水の都編11 海底神殿
投稿前に確認したらブクマが100件到達できました。感動のあまりスクショしてしまった……本当にありがとうございます!
一瞬の輝きかもしれませんが、初の三桁ブクマに酔いしれておきます。感謝!
「ようこそメイ様、分神様、カイル殿。ここがユリウス様の居城である海底神殿でございます」
「わぁー! しゅごーい! キラキラしてゆ!」
「本当だ。幻想的だな……」
朝一で迎えに来たミラさんと宿で合流した私達はすぐに海底神殿まで送ってもらった。
カイルに挨拶とかしなくてもいいか一応聞いてみたけど、必要ないと返ってきたからだ。
「おしゃかなもいっぱい泳いでるねー」
「頭の上に魚が泳いでるって、なんか変な気分だな」
ここは海底神殿の入り口。
私達が今現在立っている広い空間の先に階段があり、数段登った先に立派な作りの玄関――といっていいのかわかんないけど――がある。
深海なので地上の光は届いていないが、明かりはあるみたいなので視界に困ることはない。
この空間はドーム状に切り取られてて、頭上を見上げればたくさんの魚達が通り過ぎていった。
私とカイルは海底神殿の非日常感にワクワクドキドキしているのに、腕の中にいるちびフーちゃんは特に言うことはないのか眠そうにしている。
でもそんなちびフーちゃんよりも、今の私には目の前にある光景の方が大事です。
「……おいししょう」
「お嬢。よだれ」
「はっ! いけないいけない」
カイルに指摘され慌てて口元を拭う。朝ご飯を食べてなかったのでつい。
ここは海底なのでいるのは深海魚ばかりかと思っていたが、見た感じそういうわけでもなさそう。美味しそうな魚がいっぱいだ。
どういう原理なのかわからず不思議だけど、神様の領域なんだからなんでもありだよね。
「お食事をご用意させていただいてますので、どうぞこちらへ」
「わーい! ありあとーミラ!」
「ありがとうございます」
「くぁ……」
少し笑っているような声音のミラさんに先導されて私達は神殿の中へ入る。
その最中、限界が来たのかちびフーちゃんは眠ってしまった。寝る子は育つ。ぬいぐるみだけど。
「んむ? ……あー!」
「ちょ、お嬢! 走ると危ないぞ!」
少し長い廊下をとことこ歩いていると、前方の廊下の角から見覚えのある人物が姿を現した。
それはここにいないはずの人物。その発見に嬉しくなった私はカイルの静止の声を無視して、その人に向けて突撃する。
相手も私の声で気付いたのだろう。こちらに顔を向けると、その場に止まって私の到着を待っていてくれているようだ。
そして私はそのままちびフーちゃんごとその人の足にぼすんと飛びつく。するとすぐに大きな手の感触が頭に降ってきた。大好きな温度に私の機嫌も鰻登りというやつだ。
「えへへー。本物のフェルしゃまだー。なんでいりゅんでしゅかー?」
「迎えに来た。旅行とやらは楽しかったか?」
「あいっ! あのねあのね、海で泳いだりねー、おしゃかな釣ったりねー、しょれからね――」
「――はいはいストーップ。土産話をするにはまだ早いぞー」
フェルトス様の背中の影から顔を出したのはガルラさん。
「あ、ガーラしゃんもいりゅ!」
「いるよー」
まさかの保護者二人の登場に私の嬉しさゲージが振り切れる。
自分から言い出した旅行だし、楽しかったけど、それでもやっぱり大好きな保護者と離れていたことに無意識に寂しさが募っていたのだろうか。
そんな寂しさを紛らわせるように私は抱きついたフェルトス様の足にぐりぐりと頭をすりつける。
するとフェルトス様は仕方がない奴めと言わんばかりの顔で私を抱っこしてくれた。やったね。
「兄上が飯を用意して待っている。さっさと行くぞ」
「あーい!」
ウキウキ気分で返事を返すと、フェルトス様は来た道を引き返し始める。
「そうだ、忘れていた。メイ」
「あい?」
しかしすぐに足を止めると私を呼んだ。
「アヤツの名は何といったか?」
そういうと、フェルトス様はチラリとカイルに視線を向けた。
初めて紹介した時に名前は教えたはずだけど、フェルトス様は興味のないことはすぐ忘れるからそれは良い。
でもそんなフェルトス様がカイルの名前を知りたがったから、そこには少しだけビックリした。
だけどすぐに気を取り直した私は、私の初めての眷属となった人の名前を笑顔で答える。
「かいりゅでしゅ!」
「……カイル、か」
「あい!」
「わかった。――カイル」
体ごと後ろに振り向いたフェルトス様はカイルの名を呼ぶ。
そう、初めてフェルトス様がカイルの名前を呼んだのだ。
「――ッ! は、ハッ!」
そのことにかなりの動揺を見せたカイルだったけど、すぐに持ち直して頭を下げた。
「……オレの娘の眷属になったのならば、貴様もオレの配下だ。今これより我が冥界に自由に出入りすることを許す」
「――ハッ! ありがとうございます!」
「それと……いや、今はいいか。兄上を待たせている。早く行くぞ」
「はいっ!」
それだけいうと、フェルトス様はまた廊下を進む。
後ろでガルラさんがカイルに絡んでるのを横目で見ながら、私は心に浮かんだ疑問をフェルトス様にぶつけた。
「フェルしゃま」
「なんだ」
「どうちてかいりゅを眷属にちたってわかったんでしゅか?」
そう。カイルを眷属にしたことを私はまだフェルトス様に報告していない。
私の時と違って見える範囲で明らかな変化もないし、魔力量だって急に増えたってわけじゃない。
ちびフーちゃんは知ってるけど、フェルトス様と繋がってるわけじゃないから知る機会はない筈なんだけどな。
「見ればわかる」
「はぇー」
と思っていたらまさかの返答。さすが神様。さすがです。
そしてフェルトス様は勝手知ったる他人の家と言わんばかりにズンズンと迷いなく進む。足が長いので一歩が大きいです。
でもガルラさんもカイルもミラさんもみんな遅れることなくスタスタと着いてくる。ちくしょう、みんな足が長いぜ。私も早く大きくなりたい。そして翼が欲しい。フェルトス様とお揃いのかっこいいやつ。うへへ。
そうやって私が自分の将来の姿をニマニマと妄想――げふん。想いを馳せていると、いつの間にか目的地に到着していた。
「おぉ、来たか。待っていたぞ姪っ子よ!」
「むぇ? ――わぁ、おいししょー!」
かけられた声に驚きつつも目を向けると、真っ先に料理がたくさん並べられた机が目に入る。
「我より飯か。さすがはフェルの娘だ」
すごく美味しそうな料理の数々に目を輝かせていると、すでに着席しているユリウス様(仮)が笑っているような声が聞こえた。
というか確実にユリウス様だろう。私のこと姪っ子って呼んでたし。
そんなことよりもう私の目はご飯から離せない。お腹が空いているんです。
「待たせたな」
「構わん」
フェルトス様は私を抱っこしたままユリウス様の隣にまで行くと、そのままそこにあるクッションに腰を下ろす。
そしてあぐらをかいた足の上に私を座らせたあと、ちびフーちゃんを回収した。
寝ているちびフーちゃんをガルラさんに託し、その後何か指示を出していたけど私の耳には何も届いていません。
ご馳走を前にして意識がそっちに集中しているせいですね!
「そんなに腹が減っているのか?」
「あいっ!」
ユリウス様からの問いかけにそれはもう元気よく答える。
だって朝一番でミラさんが迎えに来てくれたからまだ朝ご飯を食べてない。
だからさっきからずっと私のお腹からぐーぐーとご飯の催促が鳴りっぱなしなのです。
ちなみに催促音はフェルトス様に運ばれてる途中から鳴りだしてます。
「そうか。ならば好きに食べるがよい」
「いいんでしゅか!」
「勿論だ。これらはお主の為に用意したのだからな」
「わぁ! ありあとごじゃましゅ、ゆりうしゅしゃま!」
「うむ! たくさん食べて大きくなるといい」
ユリウス様はその大きな手でわしわしと私の頭を撫でてくれた。
フェルトス様と同じくらい大きな手。そしてなんだか少しだけひんやりしてる。でもすごくあったかく感じる不思議。
そんな風に撫でてくれてる手の感触をわにゃわにゃ楽しんでいたら、ふいに感触が遠のいた。
どうやら終わりのようだ。
ちょっとだけ残念な気持ちが沸き上がるけど、その後すぐに頭は空腹感に支配されてしまったのでご飯を食べることに集中する。
「――いたらきましゅ!」
私が食べやすいようにいろんなお皿を目の前に置いてくれたフェルトス様に感謝の言葉を返す。
さて、何から食べようかな。
大きな魚のお刺身もあるし、カニ鍋っぽい物もある。天ぷらやフライなんかもこんもりと用意されていて目移りしてしまう。
でもこれ全部は食べきれないから、食べられる分だけお箸を付けないと。
よし、とりあえずまずはお刺身行ってみましょうか。
私はお刺身が乗ったお皿から数切れつかみ取り、取り皿に移す。
次に小皿に醬油を垂らして、お刺身にちょっとつけて……いざっ!
「んー!」
これはほっぺが落ちそうなくらい美味しい。
何の魚かわからないけど、とにかく美味しい。脂が乗っててぷりぷりだ。むふふふふ。
「こやつは随分旨そうに食うな」
「そうだな」
「フェルは食べんのか? ガルラに聞いたが最近は飯を食ってるんだろう?」
「たしかに喰ってるが、正確にはメイが作った飯、だな。それ以外はやはりあまり受け付けん」
「ふむ。ならばここにあるものは無理か」
「わざわざ用意してくれたのに悪いな」
「気にするな」
私が目の前のご馳走をひたすらぱくぱくしていると、大人たちは頭上でなにやらお話中。
お腹が少し満たされ余裕が戻ってきた私は口の中のものを飲み込むと、きょろきょろと視線を彷徨わせた。
「どうした?」
「ちょっと……あ、いちゃ。かいりゅー!」
「はいっ! ――どうしましたお嬢様?」
少し離れた机でガルラさんとご飯を食べていたカイルを呼びつける。食事中に申し訳ない。
でもカイルは嫌な顔もせずすぐに私達の机に近付くと、膝をつき用件を聞いてきた。
「えっちょ。かいりゅに渡してあるワインって今持ってゆ?」
「はい、このカバンに入れてあります」
「帰ったや代わりを渡しゅから、今しょれ貰ってもいい?」
「勿論でございます。 ――どうぞ」
「ありあと!」
フェルトス様の膝から抜け出した私は、カイルの差し出したワインを受け取る。
カイルもお酒が好きらしいから晩酌用に何種類か渡してあるのだ。
そしてビールに清酒、ワインあたりを好んでる。特にビールが好きみたい。
ガルラさんと違ってカイルは酒蔵から好きに持っていけない。だからあらかじめ渡しているのです。
ワインの瓶を落とさないようにしっかりと受け取り、カイルにもう一度お礼を言ってまたご飯を食べに戻ってもらった。
そして私はそのまま受け取ったワインをフェルトス様に差し出す。
「あい、フェルしゃま。これどーじょ!」
「……ふっ。貰おうか」
「あいっ!」
どうぞ、とフェルトス様にワインを渡し、私はまたフェルトス様の膝の上に戻り食事を再開する。
今度は何を食べようか。というかお刺身美味しかったからこれで海鮮丼とか食べたい。
でもお米が見当たらないので今回は我慢です。
「もしや、それは噂のアレか?」
「噂?」
「知らんのか? ティルキスを始めロイのじーさんをも虜にしたっていう幻の酒だ」
「なんだそれは。知らん」
「欲しくても手に入らんと有名だぞ。だから余計噂が広がっているらしい」
「そうなのか」
「ティルキスもロイのじーさんも出所を喋らんからな。だが噂が出始めた頃によく冥界へ行っていたということからフェルが関わっているのではないか、とも囁かれてるな」
「そうか」
「そうだ。で、どうなのだ?」
「噂も幻も知らんが、メイの造った酒はティルキスのやつも爺さんも気に入っているな」
「やはりそうか」
「飲むか?」
「もちろんだ」
またもや交わされる大人の会話をもちゃもちゃ食べながら聞く。
いつの間にか私のお酒が幻の酒とまで呼ばれている件について。
え、なにそれ怖い。
ご飯を食べる私の頭上で、兄弟神はワインを酌み交わし上機嫌に語っている。
フェルトス様もいつもより笑顔で楽しそうだ。お兄ちゃんと会えて嬉しいのかな。
そんなフェルトス様の顔を見ていたら、さっきまでの不吉な会話がどうでもよく思えてきたので食事に戻る。
というかユリウス様もフェルトス様もお酒ばかり飲んで料理に手を付けてない。
フェルトス様は仕方ないにしても、もしかしてユリウス様も食べない系の神様だった?
さすがにこの机の上に乗ってる料理を全部私一人で食べるのは無理があると思うんですが!?




