08
…―
―――
――――
さて、銃から放たれた弾丸のように店から飛び出した俺である。
貰った地図を見比べて視界のマップ上にピン刺し、言いつけ通りの道順で坂を駆け上がって行く。
レベル30超えの俺の実力を見せてやる!とばかりに走っては歩き、走っては歩きを繰り返す。
なんでそんなことしてるんだって思うだろ。ゲームにはあるんだ、スタミナというやつが。
ゲームをあまりやらない方にもわかるように説明すると生死に関わるHP、いわゆる体力の他にスタミナゲージというものが存在する。
これは連続でダッシュし続けたり攻撃や回避などの戦闘における動きを連打してたりすると減り続け、ゲージが無くなると疲れて動けなくなるというものだ。
魔剣の野望ではHPの最大値が一定量上がると少しスタミナゲージが長くなる仕組みだった。
何故か歩いているだけだとスタミナ減らないのでダッシュをしばらくしてスタミナゲージが減って来たら歩いてゲージ回復させてまた走り出すという、スタミナ節約走りを俺は今している。
「はーっはっはっは、人目が痛いぜ!」
まあ子供のなんかよくわからない遊びか…みたいなやれやれ顔の大人が大半だが、迷惑そうな目線と同じ年頃の子供からのなんだあいつ…みたいな目線も刺さる。
まあ、子供ミサイルなどと揶揄されるくらいには走って飛び出す子供が迷惑になった事件が多すぎるよな。ごめんなさい。馬車は街に入れないとわかっているからこそ出来る危ない行為です!
今後しないと誓います!と心で叫びつつ1回も鐘が鳴らないうちに目的地に着いたのである。
街の隅、それも坂の上にある為に人があまり来ないのか、空きテナントや空き地に囲まれてその店はあった。
少し古びた店構えだが、武器の素振りや防具を試着して動く事も許されているのか、店の周りは厳重に囲われているが広い庭があるのが柵の隙間からみえた。ザンッという音が聴こえたので注視すると、遠くでボロボロのカカシがちょうど誰かの剣で斬られて揺れている。
「はーっすごい。あの迫力で剣士にまだなってないパターンもあるのか。というかあれで切れ味変わっても値段は変わらないんだろうか」
カカシによって剣を握る人影の人相はわからなかったが、夕焼けを閉じ込めたような髪が見えた気がした。
ハッとして空を見上げるがまだ昼の青空である。
驚かせないでくれよなぁとぼやきながら見間違いだろうと店の扉を叩き入店したのだった。
扉を開けて入った瞬間にまちがえましたぁと引き返したくなる気持ちにさせる店内だった。
この学校で隣のクラスに入った時みたいな気持ちのような、常連で埋まってるラーメン屋に入店した時の気持ちのような、こう、わかってもらえるだろうか。
店内は武器や防具の鉄のような独特の匂いが充満しており、店主であろう筋肉隆々の屈強なスキンヘッドの男が薬や便利アイテムなどが入っているショーケース横のカウンターの奥でスツールに座っている。
庭に続く扉はそのまた奥にあるのだろう。スキンヘッドに少し後光がきらめき、風がそよと吹いて知らせて来た。
コワモテの男から繰り出される「なんの用だ」という重低音に返事が出来たのは前世配信者だった賜物だろう。口から生まれた男として揶揄された面目躍如だ。
「商談をしに」
「ほう。小僧ひとりでか」
「親は別の買い物を」
親の目がないならば、俺の良心でやっていた痛々しく無い程度の子供っぽいムーブをやめて臨める。
話し方から迷子や万引きなどの疑いがはれたのだろうか、待ってろと言い奥からもう一脚、俺の座れそうな高さの椅子を出して来てくれた。
「改めて、はじめまして。俺の名前はテラ。馬車でこの街に来ている田舎者だ。その田舎者が栽培した毒草を定期的に買い取ってくれる店を探している」
「はー。こんなガキが毒草を?っつうか、お前さんは毒草なんて見分けつくのか?面白え形の草は毒草じゃ無え。そりゃ雑草っつうんだ」
庶民の子供が立ち寄っても許される武器屋・防具屋が他にあるとは思えない。
小細工なしの直球勝負で身分を明かし来店の事情を明かす。
ところでゲームだとショップでひとまとめに武器も防具も回復液もひとつのところで買えるし大変便利だけれども、実際そのシステムを導入している店を見るとなんで?って思ってしまう。3ジャンルだけ専売してるのにその異様さ、面白くて写真に撮ってネットにあげたい。こうやって迷惑客って出来上がるんだな。反省反省。
脳みその隅で益体もないを考えながら口からは真っ当な言葉しか通り抜けないんだから配信者の時会得したスキルは今世でも大変役に立っている。
「この箱の中に毒草が入っている。ただし危ないので触れない位置に下がってもらうか、グローブやマスクをしてもらわないと箱は開けない」
「確かにウチは回復液も売ってるがそもそもうちは中古装備店だ。なんでうちに来た?」
「最初は母親と他の店に持ち込もうとした。全部の店で門前払いされたがな」
おいオヤジ。なんで納得みたいな顔したんだよ。そんなに俺は魔術やりそうもない顔してんのか。
「大通りの装備店だって庶民だろうがそうそう客を追い出すような真似はしねぇ。商談だと言って店員に会って小僧の育てた毒草って言った途端に追い払われた。違うか?」
見て来たように言うじゃないか。その通りだからグウの音を出してみた。
何変な声出してんだと怪訝そうな顔をしながらも続く店側視点の話に今度は俺が納得させられたわけだ。
「この国じゃ魔術師は女の、剣士は男の仕事だ。いや、実際には魔術が得意っつう男もいたのかも知んねえ。が、大昔から1人も聞いた事無えならもうそれはそういうこったろ。要するに、お前さん。
毒草を育てるっつう魔術の切れっ端みたいな内容の事でも男がやってるなんてのは嘘にしか聞こえねえって事だ」
「はーいはいはい。あー、まじか。そう言う事もあるのか」
まさに盲点だったのだ。
魔剣の野望は自分が動かす主人公であるプレイアブルキャラクターを男女どちらか自分で選べた上に剣士か魔術かをさらに選べた。
パートナーのキャラも男・女・騎士・魔術師全てに対応出来るように用意されており、これまた女キャラの騎士の子が最高に肉体美って感じで、でもかわいくもあって…
げふんげふん。横道に逸れたな。
しかし、男女どちらを選んでもストーリーに変化はない故にヘキと趣味によってプレイヤーの選ばれるパターンは偏りがちだったが、この世界ではまさかのワンパターンだったとは。
ん?じゃあなんでオッサンは俺を追い出さずにいるんだ?疑問に思いパッと顔を向けると哀れみや悲しみの要素の入った視線とかち合い動揺する。
「ひとり。剣士になりたくて足掻いてる嬢ちゃんがいる。そいつを知っていたからお前の話も今聞いてやってる。前例にありがたく思うんだな」
店主の言葉に嘘は無いようだ。そして、マイノリティを貫く女性をとても格好いいと思った。
「素敵な人ですね。是非夢を叶えて初代女性騎士となって欲しいです」
スルッとこの言葉が出てくる。紛れもない本心だ。
カウンターの裏で何やら物音がしたのが気になったが、「物が落ちでもしたんだろ。手袋とマスクな、持ってくるからよ」と奥へ引っ込む巨体に遮られ何も見えなかった。
ん?嬢ちゃん?マジか。俺より年上だろうけど、まさかの結構若めな女性に対する呼び名にゾゾゾっと寒気がした。
こんな怖ーい見た目のオッサンといたいけな幼女のツーショットを脳内に描く。
この街にも警邏はいたはずだ。こう思わず口をついていた俺は悪くないと思う。
「お巡りさん。もしかしたらここです」




