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水の都編4 不愉快

本日二本目の投稿です。

「見つけたぞカイルスフィア」


 ようやく町の観光を再開するべく町へと繰り出した私達は、すぐに観光を中断させられることになった。


 嫌な予感がしつつも背後からの呼びかけに振り返ると、そこには白が混じった青い髪をきっちりと結った威厳のある男性が立っていた。

 それなりの年齢だろうに、鍛え上げられがっちりとした体はまるで年齢を感じさせない風格がある。


 そして彼の後ろにも部下だろう人たちが四人、こちらを――正確にはカイルさんを見つめながら静かに佇んでいた。

 そのうちの一人。カイルさんより少し上くらいの男性がいたのだが、その人はこのおじ様によく似ている。青い髪に青い瞳。親子だろうか。

 その彼の横に立つ同じ年齢くらいの赤い髪を持つ女性は、顔立ちがカイルさんに少し似ている気がした。


 それにしてもまたカイルさんをカイルスフィアと呼ぶ人が現れ、少しだけうんざりとした気持ちがこみ上げる。

 だってそれは昔のカイルさんを知る人だ。

 つまり途中で会ったあのお姉さんのように、カイルさんが会いたくない人の可能性大。現にカイルさんは呼びかけられたのに、いまだにふり返ろうとはしていないんだもの。


 いくら地元といえど大きい町なのに、こんなに高確率で出会うのも因果なものです。

 この人はカイルさんのこと探してたみたいだから例外かもしれないけど。

 やっぱりカイルさんがなんて言っても行き先変えたら良かったかも。


 そんなことを考えつつ私は心の中で気合を入れる。ちょっとだけ怖いけど、今度こそ私が守ります。


「どちらしゃまでしゅか? わたしの(・・・・)かいりゅしゃんに何か御用でしょうか?」


 あえて『私の』という部分を強調しておじ様に伝える。

 カイルさんはもうあなた達のカイルスフィアじゃない、私のカイルさんなんだ。

 せっかくただのカイルとして楽しく生きているのに、嫌な思い出のあるカイルスフィアに連れ戻さないでほしい。カイルスフィアと呼ばないでほしい。彼はもうただのカイルなんだから。


「え、お嬢……?」


 傘を差したままだと邪魔なので、一旦片付けてから私はカイルさんを守るようにおじ様の前に立ちはだかった。

 その私の隣にはちびフーちゃんがぴたりと寄り添ってくれている。なんという頼もしい護衛なのだろうか。さらにはミラさんもすっと私の後ろに来て待機してくれていた。


 二人のおかげで勇気も湧いてきた。さぁ来いおじ様。


 私は精一杯怖い顔を作りながらおじ様を睨みつける。


「……おい、カイルスフィア。この――方達とはどういう関係なんだ」


 そんな私達を目を細めてじっと見つめたあと、おじ様は私達の後ろにいるカイルさんに目を向けた。


 そうですか。無視ですか。嫌なおじ様だ。


「この、方々は――」

「――かいりゅしゃんはわたしの護衛でお友達でしゅ。しょれと、用が無いならもう行きましゅね。しゃよなら。行こうカイしゃん。フーちゃんとミラも!」

「あぁ」

「はい」

「お嬢……」


 私はむりやり会話を終わらせ、ぐいぐいとカイルさんの手を引く。

 向こうが先に礼儀知らずなことしたんだから、こっちが礼儀を尽くす必要なんてないもんね。


「待て。誰か行っていいと言った? 話はまだ終わってないぞ」


 その言葉を聞いたカイルさんの足がピタリと止まる。彼の表情は暗く、強張っているように見えた。


 あぁ、わかってしまったかもしれない。

 この人がカイルさんを酷い言葉で呪い、傷付けた人なんだなきっと。

 あのお姉さんもそうだったのかもしれないけど、でもきっとこの人の方がカイルさんの心に深い傷を負わせて自殺を考える程追い込んだんだろう。


 ただの予想でしかないけど、間違ってもない気もする。


「……リヴィディアナ嬢から聞いたときは半信半疑だったが、貴様の痣が治ったというのは本当だったんだな。神の慈悲だとリヴィディアナ嬢は聞いたそうだがどういうことだ? もしや世界樹の葉が手に入る伝手でもできたか? そうだとしたらようやく出来損ないの貴様にも価値が出てきたというものだ。くだらない家出など取り止めにしてさっさと家へ戻ってこい」


 自分の言いたいことだけをつらつらと並べ立てたおじ様は、カイルさんを睨みつけるように眺める。

 本当に勝手なおじ様――いや、おじさんだ。


 私はカイルさんの手を離して横に並ぶ。

 いざというときは結界を壁のように張っておじさん達の接近を阻止するために。


「ん? おい、カイルスフィア。その腰の剣はなんだ? 何故貴様のような出来損ないがそのように上等な剣を持っている?」

「あ、これはっ!」


 カイルさんが腰に下げた剣を隠すように動いた。

 それが気に食わなかったのかおじさんは眉を顰めてカイルさんを睨む。


「ふんっ。貴様如きにそのような剣は分不相応だ。わしか貴様の兄に譲れ。そういうものは出来損ないの貴様より、わしやレオンハルトのような強き者の腰にこそ相応しいというものだ」


 さぁ、寄越せ。と言わんばかりにカイルさんへ手を差し出すおじさん。

 いや、どうしてそうなるのだろうか。この人はカイルさんが自分に剣を渡すと本当に思っているのだろうか。


 この剣はカイルさんにとって大切なものだ。詳しくは知らないが、フェルトス様がカイルさんにって渡した剣らしい。

 なのでそれはもう毎日大切に扱っているのを私は知っている。

 それに、知らないとはいえフェルトス様()がカイルさん個人に渡したものを取り上げるような真似許せるはずがない。


 そんなおじさんの態度に私の方が少しだけイライラし始める。

 そしてもう我慢できないと文句を言うために口を開こうとしたところでちびフーちゃんに止められた。


 どうして止めるんだろうと思ったのも束の間、ちびフーちゃんに促され隣にいるカイルさんを見上げる。

 するとカイルさんがおじさんへと厳しい眼差しを向けていることに気がついた。

 さっきまでの怯えた雰囲気はどこへやら、そこにはいつもの堂々としたカイルさんが戻ってきている。


「いくら貴方の命令でもそればかりは聞けません。これは我が神よりお嬢様を守れと命を受け賜った品。それを他人においそれと渡すはずがあるわけがございません」

「……なんだと?」

「それに私はすでに貴方とは親子でも何でもないと思っています。もう私に関わらないでいただきたい」

「…………」

「――お嬢様、行きましょう」


 おじさんにそうはっきり告げたカイルさんは、私の傘を手に取り代わりに差してくれた。

 そして優しく私の背を押すとおじさんに背を向ける。


「待て」


 今度はおじさんの静止の声にも足を止めない。


「待てと言っている」


 振り向きもしない。


「――ッ! カイルスフィア!」


 おじさんがただ町中で喚く声だけが響いた。


 カイルさんを見上げると、私を優しい笑顔で見下ろしている。どうかしましたか、とでも言いたげに小首を傾げながら。

 そんなカイルさんを見て私は笑う。

 どうやらカイルさんは自力で呪いを解いちゃったみたいだ。


「貴様ッ、誰に向か――ッ!」


 不自然に途切れたおじさんの声を不思議に思うも、もうどうでもいいとばかりに思考から追い出した。

 あんな人のこと考えるだけ時間の無駄だもんね。


「あれ、フーちゃんどうちたの?」

「なんでもない。行くぞ」

「あーい」


 ついてこないちびフーちゃんが気になり声をかけるも、なんでもないと首を振りすぐに追いついてきた。

 それならばと私も気にせず、隣に来たちびフーちゃんと手を繋いで歩く。

 さて、午前中はウィンドウショッピングをしたので次は何が良いかな。

 観光もいいけど、せっかく海に来たんだし泳ぐのもいいかもしれない。泳げないけど浮き輪で遊ぶのは好きです。海水浴場があるのかは知らないけど。


 でも何より、それよりも大切なことを思い出した私はカイルさんに顔を向けた。


「ねぇカイしゃん。わたし釣りがちたいな」

「釣りですか。うーん、たしかに今の状況なら自分で釣った方が早い気もしますね」

「でしょ」


 どういうことかというと、実は最近この辺りの海に危険な魔物が出現したらしく漁に出られていないらしいのだ。

 そのせいで私達が楽しみにしていたお楽しみの海鮮料理にまだありつけていない。

 お昼は妥協してミートスパゲッティを食べたけど、せっかくここまで来たのにメインがお預けとか耐えられません。

 今回の旅行の一番の目的は美味しい海鮮料理を食べることなんですからね。


「でしたら、ワタクシが良い場所を知っています。そちらならメイ様にも楽しんでいただけるかと愚考いたします」

「わぁしゅてき。しゃしゅがミラ」

「恐れ入ります」


 私は釣りをしたことがないけどやっぱり素人だから釣れないと楽しくないと思っちゃうだろうし、ミラさんが案内してくれる場所なら間違いはないだろう。

 ふふふ、今から楽しみになってきた。

 たくさん釣ってたくさん食べよう。


 幸い今回の旅行の為の事前知識として、魚の捌き方も予習しておきましたから問題なし。実践までしてないのでちょっと不安だけど、カイルさんも一緒に勉強したし二人でなら大丈夫でしょう。

 実際釣りをすることになったし、勉強の成果を見せるときですね。


「しょうだミラ。しょこってタコも釣れたりしゅる?」


 魚もいいけど実は私には他に食べたいものがあるのです。

 この町でソレを探してみたけどそれらしいものが見つからず、密かに肩を落とすハメになりました。


「タコですか? そうですね……多分、大丈夫だと思いますけど」

「やっちゃ! じゃあタコ釣れたらたこ焼き食べたいな!」

「たこ焼き……ですか?」

「タコを……焼くのか? 大丈夫か?」

「え?」


 ミラさんはともかく、カイルさんまで知らないとなると……もしかしてたこ焼き自体がないのかしら。

 私は二人に一生懸命説明したけど、どうにもピンときていないようす。

 じゃあ今までタコはどう料理していたのか聞くと、そもそも食べないとの返答が返ってきた。


 信じられない。この世界はわりとなんでもあると思っていたのに裏切られた気分だ。

 いや、そもそも食べ物認識してないならあり得るのか。タコ自体はいるみたいだし。

 食べない理由を聞いてみたら単純に気持ち悪いかららしい。なるほどわからなくもない。


 でもたこ焼き美味しいし、これは私がカイルさん達に美味しさを教えてあげなければ!

 調理済みなら原型もわからないだろうし食べられる可能性はあるよね。よし、頑張って釣るぞー!

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