53 落ちた先は冥界でした
セシリア様達を呼んでパーティをした日から一ヶ月近く経ちました。
特に何か問題があるようなこともなく、毎日のほほんとした平和な日々を過ごしております。
この一ヶ月近くの間にジェーンさんへのお礼をしにいったり、セシリア様へお供えをしたり、トラロトル様の御子息の襲撃にあったりと……まぁ、色々ありましたが、概ねいつも通りの日常でした。
そしてセシリア様から頂いた世界樹の種子ですが、これは順調に大きくなってます。今では私の腰あたりまでの大きさに育ちました。
心配していた根腐れなどもなく、この一ヶ月程でぐんぐんと元気に成長していく姿を見守るのは私の楽しみにもなっています。
すでに我が子の成長を見守る親の心境です。元気に大きく育つんだぞ。
そうして朝の日課である畑と世界樹の世話を終えた私は、ケロちゃんズの背中に乗せてもらい冥界へと帰る。
最近では畑に来るときはケロちゃんズだけを連れてくることが多くなった。
フェルトス様とガルラさんの二人から、一人で魔法を使ってもいいという許可が出たからです。
普段の行いを鑑みて大丈夫だろうとの判断を頂きました。
ただし倒れるようなことをしたらまた保護者同伴に戻りますが。
それでも時々はステラやモリアさんも連れて畑に行きます。
単純に私が一緒に行きたいだけだったりしますが。てへっ。
日常でも魔法を使い続けてきたことによってかなり鍛えられてきたし、魔力量も初めの頃より確実に増えてきてる。
新しい魔法も教えてもらって、ちゃんと使えるようになるとすごく嬉しい。
その中でも浄化の魔法が使えるようになったのが一番かもしれない。
便利すぎる……どんな汚れもあっという間に落としちゃう。まるで魔法のように――魔法だったわ。
「ありあとー、ケロちゃんズ!」
「がう!」
冥界まで送り届けてくれたケロちゃんズにお礼を言って、いつものように背中から滑り降りる。
そして「また明日」と手を振ってお家へと帰るのがいつものパターン。
ちなみにお別れする前に一緒に遊んでから帰る時もある。今日はすぐに帰るけど。
杖を影から出して乗り込み出発する。
もうかなりの距離を飛んでも疲れたりしないから一人でどこにでも行けちゃうんだけど、冥界は危ないからってフェルトス様との約束で決まった場所以外に寄り道はできません。
今のところ家か、ガルラさんの家か、ケロちゃんズのとこか、家の近くの広場くらいでしょうか。
冥界は広いから迷子になる可能性もあるし、絶対一人でうろつくなってガルラさんにも言われてる。
迷子になって家に帰れなくなった挙句、亡者の仲間にされちゃうぞって脅されてます。
そんな子供騙し私に効くはずがないのにね。私の中身大人でもあるのよ。
だから聞き分けのいい私はいうことを聞いて寄り道はしません。まっすぐお家に帰ります。
決して迷子になるのが怖いわけではありませんよ。亡者が怖いわけでもありません。
迷子になったらみんなに心配かけちゃうからです。そうです。それ以上でも以下でもありません。ありませんったらありません! なにか文句でもありますか!?
「あっ」
杖を飛ばして家に帰る途中、ふと気が付いて地面に降りる。
飛び始めたばかりでここはまだ冥界の入り口だし寄り道にはならないよね。
そう判断した私は杖を影にしまい周囲を見回す。
「やっぱりしょうだ」
確信する。
ここは私がこの世界に落ちてきた始まりの場所だ。
普段から通っているはずなのに今更気付いたのは、本格的に心の余裕が出てきたからでしょうか。
『いっったぁぁぁ……。なに? なにがおこった?』
この世界に落ちたときの第一声を思い出す。
何が起こったかわからず受け身も取れずに強かに体を打ちつけたっけ。
今じゃあ空も飛べるし、落ちることなくちゃんと着地した。着陸かな?
この景色だって初めはどこか怖かったのに、今ではすっかりいつもの風景だ。
あの月はフェルトス様が作ったやつだし、どこからともなく聞こえてくる鳴き声は多分まだ会ったことのない冥界の住人なんだろうなってわかる。
初めは夢だと思ってたのに、気が付けばこの現実を受け入れてる自分がいた。我ながら順応性が高いなぁ。
「ここでトマトジュース飲もうとしてたらフェルしゃまが来たんだっけ」
頭上からバサバサ聞こえる羽音にビビり散らかしていた記憶が蘇る。
今となってはその羽音が聞こえると嬉しい気持ちが湧き上がってきてしまうようになった。
「うーん。なちゅかしいでしゅなー」
しみじみ思い出に耽っていたら、大きな羽音とともに私に影がさす。
さらには大好きな人の声も降ってきた。
「何がだ?」
「あ、フェルしゃまだー!」
見上げると、そこにいたのはフェルトス様。もしかして迎えにきてくれてたのかな。
私は降りてきたフェルトス様に駆け寄り、勢いよく足に抱きついた。そしてすかさず頭を撫でてくれる大きな手。それがとても心地良い。
これもあの時の自分からしたら信じられないんだろうな。
振り向くのすら嫌がって怖がってた記憶があるし。フェルトス様を見た恐怖で体が動かなかった。
大きな体も、その真っ赤な目も全部が全部怖がってた自分。
それがいまではフェルトス様の全部が全部大好き人間――眷属となってしまっているのだから。
人生ってわからないものですねぇ。
あの時はトマトジュースのペットボトルを抱きしめていた。
今はフェルトス様の足を抱きしめてる。
「フェルしゃま。お迎えに来てくれたでしゅか?」
「まぁな。そんなことより、ココで何をしていたのだ?」
「ふへへ。なぁんでもないでしゅ! 帰りましょー!」
「む? まぁいいか。帰るぞ」
「あい!」
バンザイの体勢をとって抱っこ待ちをすれば、すぐに抱き上げてくれるフェルトス様。
もう自分で飛んで帰れるんだけど、フェルトス様と一緒だとどうにも甘えてしまう。そしてフェルトス様は甘やかしてくれます。へへへ。
「フェルしゃま。帰ったらトマトジュース飲みましゅか?」
私はフェルトス様の顔を覗き込みながらそう尋ねる。
いつものねむねむおめめをこちらに向けてフェルトス様が答えた。
「ふむ。いいな。ちょうど喉が渇いていたところだ」
「へへへー。わたしも喉渇きまちたー」
「ならばさっさと戻るとするか」
「あーい」
私をしっかりと抱っこしたまま、バサリと羽を広げて飛び立つフェルトス様。
快適な空中散歩を楽しみながら、私はフェルトス様の腕の中で帰宅までの短い時間を過ごす。
「二人ともおかえりー」
ソファに座ってくつろいでいたガルラさんが、私達の帰宅に気付きお迎えをしてくれた。
「あぁ」
「ただまー! ガーラしゃん!」
フェルトス様に降ろしてもらい、パタパタとガルラさんへ駆け寄る。
そしてフェルトス様と同じように足へと抱きついた。
「おぉおぉ、元気なご帰宅で。なんか良いことでもあったかぁ?」
「えへへー。フェルしゃまが迎えにきてくれたのー」
「そーかそーか。良かったなー」
「あい!」
ガルラさんにもさっそく頭を撫でてもらい、私の機嫌は鰻登りに上昇していく。
「メイ。トマトジュースはまだか?」
「はっ! しょうでちた。しゅぐ用意しましゅね!」
「あ、トマトジュース飲むの? オレも飲みたい」
「あーい!」
手を洗ってからグラスを用意してトマトジュースのピッチャーを冷蔵庫から取り出す。
なくなったら保存箱から新しいのを出して冷やしておけば、トマトジュースが切れることはない。
まぁ定期的に作っては追加しないとすぐ予備がなくなっちゃうけどね。みんな大好きだから消費が早いんだ。
「フェルしゃまどーじょ」
「あぁ」
「ガーラしゃんもどーじょ」
「さんきゅー」
「これはわたしのー」
ソファに三人並んで座りトマトジュースを飲む。
そんななんてことない毎日に、なんてことない日常だけど、私はそれがとても愛おしい。
時々地球のことを思い返して寂しくなることもあるけれど、それでも私はここで生きていく。
大好きな人達に囲まれて、笑顔でいられる。
大変だけど素敵な毎日はかけがえのないものです。
私が落ちた先は冥界で、さらに人間を辞めちゃいましたが、私はここで元気に楽しく暮らしています!
これにて『落ちた先は冥界でした』は完結となります。長いお話にお付き合いありがとうございました。
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番外編として小話や別視点なんかの話を、その内入れられたら入れたいと思います。
お粗末様でした。




