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番外編 風神の子

このお話は本編53話冒頭にちょろっと出てきた風神の息子襲撃を描いたお話です。

本編終了直前くらいの時間軸と思っていただければ幸いです。


2024/10/22追記

誤字報告ありがとうございます。自分でもびっくりするレベルの間違いに驚きを隠せません…。

「おい、チビ!」

「むぇ?」


 それは突然のことでした。

 畑で野菜を収穫しているとき、背後から聞き覚えのない幼い声がかけられたのです。


 振り返るとそこにはひよこのようなふわふわの短い銀髪に、灰色の目をした男の子が仁王立ちしていました。

 薄い緑の肌に、背中には小さな羽。

 尾羽はないし、足も人間のような足だけど、すごく見覚えのある配色。


「きみ、だぁれ?」


 大体わかってるけど確認だ。


「俺様は偉大なる風神の子、ギルバルト! 今日からお前を俺様の子分にしてやる、ありがたく思え!」

「はぇ?」


 腕を組み鼻息荒くそう言い放つ男の子、ギルバルト少年。予想通りトラロトル様のお子さんでした。


 どこかガキ大将のような雰囲気を漂わせるその子は今の私と歳もあんまり変わらないように見える。

 それに自分だってまだまだ身長も小さいのに、私のことをチビ呼ばわり。しかも子分ですか。


 状況についていけず首を傾げ返事をしない私に業を煮やしたのか、ギルバルト少年はズンズンと私に近寄ってきた。


「わっ、なになに?」

「子分なら親分の言うことにすぐ返事くらいしろ!」

「みぃー! 大きい声出しゃないでくらしゃいー!」


 それに子分になった覚えもないよ!

 というか面識すらないし、なんなら存在すら今知ったのになんなのこの子!


「コラッ。ダメだろギル」

「あで!」

「み?」


 私がトマトを手にプルプルしていたら、少年の後ろから現れた巨大な影が少年に拳骨を落とした。

 涙目で頭を押さえてうずくまった少年から視線を逸らし、私は現れた存在を見上げる。


「あ、トラしゃま」

「よう、メイ。息子が怖がらせて悪かったな」

「うぅん、だいじょぶでしゅ。トラしゃまこんちわ」

「おぅ。こんちわ!」


 そこにいたのは予想通りトラロトル様。

 今日も元気なトラロトル様と挨拶を交わした私は、再度目の前の少年に視線を戻す。

 見れば見るほどトラロトル様に似てる。

 今はまだ子供だから可愛いけど、将来はそれはそれは女の子におもてになるに違いない。そんな将来性を秘めていますね。


 そしていまだ涙目で頭を押さえうずくまる少年に、さすがに可哀想になってきた私は彼の前に腰を下ろし顔を覗き込む。


「えっちょ……だいじょぶ?」

「うぅ……」


 目をうるうるさせて泣くのを我慢している少年になんだか罪悪感のようなものが込み上げてきた。

 いくら俺様ガキ大将様な少年だったとしても、彼はまだ子供だし泣いてる子供を放ってはおけない。

 少年が悪いとは思うけど、ちょっとくらいは私にも責任がある……いや、私悪くないな。何もしてないし、危ない勝手に流されるところだった。


 でもやっぱりこのまま放ってはおけないので、とりあえず慰めるつもりで持っていたトマトを差し出す。


「元気出して。トマト食べゆ? おいしいよ?」

「お前が作ったやつか?」

「うん。しょうだよ」

「…………食べる」

「どうじょ」

「……あんがと」

「あい!」


 とりあえず涙は引っ込んだみたいでよかった。

 水魔法で軽く洗ってから差し出すと、ちゃんとお礼を言って受け取ってくれたよ。

 なんだ、良い子じゃないか!


 せっかくなので収穫したトマトをトラロトル様にもお裾分け。


「トラしゃまもどーじょ」

「悪いな」

「いいえー」


 差し出したトマトを受け取ったトラロトル様は早速ガブリとかぶりついているが、ギルバルト少年は手の中のトマトをじっと見つめたまま動かない。


 どうしたんだろうか?


 私は自分の分のトマトを手に取ってギルバルト少年に近付く。


「どしたの? 食べないの?」

「うっ。た、食べるぞ! 食べる!」

「うん。どーじょ?」


 何をそんなに怒っているのか。子供はよくわからないなー。

 私は首を傾げながら持っていたトマトをパクリ。


 うん。我ながら最高の出来だね、うまー!


 そうやってトマトをもっきゅもっきゅ食べている私を横目にしていたギルバルト少年は、ついに意を決したように大口を開けてトマトにかぶりついた。

 バクンと一口で口いっぱいにトマトを頬張り、もっきゅもっきゅと口を動かす。


 なんか可愛いな。


 ごくんと飲み込んだのを確認した私は、何故かトマトを見て動かなくなったギルバルト少年に声をかける。


「おいしい?」

「………………おいしい」

「えへへー。それはよかっちゃ」

「……うん」


 そのあとはバクバクとトマトを食べ進み、元気を取り戻したのか最初の勢いが戻ってきたギルバルト少年。

 あんまりぐいぐい来られるのは困るけど、しょんぼりした子供を見るもの嫌だからね。

 やっぱりなんだかんだ元気が一番だよ。人の迷惑にならない範囲で、ね。


「トマトなのに美味かったぞ、チビ! よし、特別に俺様の一番の子分にしてや――」

「――嫌でしゅ」

「なんでだよ! 俺様の子分だぞ!」


 ムッとして私を睨んでくる少年。

 やっぱり相手は子供だし、ちゃんと止めてくれる保護者がそばにいるからか、睨まれてもあんまり怖くない。

 とにかく子分だかなんだかわかんないけど、そういうのは結構です。


「チビのくせにぃ!」

「メイでしゅ」

「は?」

「チビじゃなくてメイでしゅ!」

「むぅ! だってチビだろ!」

「ふーんだ!」


 チビチビうるさいですよ、というかきみもチビじゃないですか!

 大人のみんなにチビって言われるのは良いけど、同じ子供に言われるのは癪です。


 私は頬を膨らませプイッと少年から顔を逸らす。


 チラリと見えた少年も私と同じく頬をぷくっと膨らませてわなわな震えている。

 顔を真っ赤にして怒ってるけど、名前をちゃんと呼んでくれないとお返事しないことにしたから知ーらない。


「むううううう!」

「ギル。むくれてないでちゃんと名前で呼んでやれ。そしたら無視するようなヤツじゃないからよ」

「だって父上」

「お前の方が年上だろうが。兄貴ならもっと器をデカくしろ」

「むぅぅ……はーい。おい、メイ?」


 トラロトル様に言われてようやく名前を呼んでくれたギルバルト少年。

 少し納得してないような顔だけど、名前で呼んでくれたので私も逸らしていた顔を元に戻す。


「なぁに、ぎゆばゆと君」

「……ギルバルトだ」

「あぅ、ごめんちゃい」


 こればかりは私が悪いので素直に謝る。

 でも許してほしい。年齢的なアレで無理があるんです。

 ギルだけなら言えるんだけど音が続くとどうしても難しい。自分でもどうしようもないです。


「はぁ……仕方ない。特別にギルって呼ばせてやる。お前だけ特別だからな! 光栄に思え!」

「うん! ありあとギル君!」

「ふん!」


 まだちょっと顔が赤いギルバルト君。

 名前ちゃんと言えない私が悪いのかもしれないけど、そんなに怒らなくてもいいのになぁ。


「くくく」

「ちょ、父上! 何を笑っているのですか!?」

「いやぁ、悪い悪い」

「笑わないでください!」

「トラしゃま急にどちたの?」

「なんでもない!」

「みぃ!」


 何故かギルバルト君に怒鳴られてしまった。怒らないでよぉ。


「おいギル。お前そんな態度だといつまで経ってもメイに怖がられて仲良くなんかなれねぇぞ」

「べっ! 別に仲良くなんてなりたくない! こいつは子分にするんだから!」

「まったく。素直じゃねぇなぁ。誰に似たんだ?」


 お、なんだなんだ。ギルバルト君実は私と仲良くなりたかったのか?

 それならそうと早く言ってくれればいいのに。


 なんだかんだこっちでまだ歳の近い友達いないので、私だって仲良くなるのは吝かじゃないです。


「ねぇねぇギル君」

「な、なんだよ」


 ギルバルト君の服をちょいちょいと引いて私の方に顔を向けさせる。

 こっちに意識が向いたことを確認した私は満面の笑みを携えてギルバルト君に答えた。


「あのねぇ。わたし、子分はヤだけど、お友達ならなりたいな!」

「うっ!」

「めっ?」


 なんかちょっと嫌そうな顔で呻いたんだけど、もしかして本当に仲良くなりたいわけじゃなかったりします?

 もしそうならどうしよう。

 せっかくお友達ができると思ってテンション上がったのに、しょんぼり気分になっちゃった。


「うぅ――ま、まぁ? お前がどうしてもって言うなら? 子分じゃなくて、友達になってやってもいいけど? どうしてもって言うならな?」

「ほんと?」

「う……うん」

「わぁ! ありあとギル君! お友達ができて嬉しいな!」


 友達ゲットだぜ! ステラ以外の初人型のお友達です!

 いや、ステラはもう家族みたいなものだから、実質初めてのお友達なんじゃないですかね?

 出会う人出会う人なんだかんだみんな年上の大人の人ばっかりだったもんね。


 町のお子様達は大人の人に言い含められてるのか、あんまり近寄ってこないから友達作りどころじゃなかったし。

 その点ギルバルト君は神様の息子だから私に気兼ねなんてしないし、対等に仲良くできる貴重な子供のお友達なんじゃないか?


 うふふ、どうしよう。想像以上に嬉しいな。


 気持ちが抑えきれずギルバルト君の手を握ってぴょんぴょんと跳ねる。

 でも肝心のギルバルト君は目を逸らしてこっちを見ない。どうしたんだろう?


 ……もしや私のテンションについてこれていないのか!?

 もしくは友達ができたくらいで喜び過ぎだとドン引かれている可能性があるな!?


 しまった。友達になって早々変な奴だと思われるのは回避しないと!


「ち、違うよ! お友達できたのが初めてだったかや嬉ちくて! いつもこんなんじゃないよ! ほんとだよ!」

「――嬉しいか?」

「うん!」

「そっか」

「しょうだよ!」


 別にいつも奇行に走ってるわけじゃないからね!

 だからトラロトル様「いつもと同じじゃないかぁ?」とか誤解を与えるようなこと言わないでください!



 そんなこんなで私のテンションが落ち着いたころ、改めて自己紹介をしてよろしくと挨拶を交わす。

 そのころにはギルバルト君も落ち着いたのか、顔色も元通りに戻ってたし、元気になってたよ。


 それからトラロトル様になんでこんな急に息子さんを連れてきたのかも聞きました。


 なんでもこの間のパーティで持って帰ったアイスとプリンをギルバルト君にあげたところ、絶賛の嵐だったらしくどこで手に入れたかしつこく聞いてきたみたい。

 で、めんどくさくなったトラロトル様がここに連れてきたらしい。


 もしかしてギルバルト君は私のお菓子目当てでお友達になりたかったのか?

 いや、いいけどさ。まぁこれはただのきっかけだもんね。これからそんなの関係なくもっと仲良くなればいいよね!


「メイは野菜好きだろう?」

「う? あい、しゅきでしゅ」


 突然のトラロトル様の質問に意図が見えず首を傾げる。


「実はギルバルト(こいつ)は野菜嫌いでな。メイと仲良くなりたいなら野菜くらい食べれるようにならないと好かれねぇぞって言っておいたんだよ」

「う?」

「ちょっと、父上!」


 別にそれくらいじゃ嫌いになんてなりませんが?

 好き嫌いなんかあって当然だし、子供ならなおさらでしょう。


 あれ、ちょっと待てよ。

 野菜嫌いだっていうならトマト見つめて動かなかったのって実は食べたくなかったから?


 やってしまった! そうならそうだって言ってくれたら良かったのに!?

 私は慌ててギルバルト君に向き直って頭を下げる。


「ギル君ごめんにぇ! お野菜(おやしゃい)嫌いにゃにょに、むりにトマト食べしゃしぇちゃっちゃ! あのね、わざとじゃにゃいんだよ!」

「別にいいよ。父上の言った通りお前の作ったトマトは美味かったし、気にしてない。それに食べるって言ったのは俺様だからお前も気にするな」

「……ほんとぉ?」

「ほんと」

「しょっかぁ。ならよかったぁ」


 食わず嫌いだったのかな。

 美味しいって言ってくれたのは嬉しいけど、嫌いな物無理に食べさせたいとは思わないからね。


「ちゅぎから嫌いな物は嫌いって言ってね?」

「……うん」

「しょうだ! ギル君今日はまだ時間あゆ? もう帰っちゃう?」

「えっと」


 ギルバルト君がチラッとトラロトル様を見る。

 私もつられてトラロトル様を見上げると笑って頷いてくれた。これは大丈夫ってことでいいですよね!?


「じゃあせっかくだから今日はいっちょにあしょぼう! お昼もいっちょに食べようよ!」

「いいのか?」

「うん!」

「――しょ、しょうがないなぁ! お前がそこまでいうなら付き合ってやるよ!」

「わーい!」


 急に元気になったギルバルト君に笑いがもれる。

 もしかして年下っぽい私に野菜嫌いだってバラされて恥ずかしかったのかな?

 それが吹っ切れてテンションが上がったとみた。わかるよ、私もよくやるから、それ。

 うんうん頷きながらギルバルト君を優しい眼差しで見つめたあと、トラロトル様を見上げる。


「トラしゃまもお昼食べていきましゅよね?」

「ん、いいのか?」

「もちろんでしゅ!」

「じゃ、馳走になるか」

「あい!」


 というわけで途中だった野菜の収穫を風神親子にも手伝ってもらいサクッと終わらせた。

 そのあと三人でケロちゃんズの元に戻り、世界樹のお世話をするため移動する。

 畑で待っていてもらおうと思ったけど、トラロトル様が世界樹が気になるということで一緒に向かった。


 そして日課を全て終わらせた私は風神親子を連れてお家に帰る。

 いきなり連れて帰っちゃったからフェルトス様やガルラさんがビックリしてたけど、説明したら納得してくれたよ。


 ギルバルト君はフェルトス様にビビっちゃったのか、ずっとトラロトル様の足にくっついてましたけど。

 フェルトス様そんなに怖くないから大丈夫だよって言っても信じてもらえずプルプルしてるし、トラロトル様とガルラさんは笑ってるしでなかなかカオスな空気の中の昼食でした。


 メニューはお子様ランチの定番だと思ってるオムライス。旗はないけどね。

 これがギルバルト君に大ハマりしたのかとっても褒めてもらえたので、いつか本当のお子様ランチを作ってあげようと心に決めました。


 オムライスを食べておめめがキラキラ、テンション爆上がり。

 そんなギルバルト君を見てると作り甲斐もあるし、もっと美味しいものを食べさせてあげたくなっちゃったのです。


 デザートにちょっと豪華に飾りつけたプリンを出したらこれも大喜び。

 こんなに喜んでくれてお姉さんも嬉しいよ。


 お昼を食べたあとは一緒にお昼寝してから、トラロトル様も交えてたくさん遊びました。

 追いかけっこやかくれんぼ、トラロトル様登りとか。結構楽しかったです!


 ただ私の体力がないので休み休みかつ、後半はお家でお絵描きしたりと室内遊び――室内ではないけど――にチェンジした。


 そうやって一緒に遊んで夕方ぐらいになったら風神親子はお家に帰っていきました。

 また遊ぼうねって約束してからバイバイしたよ。


 久しぶりに思いっきり遊んだからか、晩御飯を食べたあと片付けをする前に私はすぐに寝ちゃったみたい。

 朝起きたらガルラさんが笑いながら教えてくれた。


 はじめてのお友達にテンション上がりすぎちゃったかな。

 でもすっごく楽しかったからヨシ!

言われてみればのシーンがあったので一部セリフを修正しました。内容は変わってません。

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― 新着の感想 ―
ここだけメイちゃんの口調がスムーズなのが面白いですw  「ギル君ごめんね! お野菜嫌いなのにトマト無理に食べさせちゃった! ごめんね、わざとじゃないんだよ!」
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