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水の都編12 海神ユリウス様

「ごちしょうしゃまでちた!」


 やっぱり全部は食べきれず、大量に残してしまって申し訳なさが心に募る。

 お持ち帰りとかってありですかね? あとでユリウス様に聞いてみよう。


「美味かったか?」

「あい! ありあとごじゃまちた、ゆりうしゅしゃま!」

「うむ。口にあったのなら何より。あと我のことはユーリと呼ぶがよい。おじさん、でも良いぞ!」

「あぅ、えっとユーリしゃま?」

「うむ。……おじさんでも良いぞ?」


 私が名前を呼ぶとユリウス様は満足そうに笑い、さらに頭を撫でてくれた。

 ひんやりしてるけど不思議と温かいこの手の感じが癖になりそうです。


 というかおじさん呼びを念押ししてきたんだけど、もしかしておじさんって呼んで欲しいのだろうか。

 神様ってぐいぐい距離を詰めてくるな。まだ会ったばかりだから無理だけど、いつかもっと仲良くなれたらおじさんって呼んでみたいと思います。


 そしてさりげなくユリウス様にまで特別な呼び方を許してもらえたみたいだけど、私も成長しているのでそろそろこの舌足らずなんとかならないかな。

 フェルトス様の『フェル』は頑張れば言えたし、せめてガルラさんとカイルの名前くらいちゃんと言えるように練習しておこうっと。


 一気には無理だけど、ちょっとずつ頑張る!


 そうやって密かな決意を固めた私は、次に気になっていたことを口にする。


「ユーリしゃまはワインどうでちた? お口にあいまちたか?」

「うむ。噂に違わぬ味であったぞ。我もフェルと同じであまり酒は好まぬが、これは美味いと感じる。もっと飲みたいほどだ」


 お褒めの言葉を聞いて嬉しさと照れの感情が湧き上がってくるが、すぐにそれは引っ込み私は忘れていたお礼の存在を思い出す。

 いろいろお世話になったのに結局まだお礼どころか挨拶すらまともにしていないじゃないか!


 私は慌ててフェルトス様のお膝から抜け出し、ユリウス様に向けてペコリと頭を下げる。


「しゅみまちぇん! あいしゃちゅが遅れまちた! はじめまちて、メイです! しょの、ミラのこととか、ご飯とか、ねっくれしゅとか、いりょいりょありあとごじゃまちた! しょれと、これかやもよろちくお願いちまちゅ!」


 私は顔を青くしながら言い忘れていたことを一気に捲し立てるように紡ぎ出す。


「ふふ、ははっ! 良い! 許す! だから気にするな。こちらこそよろしく頼むぞ、メイ!」

「あ、あい!」


 するとにっこり笑って許してくれたユリウス様。とてもいい人です、感謝。

 私が安堵の息を吐いているとフェルトス様の腕が伸びてきて、またお膝に戻された。そしてポンポンと軽く頭を撫でられる。

 フェルトス様を見上げるといつものねむねむ顔なんだけど……何か変だ。どうしたんだろう。今日はなんだかいつもより甘やかしてもらえている気がする。嬉しいけど!


「ふむ。もしやフェル……お主――寂しかったのか?」

「…………」

「ははは! 図星か! 愛い奴め」

「余計なことは言わなくていい」

「照れるな照れるな! ハハハハハ!」

「……煩い」


 ユリウス様とフェルトス様のやりとりを聞きつつ私は口元を押さえる。にまにま緩む口を隠す為だ。


 フェルトス様可愛いです!


「わたしもしゃびしかったでしゅ!」

「……そうか」

「あい!」


 ひしっとフェルトス様に抱きつきにっこり微笑む。

 フェルトス様も少しだけ表情が崩れて優しい顔つきになった。

 私はそれが嬉しくてさらにぎゅっと抱きつきフェルトス様に顔を埋めると、頭を優しく撫でる大きな手を感じる。幸せです!


「メイよ」

「あい。なんでしゅか、ユーリしゃま?」


 フェルトス様に埋めていた顔を上げユリウス様を見上げると、そこには私を真剣に見つめるユリウス様の海色の瞳が私を見ていた。

 そこでようやく私はユリウス様をしっかり見た気がする。


 長い綺麗な青い髪に凛々しいお顔はどことなくフェルトス様に似ている気がする。でもユリウス様のがお兄様だからむしろフェルトス様がお兄様に似てるのか?


 肌の色も青みがかっていて、まるで海が人の形をとったみたいな、そんな不思議な神様。

 フェルトス様と違ってほぼ人間と姿が変わらないけど、唯一違うのは腕が四本あること。


 とっても優しくて素敵で男前なユリウス様。


「どうした兄上?」


 しばらくじっと見つめあっていたけどユリウス様は何も言わない。

 不思議に思ったのだろうフェルトス様が呼びかけるも、ユリウス様は答えない。


 どうしたのかと二人で首を傾げていると、ユリウス様の表情が崩れる。

 そして一度目を閉じゆっくり開くと、ようやく口を開いた。


「フェルのことは好きか?」

「あいっ! 大しゅきでしゅ!」

「……そうか、そうか」


 私の答えを聞いたユリウス様はそれはもう慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、満足そうに小さく呟いた。


「兄上?」

「なに。お主が幸せそうで良かったと思ってな」

「何を言っている? オレは昔から幸せだ。姉上と兄上はいつもオレを気にかけてくれているし、ガルラもそばにいる。兄上、オレは冥界にいてもちゃんと幸せだ。恵まれていると思っている。……娘もできたしな」

「……お主は普段言葉が足らんくせに、こういう時は恥ずかしげもなく言葉を紡ぐな」

「そうか?」

「そうだ」

「うんうん」


 兄弟の会話に口を挟むのも悪いと思い黙って聞いていたけど、私もそう思いますユリウス様。頷きすぎて首が取れそうですよ。


 フェルトス様ってときどき急に饒舌になるよね。



 そしてほっこりな兄弟愛を私が感じていると、使用人的な人達が部屋に入ってきて残った料理を片付け始める。

 それを見た私は恥を忍んでユリウス様にいくつかの料理の持ち帰りをしてもいいか聞いてみた。

 快くオッケーを出してくれたユリウス様に感謝しつつ、美味しかったお刺身を始め気になっていたけどお腹の具合と相談して泣く泣く諦めたよくわからない魚の煮付けを頂いた。

 不細工な顔に肉厚でまんまるな形。魚に詳しくないけど、この子はこの姿で泳げるのだろうか。ちょっと気になる。


 あとロブスターみたいなでっかいエビも頂きました。

 鋏がおっきくて、触覚が長くて、真っ黒の殻を持ったエビ。こんがり焼かれてて美味しそうな匂いだったんだけど、これもまたお腹と相談した結果諦めたやつだ。


 そうやってせっせと欲しいものを影に収納している私の横では、使用人さんによってテキパキと机が片付けられていく。

 そしてあっという間に綺麗になった机の上には新しくジュースが入ったコップが置かれた。

 ありがたくそれを頂いていると、突然ユリウス様が手を叩き合図を送る。


 するとすぐに楽器を持った人や綺麗な衣装を着た人達が部屋に入ってきた。


「本当は食事でもしながら楽しんでもらおうと思っていたのだが、メイは食事に集中していたからな」

「あぅ。ごめんちゃい」

「なに、気にするな。そんなことよりやつらの歌や踊りは中々のものだぞ。きっとメイも気にいるはずだ」

「あい!」


 そしてユリウス様がまた合図を送ると演奏が始まった。

 この世界に落ちてきて、こんなステージのようなものは初めての体験。すごくワクワク感が掻き立てられる。

 綺麗な歌声に、素敵なダンス。しばらくそれらを食い入るように見つめていたら、演者のお姉様が私の方に近付いてきて手を差し出した。

 状況が飲み込めずお姉様の手と顔を見比べていると、フェルトス様が私を持ち上げ立ち上がらせた。そして行ってこいと背中を押す。


 少しだけ恥ずかしいけど差し出されたお姉様の手を取った私は、導かれるままステージへ向かう。

 ダンスは踊れないけどお姉様や周りのみなさまにリードされながら辿々しく踊る。最終的には下手くそながらノリノリで踊ってしまっていた。みなさま乗せるのがお上手です。


 フェルトス様もユリウス様もガルラさんもカイルも、みんな笑って楽しそうにしているのを見ていたら私も嬉しくなってテンションも上がる。そしてさらに盛り上がるという良い連鎖が起きていた。

 きっとみんなは子供のお遊戯会を見る親の気分なのだろうけど、盛り上がってるので別にどうでも良いかなと流した。


 そうして楽しい時間は過ぎていく。

 ダンスだけじゃなくて歌まで歌わせてもらった私はそこで体力が尽き、今はフェルトス様のお膝の上で休んでいる。


 さっきまでの賑やかな音楽とは違い今度はしっとりした音楽が流れる中、大人達の話し声が混じって聞こえる。

 でも私には意味のある言葉に聞こえず、どちらかといえば子守唄のように感じた。

 だんだんと下がってくる瞼に抗えず私は瞼を閉じる。


 そしていつの間にか眠ってしまっていたようで、目が覚めると家のふかふか雲クッションベットに包まれていた。


「あえ?」

「起きたか」

「あ、フェルしゃま。おはよごじゃましゅ」

「おはよう」


 まだ現状をうまく把握できなくてキョロキョロと周囲を見回していると、フェルトス様が頭を撫でてくれた。


「もうここは冥界だ。貴様が寝ている間に帰ってきた」

「……ユーリしゃまに、お別れのあいしゃちゅ言えなかったでしゅ」

「どうせまた会える。気にするな」

「あい……」


 久しぶりに寝落ち帰宅をしてしまったことにしょんぼりする。

 やっぱりもうちょっと体力つけないとですね。


「おーいメイ。ミラさんから預かったクラーケン、食糧庫に入れておいたからなー」


 しゅんとしていた私にガルラさんから報告が入る。

 そうだ、クラーケンのこと忘れてた。受け取ってもらえてて助かります!


 やらかしてしまったことは仕方がない。

 いつまでもしょげていてはいけないので、とにかくベットから降りた。


 聞けばもうとっくにお昼は過ぎていて、おやつの時間になっているらしい。

 少し寝過ぎてしまったようだ。


 私は急いで荷物の整理をする。その前にお土産だけは先に別にしておいた。

 そして影の中とリュックの中をひたすら整理整頓しているだけであっという間に時間は過ぎ、夕食の時間。

 せっかく出入りを許されたのでカイルも誘おうと思ったけど、ガルラさんに休ませてやれと言われたのでやめておいた。


 何故か久しぶりに感じる家族三人の晩御飯。

 あのねあのねと旅行中の出来事を話しながら和やかな食事をする。クラーケン退治のシーンではよく頑張った、すごいぞと二人に褒められ有頂天になってたのは秘密。


 そして食事後には用意していたお土産を渡す。

 海岸で見つけた綺麗な貝殻。一番綺麗で形の良いものをフェルトス様に。その次に綺麗でいい感じの貝殻をガルラさんに渡すと、二人とも喜んでくれた。

 他には町で買ったユリウス様を型取った木彫りの人形やイルカなんかのかわいい置物類。


 自分用にもかわいいシャチのキーホルダーを買ってよく使うカバンにつけました。


 そうやって三人でわいわいと騒ぎながら夜は更けていく。

 ノランさん達にもお土産を買ってあるのでまた今度町へ行った時に渡したいと思います。


 あ、ユリウス様にも今度お世話になったお礼渡さないと!

 お酒もっと飲みたいって言ってたから詰め合わせを送ろうかな。


 というか神様達なんだかんだみんなお酒好きですね!

 お礼にはお酒渡しておけばいいみたいになってる。いや、こちら的には楽でいいけど飲み過ぎには注意してください。あと製造量増やそっと。

 カイルも眷属になって正式に冥界の仲間入りしたことだし、もっと手伝ってもらえば……いける!


 ちなみにちびフーちゃんは海底神殿で回収されたあと、フェルトス様から分けられていた魔力が尽きてただのぬいぐるみに戻っちゃいました。

 よく寝ていたのは魔力の省エネと回復の為だったようです。


 だからまた魔力を注げば動くようになるらしいけど、ここに本物がいるんだから必要ないだろうって言われちゃった。

 なのでちびフーちゃんにまた会えるのは、旅行とかでフェルトス様と長時間離れることがある場合になるのかな。

 ちょっと寂しいですがフェルトス様が拗ねちゃうので我慢しようと思います。


 こうして私のはじめての旅行は無事終了した。

 いろいろ事件もあったし、関係性なんかも変化したけど、全部丸く収まった気がするから良しとしよう。


 新しい出会いもあり、ちょっとした成長もできたし、とっても充実した旅行でした。

 また他の場所とかいろんなところに行って、いろんなものを見てみたいですね!

これで水の都編は終わりです。次回からはまたぼちぼちと番外編に戻ります。

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