30 魔法の訓練しましょ
「よーし。それじゃこれから魔力及び魔法の使い方を教えるぞ。準備はいいかー?」
「あーい!」
「良い返事だ。やる気満々で大変よろしい!」
新しい家族。ガルラさんが帰ってきてから一日が経った。
出会った瞬間はいろいろあったけど、昨日一日遊んでもらったことにより、すっかりガルラさんとは打ち解けられた。
帰ってきたばかりで疲れてるはずなのに一日遊んでくれるなんてとても良いお兄ちゃんだ。
もちろん私は休んだ方が良いとも言ったんだけど、本人が平気だと言ったので遠慮なく遊んでもらった。お絵描き対決とかお散歩とか追いかけっことか。それはもういろいろ。おかげで夜はぐっすりでしたよ。
そして本日。フェルトス様からの提案で魔法の使い方を教えてもらえることになった。以前から言っていた通り教師役はガルラさん。
前々から気になっていた魔法。ついに私も魔法を使えるようになるのかと思うとワクワクしますね。
今いるこの場所は家の近く。広場みたいになっている所。
この前モリアさんとステラと私の三人で一緒に散歩したり遊んだりした場所です。そこにガルラさんと私の二人、向かい合って立っている。
「わくわく!」
「想像以上にやる気満々だな、おい」
今日のガルラさんは昨日と違って何故か眼鏡を装着している。
目が悪いのかと思ったけどそうでもないらしい。ただ、この方が雰囲気が出るだろうと笑っていました。先生モードということですね。わかります。その眼鏡もとても良くお似合いですが、サングラスとかも似合いそうだ。
「さて、さっそく始めようか。まずは使い方からだな。……とはいえ、教えることも多くないわけだが」
「しょうなんでしゅか」
「おぅ、簡単だぞ。『己の内にある力を引き出す』これだけ」
「だけ……」
そう言われてもわからない。私は魔法のない世界から来たのだからもっと具体的なやり方を説明してくれないと。
そもそも内にある力とは何か。引き出すとはどうやって。そこから説明を求めたいところ。
「……メイは影使えるんだよな?」
「う? あい」
ガルラさんからの突然の質問に反射で頷く。
「それとやり方は同じだ。要は強くイメージしながら魔力を流せば魔法は使える」
「あい、先生!」
「はい、メイさん!」
わたしがピシッと片手を上げて主張すれば、ガルラさんは指名するようにピシッと片手で私を指差した。
「魔力ってどうやって流しゅんでしゅか!」
「良い質問ですね。知らずに使えてたのもすごいですが、知ることによって効率よく魔力を使えるようになります。さて、では実際に体験してみましょうか」
「あーい!」
一時的なものなのか謎の先生キャラが降臨してしまったガルラさんの指示に従い、私はガルラさんと手を繋ぐ。
「それじゃ、目を閉じてください」
「あい」
言われた通り目を閉じる。
しばらくそうしていると、ガルラさんの手から何か暖かいものが私に流れてきていることに気が付いた。
「なんか感じるか?」
「なんか、ぽかぽかしたのが流れてましゅ」
「おっ。もうわかったか。メイは結構魔法の素質があるかもしれねぇな」
「ほんとでしゅか!」
「こらっ。集中!」
「あぅ。ごめんちゃい……」
素質があると言われて嬉しくなり、ついつい目を開けてしまった。反省。
「さて。そのぽかぽかしたもんがメイの体の中をぐるぐる巡ってるはずなんだが……わかるか?」
「うーん」
「ゆっくりでいいから探ってみろ」
「……」
自分の中の感覚を研ぎ澄ませる。
すると手から入ってきたものがどこか別の場所へと移動しているような、そんな感覚を覚えた。ガルラさんが言っているのはこのことだろうか。
「……多分、わかりまちた」
「よし。んじゃ目を開けて良いぞ」
「あい」
「今メイが感じたぽかぽかが魔力だ。ちゃんと認識できたようでなにより。偉いぞー」
「えへへー」
ガルラさんがわしゃわしゃと頭を撫でて褒めてくれる。もっと褒めて撫でてくれても良いんですよ。むしろ褒めて撫でてほしい。褒められて伸びるタイプなので。
「んじゃ次は自分一人でそのぽかぽかを感じてみろ。ついでにそれが集まってる場所もな」
「あーい!」
今度はガルラさんと手を繋がず、一人で目を閉じて意識を集中させる。
「うーん」
ぽかぽか魔力はどこにあるのか。なんとなく感じ取れるものはあるのだけれど、掴み切れない感じがもどかしい。
そもそも私が今まで生きてきた中で、自分の体の中の力を意識した事なんてない。精々が腹痛になったときとかに、どこそこが痛い。というのを感じるくらいじゃないだろうか。
「……ありぇ?」
そんなことを考えながらお腹に意識を集中していたせいか、何か手応えを見つけた。もしかしてこれがそうなのかな。
でもぽかぽかしたものが流れているのは感じるけど、それだけという感じだ。
とりあえずそのままぽかぽかを辿っていく。すると、そのぽかぽかは心臓のあたりに集まってきているのを感じた。
全て「感じ」の感覚でしかないけど、その感覚が大切っぽいので自分を信じよう。
「ガーラしゃん。心臓のとこに、ぽかぽかが集まってるような気がしましゅけど……これで合ってましゅか?」
「おっ。さすがオレの妹。よくできました、大正解だ」
「やっちゃー!」
無事正解を貰えたので両手をあげて喜ぶ。
少し時間はかかっちゃったけど、ちゃんとぽかぽか魔力なる力の流れと源を突き止めることに成功しました。
しかも一度きちんと感じ取れたからか、今度は意識しなくとも感覚で魔力の流れが感じ取れるようになりましたね。
「むふふー」
「ははっ、順調だな。んじゃ次、いくぞ」
「あい!」
「次はその感じ取った魔力を外に出す訓練だ」
「はっ! ちゅいに魔法使うにょ!」
「正確にはまだでーす」
「ぶー」
期待して損した。
「それじゃオレが見本見せるから、ちゃんと見てろよ」
「あい!」
そういってガルラさんは自身の両手のひらを拳一個分くらい開けて近付ける。
見てろと言われたのでガルラさんをよく観察すると、体に流れている魔力が手のひらに集まってきてるのがわかった。
「おぉー」
前までこんな視点はなかったから不思議な感じだ。意識一つで見え方って変わるものですね。
ガルラさんの手のひらに集まってきた魔力はそのまま体の外に出てきて、手の間の空間にピンポン球くらいの大きさの塊となって可視化されている。
「とまぁ、こんな感じだな。メイもやってみな」
「あい!」
ガルラさんはその可視化された魔力の塊を一旦消すと、私に笑顔でやってみろと促した。
力強く頷いた私は気合を入れる。やってやりますよ! まずは拳一個分開けて手を合わせる。次に魔力を手に集める。
「むむむむっ」
「力んでもダメだぞ。ちゃんと落ち着いて魔力の動きをコントロールするんだ」
「……すぅー、はぁー」
ダメ出しを受けてしまったので、意識を切り替えるために深呼吸を一つ。
影を使ったときのように自然に「できる」と「できて当然」と思わないとだ。自然に自然に――でも、ムダのないように。
「――でき、ちゃ?」
私の手の間には小さな小さな魔力の球が浮いている。
ガルラさんが作った大きさには遠く及ばないけれど、それでもたしかにここに存在している。
「は、はわっ……」
初めて自分で作り出した超常現象に興奮する。これを本当に私がやっているのか、信じられない。
「やるじゃんメイ。ちなみにそれ消せるか? 消えろーって思えばいい」
「――できまちた!」
「上出来!」
アドバイス通り念じれば、魔力の球はパチンと軽い音とともに姿を消した。
ガルラさんのようにスッっと消えるんじゃなくて、弾け飛んだって感じだけど。
それでもガルラさんは褒めてくれたし、初めてにしては良い感じのはずだ。
「むふー」
「いい子いい子」
達成感に包まれながら額の汗を拭う。
「んじゃ、次は今の応用だ。それぞれの属性でやってみよう!」
「あーい!」
属性ということは火とか水とか。そういうものだよね。ついに待ちに待った本格的な魔法使用。わくわくします。
教師ガルラさん曰く、属性がついてもやり方はさっきとほぼ一緒らしい。
ただ、魔力を集めるときに使いたい属性を思い浮かべるのが大事、とのこと。
アドバイスをもとにさっそくやってみる。
まずは火。これはライターの火くらいの小さな炎が現れました。
やはり火なので、ちょっと怖くてビビっちゃったみたい。小さいのしか出せなかった。
その事をガルラさんに言ったら笑われたんだけど……私は気にしない。危機管理は大事だもんね。ぶー。
次は水。これは綺麗な水の球が現れました。
ちなみにこの水は飲用可能らしい。これならもう水は買わなくていいかもしれない。
次は風。これは風の塊――らしきものが現れました。
風はイメージが少し難しく、なかなか形にできなかった。でもゲームとかに出てくる感じのものを想像したら上手くいった。
ただ、シュンシュンと鋭そうな音が鳴っていて怖くてすぐに消してしまったけれど。
ガルラさんにビビリだって笑われたけど普通の人だったら怖いと思うんでこれも気にしない。もう私は普通の人ではないんですけどね!
最後に土。これは土の塊が現れました。
土に関してはこれ以上の感想はなし。土。以上。
「うし。とりあえず基本の属性は完璧だな! こんな短時間で達成しちまうなんて、やっぱメイは魔法の素質があるなぁ」
「えへへー、そうでしゅかぁ? でへへへへ」
褒められて調子に乗ってしまう。でももっと褒めてくれてもいいのよ。
「とりあえず使い方は今教えた通りだ。だけど調子に乗って使いすぎるとぶっ倒れるからな。オレかフェルが使ってもいいと判断できるまでは勝手に使わないように。わかったか?」
「あーい!」
それはもうちゃんと理解していますとも。倒れる感覚はかなりしんどかったのでもう味わいたくありません。肝に銘じます。
あの時は日光による攻撃も合わせて食らっていたようだから余計にしんどかったのかもしれないけれどね。
とはいえ倒れたらみんなに迷惑をかけてしまうわけだから気を付けるに越したことはない。命大事に、だ。
「うーん。思いの外すんなり進んでしまったな。まだ昼までは時間もあるし……。メイ、どうする?」
「う?」
「このまま魔法の訓練続けるか、昼まで休憩してからまた続けるか」
「うーん」
二つの選択肢が出されて悩む。
体力的――いや、この場合は魔力的かな。それにはまだ余裕があると思う。だけど私は自分の危険ラインをまだ実感として理解していない。
ならここは安全策をとって休憩を挟んだ方がいいかな。
「うん。自分の限界がわかんにゃいので、とりあえじゅ休憩しときましゅ!」
「うんうん。自分で判断できて偉いぞ。んじゃ昼まで休憩な。飯食ったら再開するぞー」
「あーい!」
次は何を教えてくれるのか。それを考えただけでもうワクワクが止まらないや!




