31 空を自由に飛びたいなぁ
2024/7/21追記
わああ!誤字報告ありがとうございます!まったく気付いていませんでした…感謝します!
ガルラさんの宣言通り、少しの休憩をはさんで昼食タイムとなった。
気分はまさにピクニック。しかしここは冥界の中。周囲は薄暗いうえに、景色だってお世辞にも良いとは言えない場所。
それでもガルラさんと二人「美味しいね」と笑い合いながら食べるお昼は最高の時間でした。
ただ、お昼の匂いを嗅ぎつけたのか。はたまた私と過ごすうちにお昼の時間を覚えたのか。どちらにせよ、私達二人のランチタイムにフェルトス様が乱入。さらに「オレにもよこせ」とサンドイッチまで要求してきて、さぁ大変。
買ってきた食材も残りわずか。なので今日のサンドイッチは必要最低限の二人分しか用意していなかった。
仕方がないのでガルラさんと相談して、残っていたサンドイッチすべてを差し出すことで合意。量は少ないけれど致し方なし、です。
今度からはちゃんとフェルトス様の分も忘れずに用意する、ということで納得していただいた。
そして大きなお口で残りのサンドイッチをパクパクと平らげたフェルトス様は、すぐにまたどこかへと飛んで行ってしまった。
いや、別に構わないんですけどね。
でもできれば事前に一言くらい言っておいてほしいというのが本音でしょうか。
そうすればちゃんとご飯の用意もできるし、フェルトス様をしょんぼりさせることもなくなるのですから。
二人分しか用意していないと言った時のフェルトス様のしょんぼり顔。できればもう見たくないですね。だって罪悪感が湧いてくるんだもの!
こうなってくると、そろそろ本気で町への買い出しを考えなくては。
さすがに食材がなければ作りたくても作れませんからね。
「さーて、と。フェルも戻ったし、オレ達もそろそろ訓練再開――」
「あーい!」
「――といきたいところだが、その前にメイはお昼寝、な」
「あぅ……あーい」
フェルトス様の見送りも終わり、私達もさっそく訓練再開! とはならずお昼寝をはさむことになった。さすがガルラさん、しっかりしていらっしゃる。私はテンションが上がってしまって眠気が遠のいておりましたが、たしかに無理は禁物。
パパっと後片付けを終わらせ、ガルラさんの膝枕でお昼寝タイム。
しばらくしてガルラさんに起こされた私は身支度を済ませた。
そして改めての訓練再開です。
次は何を教えてもらえるのでしょうか。わくわくします。
「ふふっ。期待の籠った熱い視線……嫌いじゃないぜ。んじゃ次の訓練を発表するぞ!」
「どきどき」
「次はぁー……」
もったいぶってタメを作るガルラさん。そんなことをされたら余計どきどきわくわくが止まらなくなるじゃありませんか。胸が高まります!
「……はいっ! モノを浮かせる魔法、です!」
「きゃわあああ!」
「おいおいテンション爆上がりじゃねーか! よっし、その調子でさっそくいくぞ!」
「あいあいっしゃー!」
ビシッと敬礼を返します。なんだか変なテンションになってきてるけど気にしない。
やっと魔法らしい魔法が来たのですからテンションが上がらない方がおかしい。
「さて。この魔法では杖を使うので、杖を出してくださーい」
「あーい!」
家を出る前、持ち物としてガルラさんに言われていたのでちゃんと持ってきています。
少し離れた場所へ置いておいたカバンのもとへ行き、杖を取り出す。
杖が体の大きさに合っていないので持ち運びが少し大変だ。
「うん、しょ……うん、しょ」
「コケるなよー」
「あーい」
引きずっても良いのかもしれないけれど、せっかくの綺麗で可愛い杖。正直あまり傷付けたくない気持ちの方が強い。なので大事に、大切に扱いますよ。
「ふぃー。持ってきまちた!」
「はい、良くできました。んじゃ杖を地面に置いてくださいねー」
「う? あい」
言われた通り杖を地面に置く。
「はい。それじゃその杖の上に手をかざしてー」
「あい」
「難しいことは考えず、とにかく『浮けー』って念じてみましょう!」
「あ、あい!」
急に雑になったガルラさんの説明に驚きながらも、とにかく言われた通り浮けと念じてみる。
よし、浮けー。杖よ浮けー。
「むー……ほわっ! わっ、わっ、浮いちゃー!」
「良くできました。ぱちぱちぱち」
念じていたらすんなりと浮いてしまった。杖がふわふわと空中に浮かんでいる光景に驚きを隠せない。
かざしていた手をそっと退けてみても、杖はそのまま浮いている。
確かめるように杖の上下左右の空間で手を動かしてみても変わらず。糸も何もない。種も仕掛けもなく、正真正銘浮いています。
「ふぉぉ……」
「すげぇ目がキラキラしてるなぁ」
「だっちぇ! 浮いちぇましゅよ! ほら! はわ……しゅごい」
「浮いただけでそこまで喜べるのもすごいな。ま、いいけど。ほら、メイ。次行くぞー」
「あ、あい! ……あっ」
ガルラさんへ返事をした途端、杖が地面へ落下した。まさに糸が切れたようにボトンっと落ちました。無念。
「あぅ」
「集中切らすからだぞ。気を付けろー」
「あい……」
失敗をして人は学ぶ。浮かせたままというのも難しいものだ。
「まぁ、なんだ。慣れてくれば無意識でも浮かせたままにできるからさ。こればっかりは練習あるのみだから頑張れ」
慰めるようにガルラさんが頭を撫でてくれたので気持ちを切り替える。
今は落ち込んでる場合じゃない。ガルラさんの言っている通り練習あるのみ、だ。
「よちっ! 頑張りましゅ!」
「うんうん、いい返事だ。では、もう一度浮かせてください」
「あーい!」
ガルラさんの指示に従い、もう一度杖を浮かせる。
今度は落とさないようちゃんと杖を意識しつつ、そしてガルラさんの言葉にも耳を傾けつつ……。待って。え。これ、結構難しいですね。
「んじゃ次は浮かせた杖を動かす練習な。とりあえず好きにやってみ」
「にゃるほど、しゅきに……ふぇ?」
ついにやり方すら言わなくなってしまいましたよこの人。もしかしてめんどくさくなったのでしょうか?
でもまぁ今までの訓練から察するに、大事なのはイメージ。
それさえできればとりあえずなんとかなる! の精神でやってみましょう。とりあえず上方向へ動かしてみよう。
「んー。……わぁ」
できました。意外と簡単です。やはりイメージ。イメージは偉大だった。
「んー……!」
次は元の位置へ戻すイメージ。無事成功。さらに次は横向きの杖を縦方向に回転! これもなんなく成功。
「むふふふふ……」
あまりに上手くいきすぎている。もしかして私は天才なのではないでしょうか?
調子に乗った私はそのまま杖を勢い良くぐるぐる回してみる。ぐるんぐるんと回る杖に楽しくなってきた。思いのままに動かせるというのは存外気分が良い。
「えへへー。ちゅぎはー」
「はいはいはいストーップ。もういいです終了ー。操作も問題なさそうだし、魔力の動きも安定してるな。使い始めたばっかなのに凄いぞ」
「むぅー。もうちょっとあしょびたい……」
「それは訓練が終わったあとで、な。とりあえず今は次いくぞー」
「あーい」
ガルラさんの言うことももっともだ。遊ぶのは訓練が終わった後にしましょう。
何がこようと今の私は最強なのでなんでも来いですよ。
「ちゅぎはなんでしゅかー?」
「次は浮かせた杖に乗って空を飛んでみましょう」
「やっちゃー!」
空を、飛ぶ! なんて素敵な響きでしょう。うふふ。
「メイはまだ翼もねぇし歩くのも遅いから、これができるようになったら移動が楽になるぞ」
「おぉー!」
たしかに、飛んで移動できるなら移動範囲はかなり広がる。
一人で町まで行けてしまうんじゃないでしょうか。でも冷静に考えたらまだ道がわからないや。諦めよう。
でも空を飛ぶと言われて真っ先に思い描くのは杖より箒。
たしかラドスティさんのお店にあったのも箒だったはずだ。
箒じゃなくても飛べるんですかね。
「ところでガーラしゃん。なんで杖なんでしゅ? 箒じゃないんでしゅか?」
「ん? 別に箒でもいいけど、ここにはないからなぁ。というか別に箒にこだわらなくても乗れるもんならなんでもいけるぞ。飛ばすのと操るのは自分なんだから」
「はぇ……なりゅほど」
言われて納得。箒自体に飛行能力があるわけじゃないんですね。
でもそれじゃあ何で箒の形で売ってたのでしょうか。もしかしてロマンなのかな? わからなくもない。
「メイは箒で飛びたいのか?」
「憧れはありましゅけど、今はこの杖で飛びましゅ!」
この杖はフェルトス様に貰った可愛い杖だ。別に文句はないし、絶対箒で飛びたい! と思っているわけでもないですし。
それに、です。杖で戦ったり、その杖で移動したりとか、カッコいいじゃないですか。とてもスタイリッシュです。スタイリッシュメイちゃんです。
今のところ私が何かと戦う予定なんてありませんが、想像するだけなら自由ですもんね。ぐふふ。
もちろん箒を諦めたわけではないけれど、今は杖で十分というわけです。
箒はまたおいおいということで。それに、空を飛ぶなら魔法の絨毯とかにも憧れる。まだ杖ですら飛んだことがない私だけど、夢を見るのは自由だからね。未来の自分に期待します。
「そっか。ならこのままでいいな」
「あい」
「うし。んじゃいきなり高く飛ぼうとすると危ないし、低い位置から始めるか。とりあえず杖に乗ってみろ」
「あーい!」
乗れと言われ元気に返事をしたのはいいがどうやって乗ろうか。
素直にいくなら跨げば良いんだろうけど、ちょっと痛そうなんですよね。どこがとは私の口からは言えませんが。
「んー。こうかにゃ?」
少し考えた後、とりあえずの安定を取る。すなわち、跨がず腰掛ける方法。足を揃えて横向きに乗る形ですね。
杖の横に立ち、杖を浮かせて腰掛ける。椅子に座るイメージだけど、座る場所が棒状なのでちょっとだけ怖いのは内緒。
「わっ、と」
「落ちないように気を付けろよー」
「あーい」
ガルラさんの忠告を聞きつつバランスを取る。
今の私は子供なのでバランスが取りにくいけど気合いだ。座る場所に椅子でも付いていてくれればまだ楽なんだけど、これは杖なのでそういう訳にもいかない。
とりあえずは落ちても痛くないよう、低い位置に浮いているけど怖いことに変わりはない。というかそもそも落ちたくないです。痛いの嫌い。
「わ、きゃっ!」
「おっと。大丈夫かメイ」
「はぇ……。あ、ありあと、ガーラしゃ」
そんなことを考えてたら見事に後ろ側へ落ちました。
幸い近くでガルラさんがスタンバイしてくれていたおかげで地面への激突は避けられましたが、頭から落ちる感覚に心臓がバクバクいっています。恐ろしや。ありがとうガルラさん。あなたは命の恩人です。
その後もチャレンジしてみたものの、この体でバランスを取るのが難しいのか、かなりの回数落下した。
毎回ガルラさんが絶対に受け止めてくれるという安心感から何度もチャレンジできているけど、仮に地面への落下が続いていたら途中で挫けている可能性大ですね。
何度も言いますが、私は痛いのは嫌いです。
「むー」
「…………どうする? 今日はもうやめるか?」
「いえ、まだやりましゅ! ガーラしゃんもちゅきあってくだしゃい!」
「よし、ナイス根性! もちろんオレもメイが満足するまで付き合ってやるつもりだ。……でもなぁ」
「う?」
ガルラさんが腕を組み、意味ありげにこちらへと視線を飛ばしてくる。
「このままじゃいつまで経っても乗れねぇんじゃねーかなぁ……とオレは思うわけ。まぁ、万が一乗れたとしても飛べねぇだろうなぁ」
「ふぇ?」
どういう意味ですかね?
不思議に思いガルラさんの顔を見上げるけど、にっこり笑ってるだけでそれ以上は何も言わなかった。
もしかして私は何かやり方を間違っているのでしょうか?
さっきまでみたいに普通に乗ろうとしてもダメということですよね?
「うーん」
ガルラさんは『乗るものはなんでもいい』と言っていた。つまりそれは自分が乗れるのならば、対象はどんな形や大きさでも構わないということ。極端に言えば小さな石ころだとしても、その上に乗れさえすれば今の私でも飛べるということですよね。
「うーーん」
もしかしてバランス感覚なんて今は必要ないのかもしれない。だとしてもそれじゃあどうやって乗って、さらには空を飛ぶのかという最初の疑問が残る。
「むぅぅぅ…………あっ!」
うんうん唸りながら考えていると、突然頭に閃いたことがある。
なんとなくわかったかもしれない。
さっそく閃いたことを試してみるべく、杖を手に取り腰掛けた。
「よーち。いっくじょー……」
深呼吸をしてからゆっくりゆっくり杖を上昇させる。足が完全に地面から離れても私の体は安定したまま。そのままガルラさんの腰辺りまで浮かび上がることに成功しました!
ここまできても落ちる気配はございません。どうやら私の考えは正しかったようです。
「やっちゃぁ!」
「うむ、良くできました。ちゃんと自分で考えて答えを出せて偉いぞ、メイ」
「むへへへへー。もっと褒めてくだしゃー!」
「素直かよこのこのー。かわいいヤツめ! オレの妹は天才かー?」
「にゃははははは」
ガルラさんからの頭撫で回し攻撃を素直に受けながら、杖に乗れた嬉しさで顔がとろける。
私が何をしたのかというと、至極簡単なこと。
ガルラさんからの教えを実行しただけだ。
自分の体に巡ってる魔力をコントロールして、落ちないように支えにする。杖を浮かせて自由に動かしたときのように、自分の体を杖から落ちないよう操った、という感じでしょうか。
とにかく第一段階。杖に乗ることは成功した。ならば次は飛ぶ練習だ。
しかしこれが意外と難しい。
杖を浮かせることも、自分の体を支えることも、どちらもまだまだ未熟な私。意識しないとすぐに落っこちてしまう。浮いてるだけなら平気だけど、動きが加わるとまた力加減が難しい。
とはいえ。帰宅時間ギリギリまでずっと練習したおかげか、飛ぶコツは掴めてきた。その証拠にゆっくりなら飛び回れるくらいには成長しましたからね。
ガルラさんも今日一日でこんなに成長するとは思っていなかったらしく、かなり驚いていました。きっとガルラさんの教え方が上手いおかげですね、へへっ。
それにしても――。
「あぅ……ごめんねガーラしゃ」
「いいって、気にすんな」
調子に乗った罰なんでしょうか。帰る頃にはヘロヘロになってしまいました。
ガルラさんも止めてくれたらよかったのに、ニコニコ見ているだけなんですもん。ストッパーのいない私は魔力の使いすぎで案の定ダウンしたというわけです。
ガルラさん曰く、自分で限界を察知できるようにとのこと。それなら仕方ない。いつもガルラさんがそばに居てくれるとも限りませんから。納得です。
さすがに倒れはしなかったけれど、ヘロヘロになった私は動くこともできず、情けなくもガルラさんに抱っこしてもらっての帰宅と相成りました。
もちろんそんな状態で晩御飯なんて作る気力もなく。帰宅したフェルトス様から血をいただいた私は、それを晩御飯代わりとしてさっさと寝ることにしました。
「おやしゅみなしゃーぃ」




