第十七話 鍛治と錬金
セナさんの後を付いて行った先は、キッチン横にある扉を抜けたさらに奥だった。
その扉は裏庭に繋がっていて、そこから畑と煙突が立っている石作りの小屋が見える。
セナさんはその小屋に向かっているようだ。
「セナさん、ここは?」
扉の鍵を開けているセナさんに声をかけたる。
「ここは私の仕事場よ、中に入ればクリスさんならわかるんじゃないかしら。さぁどうぞ」
「失礼しまーす」
俺はセナさんに促され、先に小屋に入った。
今は夜も更けている時間帯、中に入っても真っ暗で何も見えない。
すると、パッと電気が着き小屋の内装が姿を現す。
現れたのはゲームなどで、よく目にした鍛冶場だった。
冷えきった小屋には微かに鉄の匂いや炭の匂いが漂っている。
窓際には積まれた薪が乱雑に置かれ、煙突と繋がっている釜戸には黒く焼けた薪が入ったままだ。
「セナさんはここで武器とか作ってるんですか?」
「作れるけど、私の主な仕事はこの村の人間に必要な”主従のペンダント”の作成だよ」
「あのペンダントってセナさんが作ったんですか!?」
「えぇそうよ、今のところ村長が持ってるペンダント以外は私が作った物ばかりね」
正直、武器作成など鍛治に興味があった俺は、セナさんに話を聞きたかったがそれよりもここに連れてきた理由の方が知りたい。
「そういえば、君をここに連れてきた理由を話してなかったね」
「そうですね、なぜ俺をここに?」
「ここならセーム来ることもないから、安心して聞いてもらっていい」
「わかりました」
近くの椅子に座ったセナさんがゆっくりと口を開いた。
「君を連れてきた理由はね」
セナさんの真剣な眼差しに固唾を飲む。
「実は君と2人きりで話をしたかったからなんだ」
「……はい?」
セナさんの崩れた表情に拍子抜けしてしまった。
「真剣な眼差しで何を言うかと思ったら、ただおしゃべりしたいだけだったとは……」
「す、すまない! そんなつもりじゃなかったんだが……男の人と話すのは久しぶりでね、少し緊張しているようだ」
「そうだったんですか?」
「あぁ、この村にも男の子は居るけど幼い姿の子ばかりだし、ぶっちゃけカッコイイ男性も居ない。
だから、特に君みたいな顔が整ってる男子は久しぶりでね。
あ、私の胸に手を当ててみるかい? 自分でもビックリするぐらいドキドキしているよ」
「いや、触りませんよ。というか俺は、そんなにカッコよくないですよ?」
「……キミは鏡を見た事はないかな」
セナさんは「やれやれ」と言いたそうな表情で頭を抱える。
「鏡は見たことありますよ。
でも、カッコイイと思った事はないですね」
特に顔立ちも元の世界と変わってないしな。
「……まぁ君がそういうなら、そういう事にしておこう」
「おっと、緊張で本題を忘れるところだった」
セナさんが自分の胸に手を当てて深呼吸をした。
「少しセームベルから話を聞かせてもらったよ、君はアトランタルの塔を目指してるんだろう?」
「そうですけど」
「実は私の生まれ故郷が、アトランタルから少し離れた”ベルランタル”という町でね。
セームベルを連れてそこに帰ろうと思ってる」
「え、そうなんですか?」
一瞬驚いたが、俺は驚きを隠しながら返した。
「そこで一つ君にお願いがあってね。
この村を出るまでの間、セームベルを連れて周囲の敵を倒してきてほしい」
「……もしかして修行の一環ですか?」
セナさんは静かに頷く。
「今まで何度も自分の使役モンスターと一緒に、村の周囲に現れたモンスターを倒してきたけど、自分で戦うようになったばかりだから、村を出るまでに少しでも慣れさせておきたいの」
「なるほど、それを俺に任せたいと」
「えぇ、その通り。
もちろん正式な依頼として出せないけど、お礼はするわ。
クリスさんが望むのなら、私のスキルを継承させてあげてもいいわよ」
!?
セナさんの提案は渡りに船だった。
「どうしてそれを……」
そう、俺はセームにもセナさんにも制作系スキルが欲しいとは伝えていない。
だからセナさんが知ってるはずがなかった。
「不思議に思ったでしょうけど私、観察眼には自信があるの。
さっき部屋に入った時、クリスさんの目が輝いていたから興味があるのかと思ってね。
それに私は”鍛治錬金スキル”まで持ってるから、もう鍛治スキルも錬金スキルも不要なのよね」
「な、なるほど」
鍛治スキルと錬金スキルの両方を、スキルレベル5にすると習得出来る鍛治錬金スキルはただ合わせただけのスキルではなく、双方のいいとこ取りをした完全上位互換である。
「でも、スキル継承は……」
「えぇそうよ、スキル継承は1人の人から一つしか貰えない。
つまりクリスさんがどちらを欲しいかによるわね」
「わかりました、少し考える時間をいただけませんか」
「わかったわ、セームベルの事が心配だし先に戻るわね」
「はい、しばらくここで考えさせてもらいますね」
セナさん俺にひらひらと手を振り家に戻って行った。
近くのテーブルに肘を着く。
正直、迷うところだ。
スキルポイントが余っているのだから、貰わなかった方を後で覚えればいいと思うところだが、継承となるとそんな簡単な話ではない。
なぜなら、スキル継承はスキルレベルもそのまま継承できるからだ。
つまり、セナさんから貰えるスキルはレベル5、鍛治と錬金どちらが現状必要かきちんと考えなければならない。
となると、それぞれのスキルをしっかりと把握する必要があるな。
俺は左目を閉じて、開いている右目を右手を覆った。
「全知全能の図書、起動」
『こんばんは創造主様、調べたい物事を思い浮かべてください』
鍛治スキルと錬金スキルについて教えて
『かしこまりました
鍛治スキル、錬金スキルについて解説します』
全知全能の図書が出した説明文が長いため、要約するとこうだ。
まず錬金スキルは戦闘用に向いているようで、武器防具に大事な耐久性重視な模様。
一方、錬金スキルは武器以外の道具関連も作れるようだが、こっちは効果重視だった。
こうして見比べてみると結構違いがあるんだな。
そして、スキル効果にレベルが関係してくるなら、セナさんに貰うのは鍛治スキルの方が良さそうだな。
俺は鍛治小屋を出て家に戻ったが、電気がついているリビングに2人の姿はなかった。
どこに行ったんだ?
リビングを出て廊下を歩いていると、セームのはしゃいでいる声が聞こえてくる。
同時にバシャンバシャンと水が弾ける音が聞こえた。
どうやら2人はお風呂に入っているようで、俺はリビングに引き返して待っていることにした。
しかし、リビングのソファに座っている間、疲れからかいつの間にか眠ってしまったようだ。
『お兄ちゃん、起きないと遅刻するよー』
「あと5分……」
『ダメです、起きてください!』
バサッと掛布団を捲られる。
『はぁ、これでも起きないんだからお兄ちゃんは』
彼女は寝ている俺に馬乗りなって顔を近づける。
『今起きないとご褒美あげないよ』
「んー、ご褒美ってなにー?」
『そ、れ、は……起きてからのお楽しみだよ』
「わかった、起きるから退いてく……ふぁーあ」
お腹辺りに感じてた重さが無くなり身体を起こす。
「おはよう」
『うん、おはよう』
目の前の彼女は満面の笑みを浮かべた。
「それでご褒美って?」
『ふふん、それは私の笑顔だよ!』
「ご褒美ってそれかよ、起きて損した」
『えー、私の笑顔要らないの? じゃあもう無表情で生活しようかな』
「冗談だって、世界一可愛い○○りから笑顔が無くなったら死んじゃう」
『ばーか、それより早くご飯食べよ! 先に行ってるからちゃんと着替えてきてね』
「わかってるよ、あ○○」
『ならよし!』
彼女は部屋を後にした。
「―――さん! ――リスさん! クリスさん」
ハッと目が覚めると、目の前にはセームの顔があった。
「俺、寝てた?」
「はい、お風呂から出たらクリスさんがソファで寝てたので、隣に座ってたんですけど、急に呼吸が荒くなって……」
額や首手を当てると微かな水気を感じると同時に心臓がバクバクしているのがわかる。
「そうだったのか、心配かけたな」
「いえ、何か怖い夢でも見てたんですか?」
セームにそう聞かれ、見た夢を思い出そうとしたが所々でノイズが入り、全く思い出せず、同時に頭痛が襲ってきた。
「つっ!」
「クリスさん!?」
セームが俺の頭を抱えると、後頭部を優しく撫でる。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、ありがとうセーム」
丁度その時、セナさんがリビングに入ってきた。
「クリスさん、起きたのかい? 今客室に布団を……何してるの? 逢い引き?」
「色々間違ってますよセナさん……」
セナさんのからかいに呆れながら、俺はセームの腕をゆっくりと引き剥がし離れる。
セームはどこか名残惜しそうな顔をしていた。
そんなセームの頭を軽く撫でる。
「すみません、俺もお風呂入ってきますね。セームもおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
頭を撫でられたセームは頬を赤く染めていた。
風呂上がりのせいか、それとも撫でられて嬉しかったのか分からないが、その表情は安心しているようにも見える。
セームの頭から手を離すと、セナさんの横を通って振り返りもせずにまっすぐ浴室へ向かった。
寝ていた時に見た夢の内容はなんだったのか、出てきた人は誰だったのか。
懐かしい雰囲気と安心感があったのに、セームは息が荒くなったと言っていた。
このぽっかりと空いた記憶はいつ、どこで、誰と居たのか、思い出せない恐怖と謎が俺の中に残った。




