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1980年松本スケッチ ~元・信大生の追懐録~  作者: こまくさ
第1章 1980年松本スケッチ
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仕送り

振込口座は八十二銀行 信大前支店でした。

 

 学生の中には自らの力で学費や生活費を賄っているものもいるだろうが、学生の多くは親からの仕送りを柱に、不足分をアルバイトなどで補っていると思われる。


 学生生活にかかる費用は、年2回納入する学費や教材費以外には、下宿の家賃や光熱費、主食にかかる食費、文具や日用品の費用が必須で、間食や嗜好品、遊興費、その他もろもろ。

 現代の学生はスマホなどの通信費が必須だろうが、当時の学生はケイタイどころか黒電話もないことがほとんどだった。

 基本的な生活を営むためのコストが小さかったが故に、エンゲル係数は異常に高かった。

 ついでながら、コピーは生協で1枚20円だったので、試験前に友人から借りたノートをコピーするにもコストがかさんだ。


 生活費の中で大きな割合を占める家賃は地方と都会では大きく違う。

 当時松本市の信大生向けの下宿屋の相場は、6帖/風呂なし/トイレ・洗面共同で月5,000円~8,000円くらいで、古かったり狭かったり遠かったりすると月3,000円なんていうところもあった。

 ところが、高校の友人で東京の大学に進学したヤツは、大学周辺の都心は高すぎるという理由で高円寺の学生下宿に住んでいた。文化住宅のような4.5帖/風呂なし/トイレ・洗面共同で、都心より安いとはいえ月20,000円ほどと聞いた。さらに、通学に定期代もかかるという。東京で暮らすのはカネがかかるんだなと、心の底から思った。



 食費は主食も間食も嗜好品も区別がなかった。菓子類はあまり買わなかったが、酒とアテの出費はそこそこあった。今更ながら、パチンコ屋に投資したのは無駄だった。

 せっかく振り込んでくれた仕送りを計画性を持たずに浪費する学生が多かったらしく、月末には金欠病が蔓延する。

 振り込みがあった日に、生協でインスタントラーメン30個を箱買いしているヤツがいた。月末に食いっぱぐれがないようにするためらしい。

 ユニットバス付の比較的きれいなアパートに住んでいた友人は、自分の苗字を屋号にして仲間内の風呂屋をやっていた。入浴料は1回100円または缶コーヒー1本または麻雀の負け分の清算など。仕送り前に生活費の残高が乏しくなると頻繁に呼び込み営業をしていた。



 現金だけではなく食料品を送ってもらう学生もいたようだが、我が家は松本でも調達できる缶詰やレトルト食品や乾物を、わざわざ送料を払って送ってくることはなかった。

 当時は郵便小包が主流で、宅配便はぼちぼち普及し始めた時期だった。クール便は登場していなかったので、生鮮食品をやりとりすることはなかった。野菜をはじめとする農作物は、大阪から送ってもらうより松本のスーパーで買うほうが新鮮なものを安く入手できた。そもそも自炊をすることが稀だったので、オンタイムで購入しないと萎れたり、芽が出たり、腐ったり…。


 愛知県一宮市出身の友人の下宿には、月末ごとに仕送りの小包が届いた。中身は主に食料品だったが、我々取り巻きの狙いは、ポールウインナーとスティックチーズ、さらにホテイの焼鳥缶だった。月末にあたりをつけて彼の下宿に遊びに行き、あわよくばそれらを肴に呑もうという算段だった。彼が目を離した隙に焼鳥缶を開封したときはものすごい剣幕で叱られ、卒業後も当時のメンバーが集まるたびに引き合いに出されて愚痴られる羽目になった。食い物の恨みは恐ろしい。


 

 仕送りとバイト代という収入の範囲でのやりくりは楽しかった。仕送り直後には後先を考えない豪勢な夕食 ――とはいえ、たかがしれてたが―― をとったかと思えば、月末に本当にお金が無くなって、台所に残っていた小麦粉を水で溶いて焼いただけのホットケーキもどきで飢えを凌いだこともあった。


 決して勉学100%だった訳でもなかった学生生活を親はどこまで知っていたのだろうか。 

 親が苦労して準備してくれた仕送りを当たり前のように享受していたが、今となっては感謝してもしきれない。


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