24 ぐったりメイちゃん
セシリア様とのお風呂後。私は用意されていた子供用のワンピースに袖を通してから別の部屋へと移動した。
連れてこられた部屋にはすでに人が何人かいて、私達の到着を待っていたようです。
その一団のリーダーらしき人とセシリア様が何かを話したあと、私が呼ばれリーダーさんの紹介を受けた。
どうやらこの人達はセシリア様お抱えの仕立て人の方々のようだ。
その仕立て人の方々が私の服を作ってくれる、らしい。そんなすごい人達を私なんかの為に使っても良いのかちょっと疑問だけど。
ジェーンと名乗ったリーダーさんは空色の髪と目がよく似合う、儚い感じの女の人。柔和な雰囲気に癒されます。私も笑顔で名乗り返しておきました。
それにしても。セシリア様とジェーンさんが並ぶと美しさの暴力という感じでとても眼福です。ふへへ。
「それじゃ始めてちょうだい」
「かしこまりました」
挨拶も終わったところでセシリア様の号令が響く。すぐさまジェーンさんが指示を出すと、背後に控えていた女性達が私に集まってくる。
あっという間にジェーンさん含むお姉様方に囲まれてしまった私ですが、これはちょっとした恐怖かもしれない。
あわあわと戸惑いつつセシリア様へ助けの視線を向けてみても、素敵な笑顔で手を振り返されるだけで終わりました。どうやら私はここまでのようです。
「大丈夫ですよメイ様。採寸をするだけですので、少しだけじっとしていてくださいね」
「あ、あぃ……」
それからは服を脱がされて身体チェック。その後採寸されて、とても疲れました。特に何かしたわけじゃないのにすごく疲れた。これは気疲れというやつですね。
体中の至る所のサイズを測られた私は、その後ジェーンさんからの簡単な質問にいくつか答え、一旦解放されました。そう、一旦ね。
ソファに座って休憩中。お姉様から手渡された――多分、リンゴジュース。私はそれを飲みながらセシリア様とジェーンさんの熱い語りをボケっと眺めていた。
なんだかジェーンさんの雰囲気が最初に会ったときと違うんですよ。
恐らく服を作るのが大好きなんだと思う。あの熱もこうやって少し離れたところから眺めている分には良いんだけど、対峙して直接浴びるのは遠慮したいところです。
「さ、おチビちゃん。次いくわよ!」
「ふぁぃ」
本当の地獄はこれからのようですね。
そして始まった地獄という名の着せ替えショー。
セシリア様とジェーンさんの意向で用意される子供服を次々着ては脱ぎ、着ては脱ぎを繰り返す。着替えを手伝ってもらったとはいえ、かなり疲れました。あははは、はぁ。
二人できゃっきゃしながら私に色々な服を提案してきてくれるんだけど、その二人がとても楽しそうで。もうそろそろ勘弁してほしいなんてとても言えませんでした。
正直私は動きやすければ服はなんでもいい派です。
もちろんかわいいのも好きですけど……。
というか。今まで着た服がすべて綺麗に片付けられてしまいましたが、私の服は今までの服ではダメだったんでしょうか。
なんのために私は着せ替え人形になっていたのでしょうね。
もしかしてただセシリア様とジェーンさんが楽しむ為、とかだったり。真偽は本人達のみぞ知るというところかな。
「ふぃー。ちゅかれちゃ……」
疲れた体をふかふかソファに沈み込ませる。座り心地抜群でなんだか疲れが取れていく気がしますね。
そして私の嫌な予感は当たったね。
もう何十時間も拘束されていた気がするのに、現実時間だと三時間ほどしか経っていないこの事実。信じられない。
さらにいうと多分もうすぐお昼だと思うのですが、私のお昼ご飯ってどうなるのだろう。お腹がすいてきちゃいました。
「むぃ……」
「あらあら。大丈夫、おチビちゃん?」
「らいじょぶれしゅ」
ソファに沈み込んでいた私をセシリア様が覗き込んでくる。
セシリア様の後ろにいたジェーンさんも私の惨状を見たのか、眉を下げた。
「少し付き合わせすぎましたね。申し訳ありませんメイ様」
「いえいえー。こちらこしょでしゅー」
「ふふっ。だけどお陰でいい服が出来そうだから、おチビちゃんも楽しみにしていてね」
「あい。ありあとうごじゃましゅ、リアしゃま。ジェーンしゃんも」
オーダーメイドなんて初めてだしどんな服ができるのか。
着せ替えショーは疲れたけど、服の完成がとても楽しみなのは変わらない。
「それではセシリア様。私はこの辺りで失礼させていただきますね」
「えぇ。あとはよろしく」
「お任せください! 腕によりをかけて最っ高に可愛い子供服を仕立て上げてみせます! それでは後程!」
「ふふっ、楽しみにしてるわ」
そういってジェーンさん一行は綺麗なお辞儀をして部屋を出ていった。
私も疲れた体をむりやり起こしてなんとかお見送りを完遂しましたよ。
「……ふぅ」
小さく息を吐く。
思ったのだがこの体は体力がなさすぎじゃないだろうか。
元々自分の体ではあるんだけど、でもこんなに体力がなかった覚えはもちろんない。覚えてないだけだろうか。不思議だ。
「さて、おチビちゃん。頑張ったからお腹すいたんじゃない? お昼にしましょうか」
「ごはん!」
現金なものでお昼ご飯と聞いた途端に元気が湧いてた。
ソファから降りてセシリア様のもとへ走る。
「むへへー」
セシリア様のお家ではどんなお昼ご飯が出るのかな。とても楽しみだ。
「おい」
「う?」
セシリア様と手を繋ぎ部屋を出ようとしたとき、聞き覚えのある声が聞こえた。
それはここにはいないはずのフェルトス様の声。
「……はぁ。もぅフェル。何度も言ってるけれど、窓から入ってこないでってば。ちゃんと表から来なさいよ」
「こちらの方が早い」
「朝はちゃんと表から来たじゃない」
「メイがいたからな」
「あー! やっぱいフェルしゃまだぁ!」
振り向いた先。
開け放たれた大きな窓の枠に足をかけてこっちを見ているフェルトス様がいた。
「ふぇるしゃー! あいちゃかっちゃー!」
嬉しくて窓へ駆け寄るけれど、フェルトス様は窓枠の上でしゃがんでいるので私の身長では届きません。降りてきてくださいよ!
「むぅ!」
私が不満そうにフェルトス様を見上げているのに気付いたのか、フェルトス様は窓枠に腰掛けて片足だけ部屋へ降ろしてくれました。
「わーい!」
その足にひしっと抱きつきます。
大好きな人の登場に空腹と疲れも忘れてテンションが上がる。
「それにしても随分と早いお迎えね、フェル」
「……ふん」
「えへへー。フェルしゃまー」
「ほら。この子こんなにあんたに懐いてるじゃない。そんなに心配しなくても大丈夫でしょうに。まったく」
「そんなことより。頼んだことは済んだのか?」
「えぇ。今しがた。これからおチビちゃんとお昼にするところよ。一応聞くけど、あんたも食べる?」
「……喰う」
「あら珍しい。言っておくけど血液じゃないわよ」
「わかっている。……メイ」
「あい。なんでしゅか?」
フェルトス様の足にくっつきながら二人の話を聞いていたら、急に矛先が向いた。
見上げるとフェルトス様の真っ赤な瞳が楽しそうに細められる。
「セシリアのトマトで作ったトマトジュースを飲みたくはないか?」
「ふぁ! あい、飲みたいでしゅ!」
フェルトス様の提案に即座に飛びつく。
セシリア様のトマトで作ったジュースなんて絶対美味しいやつに決まっている。
「だろう。では作ってくれ」
「ふぇ……でも」
ちらりとセシリア様を窺い見る。
まだ本人に承諾を貰っていません。さすがに勝手に話を進めるわけにはいかないでしょう。
「……」
セシリア様は訝しげな表情をしている。
あれ? そもそも私が作るんだろうか。疲れているのに?
「フェルがそんなこと言うなんてね。そんなに美味しいの? おチビちゃんの作ったジュースは」
「え?」
気になるところはそこですか。
「あぁ美味い。しかもコイツの作るモノならオレでも喰える」
「嘘……ほんとに?」
「嘘をつく理由がない」
「それもそうね。……ねぇおチビちゃん。もしよかったら私にも作ってくれない?」
「もちりょん、いいでしゅけど……」
その前にご飯をいただいてもよろしいでしょうか。あとお昼寝もしたいです。良い? ありがとうございます!
ではまずは普通にご飯を食べましょう。トマトジュースはお昼寝のあとでということで。




