中村 由依
中村 由依
かなり厳しい家庭で育った。
父も母も祖母も、私に対して理想を常に押し付けてきた。
唯一私を甘やかしてくれた祖父が居なくなるとそれは度を越えた。
誰も止めることが出来なくなっていた。
何をするにも親の了承を必要とするようになった。門限に一分遅れるだけで折檻された。
そうやって、親の言いなりに全てをこなしていくと、自分という人間が実は居ない。そんな感覚に襲われるのだ。
私の体は父や母の物で、私という自我は何処にもない。
そんな感覚。
この喪失感を癒すのは『売春』だった。
自分の体を自分の意思を持って売買する。
これは自分の所有権が自分にあると実感できる唯一の方法だった。
性行為をして金品を受け取る。
それは自分という人間を消費する権限を持っているのは自分なんだと感じる事が出来る瞬間だ。
最初は家庭教師として来た男だった。
次は教師、そして塾の講師も。
こっちから話を持ちかけると、どいつも喜んだ。
男って、簡単だ、単純だ。
男達をもてあそんでいると。
体を売るというのは私の天職じゃないか?
そんな事を思った。
親の望む大人になんて、絶対に成りたくない。
AV女優になったらさぞかし愉快だろう。
もしそうなったら私の出演DVDを親に送ってやるんだ。
そんな事を考えていた。
どんなDVDを送ってやろう。
送るならドギツイのが良い。
レイプ物を送ってから、逆レイプ物を送ったら面白ろそう。
そんな事を考えていた時、地球じゃあない世界に召喚されてしまった。
突然自由を手に入れる事が出来た。
そして、スキルなんて物まで貰うことができた。
それは私にぴったりのスキルで、
『売買ガール』
というスキルだった。
このスキルは体を売り、その対価を受け取ることが出来るというスキルだった。
体を売る対価は金品でも良いが、スキルを対価として受け取ることも出来た。
スキルを得るといろんな事が出来るようになった。
魔法が使えるようになったり、剣が使えるようになったり。
あっという間に沢山のスキルを習得することが出来た。
そして今も私の部屋に死刑の確定した男が放り込まれた。
「あんた、死ぬ前にいいことしない?」
私がそう言うと言われた男はおどおどとしながら、
「何をだ!」
と言った。
「女とする良いことなんて1つしか無いでしょ?」
私はブラウスのボタンを外しながら言った。
「やらせてくれるのか?」
「そう言うこと、ただし、対価として貴方のスキルを貰うけどね。良い?」
男は大きく頷いた。
「あぁ!良いぞ!どうせ死ぬんだ!命だってくれてやる!」
男は服を脱ぎだした。
本当に男って簡単。
私のスキルがクラスメイトにばれたときの大輔君の反応を思い出した。
『黙っておけよ!』
って、大輔君は言った。
男って、本当に簡単だし、単純。
自分の想像している他人をリアルに感じている。
他人は自分が想像している通りの人間だと信じている。
想像にしか過ぎないのに。




