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1980年松本スケッチ ~元・信大生の追懐録~  作者: こまくさ
第2章 1981~信州スケッチ
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インディア【長野市】

 ♪~壁際に寝返り打って…… 

 この曲の2番では、『バーボンのボトルを抱いて』窓際に立っている。


 ♪~もしも嫌いでなかったら……

 この続きは、『そうね,ダブルのバーボンをいただくわ』だ。


 拓郎も『原宿ペニーレーンでバーボンを』飲んでいた。



 学生時代、ウイスキーはよく飲んだが、主な銘柄は“WHITE”。“Old”は高価だったし、“RED”には申し訳ないが、学生風情が下に見ていた。

 バーボンがどんなものなのかはあまり知らず、強い酒、濃い酒、都会の大人の酒というイメージが先行していた。飲んだことがなかったのは避けていたのではなく、単純に巡り合うことがなかったのと、敢えて探さなかったからだ。バーボンを扱うコンビニはなかったし、コンビニ以外で酒を買うことは稀だった。松本でよく行った酒処もバーボンは置いていなかった。

 

 初めてバーボンを飲んだのは松本の友人の下宿で、銘柄は“Wild Turkey”だった。濃いめの水割りで飲んだのが、香りも味も飲み慣れた“WHITE”よりも癖が強く、心の中の軍配は迷いなく“WHITE”に上がり、初バーボンの印象は決して良いものではなかった。



 長野市の繁華街、権堂商店街の中ほどから北に入ったところに“インディア”はある。


 店の外観は、古いアメリカ映画に出てくる開拓地の酒場のような風情があった。

 中は、ひたすら狭い。カウンターとテーブルが4つだったか5つだったか。満員に近くなると店内での身動きが非常に難しくトイレに行くのも一苦労だった。

 ほとんどマスターがひとりで切り盛りしていたため、オーダーされた料理やお酒や氷は、カウンター内の厨房にいるマスターからバケツリレーのようにお客さんの手から手へと運ばれて移動していくこともあった。

 そもそも、正面玄関のドアを開けようとすると、テーブル席の椅子に阻まれることすらあり、厨房横の勝手口が第2玄関のような扱いになることも多々あった。

 カウンターの上には和洋様々なジャンルのレコードが平積みされていて、勝手に好みの盤に変えることもできたし、お客がなんでも書き込めるノートが置いてあり、読んだり書いたり楽しむことができた。

 また、壁と言わず、柱と言わず,当然テーブルや椅子に至るまで、サインや落書きがびっしりで、もしかしたら当時のサインが残っているかもしれない。


 インディアのメインはバーボン。銘柄指定のボトルキープもできるが、大抵は当日のサービスボトルを選択することがほとんどだった。

 サービスボトルの銘柄は、“Ancient Age(AA)”、“Canadian Club(CC)”、“OLD CROW”、“JIM BEAM”などここで出会うまであまり馴染がなかったものだったが、時折“Early Times”や“I.W.HARPER”など聞き知ったものに当たることもあった。


 料理で頻繁にオーダーしたのはバターコーン。時折ピザやスパニッシュオムレツ。稀にボルシチ。オールドアメリカンなコンセプトかと思いきや、料理のバリエーションはワールドワイドだった。料理はすべてマスターの手作りで、手の込んだメニューほど美味しさが感じられた。


 満席の店内の喧噪は静かなお店よりもプライバシーが侵害されず、それぞれのスペースにすっぽり嵌ってしまえば居心地がよかった。

 特に印象深いのは、寒い冬のことだ。普段は凍えるほどの外気だが、店内の熱気で火照った体に心地よいことが多かった。すぐに冷えて防寒にはしるのだが…。



 バーボンの第一印象を覆し、バーボンの大胆な味わいも理解できるようになったのはインディアのおかげだろう。

 今のお気に入りは“Four Roses(黒)”や“EARLY TIMES”だ。バーボンはもっぱらロックで楽しんでいる。

 時折、酒販店でAAやCCを見かけるとインディアを思い出す。

 店の記憶は、嗅覚や味覚さえも刺激する。



 今も営業されているようだが、最後にお邪魔してから30年近くになる。いくつかの支店も出されたと聞いたが、訪問は実現していない。


 店のロゴ(インディアンの横顔)がデザインされたポーチは、アイボリーと黄色の2色が今も手元にある。

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