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UNDEAD HUNTER  作者: Navajo
第一章 招かれた世界
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第十話 式典





 彼は銃声の聞こえた方向へ走り続けた。

 

 車道沿いのしゃぶしゃぶの外食チェーン店には襲撃者の群れがいたので逃げ去り、道路を跨いだ先のセルフのガソリンスタンドには誰もいなかった。

 

 そして最後にガソリンスタンドの裏に並んだ住宅地と大型ドラッグストアに向かった。

 

 ガソリンスタンドの陰に、大型ドラッグストアの駐車場に入る道路が作られているので、ガソリンスタンドを覗いたその足で大型ドラッグストアに急行する。

 

 彼が見つけた大型ドラッグストアは酷いものだった。

 

 窓は割られ、出入り口は散らかっているし、その店の玄関は血まみれ。

 訳のわからないグチャグチャの死体と、さらにいくつかの襲撃者の死体が駐車場に転がっているのだから。

 

 彼は死体を眺めながら駐車場に目を向けると仰天した。

 自分の盗まれたジムニーと同じ色と車種の車が駐車しているのだから。

 

 彼は真っ先に車に向かい、車の中を覗き込んだ。

 

 車内に人はいない。トランクには荷物が積まれ、自分が買った飲み物と食料が乗っている。

 誰もいないことを確認するとポケットからスペアキーのキーホルダーを取り出し、車のドアを開けた。

 

 運転席と後部座席、それにトランクも全部調べると、弾だけ大量に出てきた。しかし銃が無い。弾の数も足りない。

 

 

 「……銃を持って近くにいやがるのか」

 

 

 彼は盗人が近くに武装して潜んでいると判断すると、後部座席に置かれた弾から競技用散弾を一掴み取り出し、ポケットの中に入れた。

 

 彼は弾を補給すると車のドアを閉め、周囲を警戒して駐車場に倒れた死体を調べることにした。

 ヘッドライトで襲撃者の死体を調べると散弾でいくつも撃たれたような跡があるため、自分の銃が使われてしまったのは簡単に推測できた。

 

 落ちているいくつもの薬莢。銃で撃たれたいくつかの死体。それに何かを引きずった血の跡に、襲撃者に食べられた跡であろう被害者の残骸。

 

 もはや問題だらけで何を問題にすればいいのか分からないが、調べた死体はどれも冷たくなっているし血も乾いていることが彼には気がかりだった。

 

 彼が銃声に気がついてから時間はあまり経っていない。銃声は四発以上。冷たくなっている死体は、自分が銃声を聞いたよりもずっと前に殺されたと考えるべきだろう。

 

 

 「さっき撃ったのはここじゃない近くってことか」

 

 

 彼は周囲を警戒し続けながら鉄パイプを手にして周囲を捜索し始めた。

 

 ドラッグストアの店の中を外の駐車場から覗き、ドラッグストアの店内に入るかどうか決めあぐねているとあるものを発見した。

 

 それは足跡だ。ドラッグストアの自動ドアの前に食い散らかされた血溜まりの死体があり、その血溜まりを踏んだ後の足跡が道路に向かっているのだ。

 彼は足跡を追ってドラッグストアの裏に回った。裏に行くために道路を通ろうとした彼はそこで意外な物を発見してしまった。


 何かが道路の上で這って動いているのだ。

 

 

 「……なんだ?」

 

 

 地面を蠢くものを確かめるために近づいてライトで照らすと、それが襲撃者であることが分かった。

 

 ライトで照らされた男性の襲撃者は血だらけの手で地面を這い、顔を起こしてライトで自分に照らす彼に近づこうとし始める。

 

 その顔は先程の死体と同じように血にで汚れ、顔には小さな損傷がいくつもあり、眼球が一つ潰れていた。襲撃者はダメージを負いすぎて立って歩くことができなくても、獲物を求めて今もなお動き続けている。

 

 彼は無言で手にした鉄パイプで蠢く襲撃者の頭頂部をぶっ叩き、頭を叩き割って昇天させた。

 

 引き続き足跡をライトで照らしながら追って行き着いた先は、住宅地の中でも特に新しい新興住宅地だった。その敷地の中にはまた別の何かが倒れている。彼はそれにもライトで照らしながら近づき、それが女性の襲撃者の死体であることを確認した。

 

 仰向けに倒れた死体は頭部が撃たれてグチャグチャになっており、流れ出た血溜まりもまだ生々しく新しいものだった。

 

 死体を触ってみればまだまだ温かく、さらに血溜まりを踏んでたっぷりの血が付着した、ハッキリとした真っ赤な足跡が、とある家に向かって続いている。

 

 彼は真新しい血の足跡を追ってその家に向かい、血の足跡が家の庭に続いているのでそれを追いかける。

 

 そしてとうとうたどり着いた。

 

 そこの庭の窓は鍵の部分のガラスが割られており、窓にはテーブルでバリケードが築かれていた。

 

 そこに犯人がいると彼は確信する。

 鉄パイプを庭に置き、背中に背負っていたショットガンケースの中から上下二連のトラップ銃を取り出した。

 

 開閉レバーを操作して銃を折って薬室を開放させると、ポケットの中から弾を取り出して上下の薬室に弾を二発装填する。

 

 彼は弾を込めたが、銃身は元に戻さずに折ったまま保持した。

 機関部を閉鎖してしまうと弾を発砲できるようになってしまい、暴発させてしまう危険性があるので撃つその瞬間までは折ったままにするつもりでいた。

 

 銃身を折ったまま散弾銃を手にした彼は、窓の割れた部分に手を入れて鍵を解錠して窓を開けた。

 

 今度はバリケードのテーブルを片手で押しのけ、血痕の足跡を追って家の中に侵入する。入ってすぐにヘッドライトで家の中を照らすと血の足跡はダイニングを通過し、玄関を通って二階の階段に向かっていた。

 

 彼は銃の用意はしたが、争いはできるだけ避けたいと思っていた。

 

 もしも銃を盗んだ相手がこの状況下でやむを得ない事情によって銃を利用して生存し、助けを求めているのであれば話は変わってくる。

 

 事情を説明して素直に返却に応じてくれるのであれば、この危機を協力して無事に脱出することもできるかも知れない。

 

 彼はそこまで考えると意を決して声をかけた。

 

 

 「……すいません、誰かいますか?」

 

 

 静寂。

 

 物音一つしない。

 

 それでも彼は続けた。

 

 

 「誰かいませんか? 助けが欲しいのと、ちょっと探しものをしてるんですよ。たぶんですね、俺の探してるものここにあるの間違いないと思うんですよ。申し訳ないんですけど、ちょっとご協力いただけませんか」

 

 

 なおも沈黙は続いた。

 

 何も返答は無い。

 

 静寂の中、彼は二階を見る前に一階を調べた。だが誰も見つけられなかった。

 

 

 「二階か……」

 

 

 彼は二階への階段の前でヘッドライトで階段を照らして観察した。

 

 階段は一階と二階をつないでいるが、途中で“回り階段”と呼ばれる円を描くように踊り場を回って上がらなければいけない造りになっていた。

 

 自分ならばどうするか。

 

 上で待ち構え、相手が射線に登場したと同時に発砲するだろう。

 

 彼はそう考えると使えそうなものを探した。

 するとダイニングに掃除用のフローリングワイパーがあるのを発見する。

 

 彼はそれを手にして階段を登り始め、回り階段の曲がり角まで上った。

 

 トントンとわざと足音を立てながら上ると、とうとう静寂を破る声が聞こえた。

 

 

 「来るな。……誰だ」

 

 

 男の声だった。少し裏返って高い声だが、自分よりもずっと年上の男の声。

 

 

 「いや~、良かった。やっと生きた人間に出会えて。いやですね、起きてみたらどこもかしこもゾンビだらけじゃないですか。ゾンビには襲われるし、電気は使えないし、訳分かんないし困っちゃってたんですよ~。

 でもですね、一番困ったのって、銃を盗まれたことなんですよ。……俺、猟師なもんで。

 っで、銃盗まれると事件になっちゃうんで困るんですよ。こんな状況ですから、銃が欲しいと思う人もいるのは分かるんですけど、きちんと指導と訓練を受けてないと危ないんで、おいそれと許可を受けてない人に使わせるわけにもいかないんですよ。死傷者が出たら俺のせいでもあるんで」

 

 

 彼はそこまでまくし立ててから黙った。

 

 反応は返ってこない。なので彼は続けた。

 

 

 「いやね、俺もこんな状況なんで、一人で何でも解決できるなんて全く思ってないんですよ。できれば仲間が欲しいですし。できれば協力してこの場を切り抜けられるとお互いにウィンウィンなんじゃないかなーって思ってるんですけど、……いかがです?」

 

 

 投げかけた質問に回答は返ってこない。

 

 彼は徐々にイラつき始めた。

 

 

 「おたく、銃、持ってますよね? それ返してくれませんか? ケンカしたいわけじゃないんですよ。ただ危険なんで一度こっちに返して欲しいんです。それでお互いの安全の確認ができてから、ちょっと話し合いませんか? 俺にできることなら協力しますんで」


 「うるせー!! これは俺の銃だ!! おまえんじゃねーよ!!」

 

 

 やっと返答が返ってきたが期待を大きく裏切る内容だった。

 

 彼のイラつきのボルテージはさらに上昇していった。

 

 

 「ああん? おたくの銃なんスか? へー、マジで? 何ていう銃を使ってるんスか?」

 

 「…………ショットガンだよ」

 

 「メーカーは?」

 

 「……そんなの関係ねーだろ」

 

 「いや、把握してなきゃ警察の手続きできないじゃないですか。警察署に手続き行きますよね?」

 

 「うるせーな! やってるよ!!」

 

 「警察の何課の管轄か言えます?」

 

 「うるせぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 返答は怒号のみ。交渉決裂か。

 

 彼は事実を受け止め、どうするべきかを考え、とりあえず相手の出方をうかがって見ることにした。

 

 もしも本当に銃撃戦になるようならば危険なので、自動銃は諦めるしか無い。

 

 彼はメッセンジャーバッグの中から耳栓を取り出して耳に詰め、ヘッドライトの付いた帽子を脱いだ。

 

 そしてヘッドライトの付いた帽子を、調達した掃除用フローリングワイパーのステッキの先に乗せる。

 

 

 「すいません。怒らせるつもりは無かったんです。ただね、ちょっとお互い顔を見せあって話し合いませんか? 助け合ったほうがお互いに得だと思うんですよ。今から俺、そっちに行きます。ゆっくり行きますので、撃たないでくださいね?」

 

 

 彼はそういうと、ヘッドライトの付いた帽子を掃除用フローリングワイパーの先に引っ掛け、ライトの付いた帽子を回り階段の先に突き出して二階に上がったように見せかけた。

 

 

_ダワアァァァァアン!!

 

 

 家に鳴り響く銃声とともにヘッドライトが割れ、光が消滅した。

 

 突き出したフローリングワイパーと帽子は散弾で撃ち抜かれ、帽子とフローリングワイパーが床に落ちる音は残響でかき消された。

 

 ヘッドライトを失い、危険すぎるので諦めて引き返そうかとも考えたその刹那、シャキンっ、という音を彼は聞き取った。

 

 それは彼の自動銃のコッキングレバーを操作する聞き慣れた音だった。

 

 連射しない。彼は直感で理解した。何かしらの操作をし、ラッチボタンを押して銃を構えるまでの猶予がある。

 

 彼は立ち上がり、持ち前の運動神経で一瞬にして回り階段を駆け上がった。

 相手が発砲してきたであろう二階の廊下の正面に体を向け、折っていた上下二連銃の銃身を戻して機関部を閉鎖させた。

 

 二階の廊下の正面の寝室には見知らぬ男がベッドに座りながら、自動銃の銃口を上に向けて掲げるように構えて遊底を操作しようとしている。

 

 彼は上下二連散弾銃の銃口を相手に向けて叫んだ。

 

 

 「銃を置け!!」

 

 

 だが相手の男はガシャンっという音を立てて自動式散弾銃の薬室を閉鎖させ、弾を装填した。

 

 そして男は酷く散漫な動きで銃口を彼に向けようと、その銃を構えようとした。

 

 彼は上下二連の銃口の狙いを調整して引き金を軽く絞る。

 

 

_ダワアァアン!!

 

 

 散弾が発射された。

 

 

 「いいっでぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 

 

 発砲で散った散弾が相手の両足に撒き散らされ、小さな粒弾が男の両足をギタギタにする。

 

 男は自動銃を取り落した。寝室の床に自動銃は勢いよく落下し、床を滑る。それに数秒遅れて男が床に倒れた。

 

 その光景を銃を構えながら彼は見続け、男が立ち上がれないことを確認すると銃口を上に上げ、銃身を折って弾を排莢した。バシャっと排莢された弾の中から実包と空薬莢を取り出し、それぞれを自分のポケットの中に押し込んだ。

 

 

 「いやー……。よくあのタイミングで足を狙えたよ。銃も落ちても暴発しなかったし、超絶ラッキーだな。……でもとうとう人を撃っちゃったのはマジでヤベェな……」

 

 

 彼は悩ましい表情をしながら倒れた男を見下ろし、奪われた自動銃を拾い上げた。

 

 コッキングレバーを操作し、弾を排出させると薬室に一発しか弾が入っていないのを確認しながらコッキングレバーとラッチボタンを何度か操作して、機関部を何度も開閉させる。

 

 続いて彼は背中に背負っていたショットガンケースを手に取り、その中に上下二連散弾銃をしまってもう一度背負う。

 

 そして自動銃だけを手にして倒した男に向き直った。

 

 

 「おっさん。この銃はな、レミントンM1100って言うんだよ。んでよ、銃の手続きの管轄は生活安全課だぜ? 覚えときな」

 

 

 馬鹿にされていることを理解した男は痛み以上の怒りを覚えた。

 

 男を立ったまま見下ろす若者。足を撃って怪我をさせ、さらに相手をからかうその無礼な態度。

 

 男にとって最も不愉快な状況であり、許し難い行為であり、嫌いな人種だった。

 

 男は血だらけの足で立ち上がった。

 

 その行動に彼も驚く。

 男は立ち上がり、壁を伝ってビッコを引きながら歩いて寝室を出ると、隣の部屋に向かった。

 

 

 「おい、おっさん。どこ行くんだよ? 無理しないほうがいいぜ?」

 

 

 彼は男がどこへ向かったのかも分からず、行き先の部屋に付いていった。

 

 部屋の中はカーテンが閉められ、夜だったので何があるのかまるで見えなかった。なので彼はバッグの中から予備の懐中電灯を取り出し、LEDのライトを点灯させて闇を照らし出した。

 

 

 「……はぁ? なにやってんだよ、あんた?」

 

 

 彼が目の当たりにしたのは想像していなかった展開だった。

 

 彼の銃を奪い、足を撃たれた男が血まみれの足を引きずり飛び込んだ部屋で、ベッドに寝ていたのであろう見ず知らずの少女の喉に男が包丁を突きつけていたのだから。

 

 薄ぼんやりと目を開けた少女の首には男の腕が回され、男が手にした包丁の刃先が喉に押し付けられて苦しそうな表情をしている。

 

 少女は抵抗することもできず、力無く彼のライトの明かりを見つめていた。

 

 

 「いや、おっさん、マジで何やってんだよ。え、いや、つーかさ、その子、誰? あとさ、それって俺の牛刀じゃねーの?」

 

 「うるっせぇんだよ!! ガタガタどうでもいいことばっかり言いやがって!! 黙んねーとこのガキ殺すぞ!!」

 

 「いや、それは不味いよ。つーかマジで誰なのその子?」

 

 「うるせぇ!知るかぁ!!」

 

 「いや、知らねー子を人質にとんのかよ」

 

 「黙れっつってんだろうがよ!? 本当にこのガキ殺すぞ!! このガキ殺したらお前も殺してやるからな!!」

 

 「分かった分かった! だからその子を離してやれよ。とりあえずさ、足撃ったのは悪かったよ。でもよ、先に撃ったのはあんたでしょ? 銃を盗んだのも」

 

 「てめーが余計なことしなきゃこんなことになんなかったんだよ!」

 

 「あーそうか、そうだよな。俺が悪かったよ。じゃあ、あれだ。俺は退散するからよ、その子、離してくれよ」

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……。……よし、ならよ、お前その銃に弾を入れて俺に渡せ。そうしたらこいつを離してやるよ」

 

 「それってメッチャこっちが不利じゃね?」

 

 「おめーに選択肢があると思ってんのかよ。このガキ助けたかったら銃を俺に渡せ。弾を入れてな」

 

 「マジで?」

 

 「早くしろぉぉい!!」

 

 「え、いや、分かった! わかったよ……たくよぉ」

 

 

 彼はしょうがない、といった表情をするとポケットの中から弾を取り出し、自動式散弾銃の機関部の底のキャリアーから実包を押し込み、弾倉のチューブの中に弾を一発装填した。

 

 男はその様子を見ながら首を傾げた。

 

 

 「おい? なんだ? 弾はそこから入れるのか?」

 

 「は? そうだよ。なに、知らないで使ってたの? 底のこの金属の部分から弾倉に弾を装弾するんだよ。もしかしてあんた知らねーで一発ずつ撃ってたのか?」

 

 「うるせぇよ!!」

 

 「悪かった悪かった! 言い過ぎたよ! いやね、教えるとさ、弾倉の中に弾を入れて、そっからレバーを操作して薬室に送り込んでから撃つんだよ。ほら、弾が入ったから、この銃を渡しますよ?」

 

 

 彼はそう言って銃身を手で持ち、銃口を自分の方に向け、相手に銃床を差し出すようにして自動銃を手渡した。

 

 男は少女から手を離すと銃を受け取る。

 

 そして銃口を彼に向けながら包丁も手放すと両手で銃を構えた。

 

 

 「教えてくれてありがとよクソガキ。死んじまえ」

 

 

 男はそう言うと遊底を操作するために右手を動かしてコッキングレバーを操作した。

 

 いや、しようとした。

 

 男はコッキングレバーを引くためにレバーを右手で掴もうとしたが掴むことができなかった。

 

 手応えを掴めない。

 

 焦った男は彼が照らすライトの中で、自動式散弾銃の右側面の機関部を覗き込んだ。

 

 だがしかし、そこにはあるはずのものが無かった。

 

 

_ザズンン!!

 

 

 男が困惑したその一瞬、男の胸に巨大な剣鉈が突き刺さった。

 

 男が怯んだその隙に彼は腰から剣鉈を抜き、勢いと体重を乗せて男の胸に剣鉈を突き刺したのだ。

 

 剣鉈は刃渡りが27cmにもなる鋭利で太い刃で、男の胸骨を貫いて心臓を串刺しにしていた。それは勢いのまま奥深くまで突き刺さり、肺や気管なども引き裂いた。

 

 男は咳き込み、傷ついた臓器と出血とともに徐々に力を失っていった。

 

 彼は両手で握っていたナタ柄から片手を離し、離したその手を男の目の前に持っていくと男に何かを見せた。

 

 彼の右手が握っていたのは小さく平らな金属の金具。

 一見するとそれが何なのかは誰にも分からない。

 

 血の気が無くなっていき、この世からいなくなる男に向かって彼は言った。

 

 

 「自動銃のレバーピンは抜けるんだぜ、おっさん。……オメーが死ね」

 

 

 言い切ると彼は両手で剣鉈を男の胸から引き抜いた。

 

 抜いた途端に今まで以上にダプダプと血が溢れ出ていき、男は口から血をこぼし、目を開けたまま静かに息を引き取った。

 

 

 「……やっちまった……」

 

 

 彼は独りごちるとうなだれる。

 

 正当防衛とはいえ、自分が撃ち、刺し殺した男の死体。

 名前も素性も知らない。どこの誰なのかも分からない犯罪者。

 

 窃盗と銃刀法違反、そして殺人未遂以外の余罪を彼は知らないので、もしかしたらやりすぎたかも知れないと少し後悔した。

 

 

 「まぁ……しょうがねぇか。悪いのはお前だし。とりあえず証拠が残らないように外に出しときゃぁ、ゾンビが食うだろう。おっさんも食われりゃ自然の摂理として安らかに成仏できるだろう。そういうことにしよう。そうしよう。うん」

 

 

 彼は勝手な理由付けに納得すると男が手にしていた自動銃を拾い、レバーピンを遊底に刺し直して再び銃を手にした。

 

 剣鉈も男の衣類にこすりつけて血を拭い、更に今度は自分の持っていたタオルでもキレイに血を拭ってから鞘に戻した。

 

 

 「そんで……あとはこの子か……」

 

 

 彼はベッドに苦しそうに倒れている少女を見た。

 

 人質にされ、それまではこの家に一人でいたのであろう少女。

 

 見た目には小学生くらいにも見える。

 

 なにか手がかりは無いだろかと彼は少女の部屋を漁り、学習机の上で生徒手帳を発見した。

 

 開いてみると、すぐ近くの公立中学校の二年生。山田莉子。

 

 

 「マジか。中坊だったのか。ちっちぇーからそうは見えねーな。……つか、やまだ……なんて読むんだ? トシコかな?」

 

 

 少女の名前と年齢を確認すると、彼はベッドに放り出されたままの彼女を布団に戻し、安楽の取れる姿勢に直してから頭を撫でてあげた。

 

 

 「トシコちゃん。俺、塚本実。ミノルって呼んでくれていいからよ。

 この部屋はちょっと汚しちゃってさ、しかも殺人事件の現場で仏さんまでいるからよ、とりあえず俺の家に行ってこれからのこと考えようぜ。ちょっと車をここに持ってくるからさ、それまで待っててくれよ」

 

 

 ミノルはそう言いながら彼女の頭を撫で、自動銃を学習机の上に置くと殺した男の死体を引きずって部屋を出ていった。

 

 

 

 

 これがミノルと彼女の出会いだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] そう来ましたか!! 前々話で「あれれ?」となって、その後、読み続けて「お〜!!」となった次第です。 なるほど、ここまでイントロだったんですね。イントロまでで相当にガツンとやられました。続きを…
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