女の子は恋バナがお好き
試食会の時、結局みたらし団子にもたこ焼きにもありつけなかったので若干テンションが下がっています。
気に入ってもらえたのは嬉しいが、一つくらい食べておくんだった、と後悔している。
ただその日の夜、調理師さんが早速唐揚げを作ってみたらしくお皿には唐揚げが乗っていた。
見た目も味も美味しい唐揚げだ。
使用人達は試食会に呼ばれないので彼女達のリアクションを見る絶好のチャンスなわけだが、気に入ってもらえただろうか。
目の前では、リリ達が「何これ? 何これ?」と首を傾げている。
三人とも初めて見る唐揚げをまじまじと観察していてとても可愛い。
少し視線をずらすと騎士さん二人も唐揚げをじっと見ている。
青い騎士さんは今現在私の口に運ばれている方の唐揚げを見ているが、まぁそこはスルーさせていただこう。
食べにくいんで見ないで欲しい。
「あ、美味しい。トリーは平然と食べてるけどこれは何?」
と、ロゼに問われた。
「油で揚げた鶏肉だよ。調理師さんに作り方教えたら作ってくれたみたいだね」
リリとルーシュは鶏肉だと解った瞬間食べ始めた。
美味しい美味しいと言っているのでお気に召したようだ。
「この肉にこのクリーム色のソース付けると美味い」
と、赤い騎士さんが呟く。
クリーム色のソースとはマヨネーズのことで、こちらも調理師さんに伝授したもの。
しかし…唐揚げにマヨネーズって油ばっかりだよ。太るよ。まぁ別に赤い騎士さんが太ろうと私には関係ないので忠告はしないけど。
「このソースも、キキョウ様が教えたのですか?」
青い騎士さんの声に、その場に居た全員が彼を注目した。
何事かと思ったが、確か青い騎士さんが私の事キキョウ様とか呼んでるの知らないんだろうな、皆。
「はい。試食会の時に出したものは私が作りましたよ」
全員の視線を無視して無難な答えを返す。
赤い騎士さんはともかく使用人達の視線には大量の好奇心が含まれているのでちょっと恐ろしい。
「そういやあのデザートもトリーナちゃんが作ったんだって?」
赤い騎士さんのお陰で青い騎士さんの言動に興味を持っていた使用人達の視線が逸れる。助かった。
「作りましたね」
唐揚げを食べながら答えると、リリが声を上げた。
「トリーって何でも作れるの!?」
と。
「何でもってわけじゃないよ。自分が好きなもの以外作らないし」
リリの目がまるで魔法使いでも見るような目になっていたので早々に釘を刺す。
あれもこれも作ってと言われたらたまったもんじゃないからな。
なんて思っていると、赤い騎士さんが口を開いた。
「料理も出来てピアノも弾けて、伯爵にも怯えず豪商一家の次男すら手懐けているとなると……トリーナちゃんに弱点なんかないのか?」
そう言いながらクツクツと笑っている。
「人に弱みを握られたくないので弱点はきちんと隠す事にしています。っていうか『豪商一家の次男すら』ってどういう意味ですかね……」
まさかアイツも評判悪かったりするのかな……?
日本に居た時は確か……金持ち一家の次男で、出来の良い兄と比べられ続けた結果それが嫌になってグレたような奴だったけど。
「あの一家は金持ちだからな。それとなく味方に付けようとしてる貴族は多いんだが、興味の無い事柄や人に対しては無関心、無頓着、少年のような見た目に反して付け入る隙がないって有名なんだよ」
「なんだ、そんな事」
それ味方につけようっていうか金持ちを駒にしようとしてるだけなんじゃねぇかな。
興味無い事に関して無関心なのは前世からです。とは言えないので適当に相槌を打っておいた。
「そんな豪商一家の次男坊とあれほど仲が良さそうだったってことは、トリーナちゃんは将来玉の輿?」
仲良さそうに見えたのか? メイド服姿を一方的に笑われてもみくちゃにされてたのに?
「何でそこまで話が飛躍するんでしょうかね。ごちそうさまでした」
私は詮索から逃れようと、食べ終わった食器を片付け始めた。
すると既に食べ終わっていたロゼ達も続く。
唐揚げは使用人ちゃん達も皆綺麗に平らげてくれたので、若い女性の口にも合うようだ。
これは後で赤松にも報告しておこう。
場所は変わって現在お風呂場。
使用人達とお風呂に入っているわけだが。
今日は皆揃ってそんなに忙しくなかったらしく元気が有り余っているらしい。
そのせいか、はたまた先ほどの赤い騎士さんの「玉の輿」発言が全員の頭に残っていたせいか、今は恋バナが始まっている。
「リリは最近どうなのかしら? 例の講師さんと」
なるほど、リリのお相手は講師さんなのか。
身分違いだという話は聞いたことあるんだけど。
「講習の時だけしか会えないから寂しいんだー……忙しい人だから仕方ないけど」
わーリリが凄い恋する乙女の顔してるー!
「ルーシュの方はどうなの?」
というロゼの問いに、ルーシュは大きな瞳をくるりと回す。
「そうね、トリーより素敵な王子様が現れてくれたら良いのだけれど」
おいおいちょっと待て。何故私の名が出てくる。
驚いて目を丸くしていると、あらあら冗談よ、と笑われた。
「ロゼは?」
気を取り直してロゼに問う。
自分に矛先が向かないように。
「私は全然ね」
そう言って肩を竦めるロゼ。
それを聞いたルーシュが口を挟む。
「ロゼはイービスに騙されかけたのを未だに引き摺っているのでしょう?」
イービスって赤い騎士さんだったっけ?
騙されかけた、ってのは私みたいに押し倒されたりしたんだろうか……
聞いてみようかと思ったけど自分も騙されたと言うようなもんだし恥晒しにはなりたくなかったので口を噤んだ。
「恥ずかしいんだけど、イービスって私の好みのタイプに掠ってたのよ。ちょっと本気になっちゃったからショックが大きくて」
と、ロゼはどこか遠くを見ながら言う。
こんなに可愛い素敵なお姉さんを騙そうとするなど、赤い騎士許すまじ……
「ロゼの好みのタイプってどんなの?」
話題を逸らそうとしたらしいリリが問うた。
「え? えっと、背が高くて筋肉質で強そうな人……かな?」
なるほど、ロゼはワイルド系が好きなんだな。
背が高くて筋肉質で強そう……ふむ。
一致しそうなのがいるな。
「ねぇロゼ、顔は普通だしロゼより年下だけど、それに一致しそうな知り合いいるよ」
「本当?」
うん、Bなんだけど。
「居る。ちょっとアホだけど単純だし扱いやすいし悪い奴ではないよ。今度紹介してあげる」
ちょっと頻繁に不審者と間違われるけど……まぁでも本当に不審者ってわけじゃないしいいよね。
ロゼは乗り気のようだし、今度マジで紹介してみよう。
私は心の中でこっそり笑った。
「で? トリーはどうなの?」
物凄く楽しそうな顔をしたリリと目が合った。
……やっぱり私にも矛先向きますよね。
「私は今のところ仕事で手一杯だからね」
恋愛なんかには興味ありませんよ、と匂わせておく。
実際それほど興味はないし。
「伯爵様とか豪商さんとかお金持ちの知り合い多いでしょ?」
リリの好奇心を含んだ瞳が怖い。
「あれはただの知り合いであって恋愛対象には一切なり得ないし」
伯爵夫人だよ? 貴族になれるよ? という言葉には興味無いとだけ返した。
そもそも赤松が嫌がるだろう、私なんか。
あはは、と渇いた笑いを零しながらあしらっていると、ロゼが口を開く。
「じゃあトリーの好みのタイプってどんな感じなの?」
好みのタイプ……か。
「年上で頼りになる人。あ、ロゼも言ってたけど筋肉っていいよね」
割れた腹筋とか強そうな腕の筋肉とかいいよね、と盛り上がる。
そんな中、ルーシュが思い出したように呟いた。
「ヴァッサーさんは?」
と。ヴァッサーさんと言えば、確か青い騎士さんだったはずだ。
「青い騎士さん?」
「そう。仲がよろしいんじゃなくて?」
私と青い騎士さんが? 何処をどう見てそう思ったんだろう。
……まさかさっきのキキョウ様の件だろうか?
「わかんないけど」
と呟くと、ルーシュがきょとんとしたまま口を開く。
「そう見えるわ。だってヴァッサーさん、トリーのことを常に目で追っていらっしゃるしわたくしがトリーにくっ付くと嫌そうなお顔をしていらっしゃるから」
衝撃の事実である。
いや、見られてる気がするなぁとは思っていたけど。
「解る! それに今日キキョウ様って呼ばれてたよね! あたし達皆フルネームで呼ばれてるんだよー!」
と、リリが言う。
それも衝撃の事実である。
最初からトリーナ様って呼ばれてたわ私。
「……私のフルネーム、長いからじゃない?」
首を傾げてみせると、ロゼから呆れたような溜め息を聞かされる。
「好意に気付いてないなんて言わないわよね?」
……そう言われましても。
何て返事をしようかと考えていると、ふと思い出した。
『手の甲は敬愛、髪は思慕』
という言葉を。
うわあああこれはやっぱり、なんというかそういう事になるんだろうか……
彼は私の事を……
「トリーはどうなの? ヴァッサーさんのこと。それともやっぱり伯爵様が良い? それか豪商さん?」
リリに首を傾げられた。
どっちもそういう相手じゃないのでなんとも言えない。
っていうか大した肩書きは無いし地味だけど選択肢の中にBもいれてやってくれよ可哀想に。
どう答えたら良いものか、と考えて黙り込んでいると、三人は勝手に盛り上がり始めた。
「ヴァッサーさん、優良物件だよね。見た限りだと優しそうだし」
と、リリ。
「騎士様だし仕事がなくなることはないし収入は安定してるし」
と、ロゼ。
「女性が苦手だから浮気の心配もありませんわね」
と、ルーシュ。
三人とも猛烈に楽しそうである。
青い騎士さんをゴリ推しする体勢になった三人に圧倒されるばかりの私。
その時、ロゼがそんな私の手を急に握り締めた。
「そうよ、そうよ。トリーの好みのタイプに合ってるじゃない。年上だし、普段騎士服で解りにくいけど、あの人きっといい筋肉してるわよ」
力説されましても!
「えっと……とりあえずのぼせそうだから出るね! お先に!」
逃げるが勝ちだ。
「トリーが逃げたー!」
と騒ぐ三人を風呂場に残して、私は逃げ出した。
今のところ恋なんてする気はないのに、三人に圧倒されているうちになんとなく青い騎士さんならいいのかなぁなんて思ってしまう自分に気付きそうになった。
でも、ダメだ。
なんというか、とにかくダメだ。
私は全て気付かなかったことにして自分の思考に蓋をした。
今は恋なんてしてる場合じゃない。
仕事も講習も成功させて認めてもらわなきゃいけないんだから。
恋なんて一人前になってからでも遅くはないはずだから。




