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「はーいはいはい、これでこのゲーム最後の実績解除!これにてトロコン!完っ全っクリアーイェー!」
身バレ防止の為の高い声音でそう勢いよくマイクに声を吹き込む。
サブモニターに流れている視聴者のコメントの盛り上がりもいい感じだ。
今日は俺、寺田三輪がテラ名義で運営している動画投稿サイトのチャンネルである
『テラのゲームチャンネル』のチャンネル登録者数50万人を記念し生配信を行っている。
顔出し無し・接触イベント無し・オリジナルグッズ制作無しの、無し無しづくしの俺をここまで応援してくれている人の為に今日の配信でして欲しい事をコメントしてもらい、事前にランダムにピックアップした3つを行うという配信だ。
ありがたい事にSNSで沢山のコメントが集まり、適当にスクロールして指でとめたもの3つが採用される運びとなった。
「さて2つめ、まけどみあさんからのコメント
『2週間前の酒飲み配信でテラさんが寝落ちしたせいで途中の魔剣の野望をトロコンしてクレメンス』ね、
無事達成した訳ですけども?
このゲームさぁ何回もリメイク出てるけどさぁ
出るたびに新ハードでトロコンしてる俺にはやっぱり簡単すぎるっていうか?」
そうコメントを稼げるような煽りで視聴者をたきつけつつ、最後のコメントを達成する為の準備を始める。
コメント欄は思惑通りに「なんだこいつ」「なんか言ってらぁ」などのコメントが流れ、プロレスをわかっている視聴者に内心大喜びである。
「さて、いよいよ最後な訳だけどさぁ。
ちょっとこれは引き当てた時不正したくなったんだわ。
アゲおまるさんからのコメントで『シャンパンタワーならぬテラの好きなエナジードリンクタワー!おのこしは許しまへんで』だって
いや、好きだけども!限度!あるでしょうよ」
配信前に毎回1本眠気覚ましに飲んでいる事をSNSで話していた為に言い逃れも出来ず粛々と缶をピラミッドのように並べていく。
適当な雑談を挟みながら準備を終えると、画面の向こう側のみんなも各々の飲みたいものを用意し待機してくれていたようだ。
「はーいはいはい。お待たせしましたー
皆さんドリンクの準備はよろしいですか?
俺は30本のエナドリを上から順に一気しないといけなくなりましたぁ!」
不正がない事を証明する為だけに購入した動画撮影用カメラに4段の缶のピラミッドを写すと
「イェー」「かわいそー笑」「止まるんじゃねーぞ」などの応援か怪しいコメントが流れていく。
これ以上引っ張っても朝になってしまうので早々に1番上の缶を取り乾杯の音頭をとる。
「では!えんもたけなわではございますが、これらを飲み切って今夜の配信を終了とさせていただきまーす!
せーのっ、かんぱーい!」
喉を液体が通る音がマイクに拾われる位置で一本一本飲み干していく。
今日クリアした最新版の魔剣の野望であそこであーすりゃよかったなとミニ反省会を心の内で行っているとあっという間に上部の缶は全て飲み切っていた。
コメントをチラ見してみると、
「え?やばくない?」「死ぬぞマジで」「やめろ」
など企画中断を呼びかける人が多く居る事に気付く。
なんでだ?
まあ飲み過ぎは身体に悪いって聞くけど向こう1ヶ月飲みたくない量を今飲んでるから来月まで俺逆に健康だと思う。
など益もないことを考えながら1番下の段の缶を取った時視界が急激に眩む。
平衡感覚が失われ床に倒れた事をドタン!という音と衝撃で理解する。
カメラも同時に倒れ、顔バレを絶対にしたくない俺は最後の力を振り絞って目をこじ開けて配信画面を確認する。
かろうじて見えたコメントの「カフェイン中毒」という文字がこの日の最後の記憶であった。
―…
―――
――――
プールに潜った時に話しかけられたかのようなくぐもった声が聞こえる。
男性と女性が幸せそうに話しているようだ。
なぜ俺の耳元で?
瞼越しの目が光を感じるほど日が登っているのは理解したが俺、昨日のやらかしを思い出して恥ずかしさで二度寝したいんだが?
もしや近所のどなたかが異変に気付き、救急搬送された先の病室なのだろうか。
「あら、グズリもせずにまた寝ようとしてるわ」
「はははっ。コイツは随分とねぼすけさんだなぁ。
いったい誰に似たんだか」
「寝る子は育つって言うし、この子は将来大きくなるわね!」
「ああ。その為にもまずはご飯だな。
テラー、朝だぞー。ご飯の時間だぞー?」
ラブラブカップルならぬラブラブ夫婦だと判明した会話を大人しく聞いていたらいきなり背中に手の感覚を感じる。
待てよ?俺の配信者名が呼ばれたぞ?
なんだ?ファンか?だとしたらこれは家凸?
疑問と疑惑が頭を駆け巡るが、手に力が入った事が服越しに伝わり同時に布団から持ち上げられた浮遊感に驚き声をあげる
「だあっ!」
ん?なんか俺から出たとは思えない高くて舌足らずな声が聞こえたような。
「あー…いきなり持ち上げて悪かったよ。な、テラ。母さん、悪い。受け取ってくれ」
「ふふっ。びっくりしちゃったのね。
ほら、お母さんですよー。
ミルク飲みましょうねー?」
目を開けているはずなのにぼやけた視界で必死に腕や脚を振り回し抵抗をするも事態は好転せず、
そうこうしているうちに、なにやら柔らかく、かつ弾力のある壁が顔やら腕やらに当たった。
おまけにいい匂いもするものだから手と頬で感触を楽しむ。
「あ、こら!テラ!母さんのおっぱいは父さんのものでもあるんだぞ!」
なんかクソみたいな言い分が聞こえてくる。
「あなた?赤ちゃんの教育に悪いですよ
ほら、テラ。チューチューってしよう?」
口にコロコロとグミのような食感の何かを含まされた。なんか俺、歯抜けてない?唇でなんとか咥えてる状況なんだけど。
なんとなくだが言う事を聞かなければこの状態から抜け出せないと理解してきた俺は、仕方なく言われた通りに口に含んだものを吸いあげる。
なんだこれは。初めての味の液体が出てきたが、ひと口で魅了されてしまう。赤ちゃん言葉で定期的に呼びかけられる事など気にならない程美味である。
うまい。空腹は最高のスパイス説は捨て切れないが、エナドリなんて目じゃないくらいにはうまい。
この至高の飲み物がなんであるか気になった俺は、昨晩のカメラの行方を確認するよりも必死に目をかっぴらく。
ぼやけた目の先には男の夢…豊かなたゆんと揺れる2つの肌色の山が見えた。
「びぇ?」
驚いて口から離れていったグミはということは…いや、考えるのはやめよう。
俺は無実だ。お巡りさんここではない。
ここから入れる保険はありませんか?
誰か周りの人に証人になって貰おうとキョロキョロと周りを見渡すと、鏡越しの赤ちゃんと目が合う。
腕を振ってみる。
赤ちゃんも腕を振っている。
衝撃に口をパクパクしてしまう。
赤ちゃんも口をパクつかせる。
はーいはいはい。これは…確定だ。
「あう!いえあいえんえーいえゆー!」




