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第二十七話 力と覚悟

 エリアの父、アルデライトに化けたナナによる本格的な修行が始まった。

 道場内は木刀がぶつかり合う、高い音と激しい呼吸の音だけが鳴り響く。


 「はあ!」

 カンッ!カカンッ!

 「いいぞ、クリスくん。その調子でドンドン打ってこい」


 普段使ってる太刀より刀身は短いが、重さは同等の木刀を片手で握りしめ、次々ナナに打ち込んでいく。


 ナナは左手を背に回し、右手一本で俺の攻撃を受け流し返してくる。


 パーフェクトコピーは思考、身体能力に至る何もかもが変身した相手と同じになるため、ナナと言っても相手はアルデライトさん本人と代わり映えしない。


 力いっぱい振り下ろした木刀すら片手で弾かれてしまい、崩れかけた体勢を立て直し後ろにバックステップする。

 「はぁ……はぁ……くそ、これがレベル99の実力か」


 スキルを使ってないとはいえ、ここまで全ての攻撃を軽く受け流されては実力の差を認めるしかなかった。


 「ふむ、とりあえず君の実力はわかった。一旦休んでくれ」

 「ありがとう……ございました」

 腕の力を抜き、頭を下げる。


 「次はエリアだ」

 「はーーい」


 壁際に座っていたエリアが片手を上げて、明るく返事をした。

 エリアは立ち上がってこちらに歩き始め、入れ替わるようにエリアが座っていたところに近づくと、突然目の前を白い布に覆われる。

 「お疲れ様、クリス」

 「あぁ、ありがとう」


 それはエリアが具現化させたタオルだった。


 腰を落とし、顔や首周りの汗を拭き始める。


 「ふぅ……」

 先出ししてギリギリのところで狙いを変えても、全部防がれたな……。

 と言ってもこれは修行内容を決めるための実力テスト、やれる事は全部やったし、持ってる物は全部出したはず。


 あと俺に足りないものは、体幹と判断力……そして動体視力といったところか。


 もしナナが加減していなかったら、たぶん腕の動きに目が追い付けず一方的にやられていただろう。


 それぐらいナナの攻撃は一瞬で目の前に現れていた。

 ナナの動体視力は分からないが、ギリギリで狙いを変えても防げるぐらい動体視力もいいはずだ。


 それにこの先どんなモンスターを相手にするか分からないから、対応できるようになりたい。


 「クリスくん、こっちに来てくれ」

 目を閉じて考え事をしてる間に、エリアのテストが終わっていた。


 「次は2人まとめて掛かってきなさい」

 「え、2人同時に!?」


 隣に立つエリアが目を丸くして驚いた。


 「……少し本気でやってくれませんか?」

 ナナを煽るように促すと、ナナは一瞬驚きを見せたが鼻で笑う。

 「ふっ、どうやらクリスくんは、怖いもの知らずのようだな。いいだろう、それなら外でやろうか」


 ナナは俺とエリアの間を通って、道場の入口に向かって歩き始めた。


 「ちょっとちょっとクリス!」

 「どうした?」


 「どうした? じゃないわよ! お父さんを煽るようなこと言って、大丈夫なの?」

 「大丈夫って何がだ?修行になるなら、俺はなんだってやるぞ?」


 エリアは俺の返しにキョトンとした表情を浮かべる。

 「はぁ……なんか心配して損した」

 「心配する要素あったか?」


 「……まぁいいわ、気にしないで。それより早く行くわよ」

 「あぁ……って引っ張るなよ」


 外に出ると、ナナが既に七尾(セブンテイル)になって待っていた。


 「お、お父さん? お父さんだよね?」

 「あぁ、これは私の変身魔法でね。変身しなくても良かったんだが、この先エリアがドラゴン以外と戦う事を考えていたら、思わず変身してしまったんだ」


 「そ、そうなんだ……ありがと、お父さん」


 木々の間を吹き抜ける風が白銀の毛並みを揺らし、太陽の光を浴びて輝いている。


 「すごく綺麗……」

 エリアはナナの姿を見て目を輝かせていた。


 「ね!ね! クリスも綺麗だと思わない!?」

 「あ、あぁたしかに綺麗だな」


 確かに綺麗ではあるが、月光を浴びてる方が綺麗だなと思ったのは内緒だ。


 「これ2人共、この姿に見惚れている暇はないぞ。もし本物のモンスターならそんな余裕はないんだからな!」

 そう言い、ナナはおもむろに魔力を撒き散らす。


 「くっ!」

 撒き散らされた魔力から感じるとてつもない殺気が、肌を刺激する。


 落ち着いていた心臓の鼓動が、少し早くなるのを感じた。


 「さぁ、構えろ!」

 そう言い放ったナナは尻尾をクジャクのように広げ、尾先をこちらに向けてくる。


 「クリス!」

 「あぁ!」

 視線を合わせて頷いた俺とエリアは、それぞれ武器を具現化させて構える。


 目を閉じて深呼吸すると、早くなった鼓動が徐々に落ち着きを取り戻していく。


 ゆっくり目を開けると、ナナが前脚に力を入れてこちらを見つめている。


 「良い顔つきだ、どこからでもかかって来い」

 「クリス、どうする?」


 「俺が様子見で近付くから、エリアは隙を突いてくれ」

 エリアが頷いたのを確認し走り出す。


 ———「疾風迅雷!」———


 「はぁ!」


 「ほう……」

 ナナは尻尾の先を剣に変身させ、下から振り上げた俺の太刀を難なく受け止める。


 「くっ……まだだ!」


 疾風迅雷の効果で合計12連撃を行ったが、全て弾かれてしまった。


 「くそっ」

 「まだまだ遅いなクリスくん」


 その直後七尾の一本が俺の腹部に勢いよく飛び込んできて、まるで拳で殴るような衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。


 「かはっ」

 「クリス!」


 「どうしたエリア、掛かってこないのか? クリスくんの心配をしてる余裕もないぞ」


 尻尾に戻っていた7本の尾先に白い光が集まり始める。


 エリアは鋭い目つきでナナに視線を送るが、ナナは全く気にせず攻撃を放った。


 ———「白砲」———


 尾先に集まった7つの白い光の玉から放たれた光線は、ナナの目の前で1つになる。


 直径2メートル程になった光線は、エリアに向かって真っ直ぐ飛んでいった。


 「っ! エリア!」


 俺は起き上がって即座に大剣に持ち替えると、エリアの前に出る。


 ———「パラディン・ガード!」———


 俺とエリアを覆うように半球状の光の壁が現れ、ナナが放った光線を受け止めた。


 バチチチチチッ!!!!


 「ぐっ!」

 歯を食いしばり、壁が壊れないように魔力を送り続ける。


 「ほう。出力を抑えたとはいえ、コレを受け止めるか」

 ナナの嬉しそうな声が聞こえた。


 「クリス!」

 「俺の方はいいから……っ、エリアは行け!」


 エリアは槍をギュッと握りしめる。

 「うん!」


 エリアは光線の横を駆け出す。


 ———「五月雨突き」———

 少し離れた位置から繰り出したが、光線を切ったナナがバック宙で避ける。


 「良い連携プレイだ……だが、相手の視界に入ったまま打つのは良くないな」


 クソッ!それならこれでっ


 ———「神速」———

 周囲の景色を正しく認識出来ないほどの速度で、ナナの背後に回り込む。


 「何か脚に魔力を送っていると思ったらこれだったわけか、期待以上だクリスくん。いい判断だ、だが……遅い!」

 真上から振り下ろした大剣を2本のしっぽで受け止められた。


 両手で押し込むが、ナナの尻尾はビクともしない。

 左右からしっぽが伸びてきたのでバックステップで回避するが、それすら読んでいたのかさらに外側から尻尾が伸びてきて両脚を絡み取る。


 「くっ! 離せ!」

 「ふっいいだろう。では離してやろう」


 勢いよく正面に投げ飛ばされ、エリアの横を通り過ぎて木の幹に激突した。


 「ぐはっ!」

 「クリス!」


 「エリア二度も言わせるな。他人の心配をしている暇はないと」

 7本のしっぽが束となってエリアに殴り掛かり、簡単に後方へ投げ飛ばされた。


 「エリア……っ」


俺は立ち上がったあと、ナナからの追撃に警戒しながらエリアのそばに駆け寄る。


 「大丈夫か?」

 「う、うん」


 エリアの二の腕を掴み、立ち上がらせた。


 しかし一撃が想像以上に重かったためか、エリアは足を震わせ地面に座り込んでしまう。


 「あ、足が……立てない……なんで」


 折れている様子はないし怪我も無さそうだが、エリアの身体は震えていた。


 「エリア、足に異常は見られないぞ」

 「うん、痛みもないからわかってるんだけど……足に力が入らない」


 横目でチラッとナナの方を見ると、お座りしているのが見える。

 「……なんでだと思う?」

 「え、わかんない……」


 俺は腰を落としエリアに視線を合わせ、エリアの左手を両手で包み込んだ。

 「よく考えてごらん」


 エリアはゆっくりと目を閉じた

 「……もしかして私、怖がってるの?」


 「たぶんな、でも恐怖心は決して悪い物じゃない。むしろ自分の実力不足を認めてくれるモノだ」

 「私はお父さんのことが怖いの?」


 「それはエリアにしか分からない事だよ。自分が何に怖がっているかなんて」

 「そっか……うん……クリス手貸して」

 エリアは俺の手を取り立ち上がろうとするが、恐怖心が抜けないのか立てない。


 「ふっ、今日のところはここまでだな」

 ナナの全身が真っ白な光に覆われ、七尾から人型へと変身した。

 「まだ共闘を始めたばかりだが、互いを信頼してる気持ちは垣間見えている。

 しばらくは個々の戦闘スタイルを磨きながら、週末は共闘に力を入れよう。わかったな」


 「「はい!」」

 「一度休憩しようか。その後修行内容の説明をする」


 エリアの腕を肩に回し一旦家に戻ってきた俺達は、リビングのソファに腰を下ろした。


 「ありがと……クリス」

 「これぐらいはどうってことないよ。それより平気か?」


 「うん大丈夫、少し休めば落ち着くと思うから……はぁ」

 エリアが深く息を吐いて、ソファに寝転んだ。


 しばらくエリアの様子を見ていた後、俺はキッチンへ向かいお湯を沸かし始める。


 しばらくすると落ち着いたのか、エリアがガバッと起き上がった。 

 「クリス! お父さん強すぎ! 結局一発も当てられなかったー!」

 「そうだな。俺の疾風迅雷や神速も、簡単に受け止められたからな」


 エリアに返答しつつカップティーパックを取り出す。


 「そうね、クリスの攻撃を受け止めた事も凄かったけど。一番驚いたのは変身魔法?スキル?かな」


 俺はその言葉に紅茶を注ぐ手が止まった。


 「お、俺も驚いたな。あの姿は」

 実際、俺も本来の姿を変身した姿と偽って出すとは聞いてないし、思っていなかったから秘密を共有してる身としては肝が冷えた。


 「でも、あの銀色の狐……どっかで見たような気がするんだよねぇ、いつだっけ?」

 エリアの一言に追い打ちを受けたような感覚が、全身に緊張感を与える。

 「お父さんが昔保護した事があるって言ってたけど、大きさで違う気がするんだよねぇ」


 「……そうなのか、俺は初めて見たぞ。あんな綺麗なモンスターが居るんだな」

 「んね、一度本物を見てみたいな」


 「変身した姿だからな……俺もいつか見てみたいな」

 ごめんエリア、アレが本物だ……むしろアルデライトさんの姿が偽物なんだ……とは言えず、俺は目の前のテーブルに置いた紅茶を口にする。


 「それより、クリスは私の動きを見てどう思った?」

 「どうって……そうだな、さっきの場合だとまずアルデライトの動きを全く見てなかったし、攻撃方法もサファイア・アイドラゴン戦と同じで接近して攻撃スキルを使うものだった」


 「うんうん」

 「でもスキルを使うタイミングは良かったか?」


 エリアは腕を組んで考え始めた。

 「うーん、お父さんが言ってた通り間違ってたのかなー」


 「俺もあのタイミングで使うのは早すぎると思った」

 「あぁ、早かったんだ」


 「今まで龍相手にしてたから、俊敏なモンスターの動きが予測出来なかったんじゃないか?」

 「ううん、そうじゃなくて何も考えてなかった正しいかな」

 エリアはゆっくりと首を振った。


 「おい……」

 「ごめんごめん、私は考えるより先に感覚で動いちゃうからさ。

それに対龍用スキルはいっぱいあるけど、普通の攻撃が少ないんだよね」


 「対龍用スキルってドラゴン系以外には効果ないのか?」

 「無いわけじゃないけど、追加効果が出ないから総合的にダメージは低いわね」


 「なるほどね……」

 テーブルのカップに手を伸ばし、少し冷めた紅茶を啜ると、エリアもカップを手に取り、足を体にくっ付けて紅茶飲んでいた。


 「……ん? どうしたのクリス?」

 「あ、いやなんでもない」


 「?……変なの」


 エリアが紅茶を飲む姿に、何故かウィンダの面影が重なりジッと見つめてしまっていたらしい。


 セームは紅茶より水を飲んでるイメージだが、ウィンダはエリアと同じ姿勢で飲んでても違和感がない。


 「アイツも飲んでいた気がするな……」

 「アイツって?」


 ん? 今俺は誰のことを思い出していた?


『お兄ちゃん』

 その言葉が脳裏に流れた瞬間、激しい痛みが頭を襲った。


 手に持っていたカップを落としてしまい、足元に割れた破片や紅茶が飛び散る。


 「クリス!? クリス! 大丈夫!? しっかりしてクリス!——ス!——」

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