32 セシリア様からのプレゼント
昨日に引き続き今日も元気に魔法の訓練は続く。
今日の教師兼見守り人はガルラさんとモリアさんとステラの三人。
途中でガルラさんがお仕事へ向かったので、モリアさんとステラだけになっちゃったけれど二人が保護者代わりになってくれたので訓練は続行。
魔力の球を作ったり。それを打ち出して的当てをしてみたり。火と風の魔法を組み合わせて温風を作ったり。火と水の魔法でお湯を作ったり。空を飛んだり。などなど、休憩を挟みつついろいろな訓練をして過ごしました。えぇ訓練です。遊びではありません、けっして。
楽しんで学べたおかげか、今日一日でかなりいろいろできるようになった。
アイデア次第で様々なことも可能になると判明したのも収穫ですね。
とても充実した一日でした。
そして翌日。
ここで完全に食料が尽きてしまった。何も食べる物がないので朝御飯はフェルトス様の血で済ませました。もちろん否は言わせません。
何もなければご飯どころかトマトジュースすらも作れない。
だから買い出しに行きたい旨をフェルトス様に伝えても「ダメだ」と一刀両断。
日光対策のお洋服もバッチリ。空だって自由に飛べるようになった。なのにまだ何かが足りないのでしょうか?
考えてもわからないので直接本人に何がダメなのかと聞いてみれば、今日はセシリア様が来るとのお返事が。なるほどね、それなら仕方ありません。
などと納得したのも束の間。どうやらセシリア様がもうすぐ冥界へいらっしゃるらしい。おもてなしの用意などあるはずもなく、気持ちばかりが焦る。一体どうすればいいのか!
慌てる私とは対照的にフェルトス様はベッドでお休み中。お客様が来るというのに何故そんなにくつろいでいられるのでしょうか。頼りになるガルラさんはここにはいない。もう終わりです。
ガルラさんのお家は冥界の別の場所にあるみたいで一緒には住んでいないのです。
興味本位からガルラさんの家もここみたいな広場なのか聞いたらちゃんと壁も屋根も床もある家との答えが返ってきたのは記憶に新しい。
あーあ! いいなぁ!
「むぅ……って、あぇ?」
「ふふっ。だーれだ?」
そうやって現実逃避をしながらあわあわしていると、急に視界が暗くなった。
さらには耳元でお美しい声音が聞こえてくる始末です。どうやらセシリア様がご到着されたようですね。いらっしゃいませ。
「リアしゃまだ!」
「うふふ、あたり。おチビちゃんは今日もかわいいわね」
「えへへ、しょんなー」
その後、照れながらもしっかり挨拶を交わし、本日の御用向きを伺う。
どうやら以前言っていた服の残りを持ってきてくださったみたいです。ありがたい。
「はいどうぞ」
「あいがとうごじゃましゅ!」
差し出されたのは蝙蝠の羽がデザインされた可愛いリュック。しかもこのリュックもすでに拡張済みらしく、中には沢山のお洋服が入っておりました。
「わぁ……! リアしゃま、たくさんのお洋服あいがとうごじゃいましゅ! ジェーンしゃんにもお礼を言っておいてくだしゃいましゅか?」
「ふふっ、えぇもちろん。きっとジェーンも喜ぶわ」
「ふへへ。大事にしましゅね!」
「終わったか?」
「みっ!」
突然背後から聞こえた声に肩が跳ねる。
振り返るといつの間にかフェルトス様が背後に立っていました。いつ起きたんですか、びっくりさせないでくださいよ。
「えぇ。あなたはもういいの?」
「あぁ」
「それじゃあ行きましょうか」
「ふぇ?」
通じ合っている二人の会話。それに置いていかれた私は二人の顔を見比べることしかできなかった。いったいどこに行くのでしょうか?
説明を求めようとしたけれど、その前にフェルトス様の小脇に収納されてしまったので断念。何も聞くことができなかった。
ちなみにリュックはフェルトス様に回収され適当な場所へ置かれてしまった。帰ってきたらちゃんと片付けよう。
そんなことを考えている間に移動は完了。
あっという間に冥界から出た私達は森の中を直進中。
「――あ、きたきた。おーい、フェル。セシリア様ー。こっちですこっちー」
前方でブンブン手を振りながら自己主張をしているのはガルラさん。
姿が見えないと思ったらこんなところにいたのですね。何をしていたのでしょうか。説明もないまま連れて来られた私にはさっぱりです。
とにかく現場に到着したとのことで、ようやく私は地面へと降ろされた。
「それで、このへんなんかどうでしょうか? 冥界からも近いし、それなりに土の状態も良いですよ」
「んー……そうね。いいと思うわ。フェルもここでいいわよね?」
「……少しばかり冥界から離れすぎているんじゃないか?」
「馬鹿ね。冥界から目と鼻の先じゃない。それに、どうせ冥界の中じゃ作物なんて育てられないんだから仕方ないでしょ」
「むぅ」
腕を組んで不満げな声を漏らすフェルトス様。
何が不満で何が始まるのか。いい加減説明が欲しいところですね。
大人達は理解してるみたいですけど、私はさっぱりです。報・連・相を求めます!
まぁ、辛うじてみんなの会話から何かを育てる話をしてるのはわかりますがね。
「ねぇねぇフェルしゃま。リアしゃま。ここで何をしゅるんでしゅかー?」
とはいえ気になるものは気になる。大人組の会話が途切れた瞬間を好機とみなし会話へ突入した。
「うふふ。実はね、おチビちゃんに良いものを持ってきてあげたのよ」
「はぇ。良いもの、でしゅか?」
セシリア様の素敵スマイルを眺めながら首を傾げる。
「えぇそうよ。少し待っていて。いま準備するから」
「あい」
「良い子ね」
私の頭を一撫でしたセシリア様が、どこからともなく杖を取り出した。
セシリア様の杖はフェルトス様の杖と違って、白くてどこか神々しいデザインだ。お似合いです。
杖を手にしたセシリア様は、そのまま石突き部分で地面を二、三度叩く。
程なくして目の前の大地が地響きを鳴らしながら盛り上がったではありませんか。まるで生きているかのように動く地面が少し怖い。
「ひぇ……」
なんとなくフェルトス様が恋しくなり足元へとくっつく。フェルトス様の傍は安全地帯なので落ち着くんです。
それにしてもいったい何が始まったんでしょうか?
ぷるぷる震えながらフェルトス様の足元にくっついていたら、体が宙に浮く。抱き上げてくれたことに気が付いた私は、すかさずフェルトス様の首元へと顔を埋めた。足元より落ち着きます。
地響きの音だけが聞こえる中、頭を優しく撫でてくれる大きな手。全身をフェルトス様に包まれたおかげか、私の中の恐怖も小さくなっていくのを感じる。
そしてそのまま数秒ほど経つと、地響きの音は完全に消えた。
恐る恐る何が起きたのか確認するため、フェルトス様の首元からそっと顔を上げる。
「お、おぉー。しゅごい……」
「ふふっ。どうかしらおチビちゃん気に入った?」
「あい」
セシリア様の言葉にこくりと頷く。
先程までただの地面だった場所が綺麗に耕された光景に、文字通り開いた口が塞がらない。しかもすでに何かの作物が植えられていて、立派な畑になっていた。
この数分でガーデニングが始まって終わった。神様ってすごい。
「セシリア。トマトは?」
「ちゃんと植えてあるわよ。しかも多めに」
「そうか、ならばいい」
「すっかり好物になっちゃってまぁ」
「いいだろう、別に」
「誰も悪いなんて言ってないでしょ。そんなことより、おチビちゃん」
「ふぇ! あい、なんでちょうか!」
フェルトス様とセシリア様のやり取りをボケっと聞きながら畑を眺めていたら、急に水を向けられて焦る。
「この畑は今からあなたのものだから自由に使っていいわよ」
「へ? えっちょ……わたしの?」
この立派な畑が? それより何故急に?
今日は朝から突然の連続でスピード感に振り落とされそうだ。
「えぇ。私からのプレゼント。これでいつでも美味しい野菜が食べられるわよ」
「はぅ!」
セシリア様の素敵ウインクに心臓を撃ち抜かれました。どうしよう。心を奪われそうだ!
畑を作ってくれたうえに、野菜の苗までプレゼントしてくれるなんて。地の神セシリア様、気前が良過ぎて惚れてしまうっ!
「メイ、大丈夫か?」
「だ、だいじょぶ……でしゅ」
いや危うく心を奪われるところでした。美女のウインク恐るべし。
「それでね。おチビちゃんさえよければ、なんだけど」
「あい」
「ここの収穫物。もしくは収穫物で何か料理を作ったときにね、少しで良いから私にも分けしてほしいなって思ってるんだけど……ダメかしら?」
可愛らしく小首を傾げたセシリア様がかわいい。
ダメなはずがないのですぐさま首を縦に振る。
「ダメじゃないでしゅ! 元々はリアしゃまの苗でしゅし、料理も、わたしので良ければいくらでも捧げましゅ!」
いやほんと。我が家の食糧事情改善に協力していただけただけでもありがたい。お礼が収穫物か料理でいいならいくらでも差し上げますとも。大感謝!
「本当? 嬉しいわ、ありがとうおチビちゃん。ふふっ。今からすっごく楽しみよ!」
「ふへへ。リアしゃまのご期待にしょえられるよう、不肖メイ。頑張りましゅ!」
むんっと気合を入れて返事をすると、セシリア様は本当に嬉しそうにはにかんだ。
まるで少女のようなその笑顔は反則じゃないでしょうか。
セシリア様の美しさと可愛さにノックアウト寸前になりながらも、二人で約束の指切りを交わす。
そして指切りを交わしたあとに思った。神様と約束の指切りって結構やばいことをしてしまったのでは、と。…………ま、いっか! 約束を破るつもりはないし、何も問題はないない!
その後、セシリア様に一通り畑のお世話の仕方を教えてもらいました。
私が直接いただいたプレゼントなので責任者は私です。
なので今日から私のお仕事はこの畑のお世話。頑張ります。
地の女神様が直々に耕したこの土地。どうやら一種の神域のようになっているらしく、土の状態がとても良いらしい。
植えた作物は、ちょっとやそっとじゃ病気にもならない。腐ったりもしない。さすが神様、すごいです。
「さて。それじゃあそろそろ私は帰るわ」
「リアしゃま。いろいろありがちょうごじゃまちた!」
「どういたしまして。収穫を楽しみにしてるわね」
そういってセシリア様は私の頭を一撫でして天界へと帰っていった。
去り際にたくさんの野菜類まで置いていってくださって、お気遣いが眩しいです。これでまだしばらくはご飯が食べられそうです。
「ではオレも少しはずす。メイを任せた」
「おぅ。いってらー」
「う? いってらっしゃいましぇ」
セシリア様のお見送りを終わらせ、その場に残された私達冥界三人衆。
しかしフェルトス様は何かやることがあるらしく、さっさとどこかへ行ってしまいました。いったいいずこへ?
気になったけど特に触れず、私はガルラさんと二人で畑の傍にしゃがみこむ。
「むー。上手に育てられるかにゃぁ」
「メイなら大丈夫だって。オレも今から収穫が楽しみだ」
「しょう? にゃら頑張って育ててみる!」
「おぅ頑張れ! なんかあったらオレも手伝うから気軽に言えよ」
「あーい」
ガルラさんの申し出に元気にお返事。何かあったら遠慮なく頼りにさせてもらおう。
「……あ」
「ん、どした?」
「えっちょ。ここって柵とかちゅくらなくても大丈夫……なんでしゅかね?」
「柵? なんでだ?」
「動物とかが来たりしないのかなーって」
育てている途中で動物に食べられてしまったら元も子もない。
「あぁなるほど。それは大丈夫だと思うぞ。いまフェルが獣避けやらなんやらの結界を張ってるから」
「しょうなんでしゅか?」
「おぅ」
どうやらフェルトス様の用事とは結界を張ることだったのですね。なるほど。それなら獣害については心配しなくても大丈夫かな。神様の能力には絶対的な信頼がありますからね。
「あ、そうだメイ」
「う?」
「最初に言っとくけど、一人でココに来るのは禁止な」
「はぇ? でもそれじゃあお世話できまちぇんよ。フェルしゃまもガーラしゃんもお仕事があるし」
「大丈夫大丈夫。そのへんもちゃんと考えてっからさ」
「しょう?」
「そうよー! お兄ちゃんもいろいろ考えてるのよー!」
「しょうなんだー! ありあとー、にーちゃ!」
「おぅ。どういたしまして!」
「にゃー!」
ガルラさんに頭をぐりぐり撫でまわされる。結果的に髪がボサボサになってしまいましたが許しましょう。今の私は食糧問題も解決して気分も良いのでね。
神様の畑なので植える時期とか気温とかその土地の気候とかも関係ないのです。




