対人戦をやろう
「さて、こんな感じで分けたんだけど、大丈夫かな?
今日は予定通り対人戦になるようだ。チーム分けで呼ばれたときは心底ホッとした。経験者ということが買われたようだ。そして玲瑠と同じチームになったときは、お互い喜び合った。だが、その後呼ばれたのは、あの久保里美だった。このメンバーでは、昨日と同じになってしまう。決して里美は悪いプレイヤーではない。むしろ、新入生の中では上位に入るだろう。だが、華湖とはゲーム内での役割が同じなのだ。どちらかが譲らなければならなくなる。ここは勇気を出し、部長にお願いすべきではないか? 少し逡巡したが、彼女は意を決し、別チームへ異動したい旨を伝えようとした。
「またサポートしてねー!華湖ちゃん!」
そこに玲瑠が満面の笑みで話しかけてくる。
頼られている。この私が。華湖は今まで無いない経験に、喜びもあったが戸惑いもあった。
「う、うん!またよろしくね!」
華湖は結局、言い出せなかった。あの顔を見てしまっては無理だ。そして、こんなにも仲良くしてくれる人と離れたくない、そう思った。ここでレギュラーを狙うより、友達を作ることのほうがよっぽど大事なのでは? 彼女はそう考えていた。
「また昨日と同じでいいの?」
里美が質問してくる。うん、と返した華湖だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「倉井さんがアタッカーをやったら?」
アタッカーは通常、サポートとコンビでダウナーを担当する。成長させていき、後半で攻撃力を出していくという役目だ。確かに、華湖はアタッカーのほうが向いているかもしれない。
「そうだよー! 今日はー私がサポートするよー!」
「ううん、昨日と同じでいこう!」
玲瑠も乗ってきたが、華湖は否定した。
「そうー? それでいいのー?」
「うん、急に変えるのはよくないよ。昨日練習したし、あの通りでやろうよ」
「そっかー! それもそうだねー!」
「練習したのね? それならまぁ、あなた達に任せるわ」
華湖がポジション変更を否定したのはもう一つ理由があった。
アタッカーは確かに大事だが、序盤でやることは案外シンプルだった。それに対し、サポートは状況に応じ、臨機応変さが求められた。初心者にはどちらかというとサポートのほうが難しいのだ。
「はい、作戦タイムしゅーりょー! みんな、用意してー!」
楼瑠の元気な声が響く。華湖達の相手チームは、経験者3人、初心者2人の構成。こちらも全く同じだ。おそらく経験者の腕の差で勝敗が決するだろう。
「それと、今日のゲームは配信してるからね」
「えー!」「見られてるの?」「嘘?、緊張するなぁ」部員たちがそれに反応し、教室がざわめく。
「まぁ落ち着いて。配信って言っても一般には公開しないから。身内だけ。つまり2年と3年が見るだけだから、緊張しないで」
みな、一層ざわつく。それはそうだ。上級生に見らているのに、緊張するな、というほうが無理だ。
「ねぇ」里美が華湖に話しかけてきた。
「な、なな、なに? 久保さん」
里美は別段、声を荒げていたわけではないが、突然話しかけられ、華湖は少し緊張した。
「昨日言ったこと、おぼえてる?」
「う、うん。きょ、今日は声を出すよ」
「あと、もう一つ」
「あ、え、えっと、すぐ謝らない。だっけ?」
「うん。それもだし、あともう一つお願いなんだけど」
「な、なに?」
「アタシも里美でいいよ」
「え?」
「だ、だってほら、同じチームなのに『さん』付けはよそよそしいし!」
里美の顔がみるみる赤くなっていく。気まずいのか、華湖と目を合わせようとしない。華湖はそれを見て、思わず笑顔になった。
「そうだね、それじゃあ、みんな、名前で呼び合おう?」
「うん、いいよー!」
「そうしよ!」
玲瑠を始め、みなも同調してくれた。これがチームの仲間意識。華湖には初めての感覚だった。自分に賛同してくれる人がいる。それがこんなにも心地よく、心強いものだったとは。
華湖は練習中のカリスマ、パルマを選ぶ。初心者から上級者まで使われる万能さが売りのカリスマだ。序盤。練習通り、玲流に敵ソルジャーを倒させ、お金を稼いでもらう。玲流が担当するアタッカーを育てるのがサポートの役目だからだ。
ゲーム開始。すこし小競り合いをしているうち、相手の力量もこちらと似たり寄ったりであることがわかってきた。
「玲流ちゃん、あまり前に出すぎないで!」
「えー、でもー、もうちょっとで倒せそうだよー」
「味方のソルジャーが来るまでまって!」
前で孤立してしまった玲流を見て、敵がすかさず仕掛けてくる。思わず玲流も反撃する。だが、位置が悪かった。そこは敵のフォートレスの攻撃範囲内だったからだ。ここで敵のカリスマに攻撃すると、フォートレスから強力な攻撃がくるのだ。玲流は大ダメージを受けてしまう。
「しまったー! ごめん華湖ちゃん!」
「玲流ちゃん、ちょっとHPキツイから、一旦帰還しよう」
「わかったー!」
帰還、または『リコール』と呼ばれるスキルは一気に自陣に帰れるというもの。全カリスマが持っているスキルだ。
華湖は防御力を上げるスキルを玲流に使い、なんとか自分の後ろに逃がすことに成功。タイミングよく、味方ソルジャーも来た。華湖達は、敵がソルジャーらの相手をしているうちに自軍のフォートレスまで戻ってからリコールしようとしていた。リコールは発動まで8秒かかり、その間は動けず無防備であるため、安全を確保する必要があったのだ。
「キャッ! 華湖ちゃん、後ろにもいるー!」
「え!?」
だが、そこにはいつの間にか敵のスカウトがいた。スカウトはウィルダネスにいて基本的に中立モンスターを倒す役割を担っている。だが、ときにどこかのルートに来て、味方に加勢することもある。
ウィルダネスは暗く表示されており、味方の近くや、辺りを照らすアイテムを使わない限り、中にいる敵の姿は見えないようになっている。それを利用して身を隠し、奇襲をかけるのだ。
敵スカウトはHPの少ない玲流に狙いを定めた。華湖もスキルを使い守りたいが、先程使ったばかりでそれもできない。スキルにはクールダウンという待ち時間があり、一度使ったら、クールダウンが終わるまでそのスキルを使うことができないのだ。
「ごめん!キルされちゃうー!」
華湖も加勢していたが、玲流にはまだ抵抗できるほど力がなかった。相手スカウトにキルを取られてしまう。さらに敵アタッカーとサポートもやってきて、挟撃されてしまえば、どうしようもなかった。
完璧なチーム連携だ。華湖は特に相手スカウトのタイミングの良さに驚いていた。
「大丈夫!まだ立て直せるよ!」
華湖も懸命に励ますが、その後もその相手スカウトに苦戦することになった。




