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二回目

「なぜ見つからない!」

「申し訳ありません。」

「何故と聞いているんだ!無能さに対する弁解はいらんっ!」

苛立ったように、将軍は執務室の高い花瓶を床にぶちまけた。何もいけられていなかった花瓶は、高級な絨毯に守られ、なんとか割れなかった。

慌てて部屋から出ていく部下を目で追いながら、部屋にいた将軍の側近は、指して興味はないと言う事を悟られない程度の声色で、尋ねた。

「そんなに大事なものなのですか?」

「あぁ、あれがあるとないとでは、あいつの英雄的な人気に雲泥の差が出る。あいつが英雄などと言われるのは、半分以上、あれのせいだ。」

確信に満ちた将軍の言葉に、側近はため息を飲み込み、何もかもあなたの望み通りですというように、頭を下げて、考える。

確かにサイモンキングの人気は英雄的だ。

彼の働きせいで、軍は、多大なる影響と危害を受けた。

どうあがいても、軍は、いやこの国は、変化するだろうし、そうなれば、目の前にいる上司に未来はない。

それでも、この側近は、見捨てるつもりはなかった。

かつて、絶対的存在だった人物が、自分を頼らざる負えない事態と言うのは、やはり、気持ちがよいのだ。

歪んだ自己が満たされるのだ。

「……」

側近は、憐れむように、上司をみた。

どうしたって、側近には、上司一人が、あれに固執しているようにしか思えなかった。

恐怖は、それだけ相手を認めているから湧きおこるものなのだ。

勝てないと分かっている相手を、それでもぎゃふんと言わせたい。上司の最後のあがきは、それだけの理由。

それだけのものなのだ。

おろかな上司は、サイモンキングを殺すだろう。

誰よりも殺した事を、悲しみながら。

「……」

だから、側近は、それが見つからない事を願った。

あれが手に入って、すべてに満足されては、つまらない。

もっと、地べたを這いズって、せいぜい無様にしていてほしい。

そんな側近の思惑などには、全く気がつく事のない上司は、ぎりぎりと、一人、思いだす。

サイモンキングとの、唯一の二人きりの邂逅を。

軍をやめ、傭兵になり下がったと聞いたとき、自分はあの男に勝ったと思った。そして、あの男はもう終わったのだと思った。

しかし、20年ぶりに顔を合わせた、あの男は。

20年前とかわらぬ目をし、階級をあげるごとに、おなじように増えて行った脂肪を蓄えていった自分を嘲笑っているように感じた。

実際、サイモンキングは、私に対しては、何も言わなかった。

しかし、あの男は、旧友に会うかのごとき笑みを浮かべ、その笑みを浮かべたまま、私のすべてを否定した。

「これは、尊敬する人物からの受け売りで、私が勝手に、信じているだけの事です。」

「是非お聞きしたいですな。」

「その人は言いました。愚かな、私に向かって。」

「愚か?あなたを愚かと言う人間がいるとは・・・」

サイモンキングは、何も言わずに笑って続けた。

「性別も身分も学歴も知識も関係ない。素晴らしい人間は本人だけで、愚かな人間も本人だけ。

それを家系だとか、環境だとか、男だとか、女だとか、人種だとかいって枠を作ろうとするやつが馬鹿なのだ。人はそれぞれ、人それぞれなのだ。結局のところ。どんなに同一項を見つけようと、同じってことはありえない。人は残酷なまでに、別人で、他人で、一人でしかないと」

「・・・・・」

「これが、私が、人間はしょせんは、一人だけの存在だと思う理由です。」

私はその場でグラスを投げつけたくなった。

このたるみきった身体でも、殴りかかってやりたくなった。

悔しい。悔しい。

馬鹿にすらされないことは、何よりも、許しがたい屈辱だ。


                                       三回目にいくの











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