反省会をする
「あんたたちさぁ、分かってるわけ?時間ってものは有限なのよ!」
里美の怒りの声が響く。
室内は重い空気だ。
「…そんなこと言ったって、しょうがないじゃない…」
華湖が小さな声で抵抗する。
「そうだよ!華湖だってがんばったんだし!」
愛は華湖と里美の間に入り、華湖をかばった。
「もうーやめてよー」
玲流もうんざりという表情で里美をなだめようとする。
「頑張ったって言うけどさ、本当にアレが全力だったわけ?」
「ぜ、全力だよ!当たり前でしょ!!」
確かに、力不足ではあった。だが、自分なりに精一杯がんばったのだ。さすがにその発言を認める訳にはいかないとばかりに、華湖も言い返す。
「華湖が手を抜くような子じゃないって、里美だってわかってるでしょ」
「いや、愛。あんたもあんただよ。一番そばにいたんだから、サポートできたはずでしょ!」
「愛は悪くないよ!」
今度は華湖が里美と愛の間にはいる。
「もうーやめようよー」
玲流はそう言いながら、ストローをくわえドリンクを一口飲んだ。
「いや、玲流。あんたもさぁいるんだかいないんだか、わかんないのよ!空気になってたじゃない!」
「えー、だってーどうしていいかーわかんないもん」
里美はドンとテーブルに握りこぶしを打ちつけた。
「とにかく!今のままじゃダメよ!クリスマスまであと何日もないのよ!」
「そうは言ってもさぁ。そもそもみんなそういうのに興味ないって、いつも言ってるじゃない」愛はあきれて言った。
「そ、そうだよ!今日だって、急に呼ばれたから来てみたら、知らない男の人がいるし、びっくりするじゃない!」華湖も抗議の声をあげる。
「そうだよー、あんなのだまし討ちだよー」玲流もふくれっ面で言う。
「だって、どうせ合コンって言ったら来ないでしょ?!」
それを聞いて、里美以外の一同はため息を付く。
「やっぱ、合コンだったのね…」愛は額を押さえる。
「それは…言って欲しかったなぁ」華湖もうつむきながら言った。
「ただのカラオケって言うからーきたのにー」玲流も相変わらず頬を膨らませている。
「カラオケはカラオケじゃない!嘘じゃないでしょ!」
里美に「カラオケやろうよー」と呼び出された一同は、ノコノコとやってきたのだが、なぜか里美と一緒にいたどこかの男子高校生たちに驚き、急用ができたとかなんとか、適当な言い訳をして半ば逃げるように退散してきたのだ。
そして今は、別のカラオケボックスに避難してきていた。
「ホント、アタシの顔が丸つぶれよ!せっかく友達の男子にセッティングしてもらったのにさぁ」
「それは悪かったけどさぁ。正直に言わなかった里美が悪いよ」
「そうだそうだ!」愛のまっとうな意見に華湖も賛同する。
「だって、言ったら来ないでしょうが!」
愛は思わず、テーブルをバンと叩くと立ち上がった。
「だーかーらー!彼氏が欲しいなんて言ってるの、里美だけなんだって!」
「あんたたち、クリスマスなのに一人で良いの!?」里美も立ち上がって言う。
「良いわよ」
「うん、良い」
「べつにー」
愛、華湖、玲流はまったく興味がない、とでも言うかのような生返事だ。
「そんなんで良いの!?高校3年間なんてあっという間なのよ!何回も言ってるでしょ!」
玲流はそんな言葉を右から左へ聞き流し、リモコンを手に取る。
「ま、せっかくだしさー歌おうよー」
「だな。それこそ時間は有限だし」愛もうなずく。
「そうそう。カラオケ代がもったいないしね」華湖も同調する。
「そんな場合じゃないでしょ!」里美はまだ抗議する。
「えー?里美ちゃんはー歌わないのー?」
「う、歌うわよ!」
結局、女だけでのカラオケ大会が始まった。
はじめこそ文句を言っていた里美もマイクを離さないという勢いで歌いまくる。だが、華湖は手拍子や掛け声は送るもののまったく歌っていない。それに気が付いた里美は心配になって声をかけた。
「華湖、歌ってないよね?どうしたの?」
「うん、私は歌える曲ないんだ」
「へ?なに?音痴とか?そんなの気にしなくていいのにぃ」
「ううん。そういうんじゃなくって、歌とか知らないの」
「知らないって、好きなアーティストは?」
「そういうのないんだ。私は…」
そう言って華湖は少し顔に影を落とした。華湖の家庭の事情をなんとなく察していた里美は(しまった!)と思いあわてて言った。
「そ、そっかー!知らなかったとはいえ、カラオケなんかさそっちゃってごめん」
「ううん!それはいいの。私もカラオケに興味あったし」
「あ、じゃあ今度、私の好きなアーティストのCD、貸してあげるよ」
「ホント?ありがとう」
「私もー」なんとなく二人会話が聞こえていた玲流も入ってきた。
歌っていた愛は、何やら話しているみなの事が気になって途中で曲を止めた。
「なになに?どうした?」
「ん?華湖が歌える曲がないって言うから、みんなでCD貸そうって言ってたの」里美が答える。
「そう。そっか。じゃ、私も貸しちゃおっかなー」
「いやー…でも愛ってさ…」
里美がニヤッとしながら言ってきた。
「なに?」
「さっきから洋楽ばっか歌ってるじゃん」
「え?なに?ダメ?」
「いるよねー、カラオケで洋楽歌うやつー」
「な!?いいじゃん!」
「あははー」玲流が思わず笑い出す。
「洋楽って聴くのはいいけどさー、歌うのはねー」
「好きなんだから良いでしょ!ね。華湖にも貸してあげるから。ねっ」
「う、うん。でも英語は苦手だから、歌えないかも…」
「だよねー」里美はうんうんとうなずいている。
「あははー」
華湖はだまされて来たということも忘れ、人生初の友達とカラオケを楽しんだ。そして、みなの優しさに触れ、また目に涙を浮かべていたが、前髪のおかげでまた誰にも気づかれずに済んだのだった。




