一話
なんとか一話ですが、まだまだ話は展開していません!
私、片斬諸刃(かたぎり/もろは)は『白狐』である。というか、私の家族……つまり片斬家が皆『白狐』なのだ。
我が家は父の片斬大太刀をはじめ、母の草薙、私・諸刃、弟の青竜の四人で構成されている。名前にルビが欠かせない一家だと、つくづく思う。
ついこの前までは祖父母も一緒に住んでいたのだが、今は二人だけの家を建てて隠居生活を楽しんでいる。
『白狐』とは、この燐火町にのみ江戸時代から置かれている治安部隊だ。名前の由来は白狐が着ける白地の狐面から来ている。
仕事内容は、平たく言えば毎晩町をパトロールし、悪事を働く者がいたら懲らしめること(『白狐』は基本、闇に紛れやすく姿を見られる心配の少ない夜に働く。ちなみに『白狐』の正体が一般人にバレたら「家族で心中」が片斬家の掟となっているので、死んでも知られるわけにはいかない。バレたら死ぬんだけど)。
それじゃあ、交番のお巡りさんは一体何をしているんだ!と思われるかもしれないが、この町に交番はないし、警察官は一人もいないのだ。町長が警察を毛嫌いしているのが理由らしい。
また、『白狐』という生きた都市伝説に魅力を感じる人も多いようで、『白狐』は燐火町の名物的存在になっている。最近なんて、狐をモチーフにしたゆるキャラ『コンコン』まで出始めたくらいだ。結構儲けているそうだ。現在の燐火町財政は『コンコン』によって潤っているといっても過言ではない。
そんなわけで『白狐』は当分の間も存続するようだ。
町からギャラは結構出るから、まあいいんだけどね。
とは言っても。
「高校生に夜はキツイよ……」
現在、1時30分。もちろんAM。
『白狐』の黒装束を纏い、春の夜風をその身に受けながら、私は見知らぬ家の屋根上に佇んでいた。
春先のパトロールは夜桜を眺めることが出来たり、風に乗って運ばれてくる花のいい匂いを感じられたり……などと色々と楽しみはあるのだが、今の私にはそんなことを受け入れる余裕すらなかった。学校生活、部活、町の警備の全てを両立するなど、無理に等しいのだ。
それでも働いているのは……みんなの笑顔が見たいから……なんていうのは全くの嘘で、お金のためです、はい。
さて。うだうだしていても仕方がないので、そろそろ仕事を再開しよう。
「悪い子はいないかなーっと」
屋根から屋根へと飛び移り、周辺をくまなく観察。これくらいの芸当はお手のものだ。
今日の燐火町は森閑としていて、物音一つしない。町の明かりはほとんど消えているため、辺りは真っ暗だ。
今日みたいな静かで、何も起こらなそうな夜は油断大敵。へまをすると、どこかに潜んでいる記者に撮られる危険性がある。
「記者」というワードで、ふと思い出す。
「あのスクープ写真には参ったな……」
今朝方、親友に見せられた『白狐』の写真。あれは私だ。
1週間くらい前に、寝ぼけながらパトロールしていたところを知らないうちに撮られていたようだ。
写真のことなどすっかり忘れていた私が部活を終えて家に帰ったら、雑誌を持った厳つい顔の父が玄関に立っていた。
「た、ただいま?」
「諸刃、そこに座りなさい」
おかえり、の代わりに説教が待っていた。
その後私がばてるまで続いた「正座で説教耐久!〜4時間編」のせいで未だに足が痺れている。
「今日は本当に、何もないといいな」
今でさえ寝不足と説教で疲労困憊だというのに、これ以上何かが起こるなんてたまったものではない。
しかし、私の願いは、数時間後に無惨に打ち砕かれるのであった。
ここまで読んで下さったあなたに心からの感謝を。
ありがとうございました!
次回の投稿は4月1日です!
次回はようやくメインの男子が出てきます(笑)
エイプリルフールですが、嘘はつかない……はずです。