SNSは禁止する
いつもの部活は自由参加であるが、今日は今後の予定を話すという犬飼からの通達により、ほぼ全員が集まっていた。特に主要メンバーは強制参加である。しかし、当の犬飼の姿がまだ見え無いため、部員たちはみな雑談で時間を潰していた。
「今日は何の話だろうね?」里美が愛に聞く。
「あー、大会のことでしょ?」
「次は何の大会だろうね?」
「私達はともかく、トップチームは全国高校eスポーツ大会があるから、その話でしょ。なんたって、うちの高校はディフェンディング・チャンピオンだからね」
「ああ。じゃあ華湖はちゃんと聞いとかないとだね」と言って里美は華湖の方を向いた。
「え?ああ、そっか。なんか、まだ先だと思ってた」
「決勝は来年3月だけど、エントリーは9月から受け付け始まるし、オンライン予選は12月から始まるからね」愛が答える。
そんな話をしていると、犬飼が室内へ入ってきた。
「よーし。みんな注目!」
その一言で、室内は静寂に包まれ、犬飼に目線が集まる。
「早速だが、今後のMOBA部の活動予定を話すぞ。まず、トップチームだが、来年の全国高校eスポーツ大会に参加してもらう」
予想通りだが、室内は少しざわつく。全国のeスポーツに取り組む高校が目指す最も大きな大会である。今女が参加しないわけはなかったが、やはり全員に緊張感が漂った。
「エントリーは9月25日から始まって、締切は11月21日だ。我が校からは1チーム参加する予定だが、1チームの人数は10名までとなっている。そこでだ、トップチームと補欠として3年代表をまとめて1チームとしてエントリーしようと思う。エントリー前にまた入れ替え戦をやる予定なので、各自、練習に励むこと!」
「おー!」「がんばらなきゃー!」部員たちはやる気でテンションが上っている。それは出場の可能性が低い1年メンバーも同じであった。
「そっかそっか。そしたら1年のアタシ達が参加するにはトップチームに入るしかないわけね」里美は腕組みし、2、3度うなずきながら言う。
「あははー、私はー無理かなー」
「里美、アンタはアッパーなんだから、部長と入れ替わるってことだよ?ずいぶん自信があるみたいだけど」
「う…いや、自信はないけどさー。目指すのは自由でしょ」
「そりゃそうだ」
「がんばろうねー」
生徒たちの反応を少し待っていた犬飼が、収まってきたころあいを見て続けて言う。
「あーそれから、どうやらSNSをやっている生徒がいるらしい。うちの部にはいないと信じるが、もう一度言っとくぞ、SNSは禁止だからなー!」
「「はーい」」部員たちは一斉に返事をした。
その後、犬飼は1、2年のチームが参加する予定のオンライン大会を告知した。
「それでは、私からは以上だ。あとは通常運転に戻ってくれ」
それだけ言って、犬飼は出ていった。やはり、このまま残って練習を見るとかいうことはないらしい。
室内はまた騒々しくなり、部員たちは帰る者、残る者と別れていく。
「華湖はチーム練習かな?」里美が華湖の顔を覗き込んで言ってきた。
「うん。そうなんだ。てかさ、うちの学校ってSNS禁止だったの?」
「え?知らなかったんだ?」
「最初にー注意されたよー」
「そうなんだ?聞いてなかったよ」
「何、アンタやってたの?」
「やってないよ」
だって、友達なんていないもん、と続けようかと思ったが止めておいた。変に気を使わせてしまっても悪いと思ったからだ。
「でも、何で駄目なんだろ?」
「んーアタシも理由までは…」
「なんかー、聞いた話だけどー」
「お、玲流は知ってるの?」
「うん。なんかーストーカーみたいなー、被害者がー出たかららしいよー」
「ああ、そういうことならしょうがないね」華湖はうなずく。
「それとー、悪く言う人がー多いらしいー」
「それは…イヤだね」
華湖の表情が暗くなる。彼女は人一倍、悪意を向けられることに弱かった。自らの存在を否定されたような気持ちになるからだ。親との別れのとき、彼女は寂しいとか悲しいとかいうよりも、これであの人達に何か言われなくてすむと、安堵したほどだった。
「あとー、容姿とかー?悪く言うんだってー」
「は?容姿?」
「そうー。例えば『太った』とかー。それでー傷つく人がーいるんだってー」
「はぁー!?なにそれ!」
里美は突如、拳を握って力説しはじめた。
「好き勝手なこと言って!表に出てこいっての!」
「ちょ!里美!興奮しすぎ!」華湖がたしなめる。
「アタシ達はさぁ、ゲーマーなんだから、ゲームの腕について言われるならまだわかる。けど、容姿はカンケーねーだろ!」
「いや、そうだけど、私達に言われても…」
「落ち着いてー」
華湖と玲流になだめられ、里美は落ち着きを取り戻した。
「そ、そっか。ここで言ってもしょうがないね。ごめんごめん」
「華湖ちゃんもー配信してるからー気をつけてねー」
「うん。私の配信は、常連さんが対応してくれてるから」
「でも、人が増えてくると、変なもの増えるから。気をつけてね」
「うん。わかった」
里美の言うことはもっともだった。悪意のあるコメントはいずれ必ずされる。その時、自分の精神は耐えられるだろうか。あまり酷いようなら、配信をやめるということも選択肢にいればければならない。
それだけは絶対イヤだと、華湖は思った。




