まさかの人物がここに現れた事に一人の老人…権力者が恐れ慄く。自身の失態を晒されると焦り出す。
モハメド「クッソ…誰だァ!?テメェ!!」
突然の事に困惑しながらも認識したメビウスを睨みつけ、大声を張り上げながら問いかけた。自身のショーを邪魔された事に対して激しく気に入らなかったようだ。
メビウス「うるせぇー…その見た目も相まってゴリラかよ」
両手で耳を塞ぎ、不愉快と言わんばかりの表情を浮かべた。ゆっくりと振り返ってモハメドに前を向けた。
メビウス「あー…訂正、知能指数ダチョウのゴリラか」
両手を下ろして、強く握りしめた。刹那、両手足が青く染まり、オーラが炎のように上り始めた。モハメドを倒すと言わんばかりの闘志が表現されていた。
メビウス「あ、選手交代でよろ」
柔道家の男に“今度は自身がモハメドと相手する”と自身の意志を伝えた。
柔道家の男「わかった。だが、気を付けろ」
出た言葉を信じながらも確かに忠告した。
モハメド「無視すんじゃねぇ!!クソガキィィィッ!!!」
激しい怒りに飲まれながら大地を蹴り上げて、メビウスの間合いに入り、剛拳が突き出された。
だが、メビウスは柔道家の男を掴んだ瞬間に姿を消した。
モハメド「なっ!?」
突然の事に目を見開き、拳は空を切った。
モハメド「野郎…!何処だァッ…!!」
頭に血が上りながらもメビウスを探そうと必死に周囲を見渡す。
メビウス「もしかして、探し物は俺かな〜?」
惚けたフリをしてモハメドの神経を逆撫でる。挑発を耳にするとすぐさま振り返った。
視線の先にはメビウスがおり、そこは先程まで確かにモハメドがいたところであった。
柔道家の男「今のは…!?」
いつの間にか移動していた事実に困惑と驚愕が襲いかかる。
メビウス「まぁ、安心しなよ。アンタは生かして、あのクソゴリラをぶちのめすからさ」
自信満々に宣言する。負ける気は無いという確固たる意志で
モハメド「ゴラァっ!!避けんな!!!」
荒れ狂うようにして再びメビウスに接近し、拳を振るった。
メビウス「あらよっと!」
攻撃の軌道を瞬時に見極めると、柔道家の男を担ぐと超高速で跳んで躱した。そのまま丸太のようなモハメドの腕に乗り、迷いなく走り出した。
モハメド「なんだァ!?」
乗られる感覚に驚く間も無く、メビウスは肩を蹴って高く跳んだ。それは金網を飛び越えて先程の階段に着地し、すぐさま登り始めた。
権力者「に、逃がすな…!!正義組織の戦士を捕らえろぉぉぉ…!!」
モハメド「テメェら!すぐにでもあのクソガキを追え!!逃がしたら殺す!!!」
権力者はこのままだと自身の悪行が明るみになると焦り出し、モハメドは小馬鹿にされた事に怒りが煮えたぎりながら指示を飛ばし、脅しをかける。
観客としていた部下達は急いで階段を登って、追いかけた。自分達も捕まりたくない、殺されたくないという焦りから
モハメド「おい!クソジジイ!とっとと封鎖しろ!!」
権力者「わかっている!!」
モハメドが怒鳴るように指示を飛ばし、権力者が近くにあったスイッチを押した。
ボウリング場の外、メビウスは抱えていた男をその場で下ろしていた。
メビウス「CSFを呼んだから、後は彼らを頼って」
優しさが込められた声で柔道家の男に語りかける。
柔道家の男(…まだ年端もいかないのに、何処か頼れる感じがする)
15歳とは思えない程に心強いものであり、男は安心感を覚えていた。
告げるべき指示をした後、メビウスは振り返って建物の中に入っていった。
柔道家の男「待て!まさか、アイツを倒すのか?」
一言も発さなかったが、何をするのかすぐに察せれた。驚きと焦りが現れ、メビウスを止めようと手を差し伸べる。
メビウス「…あぁ、じゃないと逃げられるかもしれないからね」
男に背を向けたまま理由を述べる。その言葉は戦士の使命でもあれば、個人の責任でもあった。
柔道家の男「だが、ヤツは強い!下手すれば死ぬぞ!」
それでも止めようとする。まだ子供に行かせるべきでは無いし、死なせる訳にもいかなかったからだ。だが、先程まで一方的にやられていた事による恐怖が根付いてしまったからか将又受けた傷に痛みが走ってか、無理にでも止める事は出来なかった。
唐突にシャッターが閉まり始めた。メビウス達を閉じ込める為だったからだ。
メビウス「覚悟の上だよ…」
足を止めず、そのまま建物の中へと入っていった。彼に恐怖は無かった、後悔も無かった。
メビウス「もう、誰も失わせたくないから」
振り返って、優しく微笑む。それを見た柔道家の男は彼も戦士である事に気付く。頼る訳では無いが、彼が只者では無い事をその身で感じ取る。
メビウス「それに、俺は強いからな!」
拳を打ち付けて、覚悟を決める。シャッターは完全に封鎖され、出入りする事は不可能となった。
暗闇に包まれたボウリング場にてメビウスは肩を回したり、首や拳の骨を鳴らしたりと身体を慣らしながら歩いていた。
多くの足音が空間を響かせ、それらがメビウスの周りを囲っている事が当の本人は把握する。足を止めて、辺りを見渡す。
直後に前方から一つ大きな振動を起こしながらこちらに迫ってくる。
モハメド「おいおい、大人しく殺されに来たのか?」
その正体はモハメドであり、嬲り殺せれると嬉々として笑みを浮かべながら体格差ゆえにメビウスを見下ろしていた。足音が止み、その巨体も動きが止まった事がわかる。
メビウス「自ら死にに行くヤツが何処にいるんだよ」
溜息をつきながら緑の瞳が見上げながら睨みつける。モハメドの低脳な発言に呆れていたのだ。
モハメド「クッソ生意気だなァ…」
気に入らないと微かに苛立ちながらも殺り甲斐があると心底から楽しみにしていた。
モハメド「おいテメェら!コイツを殺せェ!!!」
雄叫びを上げながらメビウスを包囲する部下達に指示を飛ばす。それに応じてか、鼓舞してか中心にいる彼に迫り来る。
部下A「おっしゃぁ!!テメェを殺せば金がたんまり入るんだよぉぉぉ!!!」
一人間合いが入ってきた。男は手にしたナイフを突き出してくるが、メビウスは身体を反らす程度で躱し、流れるように拳を顔面に突き出す。
部下A「ゴブァッ…!!!」
見事にめり込み、男は白目を向きながら鼻血を出して倒れた。
部下B「死ねぇぇぇ!!クソガキィィィィ!!!」
今度は真反対から別の男が現れ、メリケンサックで殴り掛かる。頭部に入る前にメビウスは男が手放したナイフを取り、メリケンサックを武装する腕、その関節部に突き刺す。
部下B「うぐぁぁぁぁぁぁ!!!??痛えぇぇぇ!!何しやがるんだ!このガキ…」
あまりの激痛に悶絶しながら大声を上げる。訴えかけるが、容赦なく頭を掴まれて膝蹴りを喰らわされた事で彼も気絶して仰向けとなった。
足裏が地に着くと、こちらに向けられた殺気を察知して振り返る。視線の先には黒い拳銃を構える五人の部下がいた。
メビウス「撃つか…」
そう確信すると、彼の両手足が青く染まり出した。放たれるオーラが炎の如く揺らめく。
次の瞬間、メビウスは音速で五人の前へと迫った。明らかに今までのとは比べ物にならなかった。
部下C「なっ…!?」
部下D「速っ!?こいつ、いつの間に…」
身の危険を感じて、焦りながら引き金を引いた。迷い無く放たれた弾丸は照準がブレていたが、メビウスに迫っていた。
メビウス「鈍いよ」
だが、焦る事無く弾丸を躱して五人の男達に二つの拳を何発も打ち込んだ。目にも止まらぬ速さで繰り出されたそれは数秒後に止むと、男達は気絶してこの場で倒れた。
モハメド「何してんだ!テメェら!!量で勝ってんだ!大勢でかかれ!!」
遅く無力な自身の部下に腹を立て、指示した。とはいえ、それは頭の良いものとは言い難いものであった。だが、応じなければ殺される。彼を殺さなければ自分達の人生は終わる…その焦りとこうなる事を想像できない低脳さを持ち合わせる部下は指示通りに動き出す。
包囲する大勢の部下が一気に攻めてくる。だが、メビウスが加速を発動した。それにより周囲の時間が遅くなった。部下の走る速度は無に等しく、静止していると言っても過言ではなかった。
メビウスは目にも止まらぬ速さで空間内を動き回る。青い光が部下達の合間合間をすり抜けて、通り抜けると彼らは白目を剥いたまま殴られたのかその箇所が凹んでいた。一体一体、確実にトドメを刺していた。
そうして、メビウスが彼らの外に立って歩き出した時、加速は止まった。
モハメドの部下は地に伏して山のように積まれていた。ここまでかかった時間はおよそ0.2秒であった。
モハメド「なんだぁ…?」
瞬きする間もなく一掃された事に目を丸くし、開いた口が塞がらなかった。
メビウス「…次はアンタだ、モハメド・タイソン」
睨みつける冷たい眼差しを向けながら指をさす。
高らかと告げられた宣告を前にモハメドは動揺する事も腹立てる事も無く、深呼吸で自身を落ち着かせた。
モハメド「…餓鬼が、ぶち殺すぞ」
意外な事に出た言葉は凍てついた怒声であった。
メビウス「マジかよ、そりゃ意外だわ…」
想定外な事に目を大きく見開く。
メビウス自身は好戦的な性格では無いが、まさかの事態に驚きながらもやむを得ないと拳を握り締めた。
モハメド「覚悟しとけよ」
直後、メビウスにゆっくり近付いてくる。その中で双方の拳を打ち付けると、想像もつかない金属音が鳴り響いた。
メビウス(拳から金属音?異様な感じ…能力者か)
腰を低くして青い拳を構える。緑の瞳は最後までモハメドから離さなかった。互いの間合いが縮まっていく。
先手を打ったのはモハメドであり、硬化した剛拳をメビウスに向けて突き出した。
メビウス「当たる訳ないでしょ!」
すかさず高速で走り出して、攻撃を回避する。剛拳が地面に当たった直後、そこにクレーターが発生した。中心に割れ目が入り、小石程度の瓦礫が宙に舞う。
メビウス「おいおい!マジでクソゴリラだとは思わねぇじゃん!?」
モハメドの破壊力に度肝を抜き、目を大きく見開く。当たれば間違いなく死ぬと直感で理解した。
短期戦で決着をつけると決めたメビウスがモハメドの顔面に目掛けて横蹴りを入れる。
モハメド「やっと俺の恐ろしさがわかったか!」
確かに直撃した。だが、硬質化した皮膚に痛みは無かった。逆にメビウスの脚に反動が生じる。
メビウス「馬鹿痛え!!」
苦痛で顔が歪む。微かながら脚を負傷したが、骨折の心配は無い。
だが、隙を逃さずモハメドが片手でメビウスの脚を掴んだ。
モハメド「散々ナメやがってよォ…!わからせてやるよ!!」
メビウス「うおっ!!?」
モハメドがもう片方の手でも掴みながらハンマー投げの選手のようにしてメビウスを振り回す。
メビウス「うわああああああああ!!!」(マズイな…!これじゃあ…!!)
抵抗する事も出来ず、なされるがままであった。
モハメド「ぶっ飛びな!!」
手を離した事でメビウスは勢いよく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
メビウス「がぁっ…!!」
あまりの威力と痛みに目を見開き、呼吸が止まった。そのまま地面に伏してしまう。急いで立ち上がろうとするが、上手くいかず四つん這いで身体を支えていた。
少し時間が経過したおかげか息をする事が出来、なんとかして呼吸を整える。
メビウス(硬質化か…見た目に変化は無いけど、あの強度ならそれが最有力だろうよ)
戦闘の中でモハメドの能力を見抜いた。硬質化、自身の肉体を鋼鉄と同等の硬さになるもので、拳一つで床を砕けたのもそれが理由だろう。
少し回復したメビウスはふらつく身体でなんとか立ち上がる。
モハメド「強ぇなァ、テメェ…人なら死んでるぜ?」
下卑た笑みを浮かべながら見下すような発言をする。完全にメビウスに勝てると確信しているのだろう。
メビウス「なぁ、アンタ…どーゆーつもりでこういうのやってるの?」
嘲笑うモハメドの言葉を無視し、問いかける。その様子や声色からかなり真剣である事が伝わってくる。
モハメド「あ?わかんねぇかよ?奴らに敗北と屈辱と絶望を味わせて勝利の愉悦に浸ってんだよ、俺が強い事を思い知らせてるんだよ!」
高らかに堂々と嬉々としながら答える。それは非常に聞くに耐えない醜悪なものであった。
メビウス「…くっだらねぇな」
呆れたと言わんばかり言葉を吐き捨て、馬鹿だと可笑しそうに笑う。
モハメド「んだと?」
メビウス「そちらは多数だってのに自分の力だと思ってんのかよ?そんなちっちゃいプライド(くだらないもの)の為に殺されるなんてよ、馬鹿みたいだろ」
嘲るものから静かな怒りへと変わり、モハメドを睨みつけた。
モハメド「んだと?」
どういうつもりだと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。
メビウス「俺はよ、家族無くしてるんだ。そういうの二度と繰り返さない為にも戦ってるんだよ…」
息を吐いて、自分の意志を述べる。それは彼の戦う理由でもあった。
それを聞いたモハメドが鼻で笑う。
モハメド「くだらねぇのはテメェだ!正義のヒーローかよ!」
メビウス「ヒーローで結構!少なくともアンタみたいな裸の王様でお山の大将のよりマシなもんだと思ってるよ!」
馬鹿にする言葉を一蹴して声を張り上げた。直後、全身から青いオーラが放たれ、メビウス自身を纏った。それはメビウスの背後へと移り、人型を模した肉体は浮遊した。
モハメド「なんだァ?そいつは…」
異様な出来事を目の当たりにし、目を凝らす。よく見ると、メビウスの両手足は元に戻っていた。
メビウス「俺は正義組織クロノス社 戦士No.2 ヒカリノ メビウス!アンタは俺がぶっ倒す!」
意志を抱いたまま高らかに自身について名乗る。背後に現れた人型の青い化身はメビウスの能力であり、名はソニック・スターであった。
モハメド「正義組織がどうした!所詮テメェはガキ!為す術なく死ぬんだよ!!」
恐れなど無いと豪語すると、メビウスを確実に殺す為に全身を硬化しようとした。
だが、一瞬モハメドの前に青い残像が現れ、瞬時に消えた。目にした当の本人は認識出来なかった。
メビウス「死ぬか…悪いけど、もう決着はついたよ」
両手をズボンのポケットに突っ込み、モハメドに背を向けながら歩き出した。
モハメド「あ?何言って…」
理解できず、問いかけようとした。次の瞬間、モハメドの肉体に得体の知れない衝撃が襲った。
それは一度で終わる事なく、二度三度…幾度となくその身に受けた。受ける威力は弾丸のよう、まるで生身でガトリング砲を受けるものであった。
モハメド(な、何が…!?)
当然ながら理解が追いつかなかった。硬化しようにも出来ず、避ける間も無かった。モハメドにとっては長く感じたが、実際は二秒程度のものであった。
経過した直後、モハメドは白目を剥きながら傷だらけの身体が膝から崩れて倒れていった。
メビウス「…じゃあな、後は地獄の閻魔にでも裁かれな」
去る前にモハメドに対してそう告げた。
その頃、一人残された権力者は自分だけでも助かろうと非常口へと向かっていた。
権力者「おのれ!終わってたまるか!こんなところで捕まってたまるか!」
焦った様子で身を潜めながら静かに走っていた。そうしてドアノブに手をかけて、扉を押す。
月光が権力者を照らし、先の光景を目の当たりにする。ようやく逃げ出せれる…そう思っていた。
剣「お前の野望もそこまでだ」
だが、既に待ち伏せしていたのか鞘に納めた太刀を権力者に向ける。剣の後ろには大勢のCSFがおり、ボウリング場を完全包囲していた。
権力者「ふ、ふざけるな…!お、お前ら正義組織が私を捕らえるなどあってはならないのだ!!」
みっともない事に口から出るのは自身の権力を強く主張するものであった。
剣「生憎、腐った権力に屈する気は無い。俺も、クロノス社もだ」
だが、無駄だと強く豪語する。冷たい眼差しに確固たる意志、威厳のある張り上げた声が権力者を怯ませ、無駄だと悟らせた。膝から崩れて白目を剥いた。
翌朝、モハメドや権力者を含めた関係者全員が逮捕された。裏闘技場の件は問題として報じられ、世間から大バッシングを受ける事になった。
メビウス「よーっす!剣!」
現場付近、夜明けに身体を向ける剣の名を呼びながら近付いてきた。
剣「あぁ、お疲れ様」
元気な様子と声を聞いたからか安心感を覚え、優しく微笑んだ。
メビウス「さっきぶりと言った感じかな?大丈夫?怪我してない?」
明るく振る舞いながら心配して剣の身体を眺める。
剣「大丈夫だ。メビウスの方も大丈夫か?だいぶ怪我しているみたいだが」
静かに笑いながら安心しろと促す。同時にメビウスの事も心配する。自分よりも明らかに怪我しているようにも見えたからだ。
メビウス「大丈夫!大丈夫!なんのこれしき…」
元気よくいくが、脚に少し痛みが走る。先程の傷が響いたのだ。
メビウス「痛てててて…なんて言いながら全然ダメそうだわ」
跪いて両手でその脚を抑える。不甲斐ないと恥ずかしいところを見せたと思いながら苦笑いを浮かべた。
剣「よくやった、本部に戻ろう」
屈んでメビウスの肩を組みながら、クロノス社へと向かった。
メビウス「…志狼さんのおかげさ」
褒められた事に謙虚に振る舞うが、心做しか嬉しかった。メビウスの脳裏にはその志狼と呼ぶであろう男の後ろ姿が過ぎっていた。
メビウス「なぁ?剣、良かったらこの後ゲームでもやんない?未来隊長なら快く貸してくれるだろうし」
剣「安静にしろ。というか、カプセルベッドの中に入るからやれないだろ」
メビウス「…あー……あれの中に入るのか…」
何気なく楽しそうな雑談を交わしながら二人はこの場を去った。
次回
第参話 「黒ノ狩人と悪魔ノ子」




