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水の都編6 いざクラーケン退治

本日四本目の投稿です。

あと半分です、お付き合いよろしくお願いします。

 カイルさんが落ち着いたところで、私達はクラーケン退治へと向かうべく準備を始めようとした。

 借りた釣り道具は影に片付けておき、影にストックしてあるポーション二種類を多めにいくつかカイルさんへと手渡す。

 何かあればすぐに使えるようにだ。普段からストックは渡してあるからカイルさんのカバンにもすでに入ってるけど、念には念を入れておかないと。

 私も一応ポーションのストックはリュックにも入ってるけど、影に入れたままの方がすぐに取り出せるので自分の分は今回は影に入れたままにした。

 ミラさんにも渡そうとしたけど大丈夫だって断られた。強者の風格があります。


「お待ちくださいませ、神の御使い様」

「うわぁ」


 そして簡単な準備も終わり人が少なく絨毯を広げても邪魔にならないような場所に移動しようとしていた私達の前に、会いたくない人が姿を現した。

 忘れるには早すぎる。とても嫌な声。再会するにしても早すぎる。とても嫌な人。

 性懲りも無く私達に話しかけてきたのはカイルさんの()お父さん。

 でもさっきみたいな偉そうな態度ではなく、敬意を感じるような態度だ。

 神の御使いと口にしていたことからミラさんのことかと思ったが、なぜかおじさんが見ているのは私。そして隣にいるちびフーちゃん。私達が何故かじっと見られていた。


 そんなおじさんの視線を無視し私はチラリとカイルさんを見上げる。

 特になんの反応もなく落ち着いた様子でおじさん達を見つめ返しているのを確認した私は、小さく安堵の息をもらし再びおじさん達に視線を戻した。


「何かご用でしゅか? わたし達いしょがしいんでしゅけど?」


 声に刺々しさが出てしまうのは仕方がないだろう。

 いろいろあったのもそうだけど、まだここは港の近く。人の目がちょっと多い。

 それにこの人は多分お偉いさんだろうし、無駄に注目を集めてるのも嫌なんだよね。

 面倒事はさっさと切り上げてクラーケン退治に行きたいのが本音です。


「尊いお方々のお時間を奪ってしまい誠に申し訳ありませんが、お願いしたき儀がございます」

「ぎ?」


 なんだそれはと首を傾げていたらカイルさんがこっそり教えてくれた。

 つまりお願いごとがあるから聞いてくださいってことらしい。なるほど。


「ふーん。で、お願いごとってなんでしゅか?」

「……実は誠に失礼ながら、先程お話しされていた内容が耳に入ってしまいまして」

「話?」

「クラーケン退治のことにございます」

「はぁ」


 いや、だとしたらいつからいたのこの人達。もしかしてカイルさんを諦めきれなくてストーカーしてた?

 ならば今度もしっかりと私が守らねば。

 そう思いながらカイルさんを後ろに庇うように立ち位置を変える。

 そしておじさんに続きを促すように見つめれば、再度話し始めた。


「恥ずかしながら今回のクラーケン騒動。本来ならば領主である私が真っ先に対応せねばならないはずなのですが、こちらも少々立て込んでおりまして。なかなかそちらまで手が回らなかったというのが実情で――」

「――しょういうのいいでしゅから、手短に用件だけお願いちまちゅ。いしょいでゆので!」


 おじさんの言い分を私はバッサリと切り捨てる。

 言い訳じみたことを聞いてやるほど優しくはありません。何せ私は怒っているのだから。私のカイルさんに横柄な態度を取ったこと許していません。


 大人な自分が少しばかり心が狭いんじゃないかと言っているけど、まだ自分は子供だから仕方ないと言い訳をして逃げておきましょう。


「…………では申し訳ありませぬが用件のみお伝えさせていただきます」

「どうじょ」


 少しだけ挟まれた沈黙にどういう感情があるのかは知らないし興味もない。

 この人にどう思われようと私はどうでもいいのだ。


「……御使い様はそちらにいる我が息子を護衛としてお連れしているようですが、なにぶんそやつは何をやっても半端で不出来な息子でして。護衛としては力不足かと存じます」

「はぁ。しょれで?」

「なのでそのような不出来な息子ではなく、代わりにここにいる我が息子と娘を護衛としてお連れくださいませ。この二人はそやつと違い優秀な子らでございます。息子は剣を、娘は魔法を得意としており、先のクラーケン退治のときにもクラーケンめを追い払った実績がございます。きっとそこのカイルスフィアよりも役に――」

「――結構でしゅ」


 私はおじさんに最後まで言わせず断りの言葉を口にする。

 何を言い出すかと思えばくだらないことだった。


 仮に、領主のメンツとか建前とか何かそういう関係で、この人達も一緒に連れて行ってくれということなら少しは考えもした。

 でもカイルさんの代わりに連れて行けなんて言われちゃったら断るしかない。


 話題に上がった二人に視線を向けるも頭を下げたまま微動だにしていない。

 この人達もおじさんと同じ考えなのだろうか。

 さっきも、今回も、どちらも一言も発しなかったし、ただ静かに立っていただけだ。それだけでは私には何も判断できない。


「かいりゅしゃんの代わりなんていないし、ひちゅようありまちぇんかや。じゃ、もういいでしゅよね。しゃよなら。行こっ、みんな」

「なっ! お待ちをっ、御使い様!」

「あぁ、しょうしょう。わたしべちゅにみちゅかいとかじゃないでしゅかや」

「――は?」

「ただの観光客でしゅので。しょれじゃ」


 手を振ってお別れをする。

 たしかに私は冥界神(フェルトス様)の娘だけど、ここに何か使命とかがあって来たんじゃないもん。

 ミラさんはユリウス様の命令でここに来たけど、内容は私達の案内だしね。どっちもここの領主への御使い的立場にはいないのです。


「むー。出発前に変なのに絡まれちゃったね」


 十分おじさん達から離れて姿が見えなくなった頃、私は不満を口にする。


「ハハッ。変なのって、お嬢はさすがだな。あんなのでも一応ここの領主なのに」

セラフィト(うち)の領主様とはぜんぜん違うねー。あの人わたしあんまりしゅきじゃない!」

「申し訳ございません」

「う? 何でミラが謝ゆの?」

「一応この町はユリウス様の加護が強い町ですので……管理が行き届いておらずご不快な思いをさせてしまい――」

「わー、わー! 違うの! しょういう意味で言ったんじゃないの、ごめんね! 個人的にしゅきじゃないってだけで、ゆりうしゅしゃまやミラが悪いって言ってゆんじゃないんだよ!」


 私は慌ててミラさんに謝罪を入れる。嫌味を言ったつもりはなかったがそう受け取られてしまったのなら謝罪あるのみだ。

 ごめんね、ごめんねとひたすらに謝罪をすれば、ミラさんはすぐに許してくれた。ふぃー、感謝!


 そうしていろいろあったが、気を取り直して私達は絨毯に乗り一路クラーケンがいる海域を目指す。

 ちなみに今回の操縦はミラさんに託してある。初めての実践で操縦しながら戦うのは難しいだろうというちびフーちゃんの配慮だ。


 空を進んでいるのでそんなに時間は掛からないが、船だとそれなりに時間がかかりそう。

 それに港で出会ったお兄さんの言う通り海はかなり荒れていたので、むしろ船だと大変なことになっていただろう。主に船酔い的な意味で。


「このあたりですね」


 そして沖合にまで進んだところでミラさんから声がかけられる。

 私は杖を、カイルさんは剣を手に、即座に動けるように緊張感を漂わせた。


「メイ。ヤツが姿を現したら全力で(いかずち)の魔法を喰らわせてやれ。図体はデカいから当てるのは容易いはずだ……できるな?」

「あ、あい! できまちゅ! 頑張りまっ!」

「うむ。頑張れ。人間は攻撃が飛んできた場合メイを守れ」

「ハッ!」

「ミラ。貴様はこのまま操縦だ。できるだけメイが戦いやすいように動いてやれ」

「かしこまりました」


 この日の為――というわけではないけど、私はフェルトス様やガルラさんからいろんな魔法を教えてもらっているので、ある程度は使えます。

 身を守る術を学ぶということで教えてもらっているので一応一通りは使えるようになってるけど、実際に攻撃に使うのは初めてだから緊張します。


「オレ達が出るのは貴様では無理だと判断したときだ。それまでは貴様と人間の二人で頑張ってみろ。……なに。メイの実力ならクラーケン如き楽勝だろう。いつものように気を楽にしてやってみろ」

「あいっ!」

 

 私は今日、魔物の、とはいえ――自分の意思で命を奪うんだ。自分の手で。そのことに緊張している。

 ちゃんとできるかわからないけど、練習と同じようにすれば大丈夫。大丈夫。私はできる子。頑張れメイ。カイルさんを物理的に傷付けたやつを許すな。


 そうやって自分を鼓舞しながら海面を睨みつけた。波が高く、荒れた海が広がっている。一体どこからやってくるのか。


 町では晴れていたが、沖合にくるにつれ空は曇り、周囲の空気が重く感じた。


「人間。貴様もガルラに鍛えられ以前よりかはマシになっている。オレ達もいる。気負いすぎずにやれ」

「ハッ!」


 カイルさんにもちびフーちゃんのアドバイスが飛び、より一層やる気がみなぎったようだ。


「あ、来ましたね。あそこです」


 そうやって気合を入れているとミラさんがあっけらかんと言い放ち、十時の方角を指差す。

 頭からすっぽり被っている布にスリットでも入っていたのか、布からズポっと腕が出てきてちょっとびっくりしちゃった。


 そこから腕が出るんだ……。


 そこは今気にするところじゃないと余計な考えを頭を振って追い払う。

 心の準備は出来ていたのでいつでも来いと、杖を握る手に力を入れる。


「そのようだな。二人とも、準備はいいな」

「あいっ! 頑張りましゅ!!」

「いつでもっ!」

「――来るぞ」


 ちびフーちゃんが最終確認のように私達へと声をかけてくれた。

 その声に私達が力強く答えたと同時、海面が大きく盛り上がり飛沫の隙間にクラーケンが姿を見せた。


 真っ青な巨大な体に、うねうねと海面から飛び出ている足には体の大きさに似合いのこれまた巨大な吸盤。

 空が暗いことと海の水を纏っているせいで青く見えていると思っていたが、素で真っ青な体のようだ。


「にゃ、にゃにこえ気持ち悪――って、わぁ!」

「お嬢!」


 うねうねと動きまわるクラーケンの足の一本が私達の絨毯目掛けて伸ばされる。

 それは真上から私達を叩き落すかのごとく振り下ろされた。


 しかしすんでのところでカイルさんがその足を受け止めてくれ、あまつさえそのまま切り飛ばした。


「………………え?」

「きゃー! カイしゃんしゅごおおおい!!」


 信じられないといった表情を浮かべるカイルさんに私は黄色い声を上げた。私の護衛がかっこよすぎる!


「メイ、ボサっとしてないで魔法を使え」

「ご、ごめんちゃい!」

「貴様もだ人間。呆けてる暇はないぞ、気を抜くな」

「は、はいっ!」


 ちびフーちゃんからの注意に気を取り直す。

 そうだ、今は実践中。命のやりとりの最中なのだ、一瞬の油断が命取り。


 私は改めて大きく息を吸い、吐く。

 そして意識を集中させ雷の魔法を発動させるために魔力を練り始める。


 絨毯はミラさんが操作してくれるし、なにより防御はカイルさんに任せている。完璧に守ってくれるだろう。

 私は余計な事を考えないで、あの気持ちの悪いタコを倒すことを考えればいい。


 あの大きさだ。生半可な魔力量の魔法では仕留めきれないだろう。

 もし半端な攻撃をして逃げられでもしたらやっかいだ。また傷が治ったらこの辺りに帰ってきて暴れるに違いない。だからこいつはここで仕留めておきたい。


 なので一撃だ。

 ちびフーちゃんが言った通り、今の私が出せる全力の一撃を叩き込む。

 私の実力ならクラーケンなんて楽勝だってちびフーちゃんは言った。だからきっと大丈夫。


 うねうねと動く足は素早くて厄介だが、本体の体はほぼ動いていない。あの図体の大きさなら外しようもない。


 私達の頭上からバチバチと危険な音が聞こえてくるが、それは私の魔力で作り出した雷。

 大丈夫、ちゃんと制御もできている。何も怖いことはない。

 その雷を巨大な矢の形に練り上げ、それでもまだ足りないとさらに魔力を込め威力を高めることに集中する。

 オーバーキルくらいで丁度良いのだ。


「――よち、できちゃ!」

「す、すげぇ……」


 暗い空の下、私の作った巨大な雷の光で昼間のように明るくなる。

 直視すれば眩しすぎるくらいだが、生憎私からすれば逆光。眩しいのかクラーケンの動きが鈍っているのが良く見える。


 私は杖の先をクラーケンの体に向けて固定する。

 これは狙いだ。狙撃する場所に狙いを定める役目がある。絶対に――外さない。


「いっけええええええ!」


 これが私の全力です!


 解き放たれた雷の矢は空気を切り裂き真っ直ぐにクラーケンへと突き進む。


 時間にすれば一瞬だっただろう。雷の矢は隙だらけのクラーケンの胴体を的確に貫いた。


 その瞬間。クラーケンから怖気の走る凄まじい咆哮が上がる。

 人の叫び声とはまた違う、よくわからない音に耐え切れず私は耳を塞いだ。


 叫び声はすぐに収まったが、まだ耳がキンキンしている感覚がありどうにも気持ち悪い。

 しかしいつまでも耳を塞いでいるわけにもいかず、私はクラーケンがどうなったか確かめるためも手を放し顔を上げた。


「あ、あえ?」

「お嬢!」


 ふらついてしまったのか倒れそうになった体をカイルさんが受け止めてくれる。


「あ、ありがとカイしゃ……」

「お嬢、平気か?」

「なんかふやふやしゅりゅぅ……」


 この感覚には覚えがある。魔力を使い果たしてしまったときのアレだ。

 その事に気付いた私は眉を顰める。

 たしかに全力と言われたが、本当ならここまで魔力を使うはずじゃなかった。もし外したり、倒し損ねた場合は動けなくなるからだ。

 なのに初めての実戦ということで緊張していたせいか、盛大にやらかしてしまったようだ。私もまだまだです。


「ぁぅ……しょえよぃ、くやーけんはぁ?」

「大丈夫。お嬢の魔法でくたばったみたいだ」

「よか、っちゃぁ……」

「あ、お嬢っ!」


 安心したからだろう、急に体から力が抜ける。


「やりすぎだぞ――馬鹿者。だが、よくやった」

「ふへへぇ――」


 ちびフーちゃんの優しい声と頭を撫でる感覚に身を任せながら、私は意識を手放した。

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