第壱話 「焔ノ剣士」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
思い出すのはかつての記憶、小学校を卒業する前の頃…
白髪の少年 邪光 剣の前には赤いマントをつけた大人の亡骸が転がっていた。
剣「親、父……」
その光景を前にして静かに呟く。頬に涙が伝う。
潤んだ赤い瞳が正面を向く。映るは長い丈と振袖が特徴の黒装束の男、その顔は赤く光る片眼を持つ黒い仮面で隠されていた。
仮面の男「斬るか?この私を…」
振り返って、剣を見据える。
その態度は毅然としており、得も言えない底無しの雰囲気を醸し出していた。彼から感じ取れるのは未知なる恐怖、圧倒的な無限なる恐怖であった。
剣「…よくも……!」
男を見るや否や、静かに且つ激しい怒りが湧き上がる。それは恐怖より勝っていた。
気が付けば、小さい身体は青年のような大きさでスリムながらも鍛え抜かれた筋肉質なものへと変化していた。
胴体は黒のロングコートや赤いマフラーといった格好に身を包み、片手には黒い太刀が握りしめられていた。
迷いなく剣は仮面の男に刃を翳した。
剣「よくも、親父を…!!」
静かに、確実に相手を殺すと言わんばかりの怒りが表情として、焔として出てきた。
次の刹那、剣が仮面の男に接近した。
仮面の男「憤怒か…」
圧倒的な怒りを前にしても、静かにそう呟いた。
数秒もせずに間合いに入ると、焔を纏った片刃を振るった。
だが、突如として剣の視界に赤いノイズが走った。
瞬時に晴れた時、目の前にいたはずの仮面の男は消えていた。
剣「何処…!?」
周囲を見渡そうとした直後、全身に力が抜けた。
剣(なんだ…!?力、が…!!)
そのまま膝をつき、うつ伏せに倒れる。突然として起こった出来事に理解が追い付かない。
だが、無情にも頭上に仮面の男が立ちはだかる。
剣がゆっくりと表を上げると、赤い瞳の先には仮面の男が見下ろしていた。
仮面の男「全て、無意味だ…」
無慈悲に吐き捨てる。片手に赤い輪郭が輝く包丁状の黒い大剣が発現した。
仮面の男「これで最期だ…さらばだ!邪光 剣!!」
告げると同時に掲げた大剣は振り下ろされた。巨大な刃は剣の肉体を一刀両断しようと降り掛かる。
息を吹き返して目を覚ますと、勢いよくベットの上で横たわっていた身体を起こした。
場所は白い部屋へと変わり、質素なものであった。
剣「…夢、か……」
悪夢だったと瞬時に自覚する。
全身からは汗が流れ、白いパジャマが濡れていた。
呼吸は荒く、肩で息をしていた。
しばらくして、落ち着きを取り戻した剣は歯を磨いたりなど身支度を整えた。
着替えた服装は夢で見たあのままのものであり、赤い瞳を持つ片目は前髪で隠れていた。
準備を終えた剣は扉の前に立ち、ドアノブを掴んだ。
微かながら脳裏に悪夢が過ぎったが、瞳を閉じたまま一呼吸する。
剣「…行くか」
払拭した後、確固たる意志を胸に自室を出た。
「剣ー!」
少しして、剣が廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
聞き馴染みのあるそれに反応し、振り返った。
剣「メビウス」
見覚えのある姿を目にして、安堵のあまり微笑む。マフラーで口元は隠れているが…
声の主は剣の親友 メビウスであった。
斧のような頭部と片目を隠す前髪が特徴の白髪に緑色の瞳といった容姿に明るめの雰囲気を纏う。首には青いマフラーが巻かれ、同色のジャケットと手袋の服装をした好青年であった。
メビウス「んー?どうした?なんか暗いね?悪いもの見た?」
剣「まぁ…悪夢、をな」
子供のように純粋なメビウスは問いかける。だが、剣の様子を一目で見抜いていた。それに当の本人は何とも言い難い様子でいた。
ご覧の通り、二人は長い付き合いであった。
メビウス「そっかー、そりゃあ嫌だったね」
能天気に、当たり障りの無いように返しながら剣の隣に並ぶ。そのまま流れるように二人は歩き出した。
メビウス「どうする?おすすめのアニメでも教えようか?」
剣「気持ちは有難いが、観る機会が無くてな…」
そのまま他愛のない話を繰り広げた。
メビウス「ありゃ、そう?…んで、これから依頼?」
剣「あぁ、そうだな。だから未来隊長の元へと向かう」
何の前触れも無く話を変えるが、剣は難無く返した。
メビウス「案の定だねー、困ったら俺に言ってよー?」
尊敬と愕然が過ぎるが、すぐに切り替えて揶揄うような笑みを浮かべながら肘で剣を突く。
剣「気持ちはありがたいが、メビウスにもあるんだろう?依頼」
メビウス「あー…そっか、これ以上増えたら面倒くさくなるね」
剣とメビウスを含めた十人…総称して戦士の任務について語る中で、剣がふと気になった方へと目を遣る。
赤い瞳に映るのはその戦士と呼ばれる者達であり、各々が二人とは似て異なる行動をしていた。
剣「っと、もう着いたようだな」
そうこうしていると、剣は目的の場所に辿り着いた。
横には大きな両扉があり、すぐさま視認して足を止めた。上の黒いプレートには白い文字で『隊長室』と記されていた。
メビウス「そっか!んじゃ、また後で!」
剣の言葉を聞いて理解すると、すぐさま別れを告げた。その速さは正に豹であり、間も無くして姿を消した。
剣(相変わらず速いな…)
気楽に振る舞うメビウスを見届けながら微笑む。そうして一人になった剣の表情は真剣なものとなり、軽く戸を叩く。
「入って良いよ」
扉の向こうから穏やかで若い声が聞こえる。その声に招かれた剣が扉を開けた。
隊長室の中に入り、高級なエグゼクティブデスクの前に立つ。その横には大きなテレビとゲーム機、それらに纏わるゲームソフトが置かれていた。
剣「邪光 剣、ただいま到着しました」
姿勢を正して、椅子に腰掛ける男に報告する。
男は少し長い黒髪に青い瞳を持つ穏やかな目付き、フード付きのロングコートが特徴の白の装飾に黒を基調とした衣装を纏っていた。
男「よく来てくれた、楽にしていいよ」
正義組織 クロノス社の隊長である男 未来は顔の前で手を組んでいた。
未来隊長の言葉に応じて、直立のまま楽にした。真剣な表情で、ただ真っ直ぐに顔を向けた。
未来隊長「さて、早速だけど、依頼について話をしよう」
前置きせずに本題に入ろうと、懐から一枚の紙を取り出した。それを受け渡されると剣は手にすると同時に紙に記された文章に目を通した。
剣「“軍事基地が襲撃にあった”と、場所はR市街地区…」
未来隊長「どうやら誰かがオーバーランを起動して暴れているらしい」
事の内容を理解した剣に未来隊長が補足を入れて説明した。資料の下にはその“オーバーラン”と呼ばれる兵器とその操縦者らしき人物の写真が貼られていた。
オーバーランは六つの腕、四つの脚、縦に並んだ二つの狼の頭を持った黒銀の装甲に赤く光った眼の巨大機械兵器であり、名の通り蹂躙する兵器であった。
また、A〜Zまでの市街地区の一つ R市街地区にマークが記され、これはその出来事が発生した箇所を示すものであった。
未来隊長「20年前の大戦で使われる予定だったけど、完成前に終わってしまった事で、以降は誰一人として起動していない大きなガラクタだよ」
軍事基地で破壊活動を行っている兵器 オーバーランについて、この世界での歴史を用いて説明を行った。
操縦者の顔は赤髪に黒い瞳、顔の中心には切り傷があるのが特徴で、危険人物だと一目でわかる。
未来隊長「そして、そのオーバーランを操縦しているのはハンス・オルトロス…手に負えない問題児の元軍人だよ」
その男 ハンスと呼ばれる人物についても言及した。
剣「確か狂犬と…」
彼自身もご存知であり、ハンスに対して呆れていた。そんな反応をしながらも文章に目を通していると、ある疑問が過ぎった。
剣「何故、未完成品の兵器を操縦が出来て…?」
未来隊長に訊ねた。未完成品の兵器をただの人間が操縦するなど、普通に考えて有り得ないと思ったからだ。
語弊があった事に気付いた未来隊長が目を瞑りながら思考する為、少し間を置く。
未来隊長「失礼、兵器としては完成している。けれど、まだその名前には相応しくないんだ」
謝罪の言葉を添えた後、整理した言葉にすぐさま訂正した。たったその言葉、少し考える時間を要するべきものを剣は瞬時にその意図を読み取った。
剣「コズミック・コアがまだ導入されていない…?」
未来隊長「流石だ」
導き出した答えを聞いた未来隊長は頷いた。
未来隊長「元々は何かしらの能力を行使する予定だった。まぁ、その"何か"はわからないままだけどね。一説には神様のような力でも使うんじゃないかって囁かれていたみたい」
穏やかに喋るが、淡々としていた。まるで噂或いは情報でも語るかのように
剣「わからない感じで?」
未来隊長「設計図等が破棄されたからね、見ても聞いてもない僕には一切わからないよ」
曖昧な内容に剣が訊ねると、未来隊長はそれを肯定した。
剣「それで…今回の依頼で、俺は何を?」
未来隊長「うん、オーバーランとハンスの討滅だよ」
再度確認の為、未来隊長に真偽を問う。その返答は断固たる決意の表れにして、冷徹に切り捨てる善悪の判断、そして当然の結果であった。
場面は変わって軍事基地、幾つもののコンテナが並ぶ中心には指示系統である立派な建物が聳え立っていた。あらゆる機械兵器が整備され、テストとして操縦も行われていた。
だが、今では建物は崩壊され、炎に包まれていた。
多くの軍人はそこら中に横たわり、機械兵器も何機かは鉄屑と化していた。それもこれも、全てはオーバーランが原因であった。
ハンス「ハハハ!よくもこの俺様を辞めさせやがったな!自業自得だぜ!!」
自らの手で殺めたのにも関わらず、力尽きた彼らを見下しながら嘲笑っていた。
ハンス「さて、次は!」
微かに赤く光る目が横を向く、その先には建物が並ぶ街が広がっていた。
ハンス「俺様を嘲笑い、否定してきた街のヤツらも残らず殺してやるぜ!!」
浮かべる笑みとは裏腹に怒りと憎悪が心で湧き上がる。
彼の凶行は止まる事は無かった。それはオーバーランも例外ではなく、街に向かおうと前進し始めた。
「ヤツを通すな!何としてでも止めるんだ!!」
CSFと記された黒の帽子に黒のジャージ、インカムといった服装をした人達が隊列を組み、確固たる意志でオーバーランに機関銃を向けた。
CSF…それはクロノス社に所属する特殊部隊の事を示す。彼らはCSFに所属する隊員であった。
ハンス「アァン?なんだ?邪魔くせぇ蟻だなァ!」
向けられる銃口に臆さず、オーバーランは止まらなかった。
CSF隊員A「総員!撃て!」
指揮する一人が声を上げる。それが合図として、躊躇わず銃声が幾度となく鳴り響く。
放たれる弾丸に瞬く閃光。しかし、それらは全て鋼鉄の装甲に弾き返されてしまった。
CSF隊員B「馬鹿な…!銃弾が効かないだと!?」
その事実に絶望し、呆然とする。皆が同じであった。
CSF隊員C「リーダー!兵器の使用を許可してください!」
不利な状況を覆そうと指揮する者に訴える。
CSF隊員A「無理だ!最早我らにその手段は残されていない…!」
だが、軍事基地にある操縦可能な兵器は尽く破壊され、彼らが持つのは遠距離用の機関銃と近接用の刀のみであった。
悔しさのあまり歯を食いしばり、拳を握り締める。
ハンス「意味ねぇよ!殲滅する事を目的に造られたオーバーランに、そんなへっぽこな鉄屑が…!」
愚かだと笑いながら右手に握りしめられていたレバーを動かす。ハンスの操縦に応じて機関銃が施されたオーバーランのアームの一つがCSFの隊員達に向けられる。
ハンス「効く訳ねぇだろ!!」
吊り上がる口角に大きく見開いた目、人差し指に当たるレバーのスイッチが押される。
刹那、銃口から実弾が連射された。通常よりも大きいそれは隊員の命を確実に奪い、数人の犠牲を出した。断末魔も助けを乞う言葉も何一つ出せないまま
CSF隊員C「と、とんでもない威力だ!!」
あまりの実力差に戦慄する。このままでは自分も死んでしまうと脳裏に過ぎって、後退る。
CSF隊員A「諦めるな!何としてでも、ここから先には通すな!!」
だが、自身を含めて彼らを鼓舞しようと声を張り上げ、それでもとオーバーランに向けて連射し続けた。
ハンス「だーかーらー!意味ねぇって言ってるだろぅが!学習しろよ!!」
当然、弾丸は一発もオーバーランの破壊には至らなかった。愚鈍と思いみっともねぇと嗤いながら今度は先端にハサミを持った二つのアームが撃ち続けているCSF隊員を押し潰そうと伸びてくる。
CSF隊員A「うおおおおおおお!!!」
諦めてたまるか、死んでたまるか、心で何度も唱えながら抗い、声を張り上げる。彼の銃撃は止む事は無かった。
その時、オーバーランが何かを感知し、警告音がコックピット内に鳴り響いた。
ハンス「あぁ?なんだ…」
何事かと反応し、瞬時に目を横に遣ろうとした。次の瞬間、オーバーランに高熱の何かが直撃して、爆発を起こした。それは焔の斬撃波であった。
ハンス「うおっ!?」
あまりの威力にオーバーランは軽く吹き飛ばされる。その事態に操縦者も驚いていた。
CSF隊員A「今のは…!!」
先程の斬撃に見覚えがあった。“もしや”と、瞬時に振り向いた。恐れていた隊員も同じく、そこに顔を向ける。
CSF隊員C「邪光 剣さんだ!!」
瞳に映るのはクロノス社の戦士が一人 邪光 剣であり、赤いマフラーと黒いロングコートが風で靡いていた。
剣「…生き残っている隊員はすぐに撤退を、まだ息のある負傷者は連れて行ってください」
辺りを見渡して瞬時に状況を把握し、的確な指示を出した。かなりの被害である事は一目瞭然だ。
CSF隊員A「あぁ、わかった」
CSF隊員C「り、了解です!」
聞き受けた二人、その中で怯える隊員はまだ意識がある者を担ぎながらこの場から離れた。
CSF隊員A「後は、頼んだ…」
自身の仲間を理不尽に、無残にも奪ったハンスを断ち斬ってくれと言わんばかりに横で静かに伝える。
剣「了解、引き受けた」
真っ直ぐな意志を心にし隊員の依頼を承ると、オーバーランの前に出た。対比して指揮していた彼は担いでいた隊員を手伝い、後退した。
ハンス「クッソ…!誰だァ!?俺様の邪魔をするヤツは!!」
操縦してなんとかオーバーランを起こすと、周囲を見渡した。赤く光る瞳が邪光 剣を捉え、今この場にいる敵は彼一人だと知る。
ハンス「テメェは…」
見覚えのある姿、心当たりがあると言わんばかりに目を凝らす。
視認したハンスが鼻で笑い、口角が上がる。
ハンス「焔の剣士か!つまんねぇ正義を掲げて人の為世の為ってかァ!?」
闘争心が滾ったのか、剣を殺せば有名になれるという根源的な欲望か、どちらにせよ楽しみと言わんばかりに声が上がり、拡声器のように空間に鳴り響く。
剣「何が目的で破壊を行う?」
平然としながら静かに問いを投げた。赤い瞳は凍てつくように鋭くオーバーランに向けていた。
ハンス「んなの、決まってんだろ!」
赤く光る瞳、ニヤケ面を浮かべながら一つのスイッチを押した。
瞬間、オーバーランの後ろから数多のミサイルが火を放ちながら飛行し始めた。狙いは逃げた隊員達と先にある街であった。
ハンスは剣の殺害より先に今、心の中で渦巻く衝動と感情、そして欲望を優先した。
ハンス「全員殺して!全部ぶっ壊すんだよ!!」
嘲笑うような声色、明らかに爽快感を覚えていた。
そんな耳障りな動機又は宣言を耳にした剣は容赦など不要だと決断した。
突然として上空を通り過ぎたミサイルに身体を向けた。すると、剣は腰を低くして腰に納めた太刀にを。握り締めた。
剣「焔技…」
ドスの効いた声が静かに唱えた。瞬間、弧状の白刃が一閃、空間を斬り裂いた。
剣「火斬翔!」
抜刀と共に現れたのは焔、刃に纏うそれが斬撃波として宙を翔る。
瞬く間にミサイルを切断し、爆破を起こした。広がる爆炎は他全てのミサイルを誘爆した。
ハンス「クッソ!邪魔するってなら!まずはテメェからだ!!」
邪魔された事に腹を立てて、標的を剣に変える。前進して接近しながら何の武装も無い鋼鉄のアームを突き出した。
だが、剣は全てを見越していたと言わんばかりに高く跳ぶ。アームは地面にめり込み、破片を叩き出す。
片手で持つ柄を両手で握り締め、宙に舞う身体を捻る。
剣「ハァッ!!」
そのまま旋回し、焔の如く橙色に光る刃が鋼鉄程度のアームを切断した。
ハンス「なっ!?馬鹿な!?そんな矮小な刀で!俺様のオーバーランの腕を斬り落とした!?」
想定外の事に驚愕し、圧倒的な実力差を前に恐れを抱いた。
一方の剣は落ち着いた様子で綺麗に着地、片手で太刀を握りしめながら静かに振り返る。
赤い瞳はオーバーランを、操縦するハンスに睨みを利かせた。それは“これ以上の破壊を繰り返すのならば断ち斬る”という警告であった。
ハンス「なっ…!て、テメェ…!!その目はッ…!!!」
だが、彼の意志など当然知らないでいた。目前の剣を見てある人物と重なり、過去の出来事が脳裏に過ぎった。
それは未来隊長が述べた通り、入院させた士官を連想させていた。
ハンス「ぐっ…!」
瞬間、頭痛が走る。不快な感覚が胸の中を覆い尽くし、腹の底から怒りが沸騰してくる。
ハンス「腹立つなァ…!クッッソ!腹立つなァァァ!!」
感情のままに怒声を上げる。顔を真っ赤にして目と口を大きく開ける、さながら野生の猿のようであった。
ハンス「あの時と同じだ!!テメェも俺様を否定する社会のゴミだァァァッ!!!」
荒れ狂いながら握りしめていたレバーのスイッチを引き金のように引いた。瞬間、実弾が何発も放たれる。
剣「暴れるか!」
だが、剣は素早く太刀を振り回し、迫り来る弾丸を尽く斬り落とした。
しばらく撃ち続けていると、弾切れを起こした。幾度押しても砲弾が出てくる事は無かった。
隙をついて剣が超高速でオーバーランに接近した。
ハンス「クソッ!死んでたまるかァァァ!!」
怒りと恐れを混ぜた叫びを上げるが、何処か冷静であり、目の前にあるレバーを後ろに引いた。すると、オーバーランの下の頭が口を開き、そこから砲身が現れる。
砲口に青色の光が渦巻きながら収束していく。
剣「レーザー砲…!させるか!!」
一直線に突っ走りながら両手に握る太刀を構えた。
ハンス「来たなァ!!」
危機を予見したのか、引いたレバーの上にあるスイッチを押した。すると、上側の狼の頭が遠吠えを上げた。
剣(こいつは、何か来るな…!)
具体的にはわからないが、嫌な予感がした。
それは見事に的中し、一つの倉庫から突き破るようにして複数の何かが現れた。それは等身大サイズでマネキンに酷似した人型の機械人形であり、剣の方へと走り出していた。
剣「仲間か…!」(電波で操っているな)
迫る敵を視認する。その内の一体が間合いに入り、殺そうと広げた手をこちらに伸ばす。
剣「ハァッ!!」
だが、顔を逸らして攻撃を躱す。同時に刃を振るい、機械人形の胴体を上下に両断した。数秒して斬られたヤツから発する光は消え、機能を停止した。
続けて他の機械人形も迫り、一体また一体と斬っていく。だが、如何せんながら数が多くて、なかなか対応しきれなかった。
斬られずに済んだ一体が剣の背中に重くのしかかる。
剣「ぐっ…!」(重っ…!)
等身大で鋼鉄で造られている。あまりの重さに剣の顔が歪み、歯を強く食いしばる。
続いて他の機械人形も抱きつくかのようにして動きを封じられ、埋め尽くしながら押し潰していく。
一切の抵抗が許されない剣を見て鼻で笑う。
ハンス「ざまぁないぜ!さぁ!このまま跡形もなく燃えカスになれよ!!」
余程気持ち良い様子で、トドメと言わんばかりに後ろに下げたレバーを握り締めた。
その時だった。
剣「焔技 怨!!」
機械人形で山のように埋め尽くされたそこから焔が突如として発現し、激しく燃え盛る。
ハンス「あぁん?まだ息してんのか?」
剣がまだ生きている…という事実を知る。
だが、どうせ動けまいと思い込みながらレバーにあるスイッチに親指が迫る。
焔技「焔技…!」
続けて唱えようとした。
だが、それよりも先にハンスが押した。瞬間、下の口から青く野太い光線が放たれ、とてつもない衝撃を起こした。
地面を削りながら進み、そのまま機械人形の山をも飲み込んで跡形もなく消し飛ばした。
勝利を確信したハンスが高らかに笑う。
ハンス「ざまぁねぇなァ!!為す術もなく死ぬとはよォ!!」
もうこれで自分に勝てる者は誰一人としていない、勝利の快感に溺れ、愉悦に浸っていた。
だが、そんな理想は上を向いた瞬間に砕けていった。
ハンス「な、なっ…!?」
目にしたのは上空から降下してくる剣であった。
彼の全身は焔に包まれており、手には太刀が握り締められていた。赤い瞳はオーバーランを捉えていた。
ハンス「あ、有り得ねぇ!?確かに身動きを封じた!あのまま消し飛ばしたはずだ!!」
想定外の事実に衝撃を受ける。
剣「陽炎…瞬間移動で躱した!」
端的に述べた刹那、切先がオーバーランに向けられた。確実に斬ると明示するものであった。
ハンス「し…!死ねるかよぉぉぉ!!」
焦りながらも何とかしようとレバーなどを動かす。それに呼応して一番上の主砲が起動し、剣に照準を定める。
剣「焔技!」
砲弾が来ると予見したので再び唱えた。すると、瞬く間もなく姿を消した。
ハンス「消えた…!?いや、違ぇ!!」
錯覚するも解釈を改め、動かそうとする。刹那、オーバーランが持つ数本のアームに繰り出された焔の斬撃が無数に現れ、迸った。
剣「閃火繚乱!」
斬撃が止んだ直後、オーバーランのコックピット前に再び姿を現す。
ハンス「馬鹿め!そこなら叩き潰して…」
嘲笑いながら動かそうとするが、違和感を覚えた。なんと、動かそうとしていたアームが斬り落とされたのだ。
ハンス「なっ!?いつの間に!?」
遅れて気付き、目を見開いた。切断した鉄の残骸は大地に落ちると、とてつもない轟音と共に粉塵が舞った。
だが、位置のせいか剣も、コックピット内にいるハンスも当たる事は無かった。
剣「ハンス、破壊と殺戮の限りを尽くした後…なし得た先にあるものはなんだ?」
静寂を裂くように声を発し、問いかけた。依然と赤い瞳はハンスに遣っていた。
ハンス「そんなもの、決まっているだろ!俺様を見下し!嘲笑うクソッタレな社会を根絶やしにする事だ!散々理不尽な目に合わせてきやがったヤツらに地獄を味わせるんだよ!この、オーバーランでな!!」
瞳が歪ながら赤く輝き、怪獣のように怒り叫んだ。言葉から声の様子からして恨みが込められていたのがわかる。
剣「理不尽か…確かにな」
意外にも俯く彼から出たのは共感であった。
ハンス「あ?」
想定外だったのか、顔を訝しめた。剣の行動に疑問を抱くが、本人が淡々と語り続ける。
剣「俺も親父を失った、仮面の男にな。今も尚、そいつの行方も姿も見つからないままだ…」
ハンス「成程な!誰も助けてくれねぇってか?!ならよ!俺様と共にこの世界を…」
何処か悔やんでいるように思えたのか、嘲笑いながら協力を持ちかけた。
剣「だが、俺は諦めていない。戦士として、親父との約束の為に…その使命としてクロノスの街を護り続ける。そして、いつか親父の敵を討つ…」
だが、意志を言葉にして拒み、白刃の切先を再びハンスに向けた。その意志は刃の如く真っ直ぐで屈強なものであった。
剣「ハンス・オルトロス!お前の憤怒…」
前に突き出した白刃が後ろに引かれ、霞の構えに入った。
剣「ここで断ち斬る!」
そして、ハンスに対して堂々と宣告を下した。
ハンス「よく吠えるな!テメェに同情しようとした俺様が馬鹿だったよ!」
確固たる意志を宿した言葉に恐怖せずに嘲笑う。操縦しながら剣に殺意を向けた。
それに呼応して、オーバーランが動き出そうと振動が起こる。吹き飛ばされはしないが、かなり大きめの揺れであり、正に地鳴りのようであった。
前進するオーバーラン、剣は急いでハンスを討とうとコックピットに向かって走り出す。
だが、オーバーランに飛び乗ろうと大勢の機械人形が現れ、瞬時に剣に襲いかかる。どうしても阻むつもりだ。
剣「焔技…!」
既に予見していか落ち着いた様子で淡々と唱える。言葉に反応して全身から焔が発現する。静かに且つ激しく燃え盛る。
瞬間、剣は回転斬りを繰り出した。
剣「嵐火宴!!」
すると、焔の嵐が巻き起こり、全ての機械人形を空高く吹き飛ばしながら灰燼と化した。
嵐が止むと同時に隙をついてオーバーランに施された機関銃が連射を開始、全てが剣に襲いかかる。
だが、彼は瞬時に駆け出しながら弾丸を躱していく。
ハンス「すばしっこいなァ!ネズミかよ!!」
銃口が追跡するも、あまりの速さに追いつけなかった。だが、別の手段としてオーバーランの背部から四つのミサイルが放たれる。
剣「斬!!」
頂上を飛び移って、目の前にある砲台を両断した。
直後、剣はミサイルの存在を視認する。それと同時に残された三つのアームも襲いかかる。
だが、焦る事なく振り返ってそのまま走り出しながら指先をミサイルに照準を合わせる。
剣「焔技 弾!」
指先に橙色の光が灯る。放たれた焔の弾丸がミサイルに直撃した。瞬間、爆発が発生し、他のミサイルの誘爆を引き起こした。
あまりの威力に爆風が巻き起こり、剣の肉体が吹き飛ばされる。だが、なんとか体勢を立て直して、宙に舞いながらもオーバーランの分厚い機体に刃を突き立てた。
前進する巨大な機械兵器と街までの距離は僅かなものであり、軍事基地から抜け出すのも時間の問題であった。
だが、まだ間に合うと確信すると同時にこれ以上は行かせないと決意し、剣は迷いなくコックピットに接近する。
ハンス「野郎!俺を殺して止めようってか!?ナメんな!」
先読みをしてか対処しようと三つのアームを動かそうとする。だが、剣の方が速かった。
剣「焔技…!」
気が付けばコックピットの近くにおり、手にする刃には焔が纏っていた。
ハンス「嘘だろ…!!!」
赤く光る瞳が大きく開き、絶望の表情を浮かべる。心の中で死を感じ取った。一瞬、終わったと諦めていた。
剣「灯火ノ太刀!」
だが、無情にも焔の刃は振り下ろされ、袈裟斬りとして繰り出された。
コックピットを覆う装甲を突き破り、ハンスをも断ち斬った。
そのせいか将又、焔がシステムに影響を来たしたのかオーバーランは動かなくなり、赤く発光する目は消えた。
剣がコックピットに刻まれた切断した穴を覗くと、そこには焼き斬られたハンスの亡骸があった。
確認を終えてか、腕時計を操作してクロノス社の本部にいる未来隊長との連絡を取った。
剣「こちら邪光 剣…ハンスを斬り、オーバーランは停止した。」
自身に課せられた任務を終えた事を報告した。その言葉は何処か淡々としていながらも寂しそうにも聞こえた。
未来隊長「うん、ご苦労様。戻っておいで」
剣の頑張りを認めてか優しい言葉で労い、帰還を命じた。
剣「了解…一つ、訊いてもよろしいですか?」
応じるも、少し前から抱いていた疑念を問いかけた。
未来隊長「良いけど、どうしたの?」
その言葉を聞いて不思議に思いやながらも、質問する事を許可した。
剣「ハンス・オルトロス、書類には傷害罪や軍規違反などでヘルズケージに収監されていた…かなり厳重だったあそこから何故、脱獄できたのか?」
疑問を耳にした未来隊長は静かに考えると、決意して伝える事にした。
未来隊長「実はね、昨夜ヘルズケージが爆発されたんだ」
剣「何…!?」
唐突に告げられた事実に驚く。未来隊長が続けて話しをする。
未来隊長「…その影響で数人の凶悪犯罪者が脱獄した、伝えそびれてしまって申し訳ない」
一切の言い訳もせず、自身の失態に責任感と後悔を抱いていた。それは声だけでも伝わってくる。
剣「…ハンス以外に脱獄したのは?」
だが、未来隊長を責めずに現状を確認しようと問いかけた。ベルズケージの件に専念しようと決意したからだ。
未来隊長「現在進行形でCSFが調査している、判明次第報告していくよ」
剣「了解、爆破を起こした犯人は?」
未来隊長の指示に応じて、続けて問いかけた。だが、そこで剣にとって意外な言葉を耳にした。
未来隊長「詳細は不明だけど、”仮面の男”を見かけたっていう情報が…」
仮面の男、それを聞いた剣の目が大きく見開き、息を呑んだ。同時にかつての記憶を呼び覚ました。
小学六年生の頃、ある廃工場にて英雄と呼ばれた剣の父親 斬希と激闘を繰り広げ、その斬希を殺めた者 それが仮面の男であった。
剣の深層心理にあった恐怖が、父の死と仮面の男の底知れない強さがトラウマとして、今朝の悪夢として映し出されていたのだ。
未来隊長「…ごめん、無配慮だったね」
申し訳なさそうに出た言葉で剣は我に返った。
剣「いえ、問題無いです」
瞬時に落ち着いた雰囲気で返した。まだ仮面の男に対する復讐心はあるが、真偽が定かじゃない今は抑えるべきだと必死に念じた。
未来隊長「一先ず帰還し、ゆっくり休んで」
剣「了解」
未来隊長の指示に剣は応答した事で通信は終了した。ふと、地平線に沈む夕日に顔を向け、立ち尽くしたまま見つめた。
剣(…妙な胸騒ぎがするな)
仮面の男に対する疑念や不安、この先の行く末など複雑な心境を抱いたまま夕日が完全に沈むまで見届けた。
【クロノス社】
→邪光 剣が所属する正義組織で、クロノスの街というA〜Zに区分された市街地区を護る。任務(組織から与えられた業務)や依頼(市民からの要望)に応じて彼らは動く。
【戦士】
→邪光 剣を含む10人の少年で構成した組織の幹部。まだ若いながらも実力を有する。
【CSF】
→クロノス特殊部隊であり、機関銃と刀を装備している。
【能力】
→人々が持つ特殊な力。例えば邪光 剣の場合は焔で、炎を操る事は勿論、対象の熱を感知する事が出来る。
【ベルズケージ】
→言わば刑務所であり、能力の有無や種族問わずして犯罪者を収監する。ヘルズケージ内は能力の使用を出来ないように無効化にするシステムが働いており、屈強なCSF隊員もいるが、何者かによって破壊された。
【仮面の男】
→剣の父親 斬希を殺した因縁の相手。その正体は不明で、未だに行方もわからず捜査は難航している。
次回、第弐話 「青ノ閃光」。




