↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UNDEAD HUNTER  作者: Navajo
第一章 招かれた世界
9/29

第九話 舞踏会場





 凄惨な光景を男はただ黙って見ていた。

 

 二人の女の子がアスファルトの地面の上で集団に囲まれ、押さえつけられながら貪るように食べられる光景を。

 

 皮膚とともに筋肉と神経が噛みちぎられる様子も、太い血管を体の中から引きずり出しながら胸骨を引き裂く一部始終に、骨が露出した手足をもぎ取ってその肉を仲間同士で奪い合うように引っ張りあう姿を。

 

 男はドラッグストアの中でその様子を見ながら吐いた。

 えずき、吐きながらガラス越しに見続けた。

 

 食事は長い時間行われた。

 食べ続け、ドラッグストアの出入り口の前を血と肉で汚し尽くすと、襲撃者たちの中から何人かが立ち上がった。

 太陽の陽の下で、どこか虚空を眺めるような無意味な時間をしばらく過ごすと、同じように何人かが食べ終えたのか立ち上がる。

 

 まだ食事をしている仲間たちも残っていたが、食べ終えたグループは独立し、もそもそと歩いて駐車場の外へと移動した。移動したグループは車道の近くで立ち止まると、そこでお互いがそれぞれで別々の方向を向いて立ち止まった。

 

 まるで見張りのようだった。

 

 独立したグループが駐車場の中と外が見える位置で立ち止まっている間も、食事を続けるグループはなおも貪り続けていた。

 

 食い散らかすように食べている集団のその中で、一人か二人、両手も利用しながら死体を掻き分けるようにしながら食べている奴がいた。

 

 そいつはドラッグストアの中の男を睨んでいた。

 男を視界に常に入れ、警戒して見張るような様子があった。

 

 まるで獣だ。

 

 観察を続けながら吐くだけ吐き、気持ちが少し落ち着いた男は出入り口を封鎖し直した。

 ショッピングカートと陳列棚で簡易バリケードを設置して中に入れないようにすると、女の子たちが割った窓ガラスに移動してそこから襲撃者たちを見張った。

 

 男が眺め続けていた襲撃者たちの食事にもいつしか終わりが訪れた。

 先に食べ終えたグループと同様にそれぞれが立ち上がる。

 

 全員が立ち上がると、その中の一人が屈むように腰を曲げた。それは男を睨んでいた襲撃者だ。

 その襲撃者は食べていた女の子の死体の一つを手で掴み、死体をズルズルと引きずりながら歩いていった。周りの仲間をそいつの後について行く。

 

 残っていたグループは見張りをしていたグループと合流すると、集まったグループは死体を引きずって道を曲がり、そのままその姿を消してしまった。

 

 男はその一部始終を見ていた。

 

 銃を暴発しさせてしまい女の子を殺してしまったことは失敗だった。

 結局連れの子も死んでしまった。

 

 しかしそれも今となってはどうでもいいこととなってしまった。

 証拠はすべて襲撃者たちの腹の中に収められてしまったし、目撃者もいない。

 

 その上で新しい収穫と、新たな恐怖を知ってしまった。

 

 相手には多少の知能がある。

 

 何しろ元は人間だ。

 

 犬や猿くらいの知恵を持ち、工夫もできるかも知れない。

 

 男は震えながら肩の痛みを我慢し、銃に弾を装填した。

 そのままドラッグストアの前を見張り続け、いつしか夕暮れにまで時が過ぎていった。

 

 日が傾き、男の集中力が途切れたころ。あることを思い出した。

 

 女の子たちと交わした会話のことだ。

 

 彼女たちは、弱った友人を病院に連れていきたいと言っていた。

 

 その中の一人のジャージの女の子はドラッグストアのすぐ裏の家に避難しているとも。

 

 つまり、このドラッグストアの裏に女がいる。

 

 男は舌なめずりををした。

 

 たった一人でこの困難を切り抜け続けることは難しいだろう。

 

 それは安全面の確保と同時に生理的な欲求の解決策も必要になるからだ。

 

 男はバックパックの中を開け、まだ中に弾が残っていることを再確認すると場所を移動した。

 

 もう一度、自動扉の簡易バリケードをどかし、扉を開けて慎重に外の様子をうかがいながら外に出た。

 

 駐車場には食い散らかされた死体が残り、同じ場所から外の道路まで引きずった死体の血の跡が残っていた。

 

 襲撃者たちは表の道路に出ていった。だけど男が向かうのはドラッグストアの裏手。

 男は表への道路へつながる道とは別の道を利用して、ドラッグストアの裏にある新興住宅地に移動する。

 

 比較的新しい住宅が多く、その数は六軒と少ない。

 男はここであろうと推測すると、家を一軒ずつ調べ始めた。

 

 一軒目の家は鍵が開いていた。中を探しても誰もいない。家の中の様子からして狂ってしまって外に出たのだろう。

 

 二軒目は鍵が閉まっていた。窓を岩で叩き割って中に侵入すると、布団の中で死んでいる子供の死体を二つ見つけた。親が外出して戻らぬ内に死んでしまったのだろう。

 

 三軒目も鍵が閉まっていた。二軒目と同様に窓を割って侵入すると死体を食っている襲撃者と相対した。肩の痛みを我慢しながら至近距離からぶっ放し、トドメにもう一発額を狙って発砲して撃退した。

 

 そして四軒目。ここも鍵が閉まっていた。当たり前のように岩で窓を叩き割り、男は家宅侵入を実行した。

 

 家の中はこれまで見てきた家の中で一番きれいで清潔だった。土足で上がるのがはばかられるが、男は気にせず靴のまま家の中を調べる。

 

 侵入したダイニングキッチンには誰もいない。玄関を確認すると靴が数足あり、さらに中身が詰まったゴミ袋が幾つも置かれていた。ゴミの中身は包まった新聞紙や、レトルト食品などが確認できた。続いて一階の洋室、トイレと風呂も覗き、今度は二階へ向かおうと階段の前に立ち、二階を見上げようとした。

 けれども顔を上にあげようとすると肩が痛い。右肩がとても痛む。

 

 ストックとなる銃床を押し付ける肩が痛く、腕を上げるのが困難なほどだ。

 

 体への負担を減らす必要があると考えた男は、背中に背負っていたバックパックを床に下ろした。

 

 床に下ろしたバックパックの中から弾を四発取り出すと、弾をポケットに入れ、さらに牛刀も取り出すと弾の入ったバックパックを玄関に置いた。

 

 この家に女がいる可能性は高いと男は踏んでいた。

 その際にまた銃を暴発させて殺すわけにはいかない。

 

 脅すならば包丁で十分。万が一のときにだけ銃を使うべきだろうと男は判断したのだった。

 

 男は左手で銃を持ち、右手で抜き身の牛刀を手にして階段を登った。

 

 用心のために大きな音を立てるつもりは無かったが、疲れた体ではそこまで配慮しきれるほどの体力が残っておらず、ドスドスという足音を立てながら二階へ上がる。

 

 二階には部屋が三つにトイレが一つ。

 

 二つの部屋は扉が開いており中には誰もいないが、一つだけ扉の閉められた部屋がある。

 

 男は無遠慮にノブを回して扉を開けた。

 

 部屋の中はパステルカラーの黄色やピンクと白で装飾品された女の子らしい部屋だった。

 

 その部屋にはベッドがあり、そこには目的の人物がいた。

 

 男は部屋に入った瞬間の匂いで把握していた。

 

 女だ。

 

 土足のまま部屋の中に入り、ベッドに近づく。

 そこには小柄で、セミロングの黒髪をした美少女が眠っていた。

 

 

 「……おいおい。大当たりじゃん」

 

 

 眠っていて、すっぴんの状態でこれだけ可愛いなら年齢など気にならない。

 もとい、今までの社会と常識の中であれば、自分はこの年齢の女に近づくことすら忌避される。

 それが今の状況ならばどんなことをしてもお咎めなし。何をやってもいいのだ。

 

 男は不埒な笑みを浮かべ、牛刀と銃を床に置いて寝ている少女の肩を左手で揺すった。

 

 

 「おい。おい、起きろ。大丈夫か?」

 

 

 呼びかけと揺すられた反動に少女は反応し、ゆっくりとわずかに目を開けた。


 少女は口を小さく開け、白くきれいな歯を覗かせながら何かつぶやくような素振りを見せたが、男には何を言っているのかは聞き取ることができなかった。

 

 

 「病院に連れていきたいってのこういうことか……まぁ、病院は無理だな」

 

 

 男はここで回復させるしか無いと考え、部屋の中を見回した。部屋には勉強机にノートパソコン、衣装ダンスなどの家具。そして部屋の隅にはなんと介護用のオムツなどがいくつも置かれていた。

 

 男は別の民家で老夫婦が介護に使用していたオムツなどを見た覚えがあった。

 

 恐らくドラッグストアに助けを求めて来た、とび色のジャージを着た女の子がこの少女の手当を必死に続けていたのだろう。

 

 ここで男は選択を迫られた。拠点をドラッグストアにするのか、この家にするのか。

 

 ドラッグストアなら物資は大量にあるが、ベッドが無く、死体なども転がっていて衛生環境的には悪い。

 

 この家ならば清潔な部屋が確保できるが、物資をドラッグストアから運び出す必要があるし、籠城するには心もとない。

 

 だが目的である少女を動かすことは困難な状況であることはわかりきっていた。彼女には療養が必要ならば、彼女を動かさずにここを拠点にするしか方法は無い。

 

 男はそう結論づけると部屋を出てドラッグストアに向かうことにした。

 車と、必要な物資をこの家に運び込む必要がある。ついでに割ってしまった窓を補強してバリケードも作らなければならない。お楽しみは彼女が回復してから。やることは目白押しだ。

 

 男が銃だけを手にして家から出た頃には日が完全に沈んでいた。暗い夜道を歩き、すぐ隣のドラッグストアに戻ろうと歩いていると出会ってしまった。

 

 襲撃者だ。容姿からして男性。相手は一人だが、歩くその姿に頼りない雰囲気は無い。歩幅も大きく、しっかりとした直立歩行ができている。

 

 男は肩の痛みに堪えながら銃口を向け、引き金を力強く引いた。

 轟音が夜の空に吸い込まれ、直後に撃たれた反動で襲撃者は後ろに倒れる。

 

 男は体の痛みに耐えながらその場を後にしてドラッグストアの駐車場に向かった。

 車を動かし、ドラッグストアに横付けして物資を運び込んであの家に戻るという計画を立てていた。

 

 だが男は失態を犯してしまった。車にたどり着いて盗んだ鍵を取り出そうとすると、車の鍵を保持しておらず、鍵を忘れてきたことに気がついたのだ。

 

 あのバックパックの中だ。

 弾と一緒に、鍵がついたキーホルダーもバックパックに入れていた事を男はすっかり忘れていた。

 

 

 「っち、戻るのかよ」

 

 

 自分のミスに舌打ちして男は少女の家に引き返そうとした。

 だがそれと同時に肩に何かが触れたような感触に気付き、振り返ろうとした瞬間に左肩に激痛が走った。

 

 左肩に食い込む痛みは凄まじい力だった。

 

 

 「ああ゛あ゛あ゛あああああぁぁっ!!」

 

 

 男は肩への痛みを振り払おうと大きく体を揺さぶり、何かを跳ね除けようと必死に腕を振りながら地面に転がった。

 

 ガチャンと音を立てて左腕で抱えていた銃が地面に落下したが、男は我が身を守るのに必死だった。男はアスファルトに転がって痛みの根源を振りほどくために暴れた。

 

 アスファルトに転がった拍子に男の体を地面に叩きつけられれ、その衝撃でそれは離れた。

 

 男はそれを自分の体から引き剥がすことに成功したことを理解すると、転がりながら這って距離を離し、それを直視した。

 

 襲撃者だ。

 

 さっきまで駐車場には誰もいないはずだったが、そいつが突如として現れた。

 

 周りを見渡すと、盗んだジムニーのすぐ近くの乗用車の運転席のドアが開いていた。

 

 昨夜偵察したときに運転席に突っ伏していた女性が目覚めたのだ。襲撃者として。

 

 男は動揺を隠すこともなく慌てふためき、自分が女性の襲撃者に噛まれたことを理解した。

 噛まれた患部に触れて見たところ、唾液が手に付着したが血は出ていない。生地の厚い服の上から噛んだので素肌まで噛みつかれずに済んだのだ。

 

 男は地面に落とした銃を拾い上げ、襲撃者から逃げるために痛む体にムチを打って少女の家まで引き返した。

 

 だが事態は悪化した。少女の家の前で撃ち倒した男性の襲撃者が起き上がり、こちらに向かって来る。

 

 先程よりも歩くスピードは遅いが足取りは変わらずしっかりしていた。

 散弾が命中した部分はグチャグチャになっていたが出血量が少ない。男が離れた位置から撃ったせいで散弾が集約されず、威力は低かったのだろう。

 人間ではなくなった襲撃者は痛みなど感じずに執拗に獲物とみなした男に向かって進んでくる。

 

 男は駐車場から迫る女性の襲撃者と、道路から迫る男性の襲撃者の二人に挟まれてしまった。

 

 弾はまだ装填していない。

 

 男は窮地に追い込まれながらも痛む腕と肩を懸命に動かし、コッキングレバーを操作して薬室を開放し、ポケットから弾を取り出して装填した。

 

 倒すべき相手は進むべき道の敵。

 

 男は一度撃った男性の襲撃者に銃口を向けた。その距離は5メートル程度だろうか。十分な近さ。

 

 男は踏ん張って発砲した。撃ったと同時に正面の男性の襲撃者は再び後ろに吹き飛ぶように倒れた。

 

 十分なダメージ。だが撃った男も相応のダメージを体で受けてしまう。

 もはや銃は男にとっては諸刃の剣となっていた。

 

 男は唯一の武器を強く抱きしめながら少女の家まで走った。

 背後に追っ手がいる以上、悠長なことはしていられない。新興住宅地に作られた真新しいコンクリートの道路を走り、少女の家の敷地に到着しすると男は割った一階の窓から家に侵入する。

 

 男はもう銃を撃つのをためらっていた。

 銃声に襲撃者たちが集まってくる上に、撃てば撃つほど自分への負担が大きくなる。

 

 男は窓から外を見張り、車から現れた女性の襲撃者が男を見失ってくれるのを願った。

 

 無音の静寂はしばらく続いた。銃声に驚いたのか虫の音も聞こえない。

 月明かりは薄く、外を見通すにはあまりにも不十分だった。


 男はこの状況ならば相手にこちらの所在を気取られないだろうと信じ始めた。

 

 

 「大丈夫だ。所詮、相手は脳が腐ったゾンビだ」

 

 

 男は自分に言い聞かせるようにつぶやくが、それがマーフィーの法則となってしまった。

 

 人影が見える。新興住宅地の敷地内に襲撃者は足を踏み入れたのだ。

 

 足取りはかなり重く、やっとの思いで動くような歩調だが、間違いなく男の所在を察して向かってくる。

 

 

 「っち!」

 

 

 男は観念した。

 ポケットの中から残った二発の弾を取り出し、痛みに耐えながらコッキングレバーを操作して弾を一発装填する。

 

 男は家の中から少し離れた位置にいる襲撃者を狙いをすまし、こちらに向かってくる相手に向かって迷わず引き金を引いた。そして自分も襲われるであろう衝撃に備えて目を閉じる。



_ダワアァァァァァァン!!


 

 家の中に銃声が轟いた。轟音は壁に反射して残響をエコーのように尾を引かせ、男の体だけでなく耳にも強烈なダメージを与えた。


 撃たれた襲撃者は衝撃で後ろに仰け反る。


 男は体の痛みと銃声に顔をしかめ、痛々しい表情で歯を食いしばる。

 

 閉じていた目を開き、撃った相手を確認すると、当たりが悪くダメージが足りなかったのか、倒れること無くこちらに向かって進行を再開した。

 

 家の中ではこれ以上撃ちたくない。男は閉鎖空間での射撃にこりて表に飛び出した。

 窓を割ったときに散らばったガラスの破片を靴で踏み、これで最後だと意気込みながら最後の弾を装填した。

 

 男の顔は苦痛と憤怒、そして疲れの表情でいっぱいだった。

 銃はもうこれ以上撃ちたくない。これで最後にしたい。そのためにもこいつをさっさとぶっ殺したい。男はその思いを実現するために一歩、また一歩と歩いて襲撃者まで自分から近づいていった。

 

 今にも倒れそうな足取りの女性の襲撃者と間合いをギリギリまで詰めると、男は銃口を襲撃者の頭に向けて引き金を引いた。

 

 

 ダアァァァン!!

 

 

 鳴り響く破裂音が銃声となり、音と反動と返り血に男は顔をそむけた。


 襲撃者は撃たれた衝撃でバク転をするような勢いで後ろに吹き飛び倒れ、後頭部から頭をコンクリートに打ち付けた。その撃たれた襲撃者の顔はグチャグチャとなってしまい、夜の闇の効果もあってもはや顔なのかどうかすら分からなくなってしまった。

 

 それで終わりだった。

 

 間違いの無い終わり。男は肩で息をしながら銃を抱え、最後の最後に自分に攻撃をしてきた女性の襲撃者の死体を足蹴りした。

 

 死体はピクリとも動かず、流れ出る血がコンクリートを血溜まりで汚すだけ。

 

 疲れ切った男は黙ってその場を去り、たった今倒した襲撃者の血が付いた足跡を残しながら少女の眠る家へと戻った。

 

 男が欲したのは風呂と食事、それと睡眠だった。

 

 病み上がりなのに連日逃げ回り、戦い、ねぐらを探して動き続けている。

 相手も獣のようだが、こっちも獣と同じようなものだと男は思った。

 

 性も根も尽き果て、男は相変わらず土足のまま家に上がり、玄関に置きっぱなしにしたバックパックを拾い上げた。このまま作業をする気にはなれず、車や物資は後回しにして今日は休むべきだと男は考えた。

 

 男は休むために割った窓を一度閉め、ダイニングテーブルを動かして簡易的なバリケードを築いてから二階へ上がった。

 

 二階に着くと男は少女の両親の寝室だと思われる部屋に入り、服を脱いだ。

 服は今日まで戦った血とホコリなどで汚れていた。まるで傭兵にでもなったような気分に男は浸り、どことなく自分が男らしくなったような気分になった。

 

 服を脱いで肌着姿になった男は二階のトイレで用を足し、洗面台で顔を洗ってから占拠したベッドに腰掛けた。

 

 ベッドに座った男はさらに用心のためにと銃に弾を装填し、ベッドの下に銃を置いた。

 確保された安全に安堵するとそのまま夢の世界に旅立つために布団をかけて横になり、気持ちのいい枕に頭を預けて眠りの態勢に入った。

 

 だが安眠は訪れない。

 

 ベッドに入って数分も立たない内に異変が起きたのだ。

 

 最初に聞こえた物音は何かを踏む音。

 

 そして何かを動かす音に、物をこするような音。

 

 疑いようもない。侵入者だ。

 

 男は溜め息を吐きながら起き上がり、ベッドの下に置いた銃を拾い上げてから寝室のドアを開放した。

 

 

 「……またゾンビかな」

 

 

 男は黙ってベッドに座りながら銃口を階段に向けて構えた。

 

 電気がつかないので家の中は暗く、月明かりの入る寝室の中はほのか明るくに見えるが、廊下は真っ暗闇だ。

 

 こちらから行くよりも不用意に近づいてきた相手を撃つほうが安全だと考えた男は一階の物音を聞きながら待ち構える。

 

 襲撃者が現れれば即座に射殺しようと男が銃を構えていると、予想もしていなかった事態に発展した。

 

 

 「……すいません、誰かいますか?」

 

 

 一階で誰かが声をかけてきたのだ。

 

 それも若い男の声。

 

 男は今までとは全く異なる衝撃が見舞われた。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。