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22 今日はお休み

評価やブクマを入れてくださった方々ありがとうございます。まさかの100pt越えを達成でき嬉しいです!

そして前作「落月の還る場所」で頂いた総合評価ポイントを無事超えるという目標も達成できました!重ねて感謝します!これからも楽しんでいただけるよう頑張りたいと思います!

 地球から別世界へ落ちて早三日。

 私は大変なことに気が付いてしまった。


 それは何かといえば、ぶっちゃけ、トイレ問題です。

 色々あって気にしてなかったけれど、よく考えたら私はこの世界へ来てから一度もトイレに行ってない。あれだけ飲んだり食べたりしたのにまったくもって催していない。


 これはフェルトス様の眷属になったおかげなのか。人間を辞めてしまったらトイレが不要になるのだろうか。

 それとも異常状態なのかな。わからない。いったい食べた物はどこへいってしまったんだろう。人体の不思議……。


 とはいえ。今のところ健康に問題も出ていないのでスルーしておく方針だけど。

 フェルトス様に聞けば早いのだろうが少しばかり恥ずかしい。こんな姿だけど私だってれっきとした女なのだ。異性に対する羞恥心はまだ、多少は、持ち合わせているのです。


「……」

「綺麗な寝顔だにゃぁ」


 隣で眠るフェルトス様の顔を覗き込む。

 昨日トマトジュースを飲んだあと、私達は二人で仲良く寝た。私は散々寝たあとだったので、また寝られるか心配だったけど杞憂だった。

 何故ならフェルトス様にお腹をトントンとされていたら、いつの間にか寝てしまっていたからだ。自分の才能が怖い。


 そして私を寝かしつけた犯人のフェルトス様はまだ私の隣でぐっすりとお休み中。

 フェルトス様は寝ていますが、私は目が覚めてしまったし多分もう朝なので起きます。

 別世界三日目。そろそろお風呂に入りたい。でもここにはないから我慢するしかないんですよね。お風呂好きとしては悲しいところ。とほほ。


 心の中で肩を落としながらも私は手櫛で髪の毛を整えて身支度を整える。

 そのままフェルトス様を起こさないようにもこもこ布団から抜け出した。


 しかしここからが大問題。私一人ではベッドから降りられない。さてどうするか。


 布団を下に落としてその上へ降りる? いやでも布団を汚したくないから却下で。


 となれば、答えは一つだ。

 ゆっくりと降りる。それしかない。ずり落ちながら降りるとも言うけど。


「ん、しょ……」


 まずはベッドの縁から後ろ向きで左足をゆっくりと下に降ろす。

 そしてもう片方の足も降ろして、そのままゆっくり体を下へ――。


「あっ」


 ふと視線を感じ顔を上げれば、真っ赤な瞳がこちらを見ていた。


「あぅ……おはよ、ごじゃま、しゅ。ふぇゆ、しゃ……うぅ」

「おはよう。そして何をしている?」

「むぇ……ベッドかや……降り、ようちょ、ちてま……」


 この会話中もずりずりと体は滑り落ちている。

 落下は急には止まれない。というより止める筋力がありません。


「危ないだろうが、まったく」

「みぃ」


 のっそりと起き上がったフェルトス様に首根っこを掴まれ、そのまま下へと降ろされました。

 ありがとうございます。でももう少し持ち方を、こう、なんとかしていただけると。へへっ。なんでもないですすみません。


 そしてフェルトス様は私を地面に降ろしたあと、もう一度横になってました。二度寝を決め込むようです。


 一方私は無事に地面へと降りられたので顔を洗って、うがいをする。

 そういえば歯磨きもしていないことに気が付いた。虫歯になったら嫌なので気を付けよう。


「しぇてと。朝御飯は何にしようかにゃぁ」


 昨日買ったものを眺めながらメニューを決める。


「これでいいや」


 パンと卵を手に取り早速朝御飯の準備をはじめる。

 まずはエプロンを装着。

 小さいフライパンを洗ってからコンロの上に乗せて点火。少しだけ油をひいて、フライパンが十分(じゅうぶん)温まったら卵を焼いていく。目玉焼きだ。


「……むぅ」


 こうなったらベーコンも欲しくなってくる。今度町へ行ったら探してみよう。


「ふんふふーん」


 卵の焼け具合を見ながらパンの準備をしておく。

 ちなみに目玉焼きは半熟派なのでいい感じに火が通ったら出来上がり。


 焼きあがった目玉焼きをパンの上へ乗せたら――メイ特製の朝御飯『パンに目玉焼き乗せたやつ』の完成だ。むふふ、美味しそう。飲み物は何にもないので水ですけど。


 コップとお皿を手に持ち昨日フェルトス様とトマトジュースを飲んだあたりに移動する。

 そこに腰を下ろし、お皿を膝の上へ。コップは仕方がないので地面に直置き。


 よし、準備万端!

 手を合わせて――。


「いっただっきぃ……」


 真っ赤な目が私を見ていることに気が付いた。それはもう熱い視線がじっと注がれている。

 正確には私に、じゃなくてお皿の上の朝食に、だけど。


「えっちょ。フェルしゃまも食べましゅか?」


 一応聞いてみる。

 それにしても起きていたんですね。寝ていると思っていたのでびっくりしました。声をかけてくれればいいのに、何故無言で見つめてくるのだろう。


「……そうだな。とりあえず、一口だけくれ」

「いいでしゅよ」


 しばし考える様子を見せたフェルトス様はゆっくりと起き上がり、そのあと私の目の前に来て座った。

 そんなフェルトス様へ私はお皿ごと朝食のパンを差し出す。お皿を受け取ったフェルトス様はパンを手に取り自身の鼻へと近付けた。

 警戒するようにくんくんと匂いを嗅ぐフェルトス様になんだかちょっと笑ってしまった。


「へんなものじゃないでしゅよ?」

「……そうだな」


 それから恐る恐る口元に近付けてパクリと大きな一口。

 私の朝御飯が半分近くなくなってしまいました。


「美味しいでしゅか?」

「……あぁ。美味い」


 気に入ったのかパクパクと食べ始めてしまったので、先程のパンはフェルトス様にあげてしまった。

 なので私の分ともう一つフェルトス様用に新しく作って、改めて一緒に朝食を食べた。

 とても美味しかったです。ごちそうさまでした。


 食べ終わったら後片付け。

 ぱぱっと終わらせた私は改めてフェルトス様に向き直る。


「ねぇフェルしゃま。今日も町に行ってきてもいいでしゅかー?」


 ベッドで横になっているフェルトス様へお伺いを立てる。

 昨日は途中で倒れてしまいシエラさんに迷惑をかけた。それに案内のお礼だって碌に言えていない。その他にも足りないものを買い足したい欲だってある。


「ダメだ」


 それなのに即座に否定されてしまった。


「今日はちゃんと日光対策しましゅ! 影も使いましぇん! しょれでもダメでしゅか?」

「ダメだ」

「うぅ……どうしても、めっ?」

「どうしても、めっだ」


 うるうるおめめのぶりっ子作戦を実行してみましたが、ものの見事に玉砕。フェルトス様の無表情な「めっ」に負けました。あれには勝てない。


「むぅ!」


 こちらには恥じらいがあるというのにフェルトス様ときたら……かわいいじゃないか!


「むくれるな。貴様の体調が万全かどうかわからん内は大人しくしていろ」

「むぃ……あーい」


 そんなことを言われたらもう何も言えない。

 私はもうすっかり元気なんだけどな。もしかしてフェルトス様は過保護なのだろうか。

 とはいえ。無茶をしてまたフェルトス様に迷惑をかけるわけにもいきませんからね。仕方ないから今日は一日大人しくしてようと思います。


「むふふふふ」


 などと考えていた時期が私にもありました。


 フェルトス様が冥界のお仕事で居なくなってしばらく。

 暇になった私はお散歩へ出掛けています。すぐに戻ればバレないバレない。


 現在の私は家がある広場から下へと伸びる道をひたすら降りているところ。

 急な下り坂なので転んだら一気に下まで転がり落ちていきそうで少しだけ怖い道だ。

 道幅は狭くないけど、なにぶん急なので岩肌に手をつきつつ慎重に進んでいく。


「ふぃー。結構進んだんじゃにゃいかにゃ」


 そう思って来た道を振り返ってみるがまだ広場の入り口が見えていた。

 全然進んでなかったもよう。


「しょんな……」


 まだまだ先が長い道のりに軽く絶望する。こんな調子ではお散歩どころではない。どうしよう。今日はここまでに――。


「むぃ?」


 坂の途中でどうするか悩んでいたら私の頭に急に重みが増した。


『何をやってるんだオマエは』

「あ、モリアしゃんだ。こんちわ!」


 突然現れたモリアさんと挨拶を交わす。


「しょれと、昨日は迷惑かけてごめんなちゃい」

『気にするな。ワシも気付かなくて悪かったな。元気になって良かった』

「あい、ありあとごじゃましゅ!」


 頭を撫でられている感覚に思わず笑顔になる。

 心配かけちゃってすみません。これからは気を付けますね。


『それで。オマエはフェルトス様の(ねぐら)を抜け出して何をやってるんだ?』

「えへへ。おしゃんぽでしゅ」

『なるほど散歩か。しかし可笑しいな。フェルトス様は大人しくしているように仰ってなかったか?』

「うっ!」


 痛いところを突かれて胸を押さえる。

 どうしてモリアさんがそのことを――と思ったけれど当たり前か。


「あぅ。だって暇だったんだもん……」


 あそこは遊ぶものとかもないし、一人ぼっちでやることだってない。

 でも言いつけを破ったのは事実なので言い訳もそこそこに謝罪を口にする。


「……ごめんちゃい」

『おぉ、素直だな。素直なガキは嫌いじゃないぞ』

「え? ふへへ」


 突然の告白に顔がにやける。さっきのしょんぼり気分はどこへやらだ。


「わたしもモリアしゃんしゅきだよ」


 モリアさんは可愛い見た目なのに、低い声のギャップが素敵なんだよね。

 それに、からかってきたり馬鹿にしてきたりするけど、なんだかんだ優しいもん。


『おぉ、そうかい。ありがとよ』

「えへへー」

『……む、来たな』

「んー? 誰か来ちゃの?」


 キョロキョロと周囲を見てみるが誰もいない。

 でも下の方からバサバサと何かの羽音は聞こえる気がする。


「これにゃんの音?」

『危ないからここにいろ』

「う?」


 気になって見に行こうとしたけど止められたので大人しく従う。

 そのまま壁に背中をつけて待っていたら、だんだん羽音が近付いてきた。

 多分だけどこの音はチビモリアさん達の羽音だろう。

 フェルトス様の羽音はもっと重たい音だから違う。それにモリアさんが警戒していないから知っている人は確定。だとしたら、私が知る範囲ではもうチビモリアさん達しかいない。


 待っていると下の方から黒い塊が現れた。それは予想通りチビモリアさん達で、彼らは何かを運んでいたようだ。


「あっ。しゅてらだ!」


 黒い塊の中に存在するこれまた黒い塊。それはよく見るとステラだった。

 チビモリアさん達はステラを降ろして昨日と同じように私の影へ入っていく。何回見ても不思議な光景だ。


「ふへへ。しゅてら、会いたかったよ」


 とことこと近付いてきたステラをぎゅっと抱きしめる。

 ステラも私のほっぺたをぺろぺろと舐めてお返事してくれた。ふふん、かわいいやつめ。


「しゅてらにも心配かけたよね、ごめん。わたしはもう元気だかや心配しにゃいでね」


 ステラの頭を撫でながらそう語りかける。

 すると、いつもより少しだけ重い頭突きをいただいた。本当にごめんね。


「ありぇ? しょういえば、なんで二人はここにいるんでしゅか?」


 物凄く今更な疑問をモリアさんへぶつける。


『フェルトス様が『アレがそろそろ暇を持て余し脱走するだろうから、遊び相手にでもなってやれ』と仰られたからだな』

「あ、あはははは」


 お見通しということですか。

 私との付き合いはまだまだ短いのに、フェルトス様は私のことをよくわかってらっしゃる。すごい!


『それで? これからどうする。散歩の続きか?』

「うーん。しょうしたいけど……この坂降りりゅの大変だかや、今日はもう帰ろうかにゃって思ってゆ」

『ならワシが下まで連れてってやるから、下で散歩するか?』

「ほんちょ! わーい、ありあとモリアしゃん! 大しゅき!」

『あーハイハイ。ワシモダイスキダゾー』


 とてつもない棒読みだけどきっと照れているのだろう。まったく照れ屋さんなんだから。


「う?」


 にへにへしていればチビモリアさん達が影から出て来てくれて、巨大モリアさんが再び登場。

 ステラと二人、籠に乗せてもらっていざ出陣。冥界のお散歩へ行ってきます!


 しかしお家周辺はとくに面白いものもありませんでした。冥界とはつまらないところです。

 でもステラやモリアさんと遊べて楽しかったので良しとしましょう。

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