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番外編 雪

 神域を抜けると、そこは銀世界でした。


「ふぉおお! 雪だぁ!」


 別世界での初めての雪景色にテンションが上がった私は、フェルトス様とガルラさんを置き去りに駆け出す。

 まだ足跡などが付けられていない降り積もった雪を、踏み締め荒らすことのなんと楽しいことか。


「さっむ……メイちゃーん、ほどほどで帰るからなぁー」

「あーい!」


 神域から一歩だけ出てきたガルラさんからの呼びかけに、私は元気いっぱい手を振り返す。

 フェルトス様は神域から出てこない。寒いの嫌いなんだそう。

 私も苦手だけど、今の私はノランさんから貰ったカイロ石があるから多少は平気。

 だからフェルトス様には今は使ってないステラ達用のもう一個のカイロ石を渡してあるけど出てこない。

 代わりにガルラさんが持ってるっぽいけど寒いって言ってるな。まぁ仕方ない。完全に防げるわけじゃないし。

 それにガルラさん上着も着てないもんね。いつもの服に私がプレゼントしたマフラーだけじゃやっぱりムリがあるか。

 ちなみにフェルトス様もいつもの服にマフラースタイル。なんかちょっと面白い。

 私はきっちり着込んでマフラーもしてるからすっごくモコモコしてる。モコモコメイちゃんです。


 あ、ガルラさんが神域に帰っていった。


 それにしても、いま私の目の前ではかなり不思議な現象が起こっている。


 それは神域の内と外で綺麗に別たれた世界。

 境界線をはっきりきっぱり敷くように、雪がある一定の場所から綺麗になくなっている。

 そこが神域の始まりなんだけど、壁とか何か目に見えるものがあるわけじゃないからすごく不思議な感じになってるんだよね。


 私が今いる場所は神域の外。

 ちらちらと雪も降ってるけど、すぐ目と鼻の先にいるフェルトス様達がいる神域内では雪どころか青々とした木々や下草なんかが生えてる。

 神域を跨ぐように立つと、体の半分はぽかぽか陽気。半分は雪混じりの冷気が体温を奪うという不思議な体験ができる。

 ちなみに雨の日もこの境界でぴったり雨が止むので、たとえ目の前で大雨が降っていても神域内は一滴も降っていないどころか晴れてるなんて光景が見れちゃう。すごいぞ神域。


 私は神域内で腕を組み、木に寄りかかりながらこちらを見てるフェルトス様へと駆け寄った。

 雪に足を取られて手間取っちゃったけど、なんとか神域ギリギリまで近付けましたよ。


「ねぇねぇ。フェルしゃまもこっち来てあしょぼうよー」

「オレはいい。ガルラでも連れて行け」

「えっ? オレもこっちがいいんだけど」

「むぅー」


 二人ともに断られてしまった私は、おもむろに足元の雪を掬い取りぎゅっぎゅと握りたくさんの雪玉を制作していく。

 そんな私の様子を呑気に眺めている保護者達。


 この先に訪れる不幸も知らずに余裕かましやがって。そのすました顔を恐怖に陥れてやる!

 ふふふふふ。私の誘いを断ったことを後悔させてやるぞ。ははははははは!


「……なんかめっちゃ雪玉作ってんだけどこの子」

「そうだな。いい笑顔(かお)だ」

「これ絶対投げてくるだろ」

「だろうな」


 あれ、バレてるな。ま、いっかぁ!


「むふふふふ」


 私は完成した複数の雪玉を左手に抱え、反対の右手はガルラさんに向けて勢いよく振りかぶる。

 なんでガルラさんかというと、近いから。すぐそこにいるんです。


「くやえー!」

「おっと。ふはははは! そんな軟弱な玉に当たるわけないだろう!」

「むー! 避けにゃいで!」

「やだよー」

「くちょー!」


 次々投げるもガルラさんにはひょいひょい避けられちゃう。でもちょっと楽しい。

 そして作っておいた雪玉が尽きちゃったタイミングで、私は一度神域内に戻って休憩。

 いやはや、あったかいねぇ。


「ふぃー」

「もう終わりか?」

「ちょっと休憩。でも後でもっかいやりゅ!」

「じゃあ次はオレも反撃しちゃおうかな」

「えーずゆい! わたし勝てにゃいじゃん」

「だいじょぶだいじょぶ。ちゃんと手加減すっからさ」


 本当に大丈夫なのだろうか。

 まぁいいや、やるからにはぎゃふんと言わせてやる!


「メイ」

「う? なぁにフェルしゃまー?」


 私が打倒ガルラさんを誓い、むんっと気合を入れているとフェルトス様に呼ばれた。

 おいでおいでと手招きされているのでたったか近寄っていくと、耳を貸せと言われたので素直にお耳を貸す。


「ふむふむ……にゃるほどぉ」

「わかったか?」

「あい! こえでじぇったい勝ちましゅ!」


 フェルトス様のアドバイスに鼻息荒く勝利をもぎ取る宣言をかます私。


「フェル。オマエ何吹き込んだの?」

「ただのアドバイスだ」

「あどばいしゅでしゅ」

「えー」


 休憩も終わり、私とガルラさんはそれぞれの持ち玉作りに精を出す。

 ぎゅっぎゅと雪玉を握るが私の小さな手では小さい雪玉しか作れない。

 なので特別にフェルトス様にも手伝ってもらってたくさんたくさん作りました。ぐふふ。

 そしてフェルトス様は作り終わったらさっさと神域に帰っていきました。


 さて、勝負の時です。


 ルールは簡単。

 私はガルラさんに一発でも雪玉を当てたら勝ち。

 ガルラさんは私の雪玉を全弾逃げ切ったら勝ち。

 もちろんガルラさんも反撃してオッケーというシンプルなゲームです。


 弾数制限はあるものの私には秘策があるので負けませんよ。

 ガルラさんはハンデとか言って雪玉を全然作ってない。片手で抱えられる量だけだ。


 むふふ、先の戦いで私を甘く見たことを後悔させてあげましょう。


「ガーラしゃん。準備はいいでしゅか?」


 私は片手に雪玉一個だけを持ちガルラさんと相対する。

 足元にはたくさんの雪玉達。


「いつでもいいぞー」


 ニヤリとした笑みを浮かべ返事をしたガルラさん。完全に舐められてますね。

 その方が都合がいいので私も精一杯悪い顔をして対抗します。

 

「ではフェルしゃま、開始のあいじゅお願いちまちゅ!」


 こくんと頷いたフェルトス様が手を動かして合図を送る。


「――はじめろ」

「よーし、覚悟しろよーガーラしゃん!」

「よっしゃ! 来い、メイ!」


 私は腕を大きく振りかぶり、雪玉を放り出す。


「しょれー!」

「おいおい。メイちゃんどこ投げてんだよ」


 私の頭上高く――私にしてはだけど――に投げた雪玉はもちろんガルラさんには届かない。

 大暴投と取られても不思議ではない投球を見せた私だけど、これは計算通りなのだ。


 私の暴投を見たガルラさんが呆れたように苦笑いを見せ体の力を抜いた。


 ――いまだ!


「うぉりゃー!」


 私は気合を入れた掛け声とともにバッと両手を上げる。

 その瞬間、私の足元に転がしておいた雪玉の全てを操作し、私の周囲に浮かび上がらせた。

 私の背後には大小様々な大きさの雪玉。今この瞬間その全てがガルラさんを狙っているのだ。


「へ?」


 間の抜けた表情で雪玉の壁を見上げるガルラさんだが、後悔してももう遅い。

 今の私は体力や筋力は無いが、魔力だけなら大人に負けないだけの力があるのだ。


 そして魔力操作だって得意なんだぞ! むふん!


「ふはははは。くやえー!」


 私は上げていた両手を振り下ろし、全力で雪玉をガルラさんに向けて発射する。

 腕力だけで投げたときとは大違いな雪玉の速さは圧巻だ。


「うわわわわっ! ちょ、タン――」


 私が差し向けた大量の雪の塊に襲われたガルラさん。

 逃げるのも間に合わず、されど迎撃するにも持ち玉が少ない。

 結果、憐れにも雪塗れになってしまいましたとさ。むふふふふ。


「かっちゃー!」


 両腕を振り上げぴょんぴょんとその場で飛び上がる。勝利の舞だ。

 フェルトス様も「よくやった」とでも言うようにうんうんと頷いている。


 アドバイス通りやりましたよフェルトス様! この勝利はあなたに捧げます!


 フェルトス様からもらったアドバイスは至極簡単『魔法を使え』です。

 自分で投げるから簡単に避けられるし、距離もスピードも出せない。

 なら簡単に避けられないようなスピードで打ち出せばいい。距離も魔法を使うなら問題にはならない。


 さらに単発だと避けられる可能性もあるため『物量で押しつぶせばいい』とのありがたいお言葉も頂きました。

 なのでフェルトス様にも手伝ってもらって物量作戦の下準備をしていたのです。


 この作戦は先手必勝の一発勝負でしたが、ガルラさんが私を甘々に見ていてくれたので完璧に遂行することができましたね。


 私はいまだに倒れて埋まっているガルラさんのもとへと駆け寄り顔を覗き込む。


「ガーラしゃん、だいじょぶー?」

「……魔法使うなんてずるくね?」

「魔法使っちゃダメってルールはなかったよ?」

「そうだねー…………よっと!」


 ガバリと起き上がったガルラさんは体についた雪を払い落とす。

 私もぱたぱたと叩いてお手伝いしておきました。


「フッ。メイに負けるとは、貴様もまだまだだなガルラ」


 いつの間にかそばまで来ていたフェルトス様が悪い顔でガルラさんを煽る。


「いやー。勝手に魔法はナシって思ってたわ」

「ふっ。わたしに負けるとは、ガーラしゃんもまだまだでしゅね」


 私はフェルトス様の隣に並び、さっきの言葉の真似をしつつガルラさんに煽りをいれる。

 もちろん悪い顔も忘れません。渾身の悪顔を披露してます。


「やだこの子フェルのマネしてる。かわいい」

「かわいい違うよ、かっこいいって言っちぇ」

「いやその顔でかっこいいはないわ」

「ないな」

「えー?」


 その後はフェルトス様も参加して三人で魔法あり雪合戦が開始された。

 チーム分けはフェルトス様と私VSガルラさんです。


 フェルトス様に肩車してもらった私が雪玉発射係で、フェルトス様は避ける係。もちろん空中戦です。

 なのでいちいち手で握って雪玉作るんじゃなくて、魔法で雪掬って雪玉作ってそのまま発射って感じですね。

 ただ本気出したフェルトス様とガルラさんのスピードに私がついていけるわけはないので、二人とも私が楽しめる程度の手加減はしてくれてましたが。ありがたいです。

 そのおかげでなんだかんだすごく白熱した試合が繰り広げられたし、すっごく楽しかったよ。


 途中で私が休憩している間に二人だけで雪合戦――といってもいいのか、もはや不明――をしてたけど、目で追えなかった。

 何が起きてるのかさっぱりだったよ。次元が違うね。


 ところでフェルトス様。寒いのは平気ですか? 体動かしてるから平気?

 なるほど、そうですか。ならいいです。


 雪合戦終了後。

 帰ろうとしてる二人を引き止め、雪だるまと雪うさぎを作ってからお家に帰りました。

 やっぱり雪が積もってるなら雪だるまは作っておきたいでしょう。雪うさぎもね。


 ちなみに私はこの翌日に風邪をひいてしまい、フェルトス様とガルラさんが焦りに焦ってセシリア様のところに突撃した――らしい。

 熱で朦朧としてたので私自身はよく覚えてない。後日セシリア様から聞きました。


 神の眷属でも風邪ひくんですね。勉強になりました。以後気を付けます。

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