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今日、華湖は配信をすることにした。色々なことが濃密にあったので、なにかすごく久々な配信のような気がしていた。
5AMMM:試合、見てたで
Feer:負けちゃって残念だったねぇ
「うん。応援してくれてたのに、ごめん」
配信で大会結果を報告する。配信を始めてから恒例の流れだ。ただ、今までと違い、今回は初めて敗戦の報告になってしまった。
5AMMM:いやいや、いうたって決勝には行けんのやから。気にすることないって
Samurai_ME:そうでござるよー
Coolout:決勝でやりかえしましょう!
「うん!ありがとう。みんな」
Samurai_ME:来年の3月でござるかー!今から楽しみでござるなぁ
Feer:あ、来年と言えばさぁ、MKTの話聞いた?
5AMMM:あー。Azam選手?あれはたまげたなぁ
「先輩?すごかったねーぶっちぎりで優勝だもん。世界大会が楽しみだなぁ。でもさすがにそろそろキングZerosu選手が出てくるかなぁ?」
BoCのプロリーグであるBJLは先ごろ後期リーグが終了した。笑空が所属するチームMKTはあの後、無敗で首位を最後まで守りきり優勝を飾った。これによりMKTは1月に行われる世界大会の切符を手にしたのだった。
Samurai_ME:ん?KAKO殿、ひょっとしてニュース見てないでござるか?
5AMMM:Zerosu選手は引退するんやで
「えええええええ!?」
あまりのことに思わず大声を出してしまう。リーグ戦では笑空のデビュー以来、Zerosuが出場していなかったことは知っていた。これは様々な憶測を呼び、もしや調子が悪いのでは?という心配する声もあった。新人を育てているのだ、とか、相手が弱すぎてキングが出るまでもないのだろう、などという楽観視する意見もあった。華湖もどちらかというと後者だったが、まさか引退するとは予想外のことであった。
「なんで?まだまだいけるでしょ?なんで引退なの?」
Feer:確か、その記事あったよな?
Samurai_ME:拙者はツユダク.comで見たでござる
「ツユダク.comね!配信中で申し訳ないけど、ちょっとスマホ見て良い?」
Coolout:どうぞー
Feer:大事なことだからね、知っといた方がいいよ
普通ならあり得ないことだが、華湖は配信中にもかかわらずスマホを取り出し、eスポーツで有名なニュースサイト、ツユダク.comをチェックする。ファンなら毎日チェックするというサイトで、華湖ももちろんブックマークしていた。記事はトップに大きく掲載されていたのですぐに見つけることができた。
『Zerosu選手が引退を発表!時代はキングからクイーンへ』
見出しにはそう書いてあった。
(本当に引退なんだ…クイーン?女性は笑空先輩だけよね?キングの後を継ぐっていう意味?)
これだけではよく分からない。華湖はさらに本文を読んでみた。
『長らくMKTの選手としてBoCシーンをリードしてきた「キング」ことZerosu選手が引退することを発表した。今後はコーチ兼アナリストとしてチームに残るということだ』
競技者としては引退するが、完全に姿を消すわけではないと知って、華湖は少しホッとした。
(でもまだまだ若いし、実力だってトップのはず。なんで引退なの?)
記事はさらにこう続いた。
『本誌ではZerosu選手にインタビューする機会を得たため、話を伺ってみた。
本誌記者(以下、記):なぜ引退されるのですか?
Zerosu(以下、z):僕も競技者としていつ引退するか、ということは常に考えてきました。自分がトップだと思える間は続けようと思っていたんです。ですが、やっと…というべきか自分を超えるプレイヤーが出てきたので、席を譲るという決心をしました。
記:それはAzam選手のことですか?
z:はい。彼女は天才ですよ。
記:そこまでおっしゃるんですね。Zerosuを超える選手なのでしょうか?
z:彼女になら安心して任せられますよ。来年には世界中のファンが驚くと思いますよ。
記:来年の世界大会ですね?
z:はい。僕も今から楽しみです。
記:今後はどうされるのですか?
z:MKTのコーチ兼アナリストとしてチームに残ることになっています。世界大会へもついていきますので、お楽しみに!
記:それは楽しみですね。最後に、ファンへのメッセージはありますか?
z:ファンの皆様。いままで支えてくださったこと、感謝してもしきれません。今後は競技者としては一線を退きますが、チームにはコーチ兼アナリストとして所属しますので、引き続きチームの応援をよろしくお願いします!
リーグ戦後半からのAzam選手の活躍は確かにめざましいものがあった。キングが認めたクイーンが今後はチームを引っ張っていくのであろう。MKTのさらなる飛躍に期待したい』
記事を読み進めるうちに、なぜか華湖の目には涙が溢れていた。なぜなのか自分でも分からない。嬉しいのか、悔しいのか、寂しいのか、あるいはそれら全てなのかもしれない。
Coolout:ど、どうしました?
Feer:泣かないで!
「ごめん。なんか、多分嬉しいんだと思う」
世界を舞台に笑空がどのような活躍を見せるのか。華湖は今から待ちきれなくなっていた。
それにしてもクイーンとは。いまや笑空は日本のトップ選手と言っても過言ではないだろう。そんなすごい人と知り合いなんだなぁと思うと、華湖は誇らしさから思わずニンマリとしてしまった。だが、配信中であることを思い出し、とっさに顔を引き締めたのだった。




