黒影編2 契約
かなり投稿期間があいてしまったのに、黒影1話をもう見つけて読んでいいねしてくれた方々。この場を借りて感謝申し上げます。みなさまのいいねにかなり救われております。
2024/7/21追記
誤字報告ありがとうございます!なんであんなわかりやすい所を見逃してたんだろう…何回も見直ししてたのに…。感謝申し上げます!!
「では確認だ。覚えてる範囲で契約のやり方を言ってみろ」
「えっと、『相手の心臓、もしくはそれに該当する場所に手を当てながら詠唱を唱えて契約する』……です!」
契約の魔法とは、対象の魂を魔力で縛って主従関係を確立させる魔法だ。
その時に必要になるのが名前――真の名前で、今回みたいに私が付けても良いし、元からある名前をそのまま使っても良いらしい。
「ウム。意外と覚えていたな。上出来だ。褒めてやろう」
「うへへへへ」
フェルトス様の大きな手がわしゃわしゃと私の頭を撫でる。
もっと撫でてください。
「それで、肝心の言の葉部分は覚えているか?」
「うっ! ……ごめんなしゃい」
実はそこがすっぽり抜け落ちました。
だってもう必要ないと思ったんだもん……。
フェルトス様の問いかけに素直に謝罪すると、フェルトス様は軽く笑いながら私の頭から手を離した。ちょっと名残惜しい。
「そんなことだろうと思っていたから気にするな。オレが言う言葉をメイはそのまま繰り返せばいい」
「わーい! フェル様ありがとー!」
「だがこれから先、貴様もまた使い魔を増やすことがあるやもしれん。その時のためにも覚えておいて損はない。いいな?」
「あぅ。わかりまちた」
「ウム。――では、始めるか」
「はいっ!」
なでなでタイムも終了したので、私は精霊ちゃんもといシドーに改めて向き直る。
シドーはお餅みたいな、潰れた楕円形のような体をしていて正直心臓がどこかは判断できない。
でもたしか記憶違いでなければちゃんと後でわかるようになったはずだ。
なので今はあまり気にしないで先に進みましょう。
深呼吸を一つしてから私はゆっくりと魔法を発動させる。
足元に大きな魔法陣が広がりキラキラと輝いてとても綺麗だ。
魔法を発動させるこの瞬間は、いつ見ても素敵だと感じます。
キラキラ光ってて、ずっと見ていても飽きない気がする。
でも今はそんな暇はないので、視線をキラキラからシドーへと移す。
するとシドーの体の一部分。中心部がぼんやりと紫の光を放ちはじめた。
ここがシドーの心臓、もしくはその該当部分なのだろう。
私はそこに手を持っていき、より集中するために目を閉じる。
視界を閉ざすとシドーの存在をより近くで感じ取ることができた。
シドーの方はすでに私を受け入れる心構えができていたのか、私の契約魔法を拒む様子はない。
なのですんなりと繋がりを持つことができて一安心だ。
ここで拒まれちゃったら何にもなりませんからね。
むりやり契約することもできるみたいだけど、そんなことはしたくないし。
前準備が終わった私は小さく息を吐いて次に備える。
さて、ここからが本番です。
活舌が甘くならないように、それから噛まないように、気合を入れて頑張りたいと思います。
「よし。ここからはオレに続いて詠唱を始めろ。いくぞ」
フェルトス様の言葉に無言で頷き集中を高める。
「――告げる」
「……告げる」
「これより行うは契約の儀式」
「これより行うは契約の儀式……」
私の魔力がシドーに移っていき、この子の魂を縛り始めたのがわかる。
最初は細い糸のような頼りないものだったのが、次第に鎖のような強く強固なものに変わっていく。
「我が呼びかけに応えしものよ、我が意志を受け取り、守護として永久に仕えよ」
「我が呼びかけに応えしものよ、我が意志を受け取り、守護として永久に仕えよ」
言葉を紡ぐたびに、がちりがちりと鎖がシドーに巻き付いていく感覚がある。
それはカイルのときには感じなかった感覚。
もしかしたら私が気付かなかっただけで、カイルを眷属にしたときも何かしらあったのかもしれないけど……とにかく不思議な感覚だ。
「我が名は冥界姫メイ。縁結びし者の名はシドー」
「……我が名は冥界姫メイ。縁結びし者の名はシドー」
冥界姫という聞き覚えのない単語に一瞬動揺してしまい反応が遅れてしまった。
聞きたいこともあるけどでもそれは全部後回し。
今は集中を切らさず詠唱を唱え続けた自分を褒めてあげよう。
「我が名、我が声、我が魔力、未来永劫その身に刻め」
「我が名、我が声、我が魔力、未来永劫その身に刻め」
私からシドーへと流れる魔力が多くなり、シドーの魂を私の魔力がガッチリ掴んだ感覚があった。
それと同時になんだか嬉しそうな、柔らかな想いのようなものも感じることができた。これはきっとシドーの感情だろう。
「今ここに新たなる絆を結ばん」
「今ここに、新たなる絆を結ばん――!」
言い終わると同時に魔法陣の光がより一層強く輝いたのが目を閉じていてもわかる。
そしてシドーが私の一部になったような、そんな変な感覚が私の中に生まれた。
「フム。成功だな」
フェルトス様の声に目を開けると、目の前には嬉しそうに飛び跳ねるシドーの姿。
どうやら契約は上手くいったようだ。
「ふぃー。ちかれたー」
「よく頑張ったな」
「お疲れさーん」
「お疲れ、お嬢」
「あいがとー」
みんなからの労いの言葉に笑顔でお礼を言った私は、まだぽよぽよと飛び跳ねるシドーへと顔を向ける。
「シドー。契約受け入れてくれてありがとー。これからよろしくね――おっとっと」
跳ねた勢いのままぴょんっと私に向かってきたシドーをなんとか両手で受け止める。
突然のことで驚いたけど落とさなくてよかった。
私にしてはなかなか良い反応だったな。
ほっと息を吐き私の手の上の小さな命を覗き見る。
顔がないので表情なんかはわかんないけど、それでもシドーがとっても上機嫌なのは伝わってきました。
うん。すっごくテンションが上がっているみたいですねこの子。落ち着きがありません。
「う? どちたの?」
そんな風にニコニコしながらシドーを見ていると、突然シドーが体を細長く伸ばし、私の顔へと近付いてきた。
「ふへへ、くすぐったーい」
なんだろうと思い様子をうかがっていたら、私のほっぺたに頬擦りするかのようにすりすりと擦り寄ってくるではないか。なんとかわいい。
それを受け入れながら私もお返しにシドーへと頬擦りを返す。
きっとこれはシドーも「よろしく」と言ってくれている。そんな気がします。
カイルやシドーに相応しい主でいられるように、これからもちゃんとがんばろっと!
「んじゃ、メイも契約で疲れただろうしちょっと休憩しようぜー」
「そうだな。では少し休んだら次は眷属と使い魔の違いを説明してやる」
「はーい!」
「では皆様、こちらへどうぞ」
ガルラさんが休憩を提案すると、すかさずカイルがカバンからシートを取り出し地面に敷いた。
相変わらず行動が早いです。でもありがたい。
私はシドーを連れ、喜び勇んでシートへと座り込む。
するとすぐに目の前に冷えたトマトジュースが差し出された。
「ほいお嬢」
「ありがとカイル」
「どういたしまして。シドーも飲むか? というかお前は飲み食いできるのか?」
カイルが聞くとシドーは体を縦に伸び縮みさせている。
これはイエスということなのだろうか。
さらにシドーはカイルへ手を伸ばしトマトジュース本体を奪おうとしていた。
まるで早く寄越せと言っているかのようですね。
「わかったわかった。わかったからちょっと待て」
そんなシドーに本体を取られまいと、手を少し上に持ち上げながらカイルは困ったように笑う。
私の眷属と使い魔。この二人のやりとりがなんだかかわいくて癒される。
微笑ましくてニコニコ見てしまいます。ふへへ。
その後シドーにトマトジュースを渡したカイルは、次にフェルトス様達への給仕に向かっていった。
「これはねー、トマトっていう赤い実を潰してジュースにしたやつで、トマトジュースっていうんだ。美味しいから飲んでみてー」
カイルを見送ったあと私はシドーに向き直り、簡単なトマトジュースの説明をする。
それを聞き終わったシドーはすぐにコップを傾けると、ごくごくと勢いよくトマトジュースを飲み始めた。
視覚的には飲んでいるというより、取り込んでいるみたいな印象だけど……かわいいから細かい事は気にしない!
「おいしい?」
一気に飲みほしてしまったシドーに味の感想を聞いてみる。
シドーにとっては初トマトジュースだと思うので、気に入ってくれるかちょっと心配。
でもそんな心配は無用だったみたいで、また体を縦に伸び縮みさせ始めた。
やっぱりイエスってことだなこれは。
「気に入ってくれて嬉しいな。もっと飲む?」
相変わらず縦にびょんびょん跳ねているシドーに自然と私も笑顔になる。
すぐにカイルにおかわりを持ってきてもらい、私自身も一息つくことにした。
ふぃー。疲れた体にトマトジュースが染み渡りますね。
魔力消費的にはそんなに使ってないけど、慣れないことをしたので本当に疲れました。
気疲れってやつかな。
そのあとしばらくシドーと戯れていたら、あっという間に休憩時間も終了。
次はフェルトス様による講義の時間ですね。よろしくお願いします。
ところでフェルトス様。冥界姫ってなんですか?
え、冥界の王の娘だから姫? なるほど?
納得はしたけど、やっぱり姫っていう称号が似合わな過ぎて……ちょっと恥ずかしい。
そんなことを思いながらフェルトス様の前に座る。
さて、これからはお勉強のお時間です。
厨二力が足りない…もっとカッコいい詠唱を思いつきたい人生だった…。




