番外編 高木君の着地場所 2
武蔵は覚えてなかったけど、俺が武蔵を可愛いな、と思ったのは高校受験の時だった。
俺は受験クラスに入り、机に書かれている受験票の番号を確認した。
ペンケースと受験票を机の上に出して、ペンケースの中から筆記用具を出していると俺の方に消しゴムが転がってきた。
「あ、ごめん」と言って慌てて拾おうとした武蔵に俺が先に拾って渡したのだ。知らない制服だったから隣の中学でもないな、と思って「ん」と言って消しゴムを差し出された手のひらに落とした。
「落ちちゃった」と言って慌てて口を押えて、「あ、私が縁起悪いだけだから。変な事言ってごめん。ありがと」と、言って少し距離が取ってある隣の席に座った。
「いや。別に」その時ゆっくり顔を見た。
(可愛い)
俺はそれしか言えなかった。可愛いと思って、受験の緊張は吹き飛んだ。
(うわ、可愛い。可愛い。すごい可愛い)
雷に打たれたような感覚はあった。
今思えばもっと気の利いた事言えばよかったけど、試験前なのに受かったらこの子も同じ高校になるのかな。なんて思って、受験に挑んだ。実力以上が出せたと思う。
合格発表はネットで見れたが、あの子が発表に来てるんじゃないかと高校に見に行った。いなくてがっかりしてしまい、受かったのに親からは落ちたのかと心配された。
だから入学式で同じクラスにいた時は嬉しかった。そこで初めて名前も知った。
(武蔵 はる。 名前も可愛い)
席替えで前後になった時は運命かと思った。それとなく受験の時の事を聞いてみたけど、緊張して何も覚えてないと笑われてしまった。でも、その笑顔も可愛かった。
武蔵は可愛くて人気があったけど、浮いた話もなくて俺と同じような見てるだけの奴ばかりかと思っていた。俺は人を好きになったことがなかったし、どうやって恋愛に発展させていくのか悩み、教科書よりも熱心に恋愛特集の雑誌を読んだ。
運動会や文化祭では恋人が出来やすいと本にはあったが、俺と武蔵の発展はなかった。ただ、少しずつ距離を詰めようと、共通の知人(早瀬)の話題を振ったりして、武蔵と少しずつ仲良くなっていると思っていた。
間抜けなことに俺は忘れていたが、2年に上がるのにクラス替えがあり、武蔵とはクラスが離れた。隣のクラスだったがその壁を疎ましく思い、武蔵の隣の席(前後左右)が羨ましくてしょうがなかった。だから時々、違うクラス特権で教科書やノートを借りに行ったが、あまりだらしなく思われるのも嫌で渋々時々にした。
武蔵とは相変わらず仲が良かったし、告白も考えたが、二年の夏休み明けに隣のクラスの奴が一年の時に武蔵に告白して振られたと聞き、でも「好きな奴がいないか聞いたら、いないと言っていた。」とも聞いてホッとしたのと、じゃあ俺も無理じゃん。と思い、まず、好きになってもらう為に頑張ることにした。修学旅行も無事に終わり、俺は一緒に写真を撮ることに成功して、それで満足してしまった。だから発展はなかった。
そんなことをしているとあっという間に3年になり、俺の願いはここでも届かず3年でもクラスは離れ、しかも2年よりもクラスは遠くなった。(俺は8組で武蔵は1組。クラスの棟も東と西に分かれた)正月におみくじで大凶を引いたのはこれだったかと肩を落とした。
それでも、武蔵に彼氏が出来たとは聞かなかったし、挨拶はするし、無駄に廊下をうろうろしたり、武蔵のクラスに仲のいい奴がいたから俺から会いに行き、武蔵がクラスにいるときはクラスの中で話をした。(決してストーカーではない)
(受験もあるけど、クリスマス前に告白しようかな)
そう思ったのは秋に何回か偶然駅まで一緒に帰ったりして、自分の中ではいい雰囲気だったからだ。でも、それも予定だけで実行はしなかった。
告白しようと思ってすぐに武蔵が嫌がらせ受けてるのを聞き、それが俺のせいで、俺がその相手から告白され、武蔵からも避けられ、受験に専念して、卒業式の後に告白しようと思ったら電話番号を変えられていたのを式後に気付き、連絡が取れなくなった。
卒業式では武蔵が噂の後輩と一緒にいるところを見て、胸が痛んだ。後輩が武蔵の胸を指さし、武蔵は胸に付いてる花を後輩にあげていた。
(胸を指さすなよ。付き合ってるのかよ。いや、付き合ってても止めろよ。いや、俺が付き合ったらしていいのか)
俺は式後、友達と話して別れ、靴を履き替えて帰ろうとしたら、ちょうど武蔵もいて靴を履いていて、「よー」と声をかけた。
「あ、高木君。卒業おめでとう」と言われ笑った顔が可愛かった。
「いや、武蔵も卒業だろ」
「ははは、そうだね。うん、これからもお互い頑張ろうね」
「おー。武蔵も。で、あのさ」と、話しかけると、「はーる先輩!この後話あるんで、こっちいいですか?」
と、武蔵から花を貰った後輩が武蔵の手を引っ張りながらこっちをみた。
「あれ、はる先輩忙しい?」と首をかしげながら武蔵の肩に頭を乗せた。
(こいつ、近いな。武蔵に触れすぎじゃね)
「いや、大丈夫よ。高木君、またね」
「あ、うん」
武蔵の手を引っ張りながら後輩が「はる先輩こっちー」と言いながら歩いて行った。
二人は俺から見てもお似合いだった。
それが武蔵と話した最後だった。
(あー、終わった)
家に帰って、それでも告白しようかと武蔵の番号を押したら繋がらなくなっていて、ショックを受けたのはこれから3時間後の事である。
そこでもう一度
(終わった・・・)と思うのだが、告白もしてない俺はそれからずっとこの気持ちを引きずることになる。
後1話番外編が続きます。




