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13:夢の果て

「そうですかマリーさん。彼女に会いましたか…………。時間が合わないと思っていたので説明が遅れましたね、すみません。ええ、M華ちゃん……確かに彼女は憑依型。トリップタイプの作者です」


 息を切らし向かった作業部屋。事情を説明する私に、腐川先生は冷たいお茶を与えてくれた。先生は椅子に深く腰掛けて、考え込むよう眼鏡に暗い影を落とす。


「トリップタイプ?」

「妄想特化型、とでも言うのですかね。まるで自身が旅をするかのように……いえ、まるで危ない薬をキメたかのように凄まじいエネルギーと想像力で、自身の分身を作品に落とし作品を作ります。ですから彼女が作る物語に、辛いことや悲しいことはありません。あったとしても……それは必ず乗り越えられるものになっています。試しにこれをどうぞ」


 先生に見せられたのは、早乙女さんが描いたという作品。ロットちゃんとは作風が異なるが、それ故に展開が読めない。


「わー! 可愛い絵柄ですね! 出て来る人みんな綺麗で目の保養です!」

「良い絵を描きますよM華ちゃんは。……彼女は実力は十分で、一度連載を持ったことがあったと聞きました。けれど、精神の方がそれで……」


 駄目になった。腐川先生は遠い目をしてそう呟いた。


「……どうして、ですか? こんな楽しい話を描く方なのに……」


 作風と彼女の印象は正反対。だからこそ、信じられない。悪い魔物にでも取り憑かれたのでは? こんなに明るい話を描く人が、あんなに狂気じみた人だとは思えない。私の疑問に先生は、複雑そうな笑みで答えてくれる。


「人に夢を与えたところで、人は夢を返さない。時に悪意で返されることもあるでしょう。彼女が夢見た幸せな世界を描いたところで、彼女は何も幸せにならない。現実と空想が乖離して行く惨めさに、彼女は壊れてしまったんです」


 私には解らなかった。先生の言う言葉の意味が。そんな私に先生は、噛み砕いて説明をしてくれる。今は時間が惜しいのだけれども、早乙女さんのことを知らずに危険に飛び込む決断は……ロットちゃんを付き合わせる決定は出来ない。


「マリーさん、人間とは弱い生き物です。人が持つ強さとは不変の意味ではありません。変わらずにいようとすればするほど、環境の変化に堪えきれず……ある日折れてしまう」

「それでは流行や世の中の流れに流れて変わって行くのが良いことなんですか? それも主体性がなくて、自分を持っていないと思いますけど」

「そうですね。ダイヤさんの今回の壁は正にその事でしょう。本当なら誰もが自分の好きな物で評価されたい。見向きもしない世界を変えて行きたい。それでも忘れてはいけないことがあるんです。ダイヤさんはその事にまだ気付けていませんし、知っていたはずの梦華ちゃんは埋もれてしまった」


 タイプも作風も違う二人の弟子。彼女達は共に闇に捕らわれている。だからこそ見え、通じ合える物があると……腐川先生が早乙女さんを雇ったのは、いつかロットちゃんがこの異界に舞い戻ることを期待して? ロットちゃんは勇者だから、彼女を助けてくれると信じたのか。


「マリーさん達の世界は、此方と勝手が違いますからね。どちらが優れているとは一概には言えません。ですが……彼方は魔物がいるため、肉体の死が精神の死であることが多い。此方には魔物のような危険が少ないため、精神の死が肉体の死になる事例も多いのです」


 いつか目覚めるかもしれぬ魔王に脅える世界と違い、命の危機が遠い場所にある世界。それは私達にとっては羨ましいことだけど、異界の人々にとっては“心を殺す退屈”なのだと彼女は言った。


「貴女は言いましたね。ダイヤさんの心を癒やせる者になりたいと」

「はい」

「ですが……それはどんな回復魔法よりも難しい。蘇生魔法よりも高度なことだと私は思います」

「それは私が……未熟だからですか? 腐術の何も解っていないから、ですか?」

「いいえ、それは誰にとっても困難なこと。それだけ人の精神という物は複雑なのです」

「でも腐川先生は、ロットちゃんを救いました! 貴女の作った作品で!!」

「私は道を示したに過ぎません。そこから彼女が這い上がれたのは彼女自身の力、そして……彼女を信じた貴方達、仲間の存在があったからでしょう?」


 腐川先生は、私の願いを否定しながら私自身を肯定する。


「……どんなに親しい相手でも、その心を完璧に理解することは出来ない。だから、心の傷を完全に癒すことは出来ない。そういうこと、ですか?」

「マリーさん、貴女にも傷はある。私にも、ダイヤさんにも。傷のない存在なんていない。傷は歴史であり、その人自身を構成する大切な要素。それを受け入れられるかられないか。違いはそれだけです……ですが、傷とは根深いもの。自分自身、人生その物なのですから。今回の彼女の荒れようもそれが原因です」


 アリュエットとの確執。彼女を許すことにしたロットちゃんだけど……決めたからって彼女への恨みの気持ちが0にはならない。自分を苦しめた相手が、それなりに幸せだったり、自分のフィールドにやって来て自分よりも成功したら面白くない。どうして許してしまったんだと、“仲直りの切っ掛け”さえ呪わしくなる。彼女がそうしなければ、アリュエット達があの界隈での成功はあり得なかった。


(ロットちゃんが、そんなこと思うわけがない……でも)


 これは可能性の話。極論だが彼女が復讐を果たしていたら。アリュエットの息の根を止めていたならば。少なくとも今と同じ展開にはならなかった。ロットちゃんが再び傷つくようなことも。

 結果として、ロットちゃんは勇者で在ろうとした。その決断が今、彼女を苦しめている。そんな中、私はまだ……彼女に勇者で在れと告げるのか? 動機は違っても、再び理不尽に命を狙われている彼女に。


(それって本当に“正しい事”なの……?)


 大事な仲間を傷付けて、どうでも良い誰かを救うこと。数と命の天秤、その均衡を守るため……私達、勇者には強さが必要。この問いに悩むこと自体、私達が弱いと言う証。これがTwin Beloteなら、兄様なら。

 兄様は実際に薄情な人でなしな性格破綻者だけど、パーティメンバーを見捨てる決断を即座に下せる。彼らは仲間を見捨てて多くを救う決断が出来る人達。それぞれが強いというある種の信頼があってこそ。

 私達は弱くて、だからパーティが必要で。支え合って、四人一緒じゃなきゃ本来の力を発揮出来ない。こうしてパーティが二分されている時点で、私達は大きく弱体化している。


「ダイヤさんは、完全に闇を振り払えてはいません……。闇も一つの原動力ではありますが、取り込まれぬよう上手く付き合う必要がある。今のダイヤさんは……とても不安定に見えます。あの子と同等……或いはそれ以上に」


 ロットちゃんが、あの人と同じくらい……それ以上に追い詰められている? 信じられない。いくら腐川先生でも信用できない話だ。


「不満に思うのは無理はありません。貴女は私とダイヤさんより付き合いも長い。心理的距離も近い。家族よりも兄弟よりも、近しい存在かもしれません。たかだか一年傍に居た私が、マリーさんより彼女を解った風に語るのは腹立たしいことでしょう」


 私の心を読み取った先生の言葉。私の気持ちはそんなにも分かり易いのだろうか? そうかもしれない。ロットちゃんのことならきっと。


「ですが、立場が違うからこそ見えることもあります。近すぎて、見えないことも」


 私の知らないロットちゃんが、一人で苦しんでいるのなら……その痛みを分かち合いたい。先生は、それは不可能だと口にした。他のことで癒やすことは出来ても、その傷を取り去ることは出来ないと。


「ロットちゃんは自信を無くして落ち込んでいます。でも。ロットちゃんは早乙女さんみたいにいなくなりたいとか死んでしまいたいなんて……そんなことっ!」


 口になんてしない。思ったりもしない。ロットちゃんは自分が大好きなんだ。理由の裏付けを臆面も無く言うなら……私がロットちゃんを大好きだから。誰かに思われている自分がいるなら、ロットちゃんは自分を投げ出したりしない。捻くれていても彼女は勇者だから。

 腐川先生の言うことは、おそらく正しいのだと思う。それでも、だからこそ言える。先生が知らないロットちゃんを私は知っている。私のロットちゃんは、勇者なんだ。


「……自分のためじゃなくて誰かのため。それが私達勇者の在り方です!!」

「…………そうだね、マリーさん。だけどあの子は……勇者である、だけではない。彼女は生きたダンジョンだ」

「……?!」


 先生の口から飛び出したのは、昨晩のぞき見た本で得た知識。【水晶病者】と重なる言葉。腐川先生はここ数日、契約の本を目にしていないのに何故?

 私でさえ知らないことを、この人は知っているのか? 契約者だからこそ知ってしまった情報があるの?


「先生、それは……クラ――」

「いや、誰しもがそうなのかもしれないね。人間という奴は。理解したつもりでも理解しきれない。貴方がそうであるように、私もあの子を……正しく理解出来ていなかった」


 誤魔化された? それとも偶然? 解らない。唯、先生の悔恨めいた呟きが空気に溶け込み消えていく。先生の悲しげな顔を見ているのは辛いが、私には聞かなければならないことがまだあった。


「せ……」


 しかし口を開いたその刹那、腐川先生の女騎士御殿が大きく揺れ動く! 地震のようだが私はそこに魔力を感じ、転びながらも彼女の部屋へと走り出す。


(ロットちゃんのところで、きっと何かがあったんだ!)



 仕事に疲れた魔女と、何も出来ない女の子がいました。そっくりな二人は、ある日出会って、それぞれの悩みを打ち明けます。二人は一時的に入れ替わって遊ぶことにしました。周りの人達が気付くまでそうして困らせよう。自分たちがどれだけ大事な存在だったか思い知らせてやろう! そう意気込んで。


「魔法が使えない魔女なんか、すぐに嫌われるに違いない。みんなあの人の力を頼っているだけよ」


 自分とは違う。多くを持っている魔女。彼女が帰ってきた時に、彼女が煩わしいと思った全ては消えている。だって入れ替わったことにも気付かない愚か者共。彼女は沢山の人に囲まれても孤独なのだ。それを理解してあげられるのは私だけ。

 何も持たない女の子は、多くを持った魔女に対して優越感を抱きました。それは彼女を初めて幸せな気持ちにしたのです。


「おかしい、こんなことはおかしい」


 魔法が使えなくなった。そう言っても誰も居なくならない。わざと嫌われるようなことをしても、全員はいなくならない。本物の魔女じゃないことも気付かないくらい馬鹿。いいえ、彼らは疑うことを知らなかった。それだけ魔女のことを信じていた。女の子の言葉くらいで嫌いになるような過去を、彼らは過ごしていなかった。


「それなら私も素直になっていいんじゃない? 優しさに優しさを返そう。そうすれば、もっと私を好きになって貰える。愛して貰える。魔女ではなく私を」


 女の子が態度を改めた時、初めて周りの人が騒ぎます。魔女の様子がおかしいと。女の子は驚きました。嫌われることをしなくなったのに、どうして自分が疑われ、人が離れていくのだろうかと。

 嗚呼、だけど……一人だけ、ひとりだけが残りました。彼は変わってしまった魔女を、孤独になった彼女のことが気になりました。それまで魔女のことを何とも思っていなかったのに、今の魔女のことは何故だか放って置けなかったのです。

 女の子は喜びました。たった一人でも、自分を思ってくれる人が居ることに。


 一方自由な孤独を喜ぶ魔女でしたが、女の子の周りには本当に何もない。誰もいない、孤独だけが広がります。何をしても誰も何も言わない。誰も近付かず、傷付けられることはないけれど……誰にも見えていないよう。そんな事実が魔女の心を抉ります。次第に自分がどれだけ恵まれていたかを知り、入れ替わりを終わろうと女の子に言いに行きますが……たった一つを手に入れた、女の子は魔女の言葉を聞きません。それもそのはず。女の子が帰る場所には、だぁれも彼女を待っていないのです。


「……仕方ない」


何にもない。誰もいない。だからこそ、これから何を始めようと彼女を咎める者もいない。魔女は何もない場所へと帰り……そこで暮らし始めます。

 やがて……何処からか噂を聞いて彼女の元へ駆けつける人。新しく仲良くなる人出会う人。何もない場所に、魔法も使わず魔女はまた宝物を手に入れました。


「私が幸せになるために、魔法は必要なかったんだ。唯、誰かをもっと笑顔にするために……魔法があれば良かっただけで」


 魔法を使わなくても、誰かを笑顔にすることは出来る。それは魔法を越えた魔法に違いない。魔法使いはその日から、ただの人間となり……また誰かのために働き始めました。

 その頃には……女の子の傍から多くが去って一つだけ。魔女のことを知ると、彼女は再び空虚を抱えてしまいます。狡いずるいずるい。一つの幸せだけでは満足できない。私の傍にあったものがどうしてそっちへまた行くの? 世界が変わったのに何故? 女の子は悲しみます。


「その場所を返して! そこは私の居る場所よ!!」


 魔女でなくなった魔女のところへ飛び込み、怒鳴りつけた女の子。彼女は魔女が今手にしているものが……本来自分が得るべき物だったと思わずにはいられないのです。


「……解らないの? 居場所が変わっても、自分が変わらなきゃ何も変わらない。それでも何処かの世界には……あなたがそのままでも良いと思う人が居る。あなたは彼方でそんな人に会えたのに、どうしてここへ来てしまったの? あなたの居る場所は、あっちよ。大事な人に会えたのだもの」

「どうして? どうしてそんなに簡単に、大事な物を捨てられるの? あっちには、あなたにとって大事な物が沢山あったはずなのに!!」

「本当に大事に思ってくれる人とは、また会えるわ。私が何処へ行っても、どんなに遠く離れても……追いかけて来てくれるから」


 どこにいようと関係ないの。私が私のままならば。そう言って魔女は笑ったのです。



(要約すると、そういうラストだったみたいね。先生の新連載)


 早乙女が暇していたのも、新連載が先月で終了したから。先生の部屋には次の連載のためのネームが散らばっていた。


(先生も駄目ね、このダイヤ様がいなくなったからって耄碌しちゃうなんて。不出来な弟子のために連載ぶん投げるなんて、他のファンに顔向けできないわよ本当)


 早乙女のおぞましい部屋には『不食のダイヤ』の本があった。最終話までの雑誌も。


(あの原稿を早乙女が手伝っていた。それが彼女にとって良くないこと……それ以上は駄目だと先生が判断した?)


 仮に彼女に脅迫されたとしても、プロ根性のある先生らしかぬ行動。展開を変えなきゃ死んでやると過激ファンに言われても、話をねじ曲げるような人とは思えない。先生は法の許す範囲で、自分が殺されても自分の描きたい物を描く人だと思う。


(……先生も絡んでるとなると、行かないわけにはいかないわ)


 あの人は私の契約者。それに恩人なのだ。意を決し、私は魔方陣へと足を踏み入れる。すぐさま転移魔法が発動し、辺りが光に包まれる。ゲートを通過する際に、私は魔方陣を破壊した。魔方陣の容量をオーバーするくらいの物を流し込んだのだ。これで安心、マリーは此方に来られない。

 周りへ飛ばした探査魔法で現在地を確認……地下、廃棄された鉄道駅の遺構。ホームに残された文字はイケブクロと同言語。ここはイケブクロの何処かと推測される。

 こんな薄気味悪い場所、さっさと片付けてしまおう。私は廃墟を魔法で照らし、箒で飛んで先へと進む。ダンジョンのように入り組んでいるが、出て来るのは蝙蝠と溝鼠くらい。やがて一つの行き止まりが見えた時、怪しげな気配が漂って来た。


「…………来てやったわよ」

「……来て下さったんですね、ダイヤお姉様!」


 その一角には無数の人骨が散らばっていた。人骨の傍には部屋にあったのと同じ魔方陣が描かれていて、その中央には縛られた早乙女がいた。私の姿を認識し、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「あら、元気そうね。もう喋れるようになったの? つまらないエスコートだったらすぐ帰るから」

「縛られていて苦しいんです、さぁ、解いて下さい。解いて下さったらどんなお礼でも致します」


 誘うように奴が言う。魔方陣に踏み込ませたいのだろうがそうはいかない。私は箒の先をハサミに変形させ、彼女の方へと向けてやる。


「お望み通り、魔法は見せてやったわ。でもあんたが期待してるほど私は凄い魔法使いじゃないの。馬鹿なことを考えるのはいい加減にしなさい。あんたは利用されてるのよ? 心底参ってる時に優しい言葉を掛けてくるのはね、悪魔と悪人って相場が決まっているのよ!」


 私宛に残された怪文書。それは短い謝罪の後に、「貴女の言葉責めと非道な行いによって新しい性癖に目覚めました。デートして下さい」などと言う全く懲りないふざけた代物。手紙には返事のための手紙セットが同封されていて……私に記入を迫る内容が記されている。


「この返信用の便箋に、うまーく装飾を模した呪文が書込んであったわ。拡大すると模様もびっしり文字になってる。そっちが本文で、元の文書の方が装飾。よくもまぁ、ろくでもない契約をさせようとしたわね小娘」


 鋏箒を消して、私は便箋を彼女の目の前で破く。こういった文書を好む魔物は悪魔系の連中だ。この女はそんな輩に誑かされたのだろう。


「はぁ……気付かずにいてくれたら、もっと素敵なおもてなしが出来たのですが。いえ、気付いていても貴女なら、大事なお友達を交渉材料にすれば従ってくれると思いました。貴女は勇者なのですから。ヒロイズムを感じたまま死ぬのは本望でしょう?」


 捕えられた振りも無駄と判断し、彼女は自らの拘束を解く。縄を力で引き千切ったわけではなさそうだが。


「ふふ、こんなことならもっと……貴女に気に入られるような態度を取れば良かった。でもねダイヤ様? 私は誠実に接したつもりなんですよ? 私は私のまま、私の欲望を嘘偽りなく貴女に伝えている」

「正直とか素直が美徳だとは限らないわよね別に。正直だからってだけでハッピーエンドになれるほど、世の中甘くないのよ」

「ああ、それはその通りですね。彼らは自分の欲望に正直でしたが、こうして今は骨になっています…………そう睨まないで下さい。私は直接手を下していませんよ? 大事なお友達のために、住まいを提供しただけです」


 早乙女は、辺りに散らばる白骨達への関与を認めた。退屈ってだけで、人間ここまでおかしくなれる? おそらくそんな物では無い。彼女の側にはもっと恐るべき何かが潜んでいる。

 この骨の数。被害者が多すぎる。封印モンスターが一時的に、魔方陣から顔を出す……程度のこととは思えない。魔物は此方の世界で犯行を行い、ここで喰らった。完全な顕現している。野放しになんて出来ないし、そもそも野放しになっていること自体がおかしいのだ。


(何処かにあるはずなんだけど……異世界内……この異界イケブクロの何処かに)


 魔力の源となるような物。絶対にあるはずなのよ。マリスが引き抜いてしまった、剣のような封印装置が。しかもその封印が漏れ出している。でなければ異界で魔物が自由徘徊なんてありえない。すぐに魔力が枯渇して死んでしまうわ。あいつらは魔法使いとは違うのだもの。


(……大して腹の足しにならない人間より、魔法使いを食いたいと。そいつは思ってる。早乙女の感情は、その暴食魔に利用されているのね)


 そうね、状況は本当に最悪。昔のコントと同じ所に私はいる。唯一助かったところは、コントがマリスに寄せるような感情を、私がこの子に持っていないこと。


「頼れるお友達ねぇ……それは私のマリーより頼りになるのかしら? 見せて貰いたいもんだわ。さぞかし素敵なお友達なんでしょうねぇ?」


 友達は狩りの途中なのか。私の挑発にも乗らず、早乙女は時間稼ぎに入る。


「不思議に思っていますか? その通り。私達の世界に魔法は存在しない。でもそれは世界に魔法を構成する元素がないだけで、私の身体と貴女の身体に大きな違いはないのです。違いは環境要因、その一点」

「興味深いわね。続けてみたら?」

「貴女は、貴女の先祖は代々魔法のある世界で空気を吸い、水を食料を口にした。此方にいる時貴女が使う魔法は、外部元素を頼れない。貴女の血肉に宿る魔力を使って貴女は奇跡を起こしている。だからそんなケチな魔法しか使わないのでしょう?」

「ふん、なかなか面白いこと言うじゃない。つまりあんたは、身代わりでも転生でもなくて……私を食って、私の魔力を。私の姿を得たいって、そういうことね?」

「ふふふ……良いですか、ダイヤ様。この地の我々は魔法を扱えない。それでも思い願うことは出来る」


 有象無象の人間達。一人一人の声は小さくとも、それが集まれば……遠い遠い世界にも、その声が届くと早乙女は言う。


「そして此処は多くの人間が、別の世界を! 次元の壁を越えた相手を求めた思いの終着地点!! 餌もたんまりとありました。大きな魔法を使えない今の貴女に彼女は決して倒せない!! さぁ、姿を現しなさい! いでよ……“オグレス”!!」

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