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1980年松本スケッチ ~元・信大生の追懐録~  作者: こまくさ
第2章 1981~信州スケッチ
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軽井沢

 携帯電話どころか、互いの下宿に固定電話さえもなかった時代。

 どこかの観光地に遊びに行くとか、大人数で飲み会をするとか、そのようなイベント事は1週間以上前から企画し、幹事役が告知して参加者を確定させる。参加者は手帳に記入してその日を心待ちにするといったルーチンがあった。


 突発的に発生するイベントに参加できるのはその爆心地にいた者だけだった。

 つまり、暇にまかせて誰かの下宿にたまたま集まっていた数人のメンバーの誰かが言い出した企画に乗っかってイベントが発生するという構図だ。

 そのイベントに他の参加者を誘うには、一人ひとりの下宿を回る必要があるが、そんな面倒なことをしていたら、イベントが始まる前に日が暮れてしまう。

 

 サークル活動の拠点は、大学構内のサークルBOXで、入学した頃は、休日だろうが、夜間だろうが、大学構内には自由に出入りできたし、もちろんサークルBOXにも夜通したむろすることができた。

 ところが、サークルBOXが新しくなった頃から、夜間は巡回する警備員に帰宅を促されるようになり、“溜まり場下宿”が第2の拠点と化していた。

 サークルBOX同様、“溜まり場下宿”にも簡単な“BOXノート”があり、近況などの雑記や伝言を残すことができた。

 

 とある休日。サークルBOXに顔を出したものの、誰もいない。そこで、いつもの溜まり場下宿に行ってみると、ほんの30分ほど前に書かれた『軽井沢へ行くぜ!!』というメッセージが残されていた。

 

 軽井沢へは夏のトップシーズンの前後、つまり6月末から7月中旬、或いは8月末から9月初めという時期に遊びに行くことがちょくちょくあった。

 長野県の最も東の端の地。大学キャンパスのある松本、長野からは約80km。最も近い上田からでも40kmほどの距離がある。ちょくちょくとはいえそうそう出向くわけではなかったので、わずかな時間差で置いてけぼりになったのは少々悔しかった。 



 軽井沢にあるいくつかのスポットのうち、よく行ったのは旧軽銀座と言われる商店街、雲場池周辺のどちらかで、大抵は、旧軽でアイスクリームを食べたり、雑貨店を冷やかすのが常だった。

 今回もそんなコースだろうと、即断で追いかけることにした。先行組は2台の車に分乗しているようだが、どのみちバイクだと道中は独りなので気分的なマイナスはない。


 国道18号の途中で追いつくかも、と思っていたが、さすがに30分以上の差は埋まらなかったようで、軽井沢エリアに到着した。

 当時、旧軽周辺には駐車場がほとんどなく、駅前の駐車場から歩いて旧軽に行くのはたいへんだったので、車はテニスコートから少し離れた路上に停めることが我々の通例だった。

 行ってみると確かに見馴れた乗用車を2台発見した。

 予想通りにコトが進むのがなんだか楽しかったが、当時の経験や慣例からすると、誰もが多くの選択肢を持たずに、半ば既定路線的な行動の中で楽しんでいたのだと、今更ながらに思う。

 バイクは車から離れたところに停めたので、もし合流できなかったときのことを考え、『○○参上』のメモを車のワイパーに挟んでおいた。

 

 旧軽は本格シーズン前だというのにそこそこ人がいた。

 さて、どこから探そうかと思ったところに、頭上から名前を呼ばれた。

 見上げると、喫茶店の2階のテラス席に陣取った面々が見下ろしていて、すぐさま合流できたのは僥倖だった。

 軽井沢に来ると必ず立ち寄る雑貨屋を物色し、流行りはじめていたワッフルコーンのジェラートを食べ、蜂蜜とジャムの店で蘊蓄を聞き、特に珍しくもない工芸品を眺めたあとで、六道の辻を経由して帰路についた。



 振り返ると、何しに行ったんだということになりそうだが、何をするかという価値観ではなかったと思う。仲の良いものが集まって何かをするということが、若い時代の掛け替えのない行動であり体験だと思う。


 SNSが普及し、直接会わなくてもコミュニケーションが取れるとはいうものの、体験の濃密さまではカバーできないだろう。

 直接会おうとする意識が希薄になると、会ったときに何を話そうか、何をしようかと期待するワクワク感も薄れてしまっているように思う。

 

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