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翠竜の王子と異界の娘

 私が翠の国の国境を越えたのは新節祭から丁度半月後。流石に「婚約した王子様と同棲しに行きます」とは言えなかったので、翠の国にいる親戚の家の仕事を手伝う為に引っ越すことになった、とヘルケさんや街の人達には話をした。

 この世界に来た時には空っぽだった私の両手には今、少々の自分の荷物とお世話になった人達からの沢山の餞別が入ったバッグが握られている。


「ここが翠の国かぁ~」


 白の国では石材が主流だったが、翠の国の建物は木造が多い。恐らくそれぞれの国の気候が関係しているのだろう。丘の上に立てられた関所から臨む翠の国の風景は私にとって新鮮そのものだった。城下街までは一つ山を越えなければならないらしいので、ここからお城を見ることは出来ない。今から30分後に出る乗合馬車でそこまで移動する予定だ。

 私が馬車の待合室まで行こうとした時、聞こえてきたのは周囲の人々のざわめき。何??と思った瞬間、突然私の周りが陰った。


(まさか……)


 見上げれば空を羽ばたく大きな竜の姿。翠色の鱗にエメラルドグリーンの瞳。私がその姿を見間違える筈が無い。だってそれは――


「リアスくん!!」

「遅い!!!」


 ……感動の再会かと思いきや、顔を見た瞬間怒られました。何故?っていうか、竜姿のままでもしゃべれるんだね。


 リアスくんは足元に気をつけながら私の前に降り立つと、突然のことで驚いている民衆には目もくれずに私をジロリと睨む。だからなんで怒ってるのさ。


「登場が派手すぎだよ、リアスくん」

「カノンが遅いのが悪いんだ」

「遅くないよ。ちゃんと半月の約束守ったでしょ?」

「朝一で来い!」

「私はリアスくんみたいに空飛んでピューってわけにはいかないの!!」


 竜相手に喧嘩する私に周囲が目を丸くしているが、正直私はそれ所ではない。すっかりヘソを曲げてしまった婚約者殿を宥めなくてはならないのだ。その割にきっちり言い返している、というツッコミは無しの方向でお願いします。


「リアスくん」

「…………」

「リーアースーくん」

「……なんだ」

「迎えに来てくれてありがとう。嬉しかったよ」


 すると翠竜がそっと鼻先をこちらに向けた。私は思わず笑みを零してつるつるの鱗を撫でる。機嫌を良くしたのか竜の尻尾が左右に揺れる。


「逢いたかった。カノン」

「うん。私も……わっ!!」


 ずいっと突き出された口先。気づけば翠竜にちゅーされてました。ちょっとちょっと! いくら竜の姿とは言え、思いっきり人前なんですけど――!!!

 驚きと羞恥で顔を真っ赤にする私を他所に、リアスくんはポツリと呟く。


「足りない……」

「へ?」

「早く城へ帰るぞ、カノン」

「え、え? ちょと待っ……」


 襟首を銜えられ、持ち上げられたと思ったら今度はポイッと投げられる。あれ? 婚約者にしては扱いひどくない?

 投げられた先はリアスくんの背中の上。そこには翠竜の体に巻きつけられた太い皮の紐があった。これに掴まれって事?っと首を傾げていたら、突然左右の翼が羽ばたき始める。


「ええ~~~!!」

「飛ぶぞ。落ちるなよ」

「わわっ! ちょっとそんないきなり……」


 バサッと大きな羽音と共に訪れた浮遊感。そして、私の悲鳴は空へと消えた。




 その場に残された翠の国の民達は思う。あの黒髪の少女が白の国で出会いを果たした第三王子の天竜だったのか、と。




 

 最後までお付き合いいただきありがとうございました!

 短編のような内容のくせに、一話一話がものすごく短い為に連載扱い……。ものたんねーよ!という意見もあるかと思いますが、ここでこのお話は完結となります。

 いつか護国の他の国についても書いてみたいなぁ、と思っていますが……思っているだけです。いつになるやら、ならないやら(^_^;)


 お気に入り登録してくださった皆様、ご感想やコメントをくださった皆様、本当にありがとうございます。平日毎日更新を続けられる活力となりました。このお話が少しでも皆様の暇つぶしに活用されていたなら幸いです。


 それではまた、別のお話で皆様とお会いできる日を祈って。





 2012/6/29 橘

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