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作戦会議をする

12月に入り、街はクリスマスムードが漂ってきた。『全国高校eスポーツ大会』のオンライン予選はそんな時期に開催される。大会当日、Destinationメンバーは全員、部室へ集合。おそらく出番はないだろうが、臨時代表も来ている。そして顧問の犬飼と見学者が少々。


オンライン予選は北海道、東北、関東、中部、関西、中国・四国、九州・沖縄の計7つのブロックに分かれて行われる。

今女が参加するのは関東ブロック予選だ。関東ブロックに参加するのは茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県のいずれかにある高校である。

オフライン決勝大会への切符を手に入れられるのはわずか2校だけだ。シングルイリミネーショントーナメントのBO1という一発勝負のため、一度も負けることは許されない。


楼瑠は黒板にゲームのマップをプリントした大きな紙を貼り付け、何やら書き込みながら作戦を伝えている。さらに敵と味方を表す、赤と青のマグネットを動かし、ポジションと移動について説明したりする。大事な予選とあって、みな一言も発さず、真剣な表情でそれを見つめていた。


「以上だ。何か質問は?」ひとしきり話終えた楼瑠は部員たちの顔を見回しながら言った。

「はいはいはーい!樹ありまーす」元気よく手を挙げたのは樹。

「はい。じゃあ華湖」


だが楼瑠は樹を無視し、華湖を指さした。


「ひゃ!私ですか!?」華湖は手を挙げてもいないのに急に指名されて、また変な声を出してしまう。

「ちょ!樹が手ぇ挙げてるじゃないッスか!」樹は思わず立ち上がり抗議する。

「お前はなんか、ろく(・・)なこと言わなそうだから」

「ひでぇ!」


樹は頬を膨らませ、腕組みして分かりやすく怒りを表現してみせる。だが楼瑠は素知らぬ顔だ。

もう一度、華湖に向かって言う。


「どう?なんかある?」

「あ、ハイ…じゃあ、今のお話だと、かなり積極的に攻めるような気がするのですが」

「うん。そのつもりだよ」

「わお!良いじゃないッスか!」と、樹が会話に割って入ってくる。

「ちょっと樹、うるさいぴょん」


樹がいちいち絡んでくるのを見かねて兎咲が注意する。


「ハイハイ。静かにすりゃ良いんでしょ」


樹は口をとがらせ、不満げに言う。先程まではまだ怒りのポーズであったが、兎咲に言われて本当に不機嫌になってしまったらしい。


「いや、樹よ。今日はお前の動きが最重要なんだからな?」

「え?樹がッスか?」樹の顔がパッと明るくなった。

「そうだよ」

「いやー!!ブチョーもダイブ樹のこと、わかってきましたね!」

「…コイツ…栞子、アレ頼むわ」

「あいよっ」


言うやいなや、栞子はどこからか取り出した巨大ハリセンで樹の頭を勢いよく叩いた。


スパーン!!


室内に乾いた気持ちのいい音が響く。


「ぃってぇぇぇ!何すんスか!栞子パイセン!」

「ふー。久々だったが、良い音でたな」栞子は自分の仕事に満足した、というようにうなずいた。

「ナイスだ、栞子」楼瑠は親指を立てる。

「いやいや!ナイスじゃ無いッスよ!」

「おっ?『ナイス』と『無いス』が似ているから面白いヤツか?」楼瑠はニヤリと笑って言う。

「よっ!樹っ!面白いぜっ!」栞子が拍手をおくり囃し立てる。

「いやいやいや!樹、ダジャレなんて言わないッスから!」


そんな風に先輩2人にいじられる樹のおかげで、室内の張り詰めた空気は少し和やかになった。


「ほらほら!遊んでないで作戦たてろ!」


座って教室のすみにいた犬飼は、立ち上がって手をパンパンとたたきながらその輪に入ってきた。


「あれ?犬飼先生、起きたんですか?」


犬飼は座っている間、腕と足を組み目をつむってうつむいていたが、聞いている風を装って実は眠っていたのだ。

そのことに気が付いていた楼瑠は、意地悪く言った。


「今のアタイのハリセンの音で起きたんだろ」

「なっ、なにを言っているのかね!ちゃんと聞いていたとも!」

「へー。作戦の説明ならもうあらかた終わったんですけどねー」ジト目で犬飼を見ながら楼瑠が言う。

「う、うむ。そ、そうだったな。なら良し!」


犬飼は適当なことを言ってから、くるりと振り返りまた席に座った。腕組みをしてなにやらうなずいている。おそらく数分後にまた眠りの世界へ旅立つのだろう。

そんな犬飼は放っておいて、楼瑠は栞子に向かって言った。


「それじゃあ栞子。今回、注意する学校はあるか?」

「今回もP高校が最有力かねぇ。だけどココは3年が引退しちまってるから、大したことぁねぇな」


もともとeスポーツに力を入れている高校というのは全国でも少ない。そして日程的にほとんどの高校は3年生が部活を引退してしまったあとだ。

よって今女のように全員が実力者というチームは、今大会においてはほぼないのだ。予選突破は間違いないだろう、と彼女たちも考えていた。


「P高校の東京キャンパスか。TKさんは卒業しちゃったんだっけ?」

「そうそう。だもんで、かなりの戦力ダウンだね」

「誰ッスか?プロデューサーっすか?」樹は叩かれても懲りずに言う。

「いたんだよ。そういうプレイヤーがさ。P校のエースだったんだけどな」栞子があきれながらも答えてやる。

「あとは?」

「正直、うちらの相手になりそうなのはそんなもんだね」

「えっ、そんだけかー!」樹はがっかりした様子だ。


開催時期という事情もあり、出場校は『Phase ZERO』よりグッと減って23校。今女は前回優勝校で第1シードだったため、3回勝てばオフライン決勝へ進出できる。

皆、樹おかげで緊張感もほぐれていたが、かといって完全になくなるのもよろしくはない。楼瑠は一度気を引き締めるために言った。


「だからって気を抜くなよ?1回でも負けたら終わりなんだからな」

「「ハイ!」」


楼瑠は教室にある掛け時計をチラリと見た。


「よし、そろそろ時間だな。各自、本人アバターで大会ロビーにインしろ」

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