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迷子編2 宿探し

前回お知らせし忘れました、すみません。

迷子編には番外編の要素があるので、まだの方は番外編を一通り見てからの方が内容がわかると思います。

 お兄さんと一緒に町へと引き返す為、私は影から杖を取り出す。

 箒は一人用なので乗るスペースはありません。

 そういうわけでおっかなびっくりなお兄さんをムリヤリ杖に乗せて空へ。

 暴れると逆に危ないよって忠告してあげたら静かになったけど、顔色も悪いしガッチリ杖を掴んで離さない。

 もしかして高所恐怖症なのかと思って、森を抜けてからはなるべく低空飛行で町まで戻ってあげたよ。


 そしてさっきお別れしたばっかりの私が戻ってきて驚いている門番さん達に軽く事情を説明する。

 ただ素直に説明するのもややこしいので、森で迷子になっていたところを助けたということにした。

 お兄さんが何か言いたげだったけど、喋らせないことでスムーズに事を運ぶ。


 門番さん達の許可をもらってみんなで町の中へ入る。

 でも私は町に来ても日帰りだから、この町の宿のことはよく知らないんだよね。

 なので門番さんにオススメの宿をいくつか聞いておいたんだけど、お祭りが近いからどこもいっぱいかもしれないとの返答を頂いてしまった。


 たしかにそれもそうだ。

 ちょっと考えればわかるのに、そこまで考えてませんでした。失敗失敗……。


 でも、まぁ、ダメならダメでうちに泊めればいいよね!


 さすがに冥界には入れられないけど、神域内なら魔物もいないし雨も降らないからお布団があればイケる気がする。

 その時はフェルトス様にお願いしてみよう。


 そうやって自分の中でプランを整えて、とりあえずダメ元で宿屋に足を運んだ。


 といっても今日は抱っこしてもらえないし、私の歩幅じゃ移動に時間がかかっちゃうのでお行儀は悪いけど町の中でも箒に乗ったままです。

 すみません町の方々。今回だけなので許してください。


「ガキ」

「なぁに、迷子しゃん」


 このお兄さん私のことをずっとガキと呼ぶので、意趣返しとして私も変な呼び方をしてみた。

 お互い自己紹介してないから仕方ないよね。ぐふふ。


「俺は迷子じゃねぇ」

「知ってるよ。でも今は迷子ってことになってゆからいいでちょ」

「チッ」

「しょんなことより、何か用があったんじゃないの?」

「……テメェ――――か?」

「え?」


 ボソリと呟かれたので、肝心の部分がよく聞こえない。

 だから聞き返したんだけど、なんでもないって鬱陶しそうに言われちゃったので大人しく引いた。


 もう。話しかけておいてそういうの辞めてもらっていいですかね、まったく!


 そんなこんなで門番さんにオススメしてもらった宿屋なんですが、結論から言えば全滅。

 そりゃそうですよね。もうお祭りまで三日なんだもの。


「ちかたない。しょれじゃ家に――」

「おーいメイ殿!」

「う?」


 諦めてお兄さんを家に連れて行こうとしていた私に呼びかける声。

 声のした方へと顔を向けるとノランさんが手を振りながら近付いてきていた。


「ノランしゃん、こんちわ!」

「はい。こんにちは」


 にっこり笑って挨拶を交わす私達。

 目の前にいるノランさんは私服で、今日はお休みの日だ。

 というかさっきまで打ち合わせで一緒にいて、お別れしたばっかりだしね。


 もしかして私が戻ってきたことを知って探してくれてたのかな。

 だとしてもなんの用があるんでしょうか? 忘れ物はしてないよね?


「どうちまちた?」

「いやー。メイ殿が迷子の宿を探してるって聞いたんでね。それでどうでした、見つかりました?」

「うぅん。ぜんめちゅでちた……」

「あはは、やっぱりそうですよね。来てよかったです」

「う?」


 笑顔を崩さないノランさんは、すっと視線を私からお兄さんへと移す。


「お前さんが宿を探してる迷子だよな?」

「……チッ」

「あらら、態度が悪いなぁお前さん」

「テメェには関係ねぇだろおっさん。俺に何の用だよ」

「何って、泊るところないんだろ。だから俺ん家に泊めてやるって言いに来たんだよ」

「え?」

「はぁ!?」


 ノランさんからのまさかの申し出にお兄さん共々驚きに声を漏らす。


「ちょっち狭いけど、野宿よりいいだろ?」

「えっちょ……いいんでしゅかノランしゃん」

「ダメだったら最初から声かけたりしませんよ」


 それもそうか。


「良かったね迷子しゃん。泊るところみちゅかって!」

「……マジかよ」

「マジマジ大マジ。んじゃ決まりな。俺はノラン。この町で門番やってるモンだ、よろしくな迷子の兄さん」


 すっとノランさんがお兄さんに向かって右手を差し出す。

 でもお兄さんはその手を取らずに、パチンと弾いた後吐き捨てるように言葉を発した。

 

「……男の手を握る趣味はねぇ」

「友好の挨拶は大事だぞ迷子君」

「あいにく男と仲良くするつもりはねぇもんでな」

「んー、メイ殿。あんまり言いたくはないんですが、付き合う相手は選んだ方がいいと思いますよ?」

「あ、あはははは」


 いやほんとノランさんのおっしゃる通りすぎて反論もできず、私は曖昧に笑うしかできなかった。


 とにもかくにも、お兄さんの宿泊先が決まったのは喜ばしい事だ。

 私はノランさんにお祭りまでの宿泊代としていくらか渡そうとしたが、笑顔で断られてしまった。

 でもさすがに向こうが申し出てくれたとはいえタダというのも気が引ける。お兄さんは一文無しだしね。


 そう言うとノランさんは今度の冥界祭でのお酒の優先購入分を、少し増やしてほしいと言ってきた。

 そんなことでいいならお安い御用です。お任せを。

 

「ではノランしゃん、迷子しゃんのことよろちくお願いしましゅね」

「お任せを」

「チッ」


 ノランさんは笑顔で私にお返事をくれたけど、お兄さんは苦虫を嚙み潰したような顔でそっぽを向いた。

 いやー嫌われちゃったかな。でも私の提案に乗ったのはお兄さんなんだから何が何でも最後まで付き合わせちゃうもんね。


「じゃあ迷子しゃん。明日のお昼前にまた会いに来るかや、しょれまでいい子にちててね」

「はぁ!? んでだよ、祭りは三日後だろうが」

「しょれまでにお兄しゃんがいなくなっちゃわないように、監視しゅるんだよ。監視をね。ふふん、逃がしゃないもん」

「……マジかよ」

「ま、頑張んな」

「触んな」


 若干うんざりしたような顔のお兄さんの肩を、ノランさんがにこやかに叩く。

 でもその手をすかさず払いのけるお兄さんもさすがだ。男の人が嫌いなのかな? それとも人嫌い?

 まぁ、なにかしらがあったから自殺なんてしようとしてたんだろうけど。


「ノランしゃん。改めて、迷子しゃんをよろちくでしゅ!」

「はい。ところでお昼前ということは、いつもより早い時間にいらっしゃるんですか?」

「あい。しょのちゅもりでしゅ」

「わかりました。では俺が責任をもってこの迷子君を待たせておくのでご安心を」

「わぁー、たしゅかりましゅ。ありがとうごじゃいましゅ!」


 とりあえずご飯代だけでもと、余裕をもって一万ガルグをノランさんに渡す。

 お兄さんに文句言われたけど、お兄さんに渡すと持ち逃げされる可能性もあるしね。

 それで突発的な行動をされても困るし。


 そうやってお兄さんにひっそりと理由を耳打ちをしたら黙った。ムッと眉を寄せて舌打ちを一つ。

 そのあと小さく「しねぇよ……まだ」って言ってたのが聞こえたから「ならいいんでしゅけど」と返しておきました。


 というわけでノランさんとお兄さんにお別れを告げ、私は今度こそ家路につきます。

 さて、帰ったら明日のプランでも考えましょうかね。

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